デジブック 『最近の経済情勢と今後の課題』
日時 2017年7月22日(土)13:30~16:00
会場 杉並区高井戸地域区民センター 多目的室
講師 田谷禎三経済学博士
略歴 1945年生まれ
1969年 立教大学修士課程修了 その後カリフォルニア大学ロスアンジェルス校(UCLA)留学
1977年 経済学博士(UCLA)
1977-82年 国際通貨基金(IMF)エコノミスト
1983-99年 大和総研で経済調査部長、その後、常務理事
1999年ー2004年 日本銀行政策委員会審議委員
2005年ー13年 立教大学特任教授、その後現在まで講師
内容 「最近の経済情勢と今後の課題」についてグラフと表を多く用い簡明に要旨を解説された。
1.日本経済の見通し(政府、日銀、民間エコノミストの見方)
現在日本経済は緩やかな成長を続けると考えられている。ただ、民間エコノミストの見方に比べて
日銀、政府の見方は、経済成長率については大きな差はないが、物価については日銀はより強気
に見える。それでも、2018年度に至っても目標とする2%のインフレ率の達成は難しそうである。
年度 2016 2017 2018 2019
実質経済成長率%
政府 1.3 1.5
日銀 1.4 1.6 1.3 0.7
民間平均 1.2 1.4 1.1 0.7
コア消費者物価変化率%
政府 0.0 1.1
日銀 -0.3 1.4 1.7 1.9
民間平均 -0.2 0.7 0.9 1.4
政府見通しは2017年1月20日のもの。
日銀見通し2017年7月4月28日時点における日銀政策審議委員メンバーによる見通しの中心点。
民間見通しはESPフォーキャスト調査見通しの平均値。
政府物価見通しは消費者物価指数(総合)の前年比。潜在経済成長率(日本経済が本来持っている実力成長率)
について内閣は0.8%、日銀も0%台後半(0.7%)と推計している。
2.日銀政策委員会メンバーによる過去3年における経済成長率と物価変化予測値の変遷
一昨年度、昨年度の日銀による物価変化率見通しは大幅に下方修正されてきた。しかし、しかし、日銀による経済
成長率見通しの修正は物価見通しの下方修正に比べて比較的小さく、物価変化率見通しの大幅な下方修正は経済
成長率見通しの下方修正によるものというより、想定外のエネルギー価格の大幅な低下によるところが大きい。
もう一つの物価見通しの下方修正の理由は人々の物価についての見方を変えることの難しさによるもののようにみえる。
3.近年による実質GDPの推移
日本経済は、2008年のリーマンショックの影響え景気が大きく落ち込んだ後、東日本大震災(2011年)、欧州債務危機
(2011-12年)、消費税引き上げ(2014年)などの短期的な後退を乗り越えて、基本的には緩やかな右肩上がりの景気
拡大のなかにある。昨年12月末のGDP統計海底(国連が定めるSNA2008に則った推計方式への改定)によって特に最近
の実質GDP成長率が上方修正sれた。アベノミクスの評価がそれだけ高まったことによる。以下、項目のみ。
4.名目GDP、名目民間消費、名目雇用者報酬
5.名目賃金、実質賃金の推移
6.正規・非労働者数の推移と雇用の非正規化
7.労働市場の状況と賃金の変化率
8.アベノミクスー第1ステージ(2012年12月ー2015年9月、それ以降も)
9.金融緩和政策
・デフレからの脱却(と2%のインフレ率)を目指す金融緩和
・2%インフレ率を目標にする根拠
・金融緩和の効果:円安・株高の実現
10.マネタリーベース、マネー(M2),コア消費者物価指数
11.近年における予想物価上昇率の推移
12.これまでの消費者物価の推移とその趨勢的動き
13.積極的な財政政策の継続
14.一般政府の総・純債務残高の推移
15.日本の国際収支(形状収支)の黒字継続
16.経済財政諮問会議用内閣府資料
基礎的財政収支の黒字化(2017年1月25日)
17.実質的経済成長率に対する各投入生産要素の貢献
(リーマンショック前までの推計)
18.日本の総人口、生産年齢人口、就業者数の推移
19.成長戦略ー主なポイントー
・労働生産性の引き上げ
経済構造改革
・労働量の確保
・消費、投資、輸出の換気
.その他
年金積立金管理運用独立行政法人:ガバナンス改革、基本ポートフォリオの変更
