地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

地球の裏から日本頑張れ!の応援BLOGです。
証券関係の話題について、証券マンとしての意見を述べていきます

通常のCBの発行から流通まで

2005-05-31 05:18:52 | CB教室
さて、今回はMSCBではなくてごく普通のCB、ユーロ円CBとかアルパイン円CBとかがどのようになっているのかをざっと説明しておきたい。
この辺をきっちり押さえていないと、いざ投資している会社がCB発行、となった時に冷静な判断がくだせなくなる恐れがあるので、きっちり学んで下さい。

ちなみに東証が国内円CBをずっとないがしろに放置していたために、日経新聞の転換社債市場欄をご覧になれば分かるが、この国内円CBはずいぶんと数が減り、かつほとんどが「気配値」のみの記載となっていて如何に流通量が無いか良くお分かりになると思う。
東証で国内円CB(ドメ、と我々は呼んでいる。ドメスティックCBのドメ、である)を発行する場合、発行決議直後に値決めが出来ない。通常1週間程度時間を置いて転換価格を決定しなければならないので、これを発行体が嫌がっている。また流通量自体が極めて少ないため、発行後のマーケット(セカンダリーマーケットと呼ぶ)にあまり期待が出来無いのを、これは引受業者及び投資家が嫌がっている。
ゆえに引受業者はCB発行候補企業に対して、ユーロまたはアルパインCBでの発行を勧めているのが現状だ。
ちなみにユーロとはロンドン市場にて発行されるCB、アルパインとはスイス市場で発行されるものをそれぞれそう呼んでいる。

ユーロとアルパの違いは何か。
ユーロで発行する場合はそのCBは必ず何処かの取引所に上場することが義務付けられている。ロンドン市場でもルクセンブルグでもどこでも良いからとにかく上場する。もっとも実際の取引はその上場した取引所で行われるわけでも何でも無く、ほとんどが相対取引にて行われる。
一方、アルパの方は上場義務が無い。その分発行手続きが簡素化され、発行費用も安く済む。
しかしながら大きな発行体は上場する事に割とこだわったりするので、現在各引受業者は、総額100億円を一つの目処として、100億以下はアルパで、100億以上はユーロでの発行に誘導している。

ちなみにユーロもアルパも値決め(転換価格の決定)は、発行企業が取締役会で発行を決議した直後に決めることが出来る。
つまり本日の午後3時に取締役会にて発行が承認された場合、結局その日の終値を基準に後はプレミアムをどれほど載せるかが決定され、それがそのまま転換価格となる。
ちなみにプレミアムのインディケーションは引受業者よりレンジが発表され、それを元に需要を募り、その状況次第でプレミアムが決まる。
例えばA企業100億の起債が決定され、プレミアムレンジが15~20%、のようにアナウンスされ、それに基づいて引受業者(主幹事)は投資家に需要を募る。
投資家も、プレミアム15%なら10億、プレミアム20%なら3億、のような感じで主幹事に応募する。

それでプレミアムが決定されると、いよいよ100億円の投資家への配分が始まる。それと同時に「グレーマーケット」と言うのが勝手に立ち、A社CB現在103-103.25、のような気配値が続々と業者間を行き来する訳だ。
これは私のところにももう年中来ていて、顧客から注文があった場合、そういった業者にコンタクトを取って、出来る商売はやる事になる。

さて翌日はダイリューションの影響を受けて株価は大体下がるが、それをも既にグレーマーケットでは折込に掛かっているので、多少の株価下落では翌日のCB値段はそんなに下がらない。
この翌日からセカンダリーマーケットが開始され、現在約6社が値付け業務(マーケットメイク)を行っている。ここに私も入っている。
ちなみにある程度の強制的流動性を保つ、と言う観点からこの6社は「ノック フォー ノック(Knock For Knock)」と言う方法にてマーケットメイクを行っている。
これはこの6社はお互いにファームプライスの出し合いをしているのだ。
私がX社にこのA社CBの値段を聞く。
X社はそれに対して、例えば103-104、のような値段を私に出す。
私はX社に対して103なら2千万円売れるし、104なら2千万円買える。
と言う具合だ。

CBやワラントの発行が盛りし頃は、マーケットメーカーだけで20社近くあった事もあった。
ただそのやり方なりを規定する規則と言うものがいっさい存在しなかったため、当時各業者間で「紳士協定」を結び、それが現在も「マーケットルール」として踏襲されている。
かつて私がDでこのメイクをやっていたときに、N社の知り合いとさらなる追加協定を2人で決めて各業者に伝達してそれが採用になった、何てこともあったなぁ(遠い目~(笑))。
いやあの当時はNとDで決めた事に対して真っ向から反対できる業者が無かったって言うのもあるが(笑)。

このような過程を経て、ユーロなりアルパのCBはローンチ(発行)され、そして流通していくのだね。

ここまでは宜しいか?

ちなみにMSCBは一切流動性が無いので、マーケットメイクの対象になんてもちろんならない。
昨日書いたように、MSCBは全て引受業者が全額「がめる」ので、セカンダリーマーケットは存在しない。
業者間をさらにつなぐいわゆるインターミディエート・ブローカーと言うのがロンドンにはいくつもあるが、彼らは日本語が読めないので、どこかがCBの発行を決議すると何人かは私に聞いて来る。
「この詳細を教えてくれ」ってね。
それが仮にMSCBだったりすると奴らは「OK,Private Dealだね、じゃあもういいわ」ってな感じの反応になる(笑)。

続きはまた書く。

MSCBに関してダラダラと

2005-05-30 06:22:17 | CB教室
LUNAさんから頂いたコメント欄に2つほどリンクがあって、読ませていただいた。
どちらの方もMSCBに対しては強烈なご批判をされており、それは確かなことだろう。
個人的にはこのMSCBは、有利発行とはならずに適法となっている現状ではそう簡単にはなくならないと思うし、では一般投資家の方はどうしたら良いかと言えば、この手の商品をしっかり理解することがまずは大切なことだと思う。

かつて野村證券が1000億のMPOプログラムを設定、と言う記事があった。MPOとはマルチプルプライベートオファーリングの略で、要はMSCB等を含む企業の資金調達手段の事である。
ここをご参照下さいな。

そのプログラム設定の記事中に、日本の一流企業の経営者さんたちが一様にコメントを出していたのだが、それが「これは素晴らしい、これでヘッジファンド等の関与を避けられる!」ってなモノばかりだったのだね。

これはいまだにそうであるが、日本の経営者の方々の頭の中にはいまだに「ヘッジファンド悪玉論」があるようだ。
CBを発行して資金調達をしたいが、でもそのCBが結局ヘッジファンドに渡るのは避けたい、とする企業経営者が実はものすごく多い。何故かと問うても、結局「転換が起こりにくい」だの「株が彼らのおもちゃになってしまう」だのと言った、実は極めてプリミティブな理由がほとんどなのである。

現在このMSCBを企業が発行し、それを全額証券会社が引き受ける構図と言うのはどう言う事かと言うと、これはね、証券会社がヘッジファンド化しつつある、と言う事なのですね。

通常の(海外発行のCB、つまりユーロ円CBとかアルパイン円CB)の場合は、証券会社が主幹事となって企業にCBを発行させて、それを投資家へ販売している訳であるが、発行直後の段階では、まずは各証券会社の重要顧客に販売する。しかしながら徐々に日が経つにつれそれらの玉は最終的にヘッジファンドに集まっているのが現状なのである。
またヘッジファンド、特にCBアービトラージ系のファンドは、まずは種玉(たねぎょく)となるCBが無ければ大掛かりなポジションが組めないため、主幹事に擦り寄って来る訳で、種をくれれば我々もあなたに株のオーダーを出しましょう、的なバーターを持ち掛けてくるところも多いのであるね。
またヘッジファンドはとにかく日々トレーディング感覚で株の売買をしてくれるので、どの証券会社にとっても彼らは大手の顧客になって来た訳だ。
そうすると証券会社が新たにCBを発行する場合、だんだんと種玉をヘッジファンドにまずは買ってもらうようになり・・・と言う形になって来ているのが実情なのである。

