ニュースサイト宮崎信行の国会傍聴記

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「憲政の崩壊を許さない」 押しボタン不正投票

2010年04月10日 19時38分11秒 | 第174常会(2010年1~6月)空転政治主導

 前半国会最終日の3月31日、大変残念な出来事がありました。民主党内閣提出の日切れ法案である「高校実質無償化法案」などの重要議案の採決で、自民党の参院議員だった若林正俊さんが自分の押しボタンの他に、議場を外していた隣席の議員の押しボタンを押しました。

 これは憲政を崩しかねない暴挙。次の本会議冒頭で若林さんの議員辞職願が了承されました。

 押しボタンシステムは参議院にしかありません。江田五月議長は4月5日のメルマガで「優れた方式だと自負している。まさかその参議院で、自席の他に隣席のボタンまで押す人がいるとは、想像を絶する事態だ。直ちに辞職か除名になるのは当然で、それが究極の再発防止策だ」と厳しくコメントしました。

 12年前、江田さんと同じ岡山の政治家が、この事態を懸念した言葉を発していました。橋本龍太郎首相です。

 1998年1月8日、参院本会議場で、押しボタンシステムのテストがあり、披露されました。歴史観で言うと、この日は新進党解党から2週間後ということになります。

 これについて、1月9日、首相官邸内で記者から、「きのう、参院で押しボタン式の採決システムが公開されたが、これをどう思うか」と問われた橋本首相は「僕は前から、あれいいなと思っていたし、非常に合理的なシステムだと思う。これを導入された参院の決断に敬意を表したい。その上で、システムの運用を間違わないだろうなと心配している」。

 ちなみにこの質問をした記者とは、当時23歳の私です。首相官邸を取材しながら、鹿野道彦さんと小沢一郎さんが闘った党首選のその後を心配していた新進党員(当時は記者なので、党籍離脱)だった私は、なんと新進党がなくなってしまい茫然自失。新進党が4分5裂どころか、8党派に分裂してしまった悔しさを、こうやって「デモクラシーの基本」に関する質問を首相(自民党総裁)にぶつけることで、気を紛らわしていたのだと思います。

 そういった背景を持った若い記者の質問をガッチリと受け止めて、前段のような答えを返してくれた橋本総理は、今思えば、大変すばらしいリーダーだったと思います。そして、その懸念を自民党の後輩議員がこうやって現実化させてしまったことが大変残念に思います。


   江田五月 メールマガジン 第954号   2010年4月5日
               http://www.eda-jp.com/

(1)<ショートコメント>・・・《憲政の崩壊を許さない》

押しボタン式投票は、参議院改革の一環として本会議の採決方法に導入された
もので、採決はほぼ全てこの方式で行われる。憲政に携わる議員の最重要行為
であって、議長も押し間違えの有無など確認しない。投票終了直後に結果が表
示され、さらにウェブサイト上でも議員ごとに明示される。情報公開や責任明
確化の点で起立採決では得られない利点が多く、優れた方式だと自負している。
まさかその参議院で、自席の他に隣席のボタンまで押す人がいるとは、想像を
絶する事態だ。直ちに辞職か除名になるのは当然で、それが究極の再発防止策
だ。



1998年1月10日付の産経新聞3面 

【橋本日誌】9日 大雪「思ったよりけが人が多い」
1998.01.10 東京朝刊 3頁 総合3面 (全1,207字)  
 【午前】9時13分、公邸から官邸に移り、執務室へ。「大雪で君らは官邸に出てこれないと期待してたのに、残念だなあ。予想していたよりけが人が多い。東京では普段降らないから、みんな雪の中の歩き方を知らないんじゃないのかな。まだ、救急車が動いているようだ」。29分、大客間へ。

 「きのう、参院で押しボタン式の採決システムが公開されたが、これをどう思うか」に「僕は前から、あれいいなと思っていたし、非常に合理的なシステムだと思う。これを導入された参院の決断に敬意を表したい。その上で、システムの運用を間違わないだろうなと心配している」。30分から49分、地球温暖化対策推進本部第一回会合。51分、執務室へ。52分から1分間、古川貞二郎官房副長官。54分から58分、三塚博蔵相。10時から11分、閣議。12分から16分、小渕恵三外相。17分から21分、古川官房副長官。

 22分から1分間、江利川毅、太田義武新旧首席内閣参事官が就、退任のあいさつ。24分から34分、林貞行駐英大使。36分、小食堂へ。日英首脳会談の勉強会。林貞行駐英大使、西村六善外務省欧亜局長らが同席。11時47分、官邸発。正午、東京・銀座の交詢ビル着。「交詢社」の賀詞交換会に出席。

 【午後】0時15分、交詢ビル発。26分、官邸着、小食堂へ。

 「ブレア英首相が午後来日するが、今回の首脳会談で最も念頭に置いているのはどの点か」に「これはもう完全に彼との関係をよりフランクにしようということだ。既にCOP3(地球温暖化防止京都会議)では『おいちょっと、ヨーロッパを何とかしてくれ』と頼めば動いてくれる関係ができているが、もっと深くなるようにしたい」。

 49分、執務室へ。1時から17分、田村元・元衆院議長。30分から43分、総理府の平野治生、石出宗秀新旧次長、安藤昌弘賞勲局長ら。44分から2時1分、環境庁の田中健次、大西孝夫新旧事務次官、岡田康彦企画調整局長。2分から29分、牛尾治朗経済同友会代表幹事。30分から3時20分、村岡兼造官房長官、自民党の保利耕輔国対委員長、川崎二郎、大島理森両国対副委員長。30分から4時24分、佐藤謙防衛庁防衛局長、外務省の加藤良三総合外交政策局長、高野紀元北米局長、竹内行夫条約局長ら。

 25分から34分、越智通雄自民党代議士。38分、官邸発。「十一日で政権二周年を迎えるが、振り返ってどうか」に「緊張の切れることのない毎日だな。その一言に尽きるな」。45分、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ着。ホテル内の理容室で散髪。5時52分、ホテルニューオータニ発。57分、公邸着。

 「福井謙一さんの件だが、あまり知られていなかった若い時に発見した理論で、後になってからノーベル賞を受賞され、有名になられて、僕などはひそかな誇りを覚えた。そういうことで前例はないかもしれないが、弔電を打たせていただいた。心からごめい福を祈る」