恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

思いがけないひと~その4~その6

2015-02-21 08:23:59 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

☆☆☆☆☆

 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


☆☆☆☆☆

思いがけないひと~その4


〈奈実〉
メールの着信音がした。


 届いたメールの発信者を見て驚いた。

 譲二さんにも話した以前の会社の後輩、伊藤くんからだった。

『先輩、お元気ですか?


ご無沙汰してます。

先輩が離婚され、会社も辞めてから随分立ちますね。

メアドが変わっているかもしれないと思いながらも、とりあえずメールを打ってます。

昨日、先輩の元旦那さんが俺を訪ねてきました。

先輩の住所や電話番号を聞かれました。

どうしても渡したいものがあるとかいうことでしたが、適当に誤魔化しておきましたよ。

確か先輩の離婚理由はDVだったですよね。

俺以外の人間にも聞き回ってる可能性があるので、気をつけてください。

                           伊藤』

 伊藤くんに電話してみる。


奈実「もしもし、伊藤くん?」

伊藤「あ、明石さん…いや、先輩は姓が変わってるんですかね?」

奈実「ううん。姓は明石のままだよ。今の仕事を始めたのは離婚前だったから、前の姓をそのまま使ってるの」

伊藤「そうですか…。じゃあなおさら特定されやすいですね…。
メールにも書きましたけど、ちょっとヤバいかんじがするんです。
あの旦那さん、俺と話す時笑ってましたけど、目は笑ってないというか…。
場合によったら警察に相談した方がいいかもしれません」

奈実「でも、まだ何も実害がないから、相手にしてもらえないんじゃないかな…」

伊藤「だったら…友人の家かなんかにしばらく泊めてもらった方がいいかもしれないですよ」

奈実「そんなに…」

伊藤「俺の杞憂だったらいいですけど…」

奈実「わかった。泊めてもらう当てはあるにはあるから、伊藤くんのアドバイスに従うことにするよ」

伊藤「そうしてください」

奈実「ありがとう」


 この間、和成さんに偶然出会ったことを思い出す。

少し、寒気がした。


その5へつづく


☆☆☆☆☆

思いがけないひと~その5


〈奈実〉
元の仕事の後輩の伊藤くんから元夫が訪ねてきたと教えられた。

伊藤くんはしばらく友達の家に身を寄せたほうがよいとアドバイスしてくれた。

 直ぐに譲二さんに電話をかける。

奈実「譲二さん」

譲二「奈実、どうしたの?こんな時間に?」

奈実「あの…、この間話した後輩からメールが来て」

譲二「一緒にプロジェクトを担当したという人?」

奈実「うん。それで、あの…和成さんが伊藤くん、あ、後輩は伊藤くんというんだけど、その伊藤くんを訪ねて私の住所や電話番号を聞いたらしいの」

譲二「それで、その人は教えたの?」

奈実「ううん。うまく誤魔化してくれたらしいんだけど、伊藤くんが言うにはヤバい感じがするからしばらく家から離れて誰かの家に泊めてもらった方がいいって…。多分伊藤くん以外の人にも聞いて回っているだろうからって…」

譲二「そうか…」


 譲二さんはしばらく考え込んだ。


譲二「それじゃあ、うちにくればいい」

奈実「いいの?」

譲二「無理に俺の部屋じゃなくても、例の百花ちゃんの部屋も空いているし、そこを仕事場にすればいい」

奈実「ありがとう」

譲二「じゃあ、今から迎えに行くから、俺が着くまでに最低限の荷物を纏めといてくれる?」

奈実「今から? 明日の朝でも自分で行くよ?」

譲二「俺が心配だから…。こんな時くらい頼ってよ」

奈実「ごめんなさい」

譲二「謝ることなんかないよ…。家に着いたら、まず携帯を鳴らすから…。インターホンが鳴っても開けちゃダメだよ」

奈実「わかった」


 スーツケースにとりあえずの着替えを纏め、パソコンもカバンに入れた。

 そうこうするうち、譲二さんから携帯に連絡が入った。


譲二「今、奈実の部屋のドアの前にいるよ」


 私は直ぐに玄関を開けた。

 譲二さんがそこに立っていた。

 譲二さんは玄関に入ると後ろ手にドアを閉め、私を抱きしめる。


奈実「会いたかった…」

譲二「ごめんね。ちょっと遅くなって」

奈実「ううん。わざわざ来てもらってありがとう」


 譲二さんは屈み込み、私は精一杯つま先立ちしてキスをした。

 