さて、そうやってヘッジファンドは各証券会社の大手顧客になる事に成功したわけである。
ある企業が100億円のユーロ円CBの発行を、A証券ロンドンを主幹事として決めた、と言うようなケース。
まずA証券は各セールスマンに一斉に需要を募らせる。
この場合、当然有名な年金だの、古典的手法の老舗ファンドだの、と言うところから需要を集めると同時に、色々なヘッジファンドにも当る。通常マーケット自体もそこそこで、さらにこの企業の成長の絵がきちんと描け、さらに発行条件もまあまあであれば、各ヘッジファンドは巨大な需要を提示してくることが多い。
ヘッジファンドα社~50億、Β社~50億、γ社~100億・・・ってな感じなのである。
彼らはそんなにはもらえない事を分かっていながらもそれほどの需要を出してくる。
そしてそれらの需要に基づき、証券会社A社は最終的な配分先を決める。
そしてそのCB自体の売り買いが始まり、直後から値上がりすれば売ってくるところもある訳で、そういった売り物を徐々にまたヘッジファンドが買い集めて行き、上述したように最終的に数社のヘッジファンドに玉が集まってしまうのであるね。

それを見ていた証券会社。
もうエージェンシービジネス(つまりお客さんから株の注文をもらって手数料をもらう、と言うビジネス)は儲からないのである。
日本国内を見てみればそれはもう歴然としている。大和や野村の個人営業体部門が常に苦しんでいるのは、要は個人投資家はドンドンネット証券に流れて、また手数料自由化がその首をさらに絞めているのである。
そこで考えたのが「証券会社のヘッジファンド化」だと私は思う。
要は今までCBの玉をがめて、それに株でヘッジを掛けて儲けて来たヘッジファンドを見ていて、それだったら俺たち自身でもそれをやろうぜ、ってことなのである。

しかしながら通常のCBでそれをやるにはまだまだ完全にリスクを排除できない。ゆえにCBとしてのセカンダリーマーケットでのリスクがほぼ無い、このMSCBに各証券会社は目をつけた。
また企業経営者たちも、ヘッジファンド排除、という命題が何故か頭の中にこびりついているから、双方のベクトルが一致してしまった・・
これを発行してもらい、同時に借株が出来ていれば、証券会社のリスクはかなり減る。
発行会社もヘッジファンドの介入を排除できるし、最後はお金を返す必要もない。
LUNAさんのリンク先のお二方もおっしゃっているが、一般投資家からそのリスクフィーを取っている、と言われても仕方が無いかもしれない。

しかるに、このMSCB発行誘致の動きは何かでかい問題が起こるまでは或いは続くかもしれない。
皆さんは良くお分かりだとは思うが、冒頭の野村證券のMPOプログラムって言うのは、まさにヘッジファンドを悪玉にしつつ、実は証券会社自身がそれになり変わっているだけのものに過ぎない。ただここで申し上げておきたいのは、それを良しとする企業経営者がまた多いって事である。

ここでMSCBの株の処理方法についてなのだが、証券会社はもちろん誰よりも場を見ているしその情報量も多いゆえに、MSCBの転換に関してあまり無鉄砲な事はしない可能性がある、って事を書いておきたい。

野村からUBSに最近CBプロフェッショナルが移籍して話題になったのを覚えていらっしゃるだろうか?
UBSは松井証券と組んで、まずはMSCBを企業に発行してもらい、それをUBSが全額引き受け、状況を見ながら株に転換し、その生まれてきた株を松井証券に卸し、松井は個人顧客なりに実際のマーケット値段より少し安く、或いは手数料なしで販売する、と言う流れを作ったのだね。
つまり松井証券とのタイアップもそうだが、あの話題になったTostnetを使う頻度が高いのではないか、って事だ。時間外取引でも立会い外取引でもどっちの呼び方でも良いが、ライブドアの件で話題になったあの市場である。
ダイリューションによる理論的株価は確かに一般投資家は自分で瞬時に算出できるくらいの事は出来たほうが良いが、では実際にそれだけの株が今後市場にジャブジャブ出て来て、その理論価格にたちまち収斂するか否かは、実は事はそう単純では無いかもしれない。
毎週転換価格が変わるものは正直ちょっとしんどいが、毎月型であるならば、証券会社は長期投資家をいくつか探し出しており、株が転換されるたびにその投資家へTostnet経由で松井のようにクロスを振っているかもしれない。
もちろん私はここで楽観論を言うつもりは無いが、かといってJPの太田氏が言うほどかなぁ、とも正直思ったりはする。
氏は「引き受け手は株価下落を利用して儲けることが可能」と書かれているけれど、別に株価が上昇したってそれは儲かる訳で、意図的に株価下落を利用しているのとはちょっとニュアンスが違う。

「自らファイナンスの受け皿となって、株主価値を下げることによって稼ぐというとんでもないビジネスモデルである。外国証券会社に肩を並べて競い合っている日系証券会社を見ていると、私の目にはそのように映る。」
この一言、正直引っ掛かる、私の目にはそのように映る(笑)。
株主価値を下げるかどうか、それは結局株主が判断すべき事で、何度も言うように資金を調達することによってより株主価値が増大する企業だってあるのである。
JPと言えば日系の大手証券会社にとっては同時に巨大な相手先である。彼らは当然巨大なファンドもあればインハウスファンドもあろう。
今まで彼らが得てきたモデルを、外国証券会社であるJPなんかに肩を並べて競っている日系証券会社がぶん取り始めた事に対する、巧妙な言い方(つまりこの件に関してはもう日系の独壇場になろう、もう外資系には回ってこない、だったら日系を悪者にしちまえ・的な)に取れたりもするなぁ(笑)。

確かにMSCBに関しては麻薬的要素もあると思う。
また、証券会社としてはこの手のファイナンスをやってくれるところは本当に欲しい、しかしそう簡単に応じる企業なんて実はなかなか無いのが実情だ。
実は世の中そんなに甘くない。
また仮にあったとしても、引き受け証券会社は一般投資家に痛恨の一撃を与えるようなことはすべきでは無いし、これは当たり前のことだ。
その辺の上手いスキームがそろそろ出てきても良い気もするが・・・

なんだか結論も無いが、今日はここまで。

ACCESSのMSCB

2005-05-28 05:19:14 | CB教室
バリュークリックに引き続き、ACCESSもMSCBの発行を決議し、一般投資家の皆さんはかなり混乱しているように見受けられる。
バリュークリックに関しては昨日書いた通り私の目から見てもあまり誉められたモノでは無い。特にその引受業者である日興シティーの姿勢は私には理解出来ない。
単なる引受業者としてみれば、黙っていても10%*50億の利益は確定したようなモノだから羨ましい限りであるが、投資家から見ればたまったモンじゃないだろう。ライブドア証券が協力を求めて、もしかしたら非難ゴーゴーの嵐を多少は避けるために日興シティーを引き込んだのかなぁ。

それに対してのACCESSのMSCB。
これはきちんと検証してみるとバリュークリックとの違いが多少なりとも見えてくる。
まずACCESSの時価総額は約1900億、それに対しての500億であるから、ダイリューションは約25%ちょいとなり、まあまあこれは通常の範囲だ。
本日株価が約18%下落したようで、しかもストップ安売り気配で売り物を残しては居るが、ダイリューション分はほぼ織り込んだ水準ではあると思う。
さらに、今回のACCESSの資金使途である。
レリースにはこうある。
『NON-PC端末向けソフトウエアーの開発並びに既存事業の拡大及び新規事業展開(テクノロジー・ポートフォリオの充実、研究開発人員の確保、市場占有率の獲得)に伴う資金に充当する予定であります』

