小日向白朗学会 HP準備室BLOG

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行政協定からみた1955年の保守合同 ―自民党結党とは行政協定を順守して秘密を守ることー

2023-01-10 | 小日向白朗学会 情報
 昭和30(1955)年11月15日、日本の保守政党であった自由党と日本民主党が合同し、自由民主党を結成した。この裏には、アメリカCIAが緒方竹虎(コードネーム:POCAPON)を通して保守合同を働きかけていたことが吉田則昭著『緒方竹虎とCIA』(平凡社, 2012.5)で明らかになっている。
その直接の原因は、社会党左右両派が昭和30(1955)年10月13日に社会党(鈴木茂三郎委員長、浅沼稲次郎書記長)を再統一したことであった。
 昭和26(1951)年当時の社会党は、サンフランシスコ講和条約を巡って、講和条約賛成派の社会党右派と講和条約反対派の社会党左派に分裂していた。その後、保守政権による再軍備や改憲に対抗するために反対運動を推進した社会党左派が選挙毎に議席をのばしていたが、社会党右派は党内の対立があって明確な主張を出せなかったため選挙で議席が伸び悩んでいた。ところが昭和30年に社会党が再統一を成し遂げたことで、いよいよ、社会党を中心とする野党が政権を奪取する可能性が生まれた。社会党が政権を取った場合を日米安保条約の観点から見ると、日米安全保障は期限が到来するまで継続するものの、国内法である行政協定は政権移譲とほぼ同時に破棄、若しくは段階的解消して日本の国権を取り戻す政策に転じることは明白であった。係る事態を避けるためアメリカが採用した方法は、日本の国内政治に干渉し、分裂している保守二党を合同させてアメリカの制御が可能な政権与党を早急に準備することであった。つまり内政干渉である。そこまでアメリカが深く介入する必要があったのは、日米安保条約で獲得した自衛隊の指揮権を最大限に利用し自衛隊の戦力増強を図ったのは、第二次朝鮮戦争となった場合に朝鮮半島に出兵させることが不可能となるからであった。加えてアメリカ軍の指揮下で自衛隊を海外に派兵するにあたり最大の問題点は、アメリカの占領施政下で制定した日本国憲法が、皮肉にもアメリカの極東戦略とは相いれないばかりか阻害要因となっていた。この点も保守を合同してできる政党は、行政協定を継続的に容認し順守することは当たり前で、さらに憲法を改正して海外派兵を可能にする政策を実施することであった。これらのアメリカの要望に沿って出来上がった政党の党是は改憲と海外派兵なのだ。そもそも憲法違反の政党が自由民主党なのだ。
 ところでアメリカが対日政治工作を開始しなければならなかったのは、あまりに露骨に国家主権を奪い取り、秘密にしていたことが当時の野党だけではなく与党からも厳しく追及されるようになっていたからである。その好例が「第19回国会 衆議院 外務委員会 第25号 昭和29年3月25日」(別紙資料1)である。当日、外務委員会で政府を追及している並木芳雄は日本民主党議員であった。また、答弁に立つ外務大臣岡崎勝男は同年3月8日に日米相互防衛援助協定(MSA協定)を締結したばかりであった。そして国務大臣緒方竹虎は前述のCIAのエージェントであった。
『……
127並木芳雄
○並木委員 ……駐留軍と日本の自衛隊との共同動作について、現在の安保条約及び行政協定には、緊急の場合と称して行政協定二十四条があるだけ……緊急の事態に処する場合にどちらが指揮権を持つか……。
128 緒方竹虎
○緒方国務大臣 共同作戦の協議には入つて行くべきで……今すぐ安保条約の改正をする必要はない……。
129 並木芳雄
○並木委員 指揮権をどちらに置くかということについて……当然日本側が持つべきでありますが、この点はまだ政府として考慮中だ……共同動作をする場合の指揮権、決定権でありますが、これは両方協議議するときなかなかきまらない場合があると思います。
130 緒方竹虎
○緒方国務大臣 はなはだ抽象的のことを申し上げますけれども、やはり両方で協議してきめる以外にないと思います。それは規模の大小がありますが、第二次大戦以来、そういう連合軍の慣行が自由諸国の間にもできておりますから、そういう形をとるであろう……。
131 並木芳雄
○並木委員 自衛隊法の中に日米共同動作に関する協議事項というものはない……。
132 岡崎勝男
○岡崎国務大臣 ……行政協定二十四条による協議をすれば足りると考えております。
……』
この時の政権は、自由党吉田茂が第5次吉田内閣を組織し第51代内閣総理大臣に就任していた。前年度行われた衆議院選挙で自由党は少数与党となったことから改進党との閣外協力で漸く政権を維持しているという状態で、政権の寿命が長くないことはだれの目にも明らかであった。このような政治状況下で着実に議席数を伸ばす社会党が、さらに再結集することになった。アメリカとしては、早期に保守を合同して日米安保条約及び行政協定を順守する政党を設立することが喫緊の課題となった。
その後は、昭和30(1955)年に保守合同ができると、同年11月22日に鳩山一郎が第54代内閣総理大臣に就任した。総理に就任した鳩山が最初に取り組んだには衆議院議員総選挙において憲法改正に有利な小選挙区制を導入することであった。「鳩山が「ゲリマンダー」」(ハトマンダー)を実施してまで憲法改正を急いだ背景には、保守合同を企画したアメリカの意向が強く働いていたと見ることができる。アメリカが日本国憲法を改正することを急いだ理由であるが、保守合同を行った同年11月に目をアジア全体に向けると南ベトナムに南ベトナム米軍事援助顧問団を設置し南ベトナム政府軍の軍事教練を開始した時期と符合する。その後、ベトナム戦争は激化し、韓国、オーストラリア、タイ、フィリピン、ラオス、台湾が参戦している。日本がベトナム戦争に参戦しなかったのは、アメリカも改定に手を焼く日本国憲法があったからなのだ。

