地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

地球の裏から日本頑張れ!の応援BLOGです。
証券関係の話題について、証券マンとしての意見を述べていきます

MPOリーグテーブル

2005-07-15 06:53:30 | CB教室
在東京のいつも色々な情報を下さるさる業界系記者の方より、MPOの05年度第1Qのリーグテーブルを頂いた。
平たく言うと、今年4-6月までの間に発行されたMPO(MSCB)のブローカー別の引き受け実績って事であるね。
2005年と言うとまだまだ2月に始まったライブドアVSフジテレビのMPOによる攻防戦が強烈なインパクトを残しているが、「2005年度」ってのは今年の4月から始まっているので、頭を切り替えねばならない。私はこの「年度」制度ってのはどうもいまだになじめないのだなぁ。
前置きはさておき、この3ヶ月で国内外あわせて一体どれくらいのMPOが発行されていると思われますか?

実に国内外の発行をあわせて『3023億円』!だそうである。

日々CB市場(但しヨーロッパのユーロ及びアルパイン市場が主であるが)に身を置く人間としては、実はこの数字、正直ピンと来なかった。
すでに書いているようにCB市場自体は非常に苦しい展開を余儀なくされており、それは取りも直さず原株のボラティリティー(変動率)の極端な低下が原因なのだが、ゆえにまっとうなCB、つまりせいぜい満期中に2回程度の下方修正条項が付いているようなCBの発行と言うのはほとんどない。
ほとんど無いからこの普段のCB市場(我々はセカンダリー市場と呼んでいるが)に新しい血が入って来ない、もともと存在するCBは動かない、ってな「動かない連鎖」状態になっているのである。
しかしながらそんな市場を横目に見ながらこのMPOのなんたる活況なことよ!

ちなみにトップ3は、
1.野村証券~~~1370億円
2.UBS証券~~~ 565億円
3.みずほ証券~~405億円
と、トップ3で全体のシェアの約80%強を押さえている。

この3社を見て何かピ~ンと来るつながりを発見できる人は相当にこの業界に詳しい人だ。
野村からCBのこのMPO組成、引き受けが出来る人間がUBSに移籍して話題になった。移籍後に松井証券と組んで「夜市」を作ったあの流れだ(現在は夜市はやってないの?)。
そしてみずほ証券のエクイティー関係部署は現在はほぼ元野村軍団が牛耳っている。
つまり、一種の野村ファミリーがこのMPO業界でも完全にガリバーのポジションをゲットしているわけだ。
もちろんファミリーとは言えお互いに違う会社だから、連携とかはあり得ないだろうが、それなりの情報交換はしているだろう。ただ情報交換とは言っても「引き受け」に関する部分、すなわち企業のファイナンスに関わる部分は非常にデリケートで一歩間違えばすぐにインサイダー疑惑を招きかねないので、そういう意味での情報交換では無いので、念のため。

さて、以下は私の想像ではあるが、決して外れては居ないと思うが・・

もともと野村証券がこの「MPOプログラム」を創設し、そこから強烈な刈り取りを始めた。最初は各証券会社は野村のやり方を静観していた感じがある。何故ならこのMPO、完全にOK牧場商品となったのが割と最近であるからだ。
当然野村はその辺は綿密に調べ上げ、そして潔癖である、との確信を得てスタートしたのだろうが。
次に各社が考えたと思われるのは、「仮想敵国」の創設である。
私も何度も書いている通り、まさしくこの「MPOの引き受け=証券会社のヘッジファンド化」に他ならないので、ここで各社仮想敵国を「ヘッジファンド」にした。
それまでも証券市場に関わってくる一般企業の財務担当者には「ヘッジファンド罪悪論」が跋扈しており、そこを上手く突いた。
MPOを引き受けるに当たって、やってることはヘッジファンドとなんら変わりは無いものの、一般企業に対しては、
「このスキームならば訳の分からないヘッジファンドにCBを買い集められちゃう心配は一切ございません。我々がきちんと全額転換するまでCB全額を管理出来ますよ。」
ってな感じなはずだ。