正直私の頭では良く分からないが(笑)、要は今後の設備投資やR&Dに使う、と言う事であり、これは極めて前向きな使途であろう。
あまり表面的なCBの条件やバリューやらばかり見ていると見誤るケースがあるのだが、この「資金使途」は非常に投資家に取って重要な事項である事をしっかり頭に叩き込んで置かれる事をお薦めする。
やんややんや言われているヘッジファンド軍団の青目のファンドマネージャーの兄ちゃん連中もこれはしっかり押さえている。どんなに条件が良い発行であっても、この資金使途が後ろ向き(例えば今回償還が来る債券の借り換え、だとかそういった類のモノ)であれば、そこはしっかりディスカウントして向かってくる。
昨日書いたように、バリュークリックのケースはこれがもう一つはっきりしない。借り入れの返済等は分かるが、M&Aに対する資金プールのような目的はあまりにも漠然としている。
ライブドアのケースはそれが同じMAであっても、きちんとしたターゲットがあった。これは大きく違う。

もう一つこのACCESSとバリュークリックのレリースの違いであるが、それは潜在株式比率の項目である。
ACCESSの場合は、
『今回のファイナンスによる潜在株式比率は20.3%になる見込みです』
と書いた上で(ここまではバリュークリックと同じであるが)、さらに、
『潜在株式の比率は、今回発行する予約権が全て当初の転換価格で権利行使された場合に新たに発行される株式数を直近の発行済み株式数で除した数値です』
としっかり計算根拠を書いてある。
バリュークリックの場合はそれが無かったから私は推測で昨日は書いたわけだ。

ちなみに当初転換価格はバリュークリック同様、発行決議日の株価の終値に5%のプレミアムを載せた値段になっており、それは235万円である。500億円をこれで割れば、自動的に潜在株数が計算できる。
但し昨日も書いたようにこれはほぼ間違いなく最低限の株数である事には注意を要する。
来月から毎月第3金曜日に転換価格が基本的に90%に下方修正されていってしまうので、転換価格は株価がずっと一定だとしても下がる訳だからね。
もちろんこれからこの株がグングン上昇し、235万円をはるかに上回るケースが無いとも限らないので、『ほぼ』と言う表現にしたわけだが。
もっと正確に言うならば、転換価格は修正されるけれども、上下限が決まっているので、最大最小の潜在株は算出できる。
ちなみに上限価格は353万円、下限価格は118万円と決まっているようだ。

ブルーンバーグの記事等を読むと、「借株が容易に調達できその売り圧力を嫌気して・・」的なことが書いてある。
ライブドアの時もフジテレビの時もそうだったが、引受業者はその引き受けリスクを回避するため、特にMSCBのようなスキームにおいては間違いなく借り株は手当てしてある。
バリュークリックはライブドアが70%を占める株主であるからまず間違いなくそこから借りているだろうし、ACCESSの場合も大株主から野村は既に借りていると考えてよい。
通常の転換社債の場合はそれが転換可能になるまでには時間がかかるのに対して、MSCBの場合は転換開始日からさっそくガンガン売れるので、これは潜在株ではあるけれどほぼ間違いなく市場に出てくる。
それに対して通常のCBの場合、発行当初に決める転換価格に、これら同様大体プレミアムが載っており、さらに経験的に言うとパリティー(転換社債の理論価格)が120~130になってこないと転換は起こらない。(株価がその転換価格を20~30%上回ってくることと同義)
ゆえにモノによっては償還までに全く転換が起こらないものもある。
それらのケースはまさに『潜在株』であるが、MSCBの場合は言ってみれば『一時的潜在株』である。その『一時』ですらせいぜい1ヶ月程度であるが・・・。

しかしながら前にも書いたが、株って言うのはある程度の売り物が無いと上がらない、と言う説もある。
いつまでも売り物が無ければ誰も見向きもしなくなるわけで、売り物がきちんと出るのであれば、じゃあそれをしばらくしつこく買ってみようか、と動きも出てくる。
ダイリューションを株価に織り込ませる事は理論に叶っては居るが、その後実際に潜在株が出てきた時にどう考えるかはまた別問題であると言う認識もある程度必要である。

次回はもういちどきちんと転換社債と言う商品を見つめてみることにする。


バリュークリックジャパンのMSCB

2005-05-27 06:09:57 | CB教室
ロンドン出張であったので更新が出来ずにすみません。
さてLUNAさんから頂いたコメントに私は正直驚いた。バリュークリックのMSCB発行の件である。
早速プレスレリースを印刷して読んでみた。

まずその前にこのMSCB、何度か申し上げているように見方が2通りある。
一つは誰もが思う、当該株に投資していた人が、遺憾なく発揮されるダイリューションによって被る被害である。これは私の元ボスAさんもある小さなファンドを試験的に運用しているのだが、彼を持ってしても
「小鬼君、やっぱりMSCBを出されちゃうととりあえず売るしか手は無いよ...」
たださはさりながら、このような形であれどもその企業がそれだけの資金を手にすることによってそれが上手く回って長い目で見ればその会社の価値を結局は上げる事に繋がる、と言うのが別の見方である。
今時のMSCBは、かつて倒産寸前の、「もうその調達によって株主代表訴訟を起こしたいなら起こしてください、どっちみちこういう手を使ってでも資金を調達できなければ当社は破産するんです」的な切羽詰った感じが無い。
また金融庁からも「No Action Letter」が出ていると書いたが、現在ではそれは違法でもなければ倒産寸前のアップアップ状態での調達でも無いと思う。

しかしながら、それだったら出したいところはガンガン出せるか。
確かに出せるが、普通の会社は当然の事ながら出したがらない。
ここの部分の条件の詰めが、いわゆる引き受けマンの腕の見せ所であって、通常の会社にこんな話を持って行っても門前払いを食らうのが落ちだ。
普通の会社は自社の株価にそれなりのプライドを持っているから、当然株価が上がってそして高いところでCBの転換が起こって、通常の株主へもそれによるダイリューションの影響がダイレクトに響かないような配慮すら働く。
転換価格の下方修正条項だって、中堅どころの会社で大体年に1回を2回まで、さらに修正下限は当初転換価格の70%なり80%、と言うのが現在の一般的なCBの発行条件である。
もっと大きな会社になれば、当初の転換プレミアム(当初転換価格を決める際に、その決定日の株価に上乗せする部分)をかなり大きく取る。それも30%とか40%とかね。
昨日野村ロンドン主幹事で森精機と言う一部上場メーカーが100億円のユーロ円CBの発行を決議したが、これだって当初の転換プレミアムは20%を超えている。かなり投資家にとっては厳しい条件であった。

CBを発行する際にはその条件を決めるべくバリュエーションモデルと言うのがあって、それにその株価やらクレジット(信用度)やらなにやらかにやらをぶち込んで、そのオプションバリューを計算して、この銘柄なら条件的にここまでいける、いやこれ以上は難しい、の判断がなされる。
そして満を持して発行されるわけである。

しかしながら今回のこのバリュークリックのこりゃなんだ??
東証マザースのさほど大きくない会社がしかも100億円の調達、毎月第3金曜日に転換価格が90%まで下がるMSCB・・(このスタイルはちなみにフジテレビと同じだ)。
もちろんこの会社が100億発行しようとしたら例えば森精機のような条件での発行はあり得ない。
それにしてもこの会社の時価総額は190億程度しかないのに100億の発行って事はダイリューションは50%以上にのぼる。
これだけ取っても既に異常だろう。
あのライブドアだって40%くらいだったのに。ちなみにまともな銘柄ではせいぜい20-30%、30%だと結構大きいかなぁ、って印象が普通だ。
ちなみにレリースでは希薄化情報として、
『直近の発行済み株式総数に対する潜在株式数の比率は36.78%になる見込みであります』
とある。
正確な計算根拠は分からないが、100億円を当初の5%のプレミアムが乗っかった転換価格5492円で割ってやると、182万株と言う数字が出てきて、この会社の発行済み株数は大体500万株程度であるから、約35%と言う数字が出てくるのでそれを用いたと思われるが、これは完全なるミスリード情報である。
今後転換価格がどんどん下がっていく可能性が大な訳で、そうなると100億円を割るときの分母がどんどん小さくなるので、結果として生まれてくる株数はどんどん増えていくこととなり、発行済み株数に対する割合がどんどん大きくなり、この35%と言う数字が間違いなく上昇していく。
そこまでは簡単な算数であるが、つまり、発行済み株式数対潜在株式数の割合でダイリューションを計算しても何の意味も無いのだ!。だってその数はMSCBの場合は常に変動してしまうんだもん。
CB発行に際してもっとも大事なダイリューションとは、あくまでも時価総額における、CBの発行総額を計算してやらないと他の物との比較検討が出来ない。
つまりこんな情報をレリースに載せるだけ無駄であり、ミスリード要因に、「MSCBの場合は」なる。

