シネブログ

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『猿の惑星』

2007年11月19日 22時42分58秒 | 映画レビュー
原題: PLANET OF THE APES
製作年度: 1968年
別題:-
製作国・地域: アメリカ 上映時間: 113分
監督:フランクリン・J・シャフナー
製作:アーサー・P・ジェイコブス、モート・エイブラハムズ
原作:ピエール・ブール
脚本:ロッド・サーリング、マイケル・ウィルソン
撮影:レオン・シャムロイ
特殊効果:L・B・アボット
特殊メイク:ジョン・チェンバース
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
出演:チャールトン・ヘストン、キム・ハンター、ロディ・マクドウォール、リンダ・ハリソン、モーリス・エヴァンス、ジェームズ・ホイットモア、ジェームズ・デイリー、ロバート・ガナー、ルー・ワグナー
オススメ度:★★★★★

ストーリー:
宇宙飛行士のテイラーは、猿が世界を支配している惑星に不時着した。そこではなんと人間が猿の奴隷にされていた……。



コメント:
今までに何回も観たことがある作品だが、昨日たまたまBSで放送されていたのでレビューを書くことにした。やっぱりあのラストは何度観ても鳥肌が立つな~というのが率直な感想である。

まあ誰もが知るあの衝撃的なラストは僕が言うまでもなく映画史に残る名場面となっているが、それ以上に本作で一番称えるべきなのは精巧な猿の特殊メイク技術だと思う。僕がこの映画を初めて観たのが小学生のときだったが、そのときはあのリアルな猿の姿にやけに恐怖を感じたのを覚えている。子供にとっては作り物なのかどうかすらわからなくなるくらいよく出来ているメイクなのだ。個人的には、ティム・バートンによるリメイク版よりも断然こっちの方が好きだと言える。実際、当時のレベルからすれば飛び抜けた技術であり、この作品の影響によってアカデミー賞にメイクアップ部門が設立されたというのだから間違いなくすごいものだと言えるのだろう。

またその技術があったおかげで、猿と人間を逆転させるという奇抜な発想の脚本が映像化できたというのも忘れてはならない。

本当にこんなことがあったらゾッとしてしまう内容なのだが、これは我々人間が実際起こしている問題をそのまま映し出しているだけなのだ。つまり映画では現在の地球の人間と猿が入れ替わっただけであり、普段人間が猿に対して行なっている行為を痛烈に批判したものである。本作を観て衝撃を受けるとかどうとか言ってるが、それは自分たちが起こしている行動に対する感情だということを意識しなければならない。

これは人間の持つ支配力が生み出した錯覚だと言える。

普段自分たちが何かを支配することに対しては何の違和感も持たないのに、何かに支配されることに対しては嫌悪感や衝撃が伴う。本作が残すメッセージとは、結局人間は全てを支配したい生き物であり、所詮自然や動物は人間の支配下に存在するものだということを辛辣に描いた風刺作品だと言えるのだ。

とりあえず本作を観て、もっと動物や自然を大切にしなきゃと思ってもらえるとうれしい。きっと動物も人間に支配されることは嫌がってると思う。動物が人を襲うことがあるのは、きっと人間に対する何らかのメッセージがあるからだ。それを狂気として観るのではなく、同じ生き物の立場から考える必要があるのだと思う。



余談だが、テイラーは猿が”英語”を話している地点で何か疑問を感じるべきだ。全く未知の惑星で自分と同じ言語を喋る生き物がいるはずがないではないか(笑)

『戦場にかける橋』

2007年11月18日 02時26分52秒 | 映画レビュー
原題: THE BRIDGE ON THE RIVER KWAI
製作年度: 1957年
別題:-
製作国・地域: アメリカ 上映時間: 155分
監督:デヴィッド・リーン
製作:サム・スピーゲル
原作:ピエール・ブール
脚本:カール・フォアマン、マイケル・ウィルソン
撮影:ジャック・ヒルデヤード
音楽:マルコム・アーノルド
出演:アレック・ギネス、ウィリアム・ホールデン、早川雪洲、ジャック・ホーキンス、ジェフリー・ホーン、ジェームズ・ドナルド、アンドレ・モレル、アン・シアーズ、ピーター・ウィリアムズ、ヘンリー大川
オススメ度:★★★★★

