シネブログ

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『善き人のためのソナタ』

2007年11月12日 22時32分26秒 | 映画レビュー
上映時間:138分
製作国:ドイツ
公開情報:劇場公開(アルバトロス・フィルム)
初公開年月:2007/02/10
ジャンル:ドラマ
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ、ウルリッヒ・トゥクール、トマス・ティーマ、ハンス=ウーヴェ・バウアー、フォルカー・クライネル、マティアス・ブレンナー
オススメ度:★★★★★

ストーリー:
1984 年、壁崩壊前の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)の局員ヴィースラー大尉は国家に忠誠を誓う真面目で優秀な男。ある日彼は、反体制的疑いのある劇作家ドライマンとその同棲相手の舞台女優クリスタを監視し、反体制の証拠を掴むよう命じられる。さっそくドライマンのアパートには盗聴器が仕掛けられ、ヴィースラーは徹底した監視を開始する。しかし、音楽や文学を語り合い、深く愛し合う彼らの世界にヴィースラーは知らず知らずのうちに共鳴していくのだった。そして、ドライマンがピアノで弾いた“善き人のためのソナタ”という曲を耳にした時、ヴィースラーの心は激しく揺さぶられてしまうのだったが…。



コメント:
「この曲を本気で聴いた者は、悪人になれない」

本作に登場する劇作家のドライマンは”善き人のためのソナタ”を弾きながらこう語る。その間も無感情にドライマンを盗聴するシュタージ(国家保安省)のヴィースラー。しかし、常に冷徹なヴィースラーの心に、初めて人間としての温かい感情が芽生え始める。それは人間らしい自由な思想、芸術、愛に溢れた生活を送り続けるドライマンとクリスタの存在があったからだ。

本作の物語の起点はまさにここから始まると言える。

実際、当時の東ドイツにはヴィースラーように人間らしく変化していったシュタージはいなかったと言われている。だがそんな彼らでも監視国家の理不尽さや非情さは感じていただろう。そんな厳しい時代の中で、もし本作のような愛に触れることができたなら、どれだけ多くの人間が本来の人間らしさを持って生きていけただろうか。

監視されることで家族や友人としての相互不信が生まれ次第に破滅の道を歩んでいくドライマンとクリスタの運命も悲しいが、その二人の生活を盗聴することでしか本当の愛を見つけられなかったヴィースラーの孤独な人生がより一層な悲壮感を秘めている。そんなヴィースラーの感情を、表情を一切変えずに冷たくも温もりのある演技で魅せたウルリッヒ・ミューエには最大の拍手を送りたい。

ラストで彼が放つ「これは、わたしのための本だ」という言葉が本作の全てを物語っている。

生きていく中で何が一番大切なのかを考えてみた。もちろん愛し合うことや信じあうことも大切だが、何が一番正しいことなのかを判断できる能力が一番大切なことだと思う。国家のために反対組織を暴きだすことより、人間らしく生きようとするドライマンとクリスタを見守りそして助けようとしたヴィースラーの行動が一番人間らしく思えてしまったのだ。これを観た者はそんな彼の行動に間違いなく胸を打たれるはずである。

本作を観るに当たって、歴史的背景などの余計な知識は不要である。まずはとにかく観て欲しい。この映画は歴史を語るものではなく、人間の愛を語るものだから。