当初転換価格は5%のプレミアムを載せては居るものの、このCBの転換開始は6月9日から。ちなみにそれ以降最初に来る第3金曜日は6月17日。つまりこの5%プレミアムが生きるのはわずか6営業日しかないので要はこんなのは100%であろうが500%であろうが関係ない。
6月17日以降は転換価格はその週の株価平均の90%に修正され、7月の第3金曜までそれは有効になる。

資金使途も非常に不明瞭でぶっちゃけ投資家を馬鹿にしているとしか言えない。
単に30億の借入金返済、10億の運転資金の計40億の発行なら、まあ理由は後ろ向きではあるけれど納得できない事は無い。しかしながら大半が将来のMA資金と言うのは、これは駄目でしょう。
ヘッジファンドどうのこうの、という話を良く聞くと思うが、彼らもプロの投資家、あるCBを買うに際しては実はこの「資金使途はナンなのか?」と言う事を非常に気にする。世間の常識で考えてもこの使途ははっきり言って言語道断。

割当先が日興シティーとライブドア証券。
まあライブドア証券の場合は例の初の主幹事案件のエフェクター細胞ってので失敗し、恐らくそれなりのポジションを抱えて評価損も出ているのではないかと邪推されるが、ここで90%のMSCB50億が入ればかなり楽になろう。
ただ私がそれ以上に許せないのが、日興シティーだ。
時がライブドアの買収合戦等の時なら私もさんざん書いてきたように容認はできた。しかしながら何も無い状態でいきなり常識外れの発行を決議させ、しかも資金使途も不明瞭な、そんなCBを出させるのに一枚かんでいたのが日興シティーなんて、地に落ちたと言わざるを得ない。
日興シティーは今まで結構きらりと光るCBの発行をしてきていただけに本当に残念だね。
これによる収益対評判を考えれば、どう考えても私はそろばんがあわないと思う。

私は立場上、今後のこの株価に対するコメントは正々堂々とは出来ないが、上述した事で私のスタンスが分かっていただけると思う。
重ねる。
このイシューはいけない・・・。

いやはや

2005-05-24 04:46:06 | ライブドア問題
本当にわざわざ見に来ていただいたのに碌にアップもせずに申し訳ございません!
明日火曜日、水曜日とロンドンに出張して参りますので、帰ってきたらゆっくりと他社の買収防衛策なぞについて述べてみたいと思います。
ここへ来てペンタックスやら西濃運輸やらも新株予約権を絡めた防衛策を発動して来ていますが、正直松下東芝西濃等に比べて、ペンタックスのものに関しては私は一言ございます。
TBSのモノはやはりどう考えてもしっくり来ないのですが、それと同様ペンタックスのモノもしっくり来ません。
ペンタックスの予約権スキーム自体は複雑でもなんでもないのですが、でも過去のEQファイナンスを考慮の対象に入れないと見誤る可能性があります。
その辺、無事にロンドンから帰って来ましたらしっかりと検証したいと思います!