ストーリー:
タイとビルマの国境近くにある日本軍の捕虜収容所では、連合軍捕虜を使って、国境に流れるクワイ河に橋を架ける準備が進められていた。だが、英軍大佐(ギネス)はジュネーヴ協定に反するとして、所長(早川雪洲)と対立。一方、米軍捕虜の海軍少佐(ホールデン)は脱走を試み、辛くも収容所を後にした。英軍大佐の気骨に共感した所長は、捕虜の恩赦を条件に再度協力を要請。捕虜たちに生きがいを与えようと考えていた大佐はこれを承諾し、こうして建設工事が始まった。だが同時に、生き延びた米海軍少佐の手引きによって、連合軍による架橋爆破作戦も開始されようとしていた……。



コメント:
本作でアカデミー主演男優賞を受賞したアレック・ギネスと、同作において日本人男優として初めてアカデミー助演男優賞にノミネートされた早川雪洲の堂々たる演技が光る傑作である。また本編で捕虜の集団が口笛で吹く『クワイ河マーチ』(ボギー大佐)がとてつもなく心に響き、なんともいえない雰囲気を醸し出しているのがいい。戦争の悲劇を、橋の建設という少し違った角度から見せられ考えさせられる内容である。

ニコルソン大佐が死ぬ間際に発する「私は何のために…」という言葉がなんとも印象的だ。いや、でも本当に彼が言うように、この映画で描かれた戦場での橋の建設は一体何のためだったのか、果てしなく疑問に残る内容であったことは間違いない。そもそも同じ英国の軍人であるにも関わらず、捕虜にされている立場と作戦本部にいる立場とでは戦況の認識にここまで差が生まれてしまうのだということを改めて考えさせられた。

ニコルソン大佐は橋を自分たちの手で完成させることにより、全ては自分たちの自由に繋がるということだけを信じていた。橋が完成することで兵士らを新しい収容所に移すことができること、斉藤大佐の計らいで傷病兵は特別に汽車で移動できるようになったこと、また、陸の孤島のジャングルという僻地で苦難を乗り越え大事業を成し遂げたことで、捕虜となり誇りを失っていた兵士たちに名誉を取り戻し敗北を勝利に変えることができるということなど、軍人としてこの上ない達成感を味わうことのできる瞬間になるはずだったのだろう。

収容所に連れてこられた当初は、斉藤大佐に将校も兵士同様の労役を義務付けられていると説明され、それは「ジュネーブ協定に反する」と最後まで反対し続けた。捕虜という立場を理解しつつも、条約に反する命令には絶対的な意志を貫き、最後まで真っ直ぐ生きる彼の姿が他の捕虜の信頼へと繋がったのだろう。

しかし、そのストレートな生き方がこの戦場において最大の悲劇を生むということはこのとき知る由も無かった…。

一方、作戦本部に腰を据えているウォーデン少佐の考えはニコルソン大佐とは全く逆の考えだったのだ。橋の完成後に予想される日本軍のインドへの進軍を阻止するために、落下傘で降下させた兵士に橋の地上爆破をさせる作戦を進めていた。元々、ニコルソン大佐と共に捕虜として収容されていたシアーズも、現場の状況を知らずまま志願兵として爆破作戦に参加させられる。

橋の建設を命令する側、作らされる側、完成を阻止しようとする側、三者三様の立場が存在するが、彼らはただ自分の任務を遂行することだけしか考えていない。戦争というものは実際こういうものだったのだろう。自分たちの置かれている状況が何より大切であり、自らの立場を有利にしたいがために周囲の状況は次第と見えなくなってくる。もし周囲が見えているならば、最初から無駄な戦争などは起こっていなかったに違いない。

