地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

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証券関係の話題について、証券マンとしての意見を述べていきます

MSCBに関してダラダラと

2005-05-30 06:22:17 | CB教室
LUNAさんから頂いたコメント欄に2つほどリンクがあって、読ませていただいた。
どちらの方もMSCBに対しては強烈なご批判をされており、それは確かなことだろう。
個人的にはこのMSCBは、有利発行とはならずに適法となっている現状ではそう簡単にはなくならないと思うし、では一般投資家の方はどうしたら良いかと言えば、この手の商品をしっかり理解することがまずは大切なことだと思う。

かつて野村證券が1000億のMPOプログラムを設定、と言う記事があった。MPOとはマルチプルプライベートオファーリングの略で、要はMSCB等を含む企業の資金調達手段の事である。
ここをご参照下さいな。

そのプログラム設定の記事中に、日本の一流企業の経営者さんたちが一様にコメントを出していたのだが、それが「これは素晴らしい、これでヘッジファンド等の関与を避けられる!」ってなモノばかりだったのだね。

これはいまだにそうであるが、日本の経営者の方々の頭の中にはいまだに「ヘッジファンド悪玉論」があるようだ。
CBを発行して資金調達をしたいが、でもそのCBが結局ヘッジファンドに渡るのは避けたい、とする企業経営者が実はものすごく多い。何故かと問うても、結局「転換が起こりにくい」だの「株が彼らのおもちゃになってしまう」だのと言った、実は極めてプリミティブな理由がほとんどなのである。

現在このMSCBを企業が発行し、それを全額証券会社が引き受ける構図と言うのはどう言う事かと言うと、これはね、証券会社がヘッジファンド化しつつある、と言う事なのですね。

通常の(海外発行のCB、つまりユーロ円CBとかアルパイン円CB)の場合は、証券会社が主幹事となって企業にCBを発行させて、それを投資家へ販売している訳であるが、発行直後の段階では、まずは各証券会社の重要顧客に販売する。しかしながら徐々に日が経つにつれそれらの玉は最終的にヘッジファンドに集まっているのが現状なのである。
またヘッジファンド、特にCBアービトラージ系のファンドは、まずは種玉(たねぎょく)となるCBが無ければ大掛かりなポジションが組めないため、主幹事に擦り寄って来る訳で、種をくれれば我々もあなたに株のオーダーを出しましょう、的なバーターを持ち掛けてくるところも多いのであるね。
またヘッジファンドはとにかく日々トレーディング感覚で株の売買をしてくれるので、どの証券会社にとっても彼らは大手の顧客になって来た訳だ。
そうすると証券会社が新たにCBを発行する場合、だんだんと種玉をヘッジファンドにまずは買ってもらうようになり・・・と言う形になって来ているのが実情なのである。

さて、そうやってヘッジファンドは各証券会社の大手顧客になる事に成功したわけである。
ある企業が100億円のユーロ円CBの発行を、A証券ロンドンを主幹事として決めた、と言うようなケース。
まずA証券は各セールスマンに一斉に需要を募らせる。
この場合、当然有名な年金だの、古典的手法の老舗ファンドだの、と言うところから需要を集めると同時に、色々なヘッジファンドにも当る。通常マーケット自体もそこそこで、さらにこの企業の成長の絵がきちんと描け、さらに発行条件もまあまあであれば、各ヘッジファンドは巨大な需要を提示してくることが多い。
ヘッジファンドα社~50億、Β社~50億、γ社~100億・・・ってな感じなのである。
彼らはそんなにはもらえない事を分かっていながらもそれほどの需要を出してくる。
そしてそれらの需要に基づき、証券会社A社は最終的な配分先を決める。
そしてそのCB自体の売り買いが始まり、直後から値上がりすれば売ってくるところもある訳で、そういった売り物を徐々にまたヘッジファンドが買い集めて行き、上述したように最終的に数社のヘッジファンドに玉が集まってしまうのであるね。

それを見ていた証券会社。
もうエージェンシービジネス(つまりお客さんから株の注文をもらって手数料をもらう、と言うビジネス)は儲からないのである。
日本国内を見てみればそれはもう歴然としている。大和や野村の個人営業体部門が常に苦しんでいるのは、要は個人投資家はドンドンネット証券に流れて、また手数料自由化がその首をさらに絞めているのである。
そこで考えたのが「証券会社のヘッジファンド化」だと私は思う。
要は今までCBの玉をがめて、それに株でヘッジを掛けて儲けて来たヘッジファンドを見ていて、それだったら俺たち自身でもそれをやろうぜ、ってことなのである。