確かに一般のCBは、時間とともに保有状況はかなり偏在化する。
いつのまにかCB総額の1/3をたった1社のヘッジファンドが保有していた、なんて事は実はざらにある。
ヘッジファンドはこの間書いたようなCBアービトラージを運用の基本のひとつに置いているので、とにかく種(たね)となるCBが無ければ話にならない。また資金もある。株が安くなったときに同時に安くなったCBを地道に拾っていくのである。
私も何度も経験があるが、株が下がるとそのCBってのは必ず主幹事に売り物がどさっと来る。私としてはそれを保有してますます含み損が膨らむのがいやだから、多少コストより安くともポジションを軽くしようとする、そうするとそこをきっちりピンポイントで買ってくるのがヘッジファンドである。こうやってだんだんと保有状況の偏在化が進むのである。

それはそのCBを出した企業にとって何を意味するのか?
実は世間やマスコミはいまだに「はげたかファンド」だの何だのと言っているが、ヘッジファンドの少なくともCB運用に関しては、彼らは乗っ取りだのといった事は考えていない。それは証券会社の人間なら良く分かっている。
しかしながら偏在化して来ると場合によっては5%ルール報告に突然見も知らぬハゲタカチックな名前が出ることがある。そうするとその企業の財務担当は真っ青になるわけだ。
財務担当は急いで主幹事証券に連絡を取り「一体こいつは何者なるかぁ?」と言うことになる。

そんなひやひやするような思いをするのなら、満期中ずーっと主幹事証券がCBをコントロールしてくれる方がありがたい、夜もぐっすり眠れる、じゃあ我々もMPOで行きましょうか、となる。
つまり証券会社は一般企業のもっとも嫌がるところを巧みにヘッジファンドを仮想敵国に仕上げることで突いていると言える。

な~んてそのどこまでがほんとか分からないけれど、資本市場ってのは元来食うか食われるかの世界であるので、とにかく取れるものは取る、出来ることはやる、儲けるところではしっかり儲ける、って事を常にやっていかないと必ずや取り残されるのである。

ただ私自身のこれは持論であるが、このMPO、どこかで今のスキームは何らかの問題を抱えてくると思う。
現にこれによって既存株主が受ける影響は甚大である訳で、それを回避する手段は今のところ無い。もちろん当局も弁護士も「OK牧場」って言っている以上、例えば既存株主が「有利発行である」と言ったところで勝てないだろう。もちろんあのニッポン放送の馬鹿げた新株予約権とは訳が違うので、そこは念のため。
その希薄化に対する何らかの手立てを打たないと、結局再度個人投資家離れを引き起こしかねない、と私は思う。
特に大手を中心とした国内系は、バブルの頃の強引な個人の取り込み営業が尾を引いて、気付いてみれば個人はほとんどネット系証券に流れてしまっていると言う苦しい立場に居るわけで、そこに目をつぶってこのMPOを強引に推進することはいかなる結果を引き起こすか、やはり誰よりも良く分かって居るはずだ。
野村証券が「巧み」なのは、私が思うに彼らはそれを見越した上で、業界に先駆けてリスクを取ってそれを上手く収益に結びつけ、そして今はまさに全力疾走でMPOで稼いでいるって事だ。
のんびりと静観していた他社も参入してきているが、やがてそれが大きなうねりになる頃は、多分野村はもう別なことに活路を見出している、そんな気がするのである。

CBに関する質問とそれに対する回答

2005-07-09 20:28:53 | CB教室
さる掲示板にて直近に発行されたCBに絡んでいくつかの質問に対する回答を書くように依頼されたのでここにて書いてみる。
極めて一般的かつ今後CBに対する知識をより一層深めていただくには非常に良いチャンスなので逐次回答を載せて行きたいと思う。