こんな状況で戦ったニコルソン大佐だからこそ「私は何のために…」という言葉にはいろんな意味が含まれていると思うのだ。

軍人として28年間何のために戦ってきたのか…
捕虜として橋を建設したのは何のためだったのか…
最終的になぜ自国の人間に殺されてしまったのか…

極限の中で生きてきた彼の最後の言葉には重くのしかかる何かが存在している。

そしてそもそもなぜ人間は殺しあうのか…
それが最大の疑問であるということは言うまでもない。

『ブラッド・ダイヤモンド』

2007年11月17日 00時03分58秒 | 映画レビュー
上映時間:143分
製作国:アメリカ
公開情報:劇場公開(ワーナー)
初公開年月:2007/04/07
ジャンル:サスペンス/ドラマ
監督:エドワード・ズウィック
出演:レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・コネリー、ジャイモン・フンスー、マイケル・シーン、アーノルド・ヴォスルー、カギソ・クイパーズ、デヴィッド・ヘアウッド、ベイジル・ウォレス、ンタレ・ムワイン、スティーヴン・コリンズ、マリウス・ウェイヤーズ
オススメ度:★★★★☆

ストーリー:
激しい内戦が続く90年代のアフリカ、シエラレオネ。愛する家族とつましくも満ち足りた生活を送る漁師ソロモン。しかしある日、反政府軍RUFが襲撃、ソロモンは家族と引き離され、ダイヤモンド採掘場で強制労働を強いられる。そんな中、彼は大粒のピンク・ダイヤを発見、その直後に起きた政府軍による来襲の混乱に紛れてダイヤを秘密の場所に隠すのだった。一方、ダイヤの密輸に手を染める元傭兵ダニーはある時、密輸に失敗し投獄される羽目に。すると、その刑務所にはソロモンも収容されていた。そして、彼が巨大ピンク・ダイヤを見つけ隠していることを耳にしたダニーは釈放後、ソロモンも出所させ、家族捜しに協力する代わりにダイヤの隠し場所を明かすよう迫る。また、アメリカ人女性ジャーナリスト、マディーに対しても、彼女が追っている武装組織の資金源“ブラッド・ダイヤモンド”の実態に関する情報をエサに、自分たちへの協力を取り付ける。こうして3人は、それぞれの思惑を胸に、ピンク・ダイヤを目指す危険な道へと進んで行くのだが…。



コメント:
とにかく観てよかったと思える作品であった。

今も世界のどこかで起こっている”紛争ダイヤモンド”という衝撃の事実を、映画化とはいえストレートな内容で描き切ったことはすごいことだ。ダイヤモンドに対してただの消費者に過ぎない日本人にとっては、信じられないような悪夢を見せつけられる作品だろう。

本作のキャッチコピーにもなっている、ダイヤの価値を決める“4つのC”
color(色) cut(カット) clarity(透明度) carat(カラット)

全ての要素が大きくなるほど人間の欲望は膨れ上がり紛争へと発展していく。つまり5つめのC<conflict>がそこに存在しているということである。

内戦が続くアフリカ西部のシエラレオネ共和国。反政府勢力のRUF(革命統一戦線)は武器調達のため、資金源となるダイヤモンドを無辜な人々に強制労働させ採掘している。その犠牲者の一人となった漁師のソロモン・バンディー(ジャイモン・フンスー)はたまたま大粒のピンク・ダイヤを見つけてしまい紛争の渦へと巻き込まれていく。一方、RUFに武器を調達し、代わりに受け取ったダイヤモンドを隣国リベリアへ密輸中に逮捕されてしまった白人傭兵のダニー・アーチャー(レオナルド・ディカプリオ)は、留置所でソロモンが見つけたピンク・ダイヤのことを耳にする。その結果、それぞれの人物にとっての<conflict>が展開されていくことになる…。

