地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

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バリュークリックジャパンのMSCB

2005-05-27 06:09:57 | CB教室
ロンドン出張であったので更新が出来ずにすみません。
さてLUNAさんから頂いたコメントに私は正直驚いた。バリュークリックのMSCB発行の件である。
早速プレスレリースを印刷して読んでみた。

まずその前にこのMSCB、何度か申し上げているように見方が2通りある。
一つは誰もが思う、当該株に投資していた人が、遺憾なく発揮されるダイリューションによって被る被害である。これは私の元ボスAさんもある小さなファンドを試験的に運用しているのだが、彼を持ってしても
「小鬼君、やっぱりMSCBを出されちゃうととりあえず売るしか手は無いよ...」
たださはさりながら、このような形であれどもその企業がそれだけの資金を手にすることによってそれが上手く回って長い目で見ればその会社の価値を結局は上げる事に繋がる、と言うのが別の見方である。
今時のMSCBは、かつて倒産寸前の、「もうその調達によって株主代表訴訟を起こしたいなら起こしてください、どっちみちこういう手を使ってでも資金を調達できなければ当社は破産するんです」的な切羽詰った感じが無い。
また金融庁からも「No Action Letter」が出ていると書いたが、現在ではそれは違法でもなければ倒産寸前のアップアップ状態での調達でも無いと思う。

しかしながら、それだったら出したいところはガンガン出せるか。
確かに出せるが、普通の会社は当然の事ながら出したがらない。
ここの部分の条件の詰めが、いわゆる引き受けマンの腕の見せ所であって、通常の会社にこんな話を持って行っても門前払いを食らうのが落ちだ。
普通の会社は自社の株価にそれなりのプライドを持っているから、当然株価が上がってそして高いところでCBの転換が起こって、通常の株主へもそれによるダイリューションの影響がダイレクトに響かないような配慮すら働く。
転換価格の下方修正条項だって、中堅どころの会社で大体年に1回を2回まで、さらに修正下限は当初転換価格の70%なり80%、と言うのが現在の一般的なCBの発行条件である。
もっと大きな会社になれば、当初の転換プレミアム(当初転換価格を決める際に、その決定日の株価に上乗せする部分)をかなり大きく取る。それも30%とか40%とかね。
昨日野村ロンドン主幹事で森精機と言う一部上場メーカーが100億円のユーロ円CBの発行を決議したが、これだって当初の転換プレミアムは20%を超えている。かなり投資家にとっては厳しい条件であった。

CBを発行する際にはその条件を決めるべくバリュエーションモデルと言うのがあって、それにその株価やらクレジット(信用度)やらなにやらかにやらをぶち込んで、そのオプションバリューを計算して、この銘柄なら条件的にここまでいける、いやこれ以上は難しい、の判断がなされる。
そして満を持して発行されるわけである。

しかしながら今回のこのバリュークリックのこりゃなんだ??
東証マザースのさほど大きくない会社がしかも100億円の調達、毎月第3金曜日に転換価格が90%まで下がるMSCB・・(このスタイルはちなみにフジテレビと同じだ)。
もちろんこの会社が100億発行しようとしたら例えば森精機のような条件での発行はあり得ない。
それにしてもこの会社の時価総額は190億程度しかないのに100億の発行って事はダイリューションは50%以上にのぼる。
これだけ取っても既に異常だろう。
あのライブドアだって40%くらいだったのに。ちなみにまともな銘柄ではせいぜい20-30%、30%だと結構大きいかなぁ、って印象が普通だ。
ちなみにレリースでは希薄化情報として、
『直近の発行済み株式総数に対する潜在株式数の比率は36.78%になる見込みであります』
とある。
正確な計算根拠は分からないが、100億円を当初の5%のプレミアムが乗っかった転換価格5492円で割ってやると、182万株と言う数字が出てきて、この会社の発行済み株数は大体500万株程度であるから、約35%と言う数字が出てくるのでそれを用いたと思われるが、これは完全なるミスリード情報である。
今後転換価格がどんどん下がっていく可能性が大な訳で、そうなると100億円を割るときの分母がどんどん小さくなるので、結果として生まれてくる株数はどんどん増えていくこととなり、発行済み株数に対する割合がどんどん大きくなり、この35%と言う数字が間違いなく上昇していく。
そこまでは簡単な算数であるが、つまり、発行済み株式数対潜在株式数の割合でダイリューションを計算しても何の意味も無いのだ!。だってその数はMSCBの場合は常に変動してしまうんだもん。
CB発行に際してもっとも大事なダイリューションとは、あくまでも時価総額における、CBの発行総額を計算してやらないと他の物との比較検討が出来ない。
つまりこんな情報をレリースに載せるだけ無駄であり、ミスリード要因に、「MSCBの場合は」なる。

当初転換価格は5%のプレミアムを載せては居るものの、このCBの転換開始は6月9日から。ちなみにそれ以降最初に来る第3金曜日は6月17日。つまりこの5%プレミアムが生きるのはわずか6営業日しかないので要はこんなのは100%であろうが500%であろうが関係ない。
6月17日以降は転換価格はその週の株価平均の90%に修正され、7月の第3金曜までそれは有効になる。

資金使途も非常に不明瞭でぶっちゃけ投資家を馬鹿にしているとしか言えない。
単に30億の借入金返済、10億の運転資金の計40億の発行なら、まあ理由は後ろ向きではあるけれど納得できない事は無い。しかしながら大半が将来のMA資金と言うのは、これは駄目でしょう。
ヘッジファンドどうのこうの、という話を良く聞くと思うが、彼らもプロの投資家、あるCBを買うに際しては実はこの「資金使途はナンなのか?」と言う事を非常に気にする。世間の常識で考えてもこの使途ははっきり言って言語道断。

割当先が日興シティーとライブドア証券。
まあライブドア証券の場合は例の初の主幹事案件のエフェクター細胞ってので失敗し、恐らくそれなりのポジションを抱えて評価損も出ているのではないかと邪推されるが、ここで90%のMSCB50億が入ればかなり楽になろう。
ただ私がそれ以上に許せないのが、日興シティーだ。
時がライブドアの買収合戦等の時なら私もさんざん書いてきたように容認はできた。しかしながら何も無い状態でいきなり常識外れの発行を決議させ、しかも資金使途も不明瞭な、そんなCBを出させるのに一枚かんでいたのが日興シティーなんて、地に落ちたと言わざるを得ない。
日興シティーは今まで結構きらりと光るCBの発行をしてきていただけに本当に残念だね。
これによる収益対評判を考えれば、どう考えても私はそろばんがあわないと思う。

私は立場上、今後のこの株価に対するコメントは正々堂々とは出来ないが、上述した事で私のスタンスが分かっていただけると思う。
重ねる。
このイシューはいけない・・・。