予定通り、TBSの不思議な防衛策について

2005-05-20 08:09:55 | 買収防衛
が~ん、途中まで書いたところでPCがスタックしたぁ。。でもめげずにもう一度(偉いっ)。

さて最初にさるさるで書いたように、私の元ボス、N証券出身のAさんとの議論での話から。
まずはニレコの防衛策に関しては、私が記事で結論付けたようにニレコがあの策を変更しない限り長期投資には向かない、と言うのにはAさんも賛成だった。同時にイーアクセスのようなスタイルであれば一般投資家にも問題は無いよね、と。これで多少はほっとした(笑)。
そして例のMSCBに関してであるが、実はこれは「有利発行にはならない」と言う結論が出ているそうだ。毎日転換価格が修正されるものですら、多少の色は付いているものの、やはりOKである、と。
金融機関が何か新しいことをやろうとするときは必ず金融庁にお伺いを立てる訳だが、このMSCBに関する金融庁の回答はいわゆる「NO ACTION LETTER」、すなわちその案件に関しては金融庁はアクションを起こしません=問題なし、となっているそうで、私は正式な見解が出ている事を知らなかった(汗)。
これによりライブドア問題の時に展開してきた私の意見も決して間違っては居なかったと言う事になって改めてまたほっとした。
まあ、そうでなければどの道どっかで突っかかっていたはずだし、またMSCBに関しては業界では何度も書いてきたように別に不思議でも何でも無いことだったので自信はあったが。
問題は、果たしてどの程度のマスコミ関係者が本当にその商品の仕組みなりを理解していたか、と言う事だと思うし、まあそれはさんざん書いてきたことなので、これ以上は書かないが。

~~~
さて、日テレも防衛策を発表したようだが、本日のお題は昨日示唆していたTBSの「不思議な」防衛策。
TBSのプレスレリースは24ページにわたるもので、正直熟読はしていない。ただ商品自体は理解していると思うので念のため。
以下記事の抜粋であるが、

『NPIは新株予約権の取得で6億円をTBSに支払う。新株予約権行使の場合、(TBSの調達)総額は最大800億円。行使期間は6月6日から2006年6月30日までの約2年間。
行使価格については、TBSはNPIとの契約で3つのケースに分けた。
敵対的買収者が現れた場合は、その時点から直前の6カ月間の平均株価に10%割引した価格とする。
また、買収者が現れない平時のケースでは、通常は行使価格を4000円と時価よりも高めに設定。
3番目のケースとして、行使期間中に買収者が現れない場合、行使期限の1カ月前にNPIが自らの判断で権利行使し、TBSの株式を時価で取得できる。』

と言うモノだが、特にマスコミの皆様、宜しいですか(笑)。

まず新株予約権1個につき1万株が付いてくる。そして予約権の総数が2000個なので、生まれる新株の総数は2千万株になる。
予約権1個の値段は30万円(つまり1株あたり30円)で、その総数が2000個、ゆえに日興プリンシパル(以下NPI)は総額6億円を払ってこの予約権全部を買う。
「新株予約権行使の場合、総額は最大800億円」の意味は、通常この予約権のストライクプライス(行使価格)は1株あたり4000円なので、4000*2千万株=800億円、と言う事だ。
(しかしながらこのレリースをよ~く読んでみると、上限修正価格が4500円に設定されているので、恐らく最大は800億でなくて900億であると思う。さらにレリースには<最大800億円規模>となっているのでここは間違いだろう。)

後は読んでいただければお分かりになると思うが、3種類の行使価格決定要因がある、と言う事だ。
つまり、
1.敵対的買収者が現れると、行使価格は4000円ではなくて、一気に時価の90%になり、ゆえにNPIはそれにより常時時価の10%ディスカウントで2千万株までTBS株を買える。

2.平時のケースでは、行使価格は4000円。現在のTBSの時価は1800円どころだから、通常このあたりの株価が続く限り、NPIはこれを行使する事はあり得ない。
平たく言うと、これを行使して2000万株ゲットするには、4000*2千万株=800億円掛かるわけだが、時価が1800円であれば2千万株を買うには360億円あれば充分なわけだから、ゆえにそんな馬鹿げた方法をわざわざ使う事はないですね、と言う事だ。

3.結局敵対的買収者が現れず、この予約権が終わりを迎えようとしているとき、その終了1ヶ月前からNPIはこの権利を行使できる。
この記事の抜粋では書いていないが、その際の行使価格は、平成19年6月1日以降。毎週金曜日にそれまでのTBS株価の終値の平均値に修正される。これはライブドアのMSCBと同じスタイルの、まあMS予約権とでも言おうか。
この際の上限修正価格が4500円になっているので、仮に平均値が5000円とか1万円になっているならば、NPIは大もうけを出来る事になる。しかし、基本時価近辺で結局2千万株買える、と言う事だ。

さて、ここまで書いてお気づきになっただろうか?
そう、『敵対的買収者が現れようが現れまいが、いずれにせよNPIはTBS株の約20%を最終的に買える』のだ。
これはなにを意味するのか、実はここが私のもっとも不思議に思ったゆえんなのだが。
つまり、TBSはNPIに資本参加を求めた、と言う事が出来る。それはそれで良いけれど、じゃあ例えばNPIはあのMr.アートの北尾氏率いるSBIと何が違うのか、と言う事。
NPI、まさに何でも投資出来る会社である。ベンチャーキャピタルとも言えるし、要はプリンシパル・インベストメント、って意味は「何でも屋」って事である。
フジテレビの件ではここが動いたってあったけれど、また「日興」の名が付いているから変な噂も無いだろうし、でも私には分からない。だって悪意な見方をすれば、そうやってゲットしたTBS株をいつまで持ってるんだろう?って疑問プラス、そうやってゲットした株が儲かるならば例えばその後第三者に転売だって出来ちゃう、その相手が例えばライブドアであってもね。
明日のことすら碌に読めないこの時代、2年後に何が起きるかなんて誰にも分からないじゃないのかなぁ。

ちなみにレリースでは「第三者割り当てによる新株予約権発行の目的」として、
『NPIとの包括的な財務アドバイザリー契約を締結することと致しました。
NPIとの間で「プロジェクト提携委員会」を設置し、当グループ内外で進行する放送事業やコンテンツ開発、流通当に関連したプロジェクトに共同して取り組む検討を始めました。以下省略』

ライブドアが駄目で、ソフトバンクが駄目で、でもSBIならちょっとは良くて、そしてNPIなら全然OKさ、ってその論理、私の目から見れば基本自分の会社の20%を切り売りしちゃうに当って何が違うのだろう。
ライブドアにはさんざんビジョンが無いだのネットとテレビの融合なんてどうのこうの、って言ってたマスコミの最先端のTBSだけど、じゃあ本当にNPIにそんなノウハウや人材が揃っているのかなぁ。。
これらに関しては言いたい事はまだまだあるけれど、とりあえずそれは置いておいて。

最後に、一般株主への影響である。
3種類の行使どれを取っても影響はある。約20%のダイリューションが単純に発生するので、その時点での一般株主はその影響を受ける。
実際はその他株式分割プラン等を用意しているようなので、その辺の絡みはもう一度この24ページを熟読して再度確認するが、単純にこの予約権行使だけを考えれば、結論はきわめてシンプルである。
NPIはこの予約権購入に6億円を払うわけだから、買収者が現れない最後の段階では私はこれを行使してくると思うので、2年後の今月今夜頃の株主の方は若干のケアを要すると思う。

とりあえずこんな感じで一旦終わります。



出てくる出てくる買収防衛策

2005-05-19 06:22:34 | 買収防衛
株主総会シーズンが迫ってきているのも手伝って、各企業の買収防衛策の策定が次々になされている。
数日前の日経が軽く「企業が表明した主な買収防衛策」として、簡単な表にまとめていた。

<新株予約権>
松下電器、イーアクセス、ニレコ
<授権枠の拡大>
NEC、東京エレク、横河電機、JAL、藤倉化成、電気興業
<役員枠の縮小>
NEC、JAL、キッツ、電気興業
<議決権行使の基準日変更>
パイロット、電気興業
<株式持合い>
新日鉄、住金と神戸鋼

ってな感じだ。
例えば役員枠の縮小ってのは、サラリーマンにとっては最終ゴールがますます狭き門になる訳で、一概に良し良しとは言えないが、でも近頃変に膨れ上がってる経営陣をすっきりする形にするってのは市場からは評価されると思う。
また取締役の改選時期をずらす、ってのもこれは各企業がニッポン放送問題から学んだ重要で簡単な、しかし非常に有意義な方策だろうと思う。
上記企業の他にも、東芝、テレビ東京、TBSなんかも新たな策を発表している。

テレビ東京のケースはこんな感じだ。