たかがダイヤモンドのために行われている行為がこれだと知ったときは本当に嫌気が差した。本作で描かれる内容はほんの一部に過ぎないだろうが、全ては内戦の資金集めのために続けられている”紛争ダイヤモンド”であるということには違いはない。我々日本人のような消費者からすれば、そのアフリカでの内戦も所詮他所で起こっている争いにしか過ぎず、ただダイヤモンドの輝きに魅了されるだけの生活を送っているのが現状である。結論を言えば、ダイヤモンドを高額で購入する消費者がいるがために毎日無辜な人々が犠牲になっているのだ。その言葉は本作の最後でもテロップで流されるが、まさしくその通りだと思う。実際、ダイヤモンドが全く価値のない宝石だったらこの紛争は存在しただろうか?おそらくこのような悲劇は起きていなかっただろう。

はっきり言ってこんなことを考えたからといってアフリカの内戦が終わるとはとても思えない。今後も難民は増え続け、子供たちも巻き込まれ、悲劇しか生まない紛争はこれからも永遠に繰り返されるのかもしれない。だが忘れてならないのは、お金に代わる単なる石ころのために毎日何人もの命が奪われているという現実である。

少なくとも僕は今後ダイヤモンドを買うことはないだろう。

はっきり言って僕には内戦を止めれるほどの力があるはずもないが、ダイヤモンドを買わないことで数十、数百の命が救えるのであれば、僕はそれを続けていきたい。何の意味もないかもしれないが、その行動がいつかこの悲劇を終わらせるためのきっかけになることをただ祈るだけである。

なんとも無力だが、これが現実なのだと思い知らされる作品であった。

『ゴーストライダー』

2007年11月13日 23時24分24秒 | 映画レビュー
上映時間:110分
製作国:アメリカ
公開情報:劇場公開(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)
初公開年月:2007/03/03
ジャンル:アクション/アドベンチャー/ファンタジー
監督:マーク・スティーヴン・ジョンソン
出演:ニコラス・ケイジ、エヴァ・メンデス、ウェス・ベントリー、サム・エリオット、ドナル・ローグ、ピーター・フォンダ、マット・ロング、ラクエル・アレッシ、ブレット・カレン、ローレンス・ブルース、ダニエル・フレデリクセン、マシュー・ウィルキンソン、ギブソン・ノルティ
オススメ度:★★★☆☆

ストーリー:
危険なバイクスタントのショーで人気を博す天才ライダー、ジョニー・ブレイズ。そんな彼にはある秘密があった。17歳の時、病気の父親の命を救うため、悪魔メフィストと取引をして魂を売り渡してしまったのだ。自らの運命を悪魔に握られていたジョニー。そして彼が30歳の時、メフィストが再び彼の前に現れる。メフィストはジョニーに魔界の反逆者ブラックハートを捕らえるよう命じる。メフィストにより魔界の力を得て、ゴーストライダーとなったジョニーは、“地獄(ヘル)バイク”に乗ってブラックハート率いる悪魔軍団を追いつめていくが…。



コメント:
この映画は真面目に観れない。
だってニコラス・ケイジのあの髪型見てん!!
あまりに似合わな過ぎ、やばいもう無理あり得ん(笑)

いくらニコラス・ケイジが「このキャラクターを愛してやまない」と公言しているとはいえ、前髪をちょっと付け足してまで彼を起用する必要があったのか疑いをもたずにはいられなかった。冒頭でジョニーが悪魔に魂を売ってしまう背景が語られるが、いっそのことその若きジョニーを演じた俳優にそのまま最後まで演じさせたほうがよかったんじゃないか?と、思うほどだ。いやむしろそうすべきだったと思う。あのイケメンからニコラス・ケイジへ変化させたんじゃあ、笑いを押さえるのは不可能。それだけならまだしも(いや許せる問題ではないが)はっきり言ってヒロインも若かりし頃の女優さんの方が可愛かった気がする。やたら胸を強調するエヴァ・メンデスじゃあ逆に冷めてしまったことは言うまでもないだろう。

でもねでもね、そんな二人が主人公でもゴーストライダーはカッコいいと期待していた。さすがにその期待には少しは応えてくれていた気がする。まあヒーローがなんで骸骨?ってのは置いといて、そのヒーローが乗っているヘルバイクはなかなかカッコいい。炎の車輪を持ち、車体各部から炎を吹き上げ、垂直の壁面や水面も走ることができるという優れもの。また口笛を吹けば犬のように自分のところに走ってくるのがなんともかわいい。

