黒部信一のブログ

病気の話、ワクチンの話、病気の予防の話など。ワクチンに批判的な立場です。現代医療にも批判的で、他の医師と違った見解です。

A群溶連菌感染症の話

2014-12-16 09:54:50 | 健康・病気
                溶連菌感染症の話   
         ―溶連菌なんか恐くない。でもちょっと気を付けようという話―
☆昔、猩紅熱(しょうこうねつ)と呼ばれた病気が、ありふれた細菌である、溶連菌によって起きることが判った為、当時の伝染病予防法からはずす為に作られた病名でした。その後できた感染症新法からは、はずされていますから猩紅熱という診断は問題はなくなりました。
 所が、溶連菌が簡単に検査できるようになり、またいろいろな続発症を起こすことが判ったために、溶連菌によって起きるすべての病気を溶連菌感染症と呼ぶようになったのです。
☆溶連菌感染症とはどんな病気でしょうか。
 溶連菌は、どこにでもいる菌で、黄色ブドウ球菌と共にありふれた細菌で、人間に病気をひきおこすことのできる代表的な細菌の一つです。もしかして、あなたののどに住んでいるかもしれません。中でもA群溶連菌が、いろいろな病気を起こします。溶連菌の慢性咽頭保菌者から、他の人に感染することはまれです。
 A群溶連菌について、アメリカの「ハリソン内科書」の旧版では、「学童小児の間では、咽頭(のど)に菌を持っている率は、15~20%報告されている。成人はかなり低い。」と書かれていました。日本でも一般的には、急性気道感染症の約8~15%から検出されると言います。また、以前、河村元順天堂大学耳鼻科教授の調査では、扁桃炎の74%から検出したと報告されています。
 また、やはりかなり前になりますが、戸田市の耳鼻科医の調査では、戸田市の健康な小中学校学童の咽頭からのA群溶連菌の陽性率は、7~20%でした。(1974年夏17.6%、1975年冬19.7%、1975年夏7.4%)同時に調べた血清抗体ASOの上昇している児童の率は、15~37%と高く(1974年夏15.4%、1975年冬36.6%、1975年夏26.4%)、ごくありふれた、知らずにかかっていたりする菌なのです。
☆溶連菌とは、溶血性連鎖状球菌と言い、培養液の中で血液を溶かす作用をもつ(溶血性)、鎖のようにつながった(連鎖状)、球型の細菌(球菌)です。溶血には3種類あり、β溶血が完全溶血を起こし、20以上の群がありA~Tまであります。その中のA群の溶連菌が、いろいな病気を起こしています。新生児では、B群溶連菌が病気を起こしますが、他の年齢では起こしません。C、G群などが病気を起こすことがあります。
A群溶連菌には、細胞表面のM蛋白により、100以上のM型があります。特定のM型と特定の溶連菌疾患との関連性が判ってきています。主に咽頭炎を起こす菌株と主に皮膚感染症を起こす菌株があるようです。
☆ヒトはA群溶連菌の自然宿主です。そしてあらゆる疾患を起こし得るのです。新生児では、おそらくは母体より獲得した移行抗体があるために、この菌による病気を発症することはまれです。
咽頭感染症の発症率は、3歳を超える幼児と年少の学童にもっとも多い。時季は、冬と早春にもっとも多いようです。感染しやすい条件は、密集と接近で、学校と家庭では感染の危険が高いようです。診治療の場合、空中を漂う唾液と鼻腔分泌物によって拡散するためです。
治療を開始後24時間経過すれば感染性はなくなります。咽頭炎の潜伏期間は、通常2~5日です。
 皮膚感染症は、夏、皮膚が露出され、擦過傷や昆虫刺傷が生じやすい時期に多い。通常A群溶連菌が皮膚に先行して定着していて、そこに開口損傷(外傷、火傷、刺傷)が生じると感染症を起こす。健康な皮膚を貫通することはできないからです。感染は接触感染です。指爪や肛門周囲部に常在しやすいです。
 一般に咽頭炎も膿痂疹も、人数の多い家庭や、衛生状態の悪い環境で生活する小児に発症しやすいようです。
☆劇症型は年少者と高齢者にもっとも高いです。リスクファクターは、小児では水痘で、高齢者では、糖尿病、免疫不全症、慢性肺疾患、慢性心疾患などです。侵入門戸の50%は不明ですが、多くは皮膚や粘膜だと考えられています。咽頭炎からの続発はまれです。
☆A群溶連菌の病気は急性咽頭炎と皮膚感染症です。
(1)急性咽頭炎
 急にのどが痛くなり、特に飲み込む時に痛いのが特徴です。同時に、頭痛、だるさ、発熱(37.5℃以上)、食欲がないなどが主な症状です。
① 咽頭扁桃の強い発赤、②扁桃に白いものが付く、③上の顎からのどにかけての出血斑、④頸部リンパ節炎、が特徴で、①②③、①③、①④の組み合わせが溶連菌を疑うポイントです。しばしば口蓋垂(のどちんこ)も赤くはれます。
 〇猩紅熱――咽頭炎の原因が、A群溶連菌の中の発赤毒素(発熱毒素)を産生する種類で、まだかかったことのない人の時に、咽頭炎に続いて猩紅熱が出て来ます。猩紅熱は、全身の細かい赤い発疹が一面にくまなくでき、「金太郎の火事場見舞い」という程、見たところ真っ赤に見えます。その他、口の周りが白いことと、いちご舌があります。不全型は見分けが難しくなります。発赤毒素は3種類あるので、まれに二度なることがあります。
 〇合併症
 頸部リンパ節炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、中耳炎、乳突洞炎、副鼻腔炎、まれに肺炎。
 溶連菌感染後、時間をおいて発病するのに、リウマチ熱と急性腎炎があります。またヘノッホ・シェンライン紫斑病(アナフィラクトイド紫斑病)も起こすことが疑われています。
 リウマチ熱になるのは、咽頭菌株の数種であり、すべてではありません。リウマチ熱の発生率は、近年先進国では大幅に減少し、10万人に0.5人と言います。減少したのは、先進国では抗菌剤療法の開始以前からであり、生活状態の改善が根底にあるのではないかと考えられています。
 急性(糸球体)腎炎は、腎炎を起こす型の溶連菌にかかった時だけで、発病する(顕性)人1人に対し、発病しない(不顕性)人3~4人の割で、必ずしも発病するとは限らないのです。しかも、咽頭菌株は少数で、皮膚菌株の方が多いのです。