『テレビ東京は17日、敵対的買収に対する4種類の防衛策を導入するため、6月24日の株主総会に定款変更を提案すると発表した。買収者の持ち株比率の引き下げを狙って発行株式総数を引き上げるほか、株価を上げる効果がある自己株取得ができるようにする。
 また、買収者が多数の取締役を送り込む場合に備えて、取締役の定数(25人)を現在の実数15人に近い20人に引き下げ、取締役の任期が一度に集中しないよう任期の規定を変更する。
 同社の株式は筆頭株主の日本経済新聞社など安定株主が50%程度を保有しているとみられるが、「万が一の敵対的買収に備えたい」と説明している。』
これなんかはまあ詳細は見ていないのであまり突っ込んだ事は言えないけれど、まともで軽い感じで良い。

ちなみに松下電器のも見てみたが、これも極めてまともではあるのだが、でも実際考えてみれば松下電器の時価総額ってのは約3兆9千億円にのぼるわけで、その半分を買収するにも2兆円が掛かる。
そう考えると東芝だとか松下だとかNECだとかって言う老舗大企業かつ時価総額が巨大な会社の防衛策には何だかそこはかとない余裕のようなモノが感じられて、ゆえにどうも現実的な気がしない。

さて、私のフィールドからあーだこーだウンチクを垂れられることがあるとすれば、それは防衛策に今後も各社導入を検討するであろう、新株予約権のところである。
その切り口から、イーアクセスの新株予約権を見てみる。
ご存知この会社はまだ新しく、ADSL絡みで急成長を遂げている(今回の決算は悲惨であったが)。
設立後わずか5年で東証一部上場を果たした会社であるね。
松下の時価総額の約4兆円に対してイーアクセスの場合のそれは約850億円。しかしながらPBR(例のここでは何回か出しているが、株価純資産倍率ね)は約3倍ある。
つまりこの会社の現在の株価は、その解散価値の約3倍まで買われていることになり、そういう意味では買収する側にとっては割安感があるとは言えない。
但し、時価総額的には割とお手頃なお値段なので(笑)、この業種に食い込むには「買っちまえ」って所も現れないとも限らない訳だ。
東証へのイーアクセスの今回の「企業価値向上新株予約権の導入について」と言う14ページにわたる投げ込み記事を読むと、実際その辺の危機感が多少滲み出ている。

このイーアクセスの新株予約権のざっくりとした条件を見てみると・・
「第1回企業価値向上新株予約権(eAccess Rights #1)」!。
『新株予約権は180万個を発行。発行価格は1円で発行総額は180万円。予約権1個につき1.5株の株式と引き換えられる。この比率は1.5株から最大で2株の範囲で取締役会が変更できる。このため、仮に予約権が行使された場合、270万-360万株の新株が発行される計算になる。現在の発行済み株式は約136万株。
新株予約権は1株につき1個が与えられる。イー・アクセスは6月10日付でこの予約権をミナト・ライツマネジメントという中間法人に割り当て、ミナトは予約権すべてを三菱信託銀行に信託譲渡する。信託期間2015年6月22日まで。予約権の権利行使は6月23日から信託期間内は可能。
買収者が現れた場合、同社の社外取締役から構成される委員会が新株予約権を発動するか消去すべきかを決定する。予約権の行使価格は、要件が満たされた日の直前の金曜日までの5営業日終値の平均値の5分の1とする。』

となっている。要はあらかじめこの新株予約権ってのを発行してそれを信託しておき、いざ買収者が現れたとき、その行使を決めた段階の株主にそれを割り当てましょう、って事である。
それにしても、企業価値向上ってコトバ、今年の流行語大賞になるんじゃないの(笑)?と言うか、新株予約権に「企業価値向上」って修飾語を付けるってのは非常に重箱の隅をつつくようだが、個人的には良しとしない。これじゃあ買収者が現れて予約権を行使すること=企業価値向上、って言ってるみたいだし。
まあいい。

私がここで言いたいのは、数日前のニレコが決議した新株予約権との違いである。
ニレコの場合は今年の3月末の株主に予約権を割り当てる、って事になっていたため、その後長期投資家にとっては投資しにくくなろう、旨を書いた。
今回のこのイーアクセスの場合はその弊害を排除したと言っていい。
本来ならば東芝や松下のように、いざ買収者が現れてから、それが企業価値向上に結びつかないと判断した場合に一挙に新株予約権をも発行するぞ、ってので充分なはずなのだ。
ところが例えばイーアクセスの場合は上述したように時価総額が850億、ウカウカしていればあっと言う間に半数以上を牛耳られてしまう、と言う危機感があったのだろう、と読める。ゆえに前もって発行だけはしておいて、信託財産として預けておく、と言うスタイルをとったのだろう。
百歩譲ってニレコもこのスタイルでよかったのではないか。
恐らくニレコはジャスダックから何か変更を求められる気がするが、それはそれできちんと追いかけねばなるまいね。

TBSの不思議なスタイルの予約権発行に関する考察は、あしたにでもね。





カネボウ上場廃止は当然だって

2005-05-18 02:05:26 | マスコミ、企業
本日の本題に行く前に・・・
さるさる(出来ればそれをお読みいただくと話が早い)には既に書いたが、ヒノキ新薬のお話。
会社が非喫煙運動を推進して、現在約200名居る全社員が「非喫煙宣言」をしているそうだが、そこに私は紛れもないニッポンの会社像を見るわけである。
社長さんがおっしゃるとおり、禁煙の風潮は確かに強い。どこのオフィスもいまどきは大体禁煙で、喫煙者は会社のお炊事場だとか喫煙室だとかでせいぜいタバコが吸える程度、さらには路上禁煙が当たり前の一歩寸前までその風潮は浸透しているわけだ。
本当に全社員がタバコが嫌いで嫌いで仕方が無いから素晴らしい会社に勤務できてよかった、って事であればそれで良いのだろうけれど、でもそれだからと言って、喫煙したら退職もしくは解雇、ってすごい話だと思うのですが。(そして残念ながらそういう社員が居たから問題になっている訳で・・)

もちろんお肌の大敵である喫煙をまずは従業員から止めて、そして皆様のお肌を守るために我々は日夜頑張っています!ってメッセージが伝わって来なくも無いけれど、健康診断をして喫煙を見つけて、そして退職を迫るってのはどうなの?
往々にしてどの会社もこういった事はある。それを端的に非常に残念な形ではあったけれど、示したのがJR西のボーリングであり、コンパであろう。またニッポン放送の全社員の血判状、果てまたポニーキャニオンによるアンケート、FNS関連27だか28社によるフジテレビへの同調、ETCETC・・・
こういったことはマスコミ全般にも当てはまる気がする。とにかく各社一丸となって(苦笑)、ターゲットを叩き潰すなり攻撃するなり。

さて、カネボウである。
BLOG仲間(とお呼びして良いですか?)のHBIKIさんが送ってくださったTBには素晴らしいご意見が書かれているので、私のこの記事はその後追いめいてしまうが、是非彼の記事もお読みいただきたい。

東証のカネボウ株上場廃止に対して、その監督官庁のお上がガタガタ言い出したようだ。
情報ベンダーのニュースがまとまっているので、まずは以下の記事。

『金融庁の五味廣文長官は16日午後の定例記者会見で、東京証券取引所が産業再生機構のもとで経営を再建中のカネボウ株式の上場廃止を決めたことに関連して「企業再生の手法やあり方が多様化しており、上場廃止基準は大きな環境変化に十分に対応しているのかどうか」と述べ、必要に応じて基準を見直すべきとの考えを示した。
金融庁は13日、東証に対して上場廃止基準についての報告書の提出を求めた。虚偽記載にかかる上場廃止のルールが制定されたのが1970年であることから、現在の市場環境の変化に対応していないのであれば「ルールのより精緻(せいち)化や改廃を検討することは時宜にかなったやり方で行わなければならない」(五味長官)との判断が背景にある。
五味長官は一般論として、産業再生機構のような再生を支援する組織ができ、再生過程で積極的に過去の不正を解明した場合、粉飾という事実を重視するのか、それとも粉飾解明の経緯や事業再生を目指すうえでの影響に重きを置くのかについては様々な議論があると指摘。そのうえで、「現行の基準と現実の市場のあり方との間にかい離がないかと議論されていることから、時を置かずにしっかりと議論を深める」と述べた。
金融庁では東証に対して、上場基準のほか、カネボウ株という個別株式の取り扱いに関する情報が、東証の機関決定前に報道されたことから、情報管理体制のあり方や、自身が株式上場を予定している東証の自主規制機能の適切な組織体制についての考え方についても同時に報告を求めた。』

と、まずは金融庁の五味長官が16日にブツブツ言い出し、そして・・・

『伊藤達也金融担当相は17日午前の閣議後会見で、東京証券取引所の上場廃止基準に関してついて「企業再生の在り方が多様化するなか、昭和45年(1970年)2月に規定された廃止基準がどのように対応していくのか、議論の時期に差し掛かっている」と述べ、基準見直しの検討が必要との考えを示した。