20.アベノミクスー第2ステージー
新たな3本の矢(と言うより3つの目標):
1.強い経済
2020年度までに名目GDPを600兆円にする
2.育児支援:
合計特殊出生率を1.8%に引き上げる
3.安心をもたらす社会保障:介護による離職をゼロに
21.2020年度に向けての名目GDP目標(600兆円)
22.50年後の日本の人口
23.介護・看護で離職する人の増加
24.成長戦略ー残された課題ー
・生産性の引き上げ
・消費の喚起
・その他
地方創生(2014年~)
Society5.0(超スマート社会)の実現(2015~)
25.最近の金融政策の変化ー長短金利操作付き量的金融緩和
-長短金利操作付き量的質的金融緩和ー
26.円・ドルレートと日米金利差
27.企業収益 -売上高経常利益率ー
28.日経株価指数と東京証券取引所株式時価総額(名目GDPとの比較)
29.中国の資産価格(住宅価格)バブル
30.昨年までの中国景気鈍化の影響
中国の昨年までの景気鈍化はアジア経済、世界経済におおきな影響を与えてきた。日本もその例外ではなかった。2010年以降の中国の輸出入の鈍化の
影響で、昨年あたりまでは円安にもかかわらず日本の輸出が伸びない一因となってきた。今年に入り、中国における景気刺激策の影響もあって状況が変化しつつある。
・日本と中国の実質GDP成長率の推移
・中国の財サービス輸出入数量の変化率
31.米国経済に対する慎重な見方(長期停滞論)
先進国経済全般について長期停滞論が一部で強まっている。頻繁に出てくる論点には以下のものがある。
①経済金融危機(バブル崩壊)後のバランス・シート調整で経済成長率が」低迷
②金融仲介機能の低下と金融政策の有効性が低下(政策が容易にゼロに達する)
③人口増加率の低下による潜在成長率の低下
④所得格差の拡大と低い高所得格差の消費性向
⑤生産性低下:情報革新後新たな技術革新現れず
⑥設備投資意欲の低迷と過剰貯蓄(先行きへの悲観・慎重さ)
トランプ政権によるアメリカ・ファースト、規制緩和、公共投資の拡大、法人税引き下げといった政策によって事態は改善するのだろうか。
・実質GDP成長率の推移
平均成長率 91-07 12-16
ドイツ 1.7% 1.2%
日本 1.3% 0.8%
アメリカ 3.0% 2.1% |
32.トランプ(政権の誕生と日本経済に影響しそうな諸政策
ⅰ貿易関連:北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉と環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱宣言、そのうえで2国間
貿易赤字を重視し、中国・日本・ドイツ・韓国などと交渉
ⅱドルだかの是正:2国間貿易交渉で相手国通貨安の是正を求める。
ⅲ規制緩和:金融、環境関連規制の緩和、
環境規制に関連してパリ協定(地域温暖化対策の国際的枠組み)から離脱、エネルギー関連規制の緩和、リーマンショック以降の金融規制強化の流れを逆転
ⅳ法人税の引き下げと大規模インフラ投資
法人税の15%引き下げは困難の観測、10年で1兆ドルのインフラ投資についての具体策は不明
ⅴ安全保障と貿易を絡める傾向
中国を為替操作国との認定を回避;その変代わり中国に北朝鮮への」圧力を期待
NATO,日米安保も貿易と絡める可能性
ⅰは農畜産品の輸入自由化
ⅱは円高リスク
ⅲは金融機関やその他企業経営への影響
ⅳは日本の税制論議への影響
ⅴは東アジアの安全保障を経由した影響などが考えられる。
33.アメリカの貿易赤字とその他主要国の貿易収支
アメリカの対主要国貿易赤字と自動車貿易赤字
34.今後の主な課題
①政府債務が積み上がり、財政再建の、めどが立たない。
歳出の抑制が効かない;社会保障制度の改革が必要
歳入の増加のめどが立たない:消費税10%への引き上げが再延期されてきた(2017.4→2019.10?)
②量的金融緩和で日銀のバランスシートに大量の国債が積み上がり続けている;政府債務を実質的に
引き受けることにならないか?
金融政策の正常化はできるのか:政策転換によって日銀が債務超過になったら何が困るのか?
③日本の安全保障体制の再構築(憲法改正問題を含む)
環境の変化*中国の台頭とアメリカの内向き指向
④日米貿易摩擦(自動車、農畜産品、円相場) 以上