此の寄稿文の終わりに、昭和35(1960)年10月12日に刺殺された浅沼稲次郎の演説に付いて述べておく。(添付資料2)。
浅沼稲次郎は、演説の中で日本は治外法権となっていて完全な独立国家ではないことを力説している。浅沼は、日米安保条約の核心的な秘密を熟知していた。この浅沼の演説は60年を経た現代でもそのまま通用するのだ。そして浅沼が刺殺される直前の演説は「選挙の際は、国民に評判の悪い政策は、全部伏せておいて、選挙で多数を占むると……」とある。その続きは「……どんな無茶なことでも国会の多数ものをいわせて押し通すというのでは、いったい何のために選挙をやり、何のために国会があるのか、わかりません。これでは多数派の政党がみずから議会政治の墓穴を掘ることになります。……」であった。
浅沼は、自民党政権がアメリカに日本を売り飛ばすことに強い憤りを感じていた。そのため社会党が選挙で勝利し政権を取ったならば、日米安保は条約であることからしばらくはそのままにするものの、行政協定は国内法であることから破棄もしくは時間を設けて段階的に廃止してゆくことを構想していたものと考えられる。

 自由民主党は「結党以来、ずっと売国、今も売国」と云う「亡国の政党だ」と云わざるをえない。    (寄稿:近藤雄三)
P.S.
白朗学会所蔵資料の中に小日向白朗が浅沼委員長刺殺事件には大きく関与していたことを示す資料(音声データ)の存在することが最近の調査で判明した。白朗は、当日、右翼団体が浅沼稲次郎の命を狙っていることを知ると、急遽、日比谷公会堂に駆けつけたが、時遅く、浅沼稲次郎は刺殺されてしまっていた。白朗が浅沼稲次郎を救出しようとした理由であるが、浅沼が昭和34(1959)年に日本社会党訪中使節団として訪中し周恩来と会見していることから、白朗が訪中団の調整をしていたと考えられる。さもなければ周恩来との面会は難しい。その関係から、白朗は浅沼の命を狙う一団がいることを掴んだものと考えられる。
(別紙資料1)
第19回国会 衆議院 外務委員会 第25号 昭和29年3月25日
127 並木芳雄
○並木委員 先ほどの答弁ですと、大体地上部隊は別として、アメリカ軍と日本の自衛隊、これは空軍、海軍なども含めて二本建で行く期間が相当続くのではないかと思います。その場合に、駐留軍と日本の自衛隊との共同動作について、現在の安保条約及び行政協定には、緊急の場合と称して行政協定二十四条があるだけでございます。私は今後非常に大きな問題を惹起すると思います。今までは保安隊で微力であり、共同動作を起すようなことがございませんでしたから、表面の問題にはなつて参りませんでしたけれども、これからは一本立ちをするわけでありますから、この共同動作について今後どういうふうに協定をされて行くつもりでありますか。また国内の法規をどういうふうに直して行くつもりでありますか。アメリカとの関係におきましては、安保条約または行政協定をこの点において改正する必要があるのではないかと思います。緊急の事態に処する場合にどちらが指揮権を持つかという点についてです。
128 緒方竹虎
○緒方国務大臣 共同作戦の協議には入つて行くべきであると考えますが、今すぐ安保条約の改正をする必要はないと考えております。
129 並木芳雄
○並木委員 指揮権をどちらに置くかということについて何か構想はございませんか。これは当然日本側が持つべきでありますが、この点はまだ政府として考慮中だというのが今までの答弁であります。共同動作をする場合の指揮権、決定権でありますが、これは両方協議議するときなかなかきまらない場合があると思います。
130 緒方竹虎
○緒方国務大臣 はなはだ抽象的のことを申し上げますけれども、やはり両方で協議してきめる以外にないと思います。それは規模の大小がありますが、第二次大戦以来、そういう連合軍の慣行が自由諸国の間にもできておりますから、そういう形をとるであろうと考えております。
131 並木芳雄
○並木委員 自衛隊法の中に日米共同動作に関する協議事項というものはないように私は読んでおります。ざつと読んだだけですからわかりませんけれども、あればけつこうですが、これも自衛隊法の中にうたつて行くべきじやないかと思いますが、いかがでしようか。
132 岡崎勝男
○岡崎国務大臣 ただいまのところでは、自衛隊法の中にはその必要はないと思います。これは、かりに何か事がある場合には、必ずしも自衛隊ばかりとは限りません。警察隊を必要とする場合もあり、あるいは消防隊を必要とする場合もあり、その必要の限度等は行政協定二十四条による協議をすれば足りると考えております。