東証は12日にカネボウの上場廃止を発表したが、金融庁は13日、東証に対し、上場廃止基準に関する報告書の提出を求めた。企業の再建を進める過程で過去の不正が発覚した場合、過去の粉飾に重きを置くばかりでなく、事業再生に与える影響も考慮の必要があるとの考え方が背景にある。
東証は2004年10月から、有価証券報告書の虚偽記載が発覚したカネボウ株を監理ポストに割り当て、上場廃止にするのか検討を続けてきた。虚偽記載を長期間続けたカネボウが投資家の判断を誤らせ、証券市場に対する信頼を損なったと判断し、12日には同社を6月13日付けで上場廃止にすると決めた。
また、カネボウ株の上場廃止に関する情報が、東証の機関決定前に一部で報道されたことから、金融庁は東証の情報管理体制や自主規制機能についても報告を求めている。』

翌日、金融担当大臣もそれに同調してきた。

それに対して何となく各社勇ましい意見、すなわちカネボウの上場廃止は当然だ!と息巻いていた新聞各社の意見も若干軌道修正されたように感じる。
朝日の社説は、
『長年にわたる粉飾は、適切で迅速な情報開示を大前提とする証券市場を裏切る行為である。(上場廃止は)当然の結論だ。』
としながらも、
『例えば、正直に申告した場合には、重い課徴金を課す一方で、上場そのものは認めるといった第三の道もあるのではないか。』
と書いている。

読売の社説はどうもどっちつかずの当たり障りの無い事を書いており、しかし
『約11万人もの株主にとって痛手は大きいが、証券会社の店頭での相対取引は続けられる。上場廃止処分となっても、カネボウの企業価値がゼロになるわけではない。』
とカネボウが上場廃止になってもみんな大丈夫だよ、的な事をも書いているのはちょっと見逃せない。

私の結論は数日前に書いたとおり、これは妥当な判断だと思うので、東証にはくれぐれも腰が引けないようにお願いしたいと思う。
繰り返しになるが、犯人を捕まえました、よくよく調べてみると過去にもそいつは悪い事をしてました、でもそれは進んで自主的に犯人が言った事なので、それは見逃してやったらどうか、、ってのと全く変わらないと私は思う。
大体お上のお偉いさん方が1970年に制定されたルールだからどうのこうの、って言うけれど、どの世界を見ても半分カビが生えたような法律なりルールによって縛っているのは一体どこのどちらさんなのでしょうか、って事だ。
悪い事をして来たのはその会社の一種の社風でもあったわけで、いくら経営陣がそう入れ替えされてそして炙り出したぞぉ!なんてヒーロー面されても、悪いものは悪いはずだ。
それを朝日の社説のように妥協案を示してみたり(実際そういう議論があるそうでトホホであるが)なんてのは、またまた得意の対症療法であって、根本治療ではない。
この先送り的なやり方が今色々な局面で非難ゴーゴーなのはご存知でしょうが。

読売の「企業価値がゼロになる訳ではないから、仮にそうなってもみんな大丈夫だから」的な論調も、正直ライブドア問題の時から比べて読売の社説子さんも成長したもんだなぁ、と感慨深いものすら私にはあるよ、全く。
ニッポン放送が上場廃止の危機にさらされたときにもこの程度のモノを出していただきたかったね。
あの時の無用な煽動を今度は立場も何もかも全部ひっくり返して行うなんざぁ、たいしたものだ。

大体11万人の株主株主って言うけれど、この問題が発覚したのは4月13日。それ以降善意の投資家は売ってるはずである。そこを買ったり、或いは売り買いしたりってのは「投資家」ではなくて「投機家」だと判断して私は差し支えないと思う。
確かに長期投資で保有されていた向きで、4月のそのニュースにて売らざるを得なくなったであろう投資家には心から市場関係者として同情する。ただ再生機構入りが決まったのは昨年の5月31日だからね、一応念のため。
まあその時点では上場廃止と言うトピックは無かったのだろうが、本当に長期保有目的の投資家ならもうその時点で触らなかっただろう。

万に一つでも、東証が前言を翻すような事になったら、知らないよ~。
もっともお上はこの決定に関してはもう宜しい、と言っているようだからそれは無いと思うけれど。
私はこの際だからお上はもっと徹底したお掃除でも奨励したら、それこそお上の株も上がるのに、って思っていたのだが、それだけに非常に残念な物言いであり、それにこそこそ同調し始めたマスコミにあらためて不信感を募らせて居る。トホホ。


過度の買収防衛策についての考察

2005-05-14 01:37:15 | 買収防衛
ジャスダック銘柄にニレコという会社がある。
制御・計測機器の製造および販売、設備を行う会社であるが、ここが出した買収防衛策に関して観察してみたい。
ざっくりとした流れは、ニレコが3月14日に「セキュリティープラン」と呼ぶ買収防衛策を発表、1株に付き2株の新株を割り当てる、いわゆる新株予約権の無償発行を決めた。
しかしながらジャスダックは4月21日、東証同様各上場会社に対して過度の防衛策は如何なものか、との通達を出し、それは間接的にこのニレコの新株予約権をさして居た。
そして5月9日付けでこのニレコの大株主であるSFPファンドという所が、東京地方裁判所に新株予約権の発行差し止め仮処分の申し立てを行った。
とまあこんな感じである。

全くもってどこかで見たような光景であるが(笑)、唯一前回と違うのは「まだ買収者が現れていない」って事だろうか。

手元にあるニレコが出した恒例の投げ込み記事をつぶさに検証してみる。
ちなみにこれらの資料は全てニレコのHPから誰でも入手出来るので、ご興味のある方は上のリンクからどうぞ。
まずは3月14日の「企業価値向上に向けた取り組みについて」である。
細かいところはもちろん除き、この新株予約権の箇所に焦点を当てる。

『平成17年3月31日最終の株主名簿または実質株主名簿に記載または記録された株主に対してのみ、その所有株式1株に対して2個(つまり2株)の新株予約権を割り当てる。』

これは、今年の3月末までに名義書換をした株主には、将来買収者が現れた時に、1株に対して2株の株を割り当てますよ、と言う事である。
ちなみにこの新株予約権の行使に際して払い込むべき額は1円である。
どう言う事かと言うと、仮に私がニレコ株を1000株持っていていざ買収者が現れてこの行使がなされる時、2000円を払えばあと2000株買える、と言う事である。
仮にその時点でのニレコ株が100万円であろうが何であろうが、あと2000円払えば私は一気に1000株から3000株の株主になれるのである。
流行のコトバで言えば、ダイリューション(希薄化)は、現在出回っている株数を100とすれば、それが一気に総数で300になる訳であるから3倍になるのだ!
もちろんゆえに理論的に株価は1/3になるけど。
ちなみに覚えている方もいらっしゃるだろうが、ニッポン放送が発行しようとしていた新株予約権はダイリューションが1.4倍規模だった。
(通常この希薄化は例のCB~転換社債によって発生するが、通常の率は大体20-30%程度である事はライブドア問題の時にさんざん述べた通りである)

ちなみにこのプランでは同社株が20%まで買い進まれるとその行使がなされる仕組みになっているので、
こうなると市場で密かに株を集めていた買収者は、総株数の1/5をようやく買ったと思ったらこの予約権が行使されることにより、実はそれは総株数の1/15にしか達していないと言う事を知る羽目になる、と言う事だ。
1株1円のコストの株がジャブジャブ出てきたら、それを市場価格で買い増そうなんて、考えるのも億劫になりそうな事が発生する訳だ。

『ニレコは同プラン導入の理由を「PBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込んだ状態が続いており、今後法改正で買収されやすい状況が予想されるため、今のうちから導入しておく必要があると判断した」(山田秀丸社長)と説明。「将来の敵対的買収への脅威を排除することが目的であり、決して経営権維持が目的ではない」(同)と強調した。
 また、導入にあたり、小幡績慶応義塾大学助教授、弁護士の中川秀宣氏を「特別委員会」に招へい、同社の山田社長と3人で、新株予約権発行やその消却に関する意思決定を行うことで、外部による判断を取り入れることとした。』

これに対して東証は、
『「市場運営者としての立場から、ニレコの導入した策は、基本的には認めない」(土本部長)としている。』
(注~ニレコは東証で無くジャスダック上場であるからこの東証の部長さんの発言は直接ニレコのこの方策には影響しない。)

では何故認めないのか?
3月17日のニレコ発の投げ込み記事にこうある。
『平成17年3月28日以降(つまり名義書換に間に合わないと言う事)にお買い付けの当社株式につきましては、本新株予約権は割り当てられないこととなります。従いまして、平成17年4月1日以降に手続き開始要件(つまり買収者が現れ20%以上の買占めが発覚する事)が満たされ行使可能となった場合、3月28日以降お買い付けの当社株式は本新株予約権の行使による希釈化の影響を受けることとなりますので、ご留意いただきますようお願い申し上げます。」

