持続する夢

つれづれにふと気づいたことなど書き留めてみようかと
・観劇生活はえきさいてぃんぐに・日常生活はゆるゆると

クラウディアからの手紙 3/3

2006-02-17 02:14:48 | 演劇:2006年観劇感想編
2/17のつづき>
祖国を想う気持ちに迷いはないのに、記憶は薄れゆくのだと。諦めるように呟いた彼が。突然、実現可能になった帰国に迷う。追憶と現在のはざまで、気持ちを引き裂かれ、揺れに揺れたあと。板切れを家に持ち込んで、「ふたりの棺おけをつくろう」と、クラウディアに言う。愛する人への、究極のプロポーズ。これを断る言葉なんて、知りたくもない。のに。。

クラウディア役の斎藤由貴氏は、底抜けな気丈さと可愛げをもっていらして。スカーフで顔を覆って泣き顔を隠し。身を切る別れの辛さより、彼のこれから先の幸福を願う姿を見せ。失明した片目での運転で、事故などおこしてはいけないと。最後の駅まで、しっかりと見送る。彼女のまっすぐの強さが、羨ましくもあり恨めしくもある。このひとは、きっと。ただ、ひたすら彼のために動けた自身を誇りに思い。この先、すごく暖かい気持ちを、胸に大事に持って生きていくことができるのだろう。

スクリーンに、本物の再会の映像が流れる。懐かしい故郷の列車のホームで、涙ながらに妻にキスの雨を降らせる夫の姿。。あぁ、そうか。ここで、思い知らされる。この人は。この妻のためだけに、あの生き地獄を生き抜いてきたのだったと。生きるための念は、久子のためだけにあったのだ。クラウディアは、それを誰より(本人よりも)よく理解していたのだと。クラウディアは言った。「私たちは、未来についてだけは語ることがなかった」と。それが、すべて。やはり映しだされた、本物のクラウディアの肖像は。見も知らぬ女性のために生きている彼を、愛したのは。決して寂しさからではないことも、知らせてくれる。

ふたりの女性からの、無償の愛を受けるのに。佐々木蔵ノ介氏の蜂谷は、ふさわしい男性だった。どちらへの愛も、偽りのかけらもなくて、選べないだろうに。どちらも尊重し、きちんと選んだ彼も、やはりすごい人なのだ。
運命に翻弄されるなかに、刻まれた真実の愛。人が人を愛することの奥深さを、しみじみと考えさせられる。辛すぎて、泣くこともできなかった本編。カーテンコールで思い出したように、号泣。おしまいのコールで。ぴょんと跳んじゃった蔵りんに。ようよう、現実復帰。

これは、美談じゃない。人権の踏みにじってしまう戦争というものが、産み落とした悲談のひとつ。けれど。役者さんの、凄烈に生きられたお三方への敬意が。作品を美しくしてた。


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