<無利子の転換社債とは>
文字通りクーポンゼロのCBのことであり、このCBの投資家はクーポン収入を得ることはあり得ない。
仮にこのCBの購入時に手数料を払うとすれば、満期償還を迎えた場合にはその手数料分だけ投資家は損をすることになる。
また近頃のCBは発行価格100に対して当初の募集価格を102.50程度に設定することが多く、ゆえに当初の募集価格で買えば償還時にさらに2.5ポイントのキャピタルロスが発生する。
しかしながら個人投資家に限って言えば、CBの値動きは常に100以上とは限らず、例えばパー割れ(100割れ)となって、仮にCBが98とかと言う値段の時に買うことが出来れば、それは償還時にキャピタルゲインを得ることが出来る。一種の割引債券的感覚である。

ではそのようなCBを個人投資家が買う意味とは何か?
これはCBの特性である、株式的側面とは違う面の債券的側面に関わると思われる。
通常原株が大きく転換価格を割り込んだ場合、例えば転換価格の半値まで株が下がってしまった場合、この場合CBの理論価格は50となってしまうが、CB自体はそこまで下がることはほとんど無い。これは債券的側面が働くからで、通常であればこの場合せいぜい下がって85~90程度であろうと思われる。つまりこの下方硬直性が損失を限定させるべく保険となるので、堅実な資金運用を望む向きにはCB投資は適していると言えよう。

<満期まで下方修正が2度程度のCBをMSCBと呼ぶか否か>
どういう過程にてこのMSCBと言う用語がどこで使われだしたのかはよく分からない。
もともと90年代の終わりごろにチラチラと出ていた「悪名高きスイスフラン私募CB」。
倒産寸前の会社にこの手のCBを発行させ、資金を入れて、仮に会社がその資金によって復活すればよし、駄目なら仕方が無い、しかしCBの引き受け手はさっさと転換にいそしみその会社がどうなっても関係ない・・・そのようなCBが既にあった。これは今のMSCBの原型とも言うべきもので、転換価格が毎日その日の終値の90%とかまで下方修正される、と言うものであった。
当時はこれは「レッサーCB(Lesser CB)」と呼ばれていた。
このスキームは当たり前だが引き受け手が、その当該会社が倒産しない限り儲かる。
当時大手証券ではこれらの引き受けをためらっていた。当然既存株主を莫大なダイリューションリスクに曝すわけであるので社会的にどうか?と言う議論がまずあったのと、当時はこの手のCB発行が「有利発行」か否か当局の判断も確定していなかった。
と言うことは当然これは株主代表訴訟の対象となってもおかしく無かった訳であり、実際さる起債会社の担当役員は「訴訟を起こすなら起こしてください。いずれにせよこういう形であれなんであれ、わが社に資金が入らなければ倒産は逃れられないのです」
と言っていた、なんて記事があった。

最近ではこのMSCBの名を世間に認知させたのがライブドアであろう。
ただし現在においてはこのMSCB、有利発行にはならない、と言う金融庁の見解が出ており、また各金融専門の弁護士もこれをOKと認めているので、堂々と出せるようになった。

ライブドアCB~毎週末に転換価格を変更、但し転換価格が上昇することもある。
フジテレビCB~毎月第3金曜日に転換価格を変更、これも上昇もあり。
となっている。
この手の頻繁に転換価格が変更される形態のCBに関しては実は「譲渡制限条項」と言うのが付いており(と言うか引き受け会社が付けていると思うが)、このCBは引き受け証券会社は他の投資家に転売や譲渡は出来ないようになっている。
つまりこの手のCBには「流通市場」と言うものが事実上存在しない。
ライブドアの場合はリーマンブラザースが、フジテレビの場合は大和SMBCが、それぞれ全額引き受けて全額保有する、転換可能期間内になるべく多く転換する、と言う行動があるのみで、個人投資家はおろか、世界的に有名なヘッジファンドすらこのCBをリーマンや大和から購入することが出来ない。
そしてこのような形態のCBをプロの世界ではMPO(Multiple Private Offering)と呼んでいる。
一般にはこれらをMSCB(何故ならMSCBと言う言葉にはどうも多少後ろめたい響きがある)と呼ぶのが普通であり、世間一般に出てくる普通のCB(たとえそれに下方修正が償還までに2回程度付いていでも)をMSCBと呼ぶのには、少なくとも上述したような決定的な差が両者にあるので、プロの世界では抵抗があるように感じる。
従って、通常2回程度の下方修正条項付きCBは、我々は「普通のCB」と言っている。
ちなみに英語だとMSCBは「Private CB」と言われており、通常のCBでロンドンで発行されるものは「Euro Yen CB」、スイスは「Alpine Yen CB」、そして日本国内のは「Domestic CB」、と呼んでいる。