つまり今年の4月1日以降に株を買ってもこの新株予約権はもらえない。それでもこの会社の株に魅力を感じて投資する人が4月1日以降長期保有目的でこの株を買って持っていたら突然の買収者の出現によりそれまでの株の価値が自動的に1/3に下がってしまうと言う事が起きる可能性があるのである。
一部の善良なる投資家が著しい不利益を被る可能性があるわけだ。

ここでこの会社の株価チャートをご覧いただきたい。ニレコはHPに自社の株価チャートを載せているので、これはなかなかユーザーフレンドリーであるな。
それはここである
この予約権のニュースの発表と同時に株価は暴騰し、通常800円台だった株が最高値1200円まで買われ、そして予約権をもらえる権利が消滅する頃からまた下降線、結局もとの木阿弥になっている。(こういう形のチャートを我々は「行って来い」と呼んでいる)
元々出来高の薄い銘柄であるからちょっとした買い物ですぐ上ってしまった感があるね。

非常に長くなったが、ではこれをどう見るのか。
私は大株主ファンドによる発行差し止め仮処分申請、及び東証の意見は正しいと思う。
要はこのような方策によってある意味既に株価は歪められてしまったのである。また、来年の最終株主決定時の3月末まで、この会社に投資したい人は常に余計な心配をしながら株を買わなければならず、これは決してあるべき姿であるとは言えない。
今後この会社がどんな新発明をしようが、どんなに業績が明るくなろうが、投資家は簡単に飛びつくわけには行かなくなる。それが先ほどのチャートにてお分かりいただけるように、昨今の株価が低迷している理由であると考えられる。

この会社のPBR(株価純資産倍率)は連結ベースでたったの0.6倍である。つまりこのニレコと言う会社の解散価値より株価はさらに低いと言う事である。
この会社の株を全部買って、そしてその会社の持っている資産だなんだを全部売り払えば儲かる、って事なのである。
つまりまずニレコに求められるのは、このような対症療法的な防衛策ではなくて、もっと会社の価値向上、株価向上への根本治療なのだ。
何度も申し上げている通り、まず求められるべきはその会社を株式市場と言う切り口から見ても、魅力ある会社にすることなのだな。そのための努力を怠っていた結果がこのPBR0.6倍であると言われても、経営陣としては返す言葉が本当は無いはずだ。
熟慮の上に、慶應の助教授や弁護士さんも協力を決めたのだろうが(お2人ともすごい経歴である、HP参照)、どうかどこぞの弁護士さんのように敵前逃亡されずに今後ともがんばって下さい。

カネボウ上場廃止

2005-05-13 05:53:10 | マスコミ、企業
カネボウの上場廃止が決定された。
4月13日に過去の粉飾決算の総額が2000億円にものぼることが明らかになり、その段階から株価は下落の道をまっしぐらに走っている。
産業再生機構が昨年5月31日に支援を決定し、そして過去の財務まで調査して大きな粉飾が明らかになった訳だが、それが東証の上場廃止基準に抵触していた事は何回か前の記事に書いた。
再生機構は東証に対して上場廃止の撤回を求めていたのであるが、東証は本日上場廃止を決定した訳だ。東証がそれを特例として認めてしまったら後々収拾がつかなくなる事は誰もが思うところであったと思うので、カネボウと再生機構には気の毒だが、東証の判断は私は正しいと思う。

『産業再生機構は東証の判断に先立ち、「過去の誤りを理由に上場廃止にするのは適切ではない」などと上場維持を要請していた。』
と言うのが再生機構のダイジェスト意見であるが、例え過去でも、ましてや当時の経営陣が既に誰も居なくても、やはり組織としてルール違反が明確であった以上、それはきちんと償うべきであろう。
過去の膿を自ら出したのに・・・と言う論理が通じるほど市場は甘くは無い。
過去の膿を自ら出すなんて当たり前の事だし、正直それは誉められた事では無いだろう。
犯罪者を捕まえたら実は過去の犯罪も明るみになったけど、でも過去の事はまあ仕方がないか、と言っているのと同じであろう事くらい誰でも分かる。
ちなみに4月13日のニュースの出る前日の株価は1491円、その後一時盛り返す時もあったが、本日の終値は453円ストップ安売り気配、って奴で、売り物を約1230万株残している。
明日もストップ安になるだろう。

この本日のニュースの出るちょっと前に日経にかなりまともなコラムがあった。
「一目均衡」と言うのがそれで、「上場廃止もっと容易に」と言うものである。
要はある企業が上場廃止になるとその株のホルダーが容易に株を売却できなくなるばかりか、譲渡所得への税率も2倍掛かり、さらに確定申告の必要が出、また配当も20%の税率で源泉徴収をされた上に、住民税はどんなに少額配当でも申告して納税の義務があり、非常に善意の株主に不利である。
この善意の株主を困らせる度合いが小さければ、上場廃止を取引所はもっと決めやすくなる、と言うものであり、これは私も賛成する。

『甘すぎるといわれる現行の上場廃止基準を強化しても良い。企業統治が不備な企業、投資家向けIRに不熱心な企業、過剰な買収防衛策を導入した企業、株価が一定基準を下回った企業などにもっと厳しく対処出来れば、企業経営に緊張感が生まれ、真に魅力的な証券市場が築けるのではないか』

まさにその通りである。ただその通りであるが、例えばカネボウの件に関してはどこもその粉飾を見抜けなかった。西武鉄道の虚偽記載に関してもそうである。過去にそういう不正を誰も見抜けずに、結果として大損をした投資家がどれだけ居るのだろうか。
これを見抜くべきだったのは一体誰であったのだろうか。
監査法人にも非があろう、また東証にも責任の一端は確実にある。さらにカネボウの業界の監督官庁にもその責任はあって良い。
ただ人を騙すと言う事は、誰もそれを見抜けないからみんな騙されるわけで、まあその辺の責任のなすりあいを今さらしても何も進歩的な事は生まれない。
ただ、東証は、上場企業の管理をするのが仕事である訳だから、今後東証も株式会社になったならばその辺の脇の甘さが全て株価に反映されるであろう事をきちんと意識するべきだ。
東証が出した過度の買収防衛策に関しては私もそれは正しいと思う。それはまっとうな投資家を保護する良い方策だ。ただ同時にこのような会社の不正を見抜けず結果として東証自身が介錯の役割となって上場廃止を決めるのであるから、今回のカネボウにおいて損失を被ったであろう「善意」の投資家に対する思いを忘れてはいけない。

しかしながらちょっと付け加えておくと、4月13日以降に売買に参加した向きは基本的に「投機色」が強い、と言わざるを得ない。
その段階で上場廃止基準に抵触していたわけで、それを承知で取引に参加して大やられをしても責められるべきは自分のみである。いわゆる自己責任って奴だ。
ゆえにそういう向きまでも「善意の株主」とするかどうか、その辺に正直疑問が残ったりする。


ちなみに我々の業界の監督役は金融庁であろうが、同時に日本版SECなんて気取った言い方をされている証券取引等監視委員会もそろそろ力をつけて欲しいね。
ようやくここの権限の強化が取り沙汰されているが、遅きに逸した感があるのも事実だ。
アメリカなり英国なりのSECってのは本当におっかないそうだから、それくらいの権限をきちっと持たせないと、企業側ばかりを縛り付けるのでは真の意味での健全な市場になんてならない。
管理が強化されればそれだけ自由度も減りそうではあるが、それがきちんとしたものであれば無用の混乱を防止するであろう事は想像できる。
まあSECの場合はその管理下に我々が置かれるわけで、それはそれで実務上負担が増えるのは目に見えているし、またそういった事にことさら敏感な銀行系証券会社がここもとの金融再編で増えているから、何だか本末転倒になりそうな気配もあるが(笑)。

PS
そうは言っても、政府の鳴り物入りで始まった再生機構の言い分が実は通るんじゃないか、って思ってた向きもかなりあると思う。ダイエーに関してあれだけ譲らなかった、ある意味立派な筋の通った組織である。
そこがこれだけ上場維持に意地になっていたわけであるからね。
社長はご存知N証券出身のS氏。そのS氏をN時代に知っている私の元ボスAさんは、「まあSさんなら何でもやるだろうなぁ」。
それだけに本日再生機構が発表したコメントには悔しさが滲み出ていた。
上のリンクからも行けるが、
『再生機構は、東京証券取引所に対して、上場維持が相当であるとの考えをお伝えしてきたところであり、本日の決定は誠に残念です。
(中略)
機構としては、こうしたカネボウの再生プロセスの進捗に鑑み、カネボウの再生可能性は引き続き充分にあると考えており、カネボウに対する支援を継続し、機構法に定める3年以内の支援完了に向けて、引き続きカネボウの企業価値の最大化を進めていきます』

どこの市場でも良いから、カネボウの再上場の日を待とう。