 

 

その6へつづく

 

☆☆☆☆☆

思いがけないひと~その6


〈奈実〉

 私は改めて伊藤くんのメールを見せ、彼が電話で語ったことも話した。


譲二「俺もその伊藤っていう人の言うことに賛成だな。うちに来てしばらく様子を見た方がいい」


 譲二さんは私にジーンズを持っているか尋ねた。

 私が持っていると答えると

譲二「このパーカーとそのジーンズに着替えて」

と言った。


 よくわからないまま、言う通りにすると、譲二さんは私の頭に野球帽をかぶせる。


譲二「これで、よし」

奈実「これは?」

譲二「パーカーと野球帽は前にうちに来たお客さんが忘れて行った物なんだ。
小学生の男の子のものだから奈実なら入るかなって思って持って来た」


 姿見を見ると確かに少年のようにみえなくもない。


奈実「ここまでする必要があるかな?」

譲二「分からないけど、用心はしておいた方がいいからね。奈実は男性には化けられないけど、男の子には化けられそうだから…」


 私のことを心配してそこまで考えてくれたのが、嬉しかった。

 でも、素直にそうは言えず…。


奈実「絶対、楽しんでいるでしょ?」

譲二「分かった?」

奈実「もう」


 譲二さんは真面目な顔になった。


譲二「さ、そろそろ出かけよう」
 

 スーツケースは譲二さんが持ってくれて、私はスポーツバッグ(これも忘れ物らしい)に入れた荷物を持った。


 遠目にみれば、お父さんと男の子に見えるだろう。


譲二「これでバットとグローブを持ってたら完璧なんだけどな…」

奈実「それは忘れ物になかったの?」

譲二「ああ」

☆☆☆☆☆

 私たちは用心して、吉祥寺とは反対方向に向かう電車に乗った。

 幾つかの線を乗り継いで、念のため二駅手前で降りてタクシーを拾った。


奈実「絶対、楽しんでるよね?」

譲二「こんな探偵みたいなことをする機会なんて滅多にないからね」


 譲二さんは私の顔を覗き込んで微笑んだ。

 
奈実「ありがとう…。私のために」

譲二「当たり前だろ」


 譲二さんの大きな手が野球帽の上からポンポンと叩く。


☆☆☆☆☆


タクシーをクロフネから少し離れたところに停める。

辺りを伺いながら、裏口からはいった。


譲二「これでもう大丈夫」


譲二さんはため息をつくと、私を抱きしめた。


譲二「奈実…無事でよかった…」

奈実「譲二さん、ありがとう」

譲二「さあ、二階へ上がろう。荷物はとりあえずもう一つの部屋に置くよ」

奈実「私は譲二さんの部屋に置いてもらってもいい?」


 譲二さんはニヤッと笑った。


譲二「そんなの当然だろ?」



 その夜、ベッドの中で譲二さんは私をしっかり抱きしめた。


譲二「奈実に電話をもらって迎えに行くまで、生きた心地がしなかった。
もし、俺より先に元旦那が奈実の所へ現れたらって…」

奈実「だって、まだ住所だって突き止められたかどうかは分からないのに」

譲二「うん。でも、心配症かもしれないけど、俺にとって奈実は一番大切な人だから。絶対失いたくない」

奈実「嬉しい…」



『思いがけないひと』終わり。次は『ふたり暮らし』です。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。