<CBアーブ>
これは「CB Arbitrage」(CBアービトラージ)の事である。つまり「裁定取引」の事だ。
一般的な裁定取引とは、割高なものを売ると同時に割安なものを買い、その「さや」を取ることを言う。
例えば「NT倍率」、日経平均とTOPIXの絶対値の倍率が毎日どう変化するのかを詳細に追いかけて、ある日その倍率が通常から離れてきたときに、それがいずれ元に戻ると考えて、例えばそういう状況下、日経平均を売ってTOPIXを買う、みたいな取引を指す。

CBアーブの場合はちょっと違って、CBを買うと同時に原株を売る、と言うポジションを組む。
つまりCBのリスクを株を売ることによってヘッジすることを一般にCBアーブと呼んでいる。
転換価格1000円のCBを1億保有する場合、その潜在株数は、1億/1000=10万株になる。
1億のCBに対して10万株売ったとしたら、それは理論上は完全にニュートラルとなる。
これをデルタニュートラルヘッジと言う。
この『デルタ』をそれぞれの投資家がそれぞれのモデルで計算して、例えばこのCBに付いてはデルタは50%と言う値が計算された場合、CB1億に対して5万株を売る、と言うポジションを組む。
株が上がればCBも上がるので、その際はCBで利益、株の売りで損失、となるが、そういう局面ではいわゆるボラティリティーが大きくなってくるので株の売りを減らす。
株が下がればCBも下がるが、その際はCBで損失、株の売りで利益となり、さらに株が下がる場合は今度はCBの下方硬直性が働きCBは一定以上に下がらなくなり、そこでCBからの損失は限定されてくる、と言う仕組みになっている。
今回のCB発行と同時に貸し株が増えた、と言うのはこのために誰か投資家がさっさと株を借りた、と考えることが出来る。

<スプレッド方式によるCBの発行>
発行価格100に対して募集価格102.50と言うスタイルの発行形態をスプレッド方式発行と呼んでいる。
質問にあったが、この場合は起債会社は引き受け手数料を払わなくて良い。(厳密には今回の60億の発行で起債会社が受け取る金額は、5,940百万円となるが)
この差、2.5ポイントが引き受け手数料として、主幹事に入ってくる。
しかしながら仮に相場が悪く、このCBがちっとも売れない場合、主幹事は例えば100にて何とか投資家に販売、と言うようなケースがあれば、主幹事は引き受け手数料吐き出し、となる。

つまり、それまでは手数料は起債会社が主幹事に払っていたのだが、このスプレッド方式が一般化してきた昨今は、CBの買い手である投資家が手数料を間接的に払って居る形となる。