でもそんなカッコいいバイクが登場するにも関わらず見せ所は極少だ。なぜなら問題は”敵”にあったからだ。とにかく今回登場する敵が弱すぎるったらありゃしない!!ほぼ全キャラがゴーストライダーの技を一発受けただけで死んでしまうという前代未聞の弱さ。これには緊迫感どころか笑いのひとつすら出す暇がないほど瞬殺な出来事であった。どうせやるならもっとはちゃめちゃな展開でもいいからたくさん見せ所を作って~とお願いしたいくらいである。まあラストの展開からして続編は間違いないだろうから、それのためのネタ温存なのかもしれないが、あまりに本作が序章になりすぎて「つまらない」言わざるを得ない内容だった。

おそらく続編が同じ雰囲気を醸し出していたら絶対観ることはないだろう。
だが本作から更に20年後という設定で、ニコラス・ケイジの髪を地毛のまま使うようなことがあれば観に行くかもしれない(笑)

『善き人のためのソナタ』

2007年11月12日 22時32分26秒 | 映画レビュー
上映時間:138分
製作国:ドイツ
公開情報:劇場公開(アルバトロス・フィルム)
初公開年月:2007/02/10
ジャンル:ドラマ
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ、ウルリッヒ・トゥクール、トマス・ティーマ、ハンス=ウーヴェ・バウアー、フォルカー・クライネル、マティアス・ブレンナー
オススメ度:★★★★★

ストーリー:
1984 年、壁崩壊前の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)の局員ヴィースラー大尉は国家に忠誠を誓う真面目で優秀な男。ある日彼は、反体制的疑いのある劇作家ドライマンとその同棲相手の舞台女優クリスタを監視し、反体制の証拠を掴むよう命じられる。さっそくドライマンのアパートには盗聴器が仕掛けられ、ヴィースラーは徹底した監視を開始する。しかし、音楽や文学を語り合い、深く愛し合う彼らの世界にヴィースラーは知らず知らずのうちに共鳴していくのだった。そして、ドライマンがピアノで弾いた“善き人のためのソナタ”という曲を耳にした時、ヴィースラーの心は激しく揺さぶられてしまうのだったが…。



コメント:
「この曲を本気で聴いた者は、悪人になれない」

本作に登場する劇作家のドライマンは”善き人のためのソナタ”を弾きながらこう語る。その間も無感情にドライマンを盗聴するシュタージ(国家保安省)のヴィースラー。しかし、常に冷徹なヴィースラーの心に、初めて人間としての温かい感情が芽生え始める。それは人間らしい自由な思想、芸術、愛に溢れた生活を送り続けるドライマンとクリスタの存在があったからだ。

本作の物語の起点はまさにここから始まると言える。

実際、当時の東ドイツにはヴィースラーように人間らしく変化していったシュタージはいなかったと言われている。だがそんな彼らでも監視国家の理不尽さや非情さは感じていただろう。そんな厳しい時代の中で、もし本作のような愛に触れることができたなら、どれだけ多くの人間が本来の人間らしさを持って生きていけただろうか。

監視されることで家族や友人としての相互不信が生まれ次第に破滅の道を歩んでいくドライマンとクリスタの運命も悲しいが、その二人の生活を盗聴することでしか本当の愛を見つけられなかったヴィースラーの孤独な人生がより一層な悲壮感を秘めている。そんなヴィースラーの感情を、表情を一切変えずに冷たくも温もりのある演技で魅せたウルリッヒ・ミューエには最大の拍手を送りたい。

ラストで彼が放つ「これは、わたしのための本だ」という言葉が本作の全てを物語っている。

生きていく中で何が一番大切なのかを考えてみた。もちろん愛し合うことや信じあうことも大切だが、何が一番正しいことなのかを判断できる能力が一番大切なことだと思う。国家のために反対組織を暴きだすことより、人間らしく生きようとするドライマンとクリスタを見守りそして助けようとしたヴィースラーの行動が一番人間らしく思えてしまったのだ。これを観た者はそんな彼の行動に間違いなく胸を打たれるはずである。

