持続する夢

つれづれにふと気づいたことなど書き留めてみようかと
・観劇生活はえきさいてぃんぐに・日常生活はゆるゆると

マクベス 2/2

2006-02-24 01:21:06 | 演劇:2006年観劇感想編
2/20のつづき>
好きで好きで、ただそれだけの思いで通った演目。『ヤマトタケル』を、懐かしく想う。格段に成熟した二人は、本当に見ごたえがある。

市川右近丈は、威風堂々とした立ち居をもつ役者さんで。かしづく家臣を従える姿を想い浮かべることは、たやすい。その彼が、国王の器ではないという姿を見せる。妻に、そそのかされるように始めてしまった国盗り。切望の王座を手にはしたものの、悪になりきることもできず思い病む卑小な姿。強固な意志があれば、流れを止めることもできたであろうに。退路を断たれ、前に進むしかない。破滅へ、望まず追いやられていく切迫感。

市川笑也丈の、マクベス夫人は。夫をそそのかす悪女でなくて。最初から最後まで、貞節な妻だった。←この解釈は新鮮。国盗りは、そもそも夫が思いついたこと。おそらく、この夫が持った初めての野心。彼の小心さに、焦れる日もあっただろう彼女は。愛すればこそ、望みを叶えるべく。すべてはそのためだけに。気弱になる夫を叱咤し、魅惑の囁きを繰り返す。そして。殺事が成し遂げられたあと、罪への意識にさいなまれ。夫の、同じ苦しみに同調し。心を壊す。眠れない夫を、眠ることなく見つめ続け。夢遊病を患い、とうとう自ら命を断ってしまう。。多分、夫人が何より悔いたのは。夫を残して死を選んでしまったこと。良心の呵責が、夫への愛に負けた瞬間があった。それを彼女は、激しく悔いたことだろう。

マクベスは、それらを知るから妻を責めない。独りで、地位を守りとおす道をとる。自業自得な最期を迎え、屍となって舞台に居る彼からは、すべての気が失われ。無の表情は、首がもはやそこにないのだと思わせる。
こんなふうに夫の体が朽ちたとき、夫人は黄泉から現れる。きっと、死してもなおずっと。夫の姿を、心配に見守っていたにちがいない。ほころびのない傘をさしかけて、優しく手をとり。慈しみの表情を浮かべ、立ち上がらせて。向かうは、阿鼻叫喚の地獄。

地獄への道行きだというのに。おふたりの空気に魅了される。殊更に近づくわけでなくとも、生まれる空気がある。魂を添わせて、手を取り合うならば。その空気は、濃密さを増す。これは、役者のおふたりが過ごしてきた時間を抜きには考えられない。柔らかな親愛の情を漂わせる二人を、静かに静かに見送る。彼らが去っても、板の上には残り香の消えることはなく。見えないそれに包まれたく見つめていると、優しい気持ちが満ちてくる。

だのに。魔女は。たゆたう空気を、笹(←ずっと象徴的に使われていた)をもって振り払う。それは、また惨劇を繰り返すことを暗示するかのようで。左右に大きく払われて、何もなくなってしまった舞台を、見つめるのは寂しい。。
特筆は。出ずっぱりの、魔女たち。傾いたきりの体、上げたきりの腕。からくり人形で居続けた彼女たちが、舞台を完成させてくれていた。


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4 コメント

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「マクベス」は魔女が大事! (ぴかちゅう)
2006-02-25 01:09:43
>特筆は。出ずっぱりの、魔女たち

同感です。他の舞台で魔女が印象的だったのは野田秀樹演出の新国立劇場で観たオペラでした。

>地獄への道行

これが今回の出色場面ですね。ハシガカリを上手く使ってるし、脇正面席で観たので至福でございました。

それと「マクベス」といえば、やっぱり鹿賀さんマクベスを観なかったことを一生後悔しそうです。

そして...ご訪問、首長くしてお待ちしてますよ~。

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(*ーー*) (midori)
2006-02-27 07:42:41
こやまさんがシミジミと舞台を噛み締めて文字に置き換えた内容だなぁ…と、私も又あの舞台を反芻しました。

凛とした静けさの中にある残酷さと美しさ。

心臓に響く舞台でした。

拙ブログへコメントへのレスでも書きましたが、ぜひトラバもして下さい。

お願いします!!
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Re:「マクベス」は魔女が大事! (こやま)
2006-03-01 03:30:02
>ぴかちゅうさま



こやまの中では、やはりNINAGAWAものが印象強いです。

鹿賀さんのマクベス。存在を知りませんでした・・・。 観たい、けど。マクベス自体があまり好みでないので、観たくないかもーっ(葛藤←とうに終わってるし:笑)



TB、1/2の記事からはつかなかったので。こっちのほうから、させていただきました。
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Re:(*ーー*) (こやま)
2006-03-01 03:37:08
>midoriさま



トラバ、させていただきました(←遅いっ)。



前の記事では、「明日」なんていっておきながら。ずいぶん間隔をあけてしまいました。

なんだかね。想い出しはじめると、どんどん、舞台世界に引き戻されてしまって。。

味わいの深い舞台だったのだなぁ、と改めて実感いたしました。
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