<ユーロ、アルパインCBの現況>
この会社のCBのローンチ日の気配は105-106程度、当日のパリティーは92前後だった。
極めて妥当な水準である。
一般的にCBについて来るプレミアムであるが、これはさまざまなファクターによる。
その銘柄の先高感やCBの流動性、相場の全体感、ボラティリティーの大きさ等々。
アルパイン円CBの場合は通常10~20%程度のプレミアムが付いていると考えられて良いと思う。今回の銘柄に関しては、まだ判断は出来ないが、出だしはマーケットの予想通り、と言った感じであると思う。


~~~~~~~~
とりあえずはこんな所であろうか。
CBとはあくまでも一種のデリバティブ商品(派生商品)に過ぎないことを改めてお考え頂きたい。
まずは原株ありき、なのである。
その債券的側面がゆえに、株式投資をしている方にはCB投資と言うのはその値動きを考えても、あまりおもしろくないとも言えよう。
但し世の中にはこの手のCBファンドが山のようにある。これは債券的側面をうまく利用しながら、つまり損失を極力回避しながら、パフォーマンスを上げて行こう、と言うのがその究極の目的であり、そういう安全志向の資金運用を考える人もたくさん居るのである。
普通に株式投資に魅力を感じるのであれば、CBまで投資対象を広げる必要は無いとは思うが、但しこのCBが当該会社のファイナンスである以上、それに対する知識武装は必要であると考える。
ちなみにCB購入対象者は詳しい資金使途説明があるのでは、と言うご意見も拝見したが、そんなのは存在しない。
それは現状の金融界に対する監督状況を考えた場合、まず不可能であろう。
あくまでも現在の金融行政は、個人投資家保護に何よりの重点を置いていることがその証左となると考える。

以上です。




日本電子(JEOL)のアルパイン円CBに関して

2005-07-07 03:09:20 | CB教室
またまた間が空いてしまってすまんすまん。どうもこの頃熱くなるような話題が無いのでつい書きそびれてしまう。
普段の私の様子は拙日記にて(笑)。
あるいはもしこれをお読みになっていらっしゃる方で疑問に思うことなどあれば遠慮なくコメント欄に書き込み頂ければ、私の出来る範囲でそれに関しての考察を述べさせて頂こうと思うので、よろしくお願いします。

さて、本日久々にスイス市場にて新発の転換社債がローンチしたのでそれについて書いてみる。
銘柄は『日本電子(コード6951)』、英名は『JEOL』。
これは三菱証券ロンドンの支店のチューリッヒ支店が形の上で主幹事になっているが、事実上すべてはロンドンにてハンドルされるはずだ。
このように他社幹事の起債があった場合、我々はどのようなことをチェックするのか等をざっくばらんに書く。
ちなみに自分の会社が主幹事の場合は、私の立場ではやはりその当日までこのニュースを知ることが出来ない。引き受け部隊と我々セカンダリー部隊(いわゆる普段の市場に向き合っている人間)の間には厳然とした壁、チャイニーズウォールと呼ばれるものが存在する。
普段マーケットに向き合っている人間が、ある会社のファイナンス情報を事前に知ってしまうとこれはインサイダー規制に抵触する。
転換社債の場合は当然そのダイリューション等の影響が株価に出るので、かなりまずいのである。
事前にそのニュースを知りえれば、例えば空売りを仕掛けられるし、そしてそんなことを本当にやっちゃったら間違いなく後ろに手が回る。

さて、本日のこの日本電子の条件等を見ていこう。

(発行総額)60億円

(満期)2009年7月24日のゼロクーポン

(社債の発行価格)額面金額の100%、額面金額100万円

(払い込み期日及び発行日)2005年7月25日(スイス時間)

(募集価額)額面金額の102.5%

(転換価格の下方修正)06年7月31日及び07年7月30日の2回で最大80%まで

(予約権の行使請求期間)05年8月8日~09年7月10日

(繰上償還)130%CALLオプション、08年7月25日~09年7月23日まで

~~~~~
上記が我々がまず目を通して頭に叩き込むべき情報である。この他に様々なことが書いてあるのだが、最低限まずはこれだけがマーケットに一斉に出回る。
満期からこのCBは4年債と言うことが分かる。
そして混乱しやすいのが、発行価格100%に対して募集価格は102.5%と言うところだが、これは、起債社であるJEOLが受け取る金額が100%x60億円で、102.5%とはこのCBのいわばスタート値段、つまり投資家に販売する時の基準となる値段がこれである、と言うことだ。
つまり簡単に考えればこの差の2・5%は三菱が受け取る手数料となる。
昔は100-100で、この場合は起債社はそこから約2.5を引いた97.5%x総額、を受け取っていた。