本作を観るに当たって、歴史的背景などの余計な知識は不要である。まずはとにかく観て欲しい。この映画は歴史を語るものではなく、人間の愛を語るものだから。

『トゥモロー・ワールド』

2007年11月11日 00時15分09秒 | 映画レビュー
上映時間:109分
製作国:アメリカ/イギリス
公開情報:劇場公開(東宝東和)
初公開年月:2006/11/18
ジャンル:SF/サスペンス/ドラマ
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケイン、キウェテル・イジョフォー、クレア=ホープ・アシティ、パム・フェリスミリアム、ダニー・ヒューストン ナイジェル、ピーター・ミュラン シド、ワーナ・ペリーア、ポール・シャーマ、ジャセック・コーマン
オススメ度:★★★★☆

ストーリー:
人類に最後の子供が誕生してから18年が経過した西暦2027年。原因がわからないまま子孫を生み出すことの出来なくなった人間には滅亡の道しかないのか。希望を失った世界には暴力と無秩序が際限なく拡がっていた。世界各国が混沌とする中、英国政府は国境を封鎖し不法入国者の徹底した取締りで辛うじて治安を維持している。そんなある日、エネルギー省の官僚セオは、彼の元妻ジュリアン率いる反政府組織“FISH”に拉致される。ジュリアンの目的は、ある移民の少女を“ヒューマン・プロジェクト”という組織に引き渡すために必要な“通行証”を手に入れることだった。最初は拒否したものの、結局はジュリアンに協力するセオだったが…。



コメント:
観終わった今でもあの赤ちゃんの産声が響き続けている。

本作のようにもし人間に子供が生まれなくなったらどんなに恐ろしいことだろうか?世界からは未来への新しい希望が失われ、”生”に対する真髄は忘れられていくに違いない。そして人間には紛争・少子化・宗教対立・テロ・人種問題という絶望的な問題しか残らない。

” 生”から見放された人間には、”死”しか残らない。本作ではその状況がとてもシリアルかつリアルに描かれている。市民が蜂起するイギリスの町で生まれた未来への産声。それまで殺し合いをしていた人間が、その産声を聞いた瞬間、未来への希望を想像する。それは世界に平和をもたらす”天子の産声”だったのだろう。

今僕たちが生きている世界では、赤ちゃんの産声など当たり前のように聞くことができる。だがその”生”が当たり前だと思うのはどことなく軽い考えなのかもしれない。生まれてくるからには全ての命に意味があり、そしてそのひとつひとつが世界の希望へと繋がっている。今まで”生”というものにそんな大きな意味を考えたことがなかったが、命はどんな人間にとっても希望のひとつであり、未来へ繋がる架け橋なのだということを思い知らされた。どんなに絶望的な世の中になっても、新しい命の誕生がどれだけ人間に影響をもたらすのか、本作を観てその大きさを感じることが出来たような気がする。

だが”生”があることで”死”も同時に起こってしまう。世の中には人間同士が殺しあって”生”を奪ってしまうという出来事があとを絶たない。これは全く持って馬鹿らしいことだ。たとえどんな理由があろうと人の命を奪うことは許されない。ひとつひとつの命にどれだけの希望が満ち溢れているか考えてみるといいだろう。どんなに僅かな希望であれ人々に与えるものは計り知れない物がある。

だから本作で響き渡る赤ちゃんの産声は忘れられない。

実際本作で見せつけられるものは

生 < 死

という恐怖の世界だ。
だが最終的に心で感じられるものは、

生 > 死

に違いないだろう。いかにして”生”の大きさを伝えることができるか?本作ではその試みが映像表現からも存分に感じ取ることが出来ると思う。”生”と” 死”の狭間で生まれたたったひとつの産声だからこそ、命の大切さが感じられる。矛盾する人間の”生”と”死”のサークルを本作で体験してみてはどうだろうか?そこには恐怖と希望が入り乱れた未来が見え、そしてきっと心に響くなにかを発見することができるはずだ。