(2)皮膚感染症(膿皮症)
 丹毒、膿皮症、膿痂疹(とびひ)、蜂窩織炎、リンパ管炎、肛門周囲皮膚炎、膣炎、
 皮膚につく型の溶連菌によって起きます。皮膚局所の消毒は、ほとんど効果がありません。
リウマチ熱は起こさないが、急性腎炎を起こすことがあります。
 〇合併症
 菌血症から、全身に広がり、(A群熔連菌性)トキシックショック症候群、壊死性筋膜炎、髄膜炎、肺炎、腹膜炎、産褥敗血症、化膿性関節炎、筋炎、外科創部感染症、を起こすことがあります。
☆治療
 ペニシリンが有効で、ペニシリン耐性はほとんどありません。PC-V(ペニシリンV)と言う一番安い薬はも海外では生産され、アメリカでは、それを10日間飲むことを勧めています。しかし、日本では薬価が安く利益がないので生産されていず、もっと薬価の高いペニシリン系薬やセファロスポリン系薬が使われています。そうすると5日間投与で有効と言う報告や、アモキシシリン(ペニシリン系薬)の一日一回療法が有効と言う報告もあります。
 10日間使うのは、リウマチ熱を抑止し、臨床経過を短縮し、他人への感染を防ぎ、化膿性合併症を阻止するためと言います。だから、前述のように、アメリカのPCVではなく、高い薬(主にアモキシシリン)ですから、本当に10日間飲む必要があるかどうかは判りません。しかもペニシリン治療後の患児の約20%が保菌を続けていると言う報告もあります。
 でも慢性保菌者は他の人に感染しないと言います。それで治療後、除菌を確認することは推奨されていません。
 ペニシリンアレルギーの人は、セファロスポリン系薬剤を使用しますが、それにもアレルギーがある人には、エリスロマイシンを使用します。
☆昔私が勤めていた、国立病院機構埼玉病院では、溶連菌感染症が多く、耳鼻科でも小児科でも、溶連菌がありふれた咽頭炎、扁桃炎、中耳炎などでしばしば見つかり、また猩紅熱、急性腎炎、アナフィラクトイド紫斑病が多く、リウマチ熱は少なかったです。紫斑病になると紫斑病性腎炎も少なくなく、これは急性腎炎と違って慢性化するので困りました。急性腎炎は、当時の都立清瀬小児病院(現在は府中の都立小児医療センターに統合された)との共同追跡で、10年間以上は再燃はありませんでした。余りにも溶連菌感染症が多いので、当時の都立小児病院の若手小児科医が、新座市のある小学校の、登校した児童の咽頭培養を行なったら、僅かでも出たのが1~2割あり、特に溶連菌が沢山出たのが数十人出たのですが、治療することもできず、そのままで家族に知らせただけでしたが、特に何かの病気が流行することもありませんでした。
 A群溶連菌と自己免疫神経精神疾患との関係が疑われています。特に、強迫性障害、チック症などです。またシデナム舞踏病は急性リウマチ熱の一部と考えられています。
☆最後に
 いろいろな病気を起こす細菌ですが、ありふれた菌で、黄色ブドウ球菌と共に、人と共存している菌でもあり、現在は私の理論である、適応関係が出来つつあり、余程抵抗力が落ちている人でないと、リウマチ熱も、急性腎炎も起きない病気になって来たようです。
 それ程騒ぐことはないですが、ちょっと気を付けていましょう。