さて払い込み及び発行日が7月25日、つまり今日これを買っても明日買っても、その払込日は25日、と言うことである。
発行日と言うものの言い方にはあまり意味は無いと考えてよい。

さて下方修正条項が付いているが、あのライブドアやフジテレビと違って、こちらは4年満期中にチャンスは2回しかない。転換価格をその時点で下回っていれば下方修正されるが、その最大幅は当初転換価格から比べて8掛けまでにしか下がらない。つまり1回目ですでに80%まで修正されてしまったら、もう2回目の下方修正は無効になる。

130%CALL条項。
これは定められた期間中(この場合は08年7月25日~09年7月23日)に、このCBの理論価格(すなわちパリティー)が連続して30営業日130%を超えた場合、このCBを起債社はその後の通知期間を経て、100で償還できる、と言うものである。
つまりパリティーが130を超えてきたらどんどんホルダーは転換していかないと、この条項に引っかかってしまう恐れがある、と言うことだ。
ただし、実際これを発動する時には、ほとんどすべてが転換されてしまっているので(私も何度か経験したが)、この条項を満たしても事実上起債社が100で強制償還すると言う場面に出くわした事は無い。起債社としてもこれですべて転換してもらった方が話は早いのである。

さて本日スイス時間の朝、東京時間の引け後にこの起債がJEOL社内の取締役会で正式に承認されて、そして報道されて我々の耳に届く。
この条件を(特に在ヨーロッパの)投資家が知った時点で、各投資家はその内容やらを検討し、三菱に自分が買いたい金額を提示して申し込みに行く。
三菱側はその需要を積み上げて、日本時間の本日中(夜中の12時まで)にJEOLに投げかけ、そしてそこで大切な条件を決定する。
転換価格である。
本日のJEOLの東証終値は609円。ここにどれほどのプレミアムが乗っかって来るのか(アップ率とかコンバーション・プレミアム、とか呼ばれる。)?
これが決まらないとすべての計算が出来ないので、投資家はある程度の予測をしながら注文を出す。
投資家によっては、プレミアムが10%以内で決まるのならいくら、20%以内だったらいくら、と言う形で注文を出すこともある。

そして本日スイス時間午後、決定した。
転換価格は、655円、アップ率7.55%となった。
と言うことは、本日におけるこのCBの理論価格すなわちパリティーは、
609/655=92.97 と計算されることになる。

ちなみにこのJEOLの時価総額は大体483億円、この60億のCBに伴うダイリューションは、
約12.4%と計算され、これは極めて妥当な水準であると言える。
ちなみにこの会社、前回もスイスでCBを起債している。前回は70億円で、満期が今年の9月30日に来るが、実はこれはほとんど転換されて現在の残存は100万円しか無いようだ。
私が前の会社に居た時、このCBのマーケットメイクをやっており、この銘柄では結構稼がせていただいた記憶がある。

私はこの手の、自分の守備範囲のCBが出るとファイナンス系の掲示板を見に行く。
このJEOLも今日何回も見に行った。
この株に対する、書き込んでいる方々の知識は相当なものがあると思う。特にこの会社、製造しているものが、電子顕微鏡やX線解析・光電子分光装置等、かなり高等な技術を要しそうなものばかりで、この株に投資されてかつ掲示板に書き込まれている方々のそれらに対する知識は半端じゃない。下手なアナリストよりよっぽど詳しいと言ってもよい。
しかしながらいつも思うのは、この投資対象会社のファイナンスについての知識がもうひとつなのである。
その辺に関しては結構な数の憶測めいた書き込みが目立ち、かつそれらはどうも的を得ていない。
投資対象企業のファイナンスはダイレクトに株価に響いてくるものであるので、どうか皆さんも是非正確な知識を身に付けて頂きたい。