しかしながら通常のCBでそれをやるにはまだまだ完全にリスクを排除できない。ゆえにCBとしてのセカンダリーマーケットでのリスクがほぼ無い、このMSCBに各証券会社は目をつけた。
また企業経営者たちも、ヘッジファンド排除、という命題が何故か頭の中にこびりついているから、双方のベクトルが一致してしまった・・
これを発行してもらい、同時に借株が出来ていれば、証券会社のリスクはかなり減る。
発行会社もヘッジファンドの介入を排除できるし、最後はお金を返す必要もない。
LUNAさんのリンク先のお二方もおっしゃっているが、一般投資家からそのリスクフィーを取っている、と言われても仕方が無いかもしれない。

しかるに、このMSCB発行誘致の動きは何かでかい問題が起こるまでは或いは続くかもしれない。
皆さんは良くお分かりだとは思うが、冒頭の野村證券のMPOプログラムって言うのは、まさにヘッジファンドを悪玉にしつつ、実は証券会社自身がそれになり変わっているだけのものに過ぎない。ただここで申し上げておきたいのは、それを良しとする企業経営者がまた多いって事である。

ここでMSCBの株の処理方法についてなのだが、証券会社はもちろん誰よりも場を見ているしその情報量も多いゆえに、MSCBの転換に関してあまり無鉄砲な事はしない可能性がある、って事を書いておきたい。

野村からUBSに最近CBプロフェッショナルが移籍して話題になったのを覚えていらっしゃるだろうか?
UBSは松井証券と組んで、まずはMSCBを企業に発行してもらい、それをUBSが全額引き受け、状況を見ながら株に転換し、その生まれてきた株を松井証券に卸し、松井は個人顧客なりに実際のマーケット値段より少し安く、或いは手数料なしで販売する、と言う流れを作ったのだね。
つまり松井証券とのタイアップもそうだが、あの話題になったTostnetを使う頻度が高いのではないか、って事だ。時間外取引でも立会い外取引でもどっちの呼び方でも良いが、ライブドアの件で話題になったあの市場である。
ダイリューションによる理論的株価は確かに一般投資家は自分で瞬時に算出できるくらいの事は出来たほうが良いが、では実際にそれだけの株が今後市場にジャブジャブ出て来て、その理論価格にたちまち収斂するか否かは、実は事はそう単純では無いかもしれない。
毎週転換価格が変わるものは正直ちょっとしんどいが、毎月型であるならば、証券会社は長期投資家をいくつか探し出しており、株が転換されるたびにその投資家へTostnet経由で松井のようにクロスを振っているかもしれない。
もちろん私はここで楽観論を言うつもりは無いが、かといってJPの太田氏が言うほどかなぁ、とも正直思ったりはする。
氏は「引き受け手は株価下落を利用して儲けることが可能」と書かれているけれど、別に株価が上昇したってそれは儲かる訳で、意図的に株価下落を利用しているのとはちょっとニュアンスが違う。

「自らファイナンスの受け皿となって、株主価値を下げることによって稼ぐというとんでもないビジネスモデルである。外国証券会社に肩を並べて競い合っている日系証券会社を見ていると、私の目にはそのように映る。」
この一言、正直引っ掛かる、私の目にはそのように映る(笑)。
株主価値を下げるかどうか、それは結局株主が判断すべき事で、何度も言うように資金を調達することによってより株主価値が増大する企業だってあるのである。
JPと言えば日系の大手証券会社にとっては同時に巨大な相手先である。彼らは当然巨大なファンドもあればインハウスファンドもあろう。
今まで彼らが得てきたモデルを、外国証券会社であるJPなんかに肩を並べて競っている日系証券会社がぶん取り始めた事に対する、巧妙な言い方(つまりこの件に関してはもう日系の独壇場になろう、もう外資系には回ってこない、だったら日系を悪者にしちまえ・的な)に取れたりもするなぁ(笑)。

確かにMSCBに関しては麻薬的要素もあると思う。
また、証券会社としてはこの手のファイナンスをやってくれるところは本当に欲しい、しかしそう簡単に応じる企業なんて実はなかなか無いのが実情だ。
実は世の中そんなに甘くない。
また仮にあったとしても、引き受け証券会社は一般投資家に痛恨の一撃を与えるようなことはすべきでは無いし、これは当たり前のことだ。
その辺の上手いスキームがそろそろ出てきても良い気もするが・・・

なんだか結論も無いが、今日はここまで。