(別紙資料2)
『浅沼稲次郎最後の演説(全文)』
一九六〇(昭和三十五)年十月十二日 日比谷公会堂・三党首立会演説会

 諸君、臨時国会もいよいよ十七日召集ということになりました。今回開かれる国会は、安保条約改定の国民的な処置をつけるための解散国会であろうと思うのであります。この解散、総選挙を前にいたしまして、NHK、選挙管理委員会、さらには公明選挙連盟が主催をいたしまして自民、社会、民社の代表を集めて、その総選挙に臨む態度を表明する機会を与えられましたことを、まことにけっこうなことだと考え、感謝をするものであります。以下、社会党の考えを申し上げてみたいと思うのであります。
 諸君、政治というものは、国家社会の曲がったものをまっすぐにし、不正なものを正しくし、不自然なものを自然の姿にもどすのが、その要諦であると私は思うのであります。しかし現在のわが国には、曲がったもの、不正なもの、不自然なものがたくさんあります。そこで私は、そのなかの重大な問題をあげ、政府の政策を批判しつつ社会党の立場を明らかにしてまいります。
 第一は、池田内閣が所得倍増をとなえる足元から物価はどしどし上がっておるという状態であります。月給は二倍になっても、物価は三倍になったら、実際の生活程度は下がることはだれでもわかることであります。池田内閣は、その経済政策を、日本経済の成長率を九%とみて所得倍増をとなえておるのであります。これには多くの問題を内包しております。終戦後、勤労大衆の苦労によってやっと鉱工業生産は戦前の三倍になりましたが、大衆の生活はどうなったか、社会不安は解消されたか、貧富の差は、いわゆる経済の二重構造はどうなったか、ほとんど解決されておりません。自民党の河野一郎君も、表面の繁栄のかげに深刻なる社会不安があると申しております。かりに池田内閣で、十年後に日本の経済は二倍になっても、社会不安、生活の不安、これらは解消されないと思うのであります。たとえば来年は貿易の自由化が本格化して七〇%は完成しようとしております。そのために、北海道では大豆の値段が暴落し、また中小下請工場は単価の引き下げに悩んでおります。通産省の官僚が発表したところによっても、貿易の自由化が行なわれれば、鉱工業の生産に従事する従業員は百三十七万人失業者が出るであろうといわれておるのであります。まったく所得倍増どころの話ではありません。現在、日本国民は、所得倍増の前に物価倍増が来そうだと、その不安は高まっております。その上、池田総理は、農村を合理化するために六割の小農を離村せしむる、つまり小農切り捨てをいっております。このうえに農村から六百万有余の失業者が出たら、いったいどうなるのでありましょうか。来年のことをいうとオニが笑うといっておりますが、これではオニも笑えないだろうと思うのであります。
 物価をきめるにしても、金融や財政投融資、これらのものの問題につきましては、とうぜん勤労大衆の代表者が参加し、計画的経済のもと、農業、中小企業の経営の向上、共同化、近代化を大にして経済政策の確立が必要であります。政府の発表でも、今年度の自然増収は二千百億円、来年度は二千五百億であると発表しております。この自然増収というものは、簡単にいえば税金の取り過ぎのものであります。国民大衆が汗水を流して働いたあげくかせいだ金が余分に税金として吸い上げられているわけであります。池田総理は、この大切な国民の血税の取り過ぎを、まったく自分の手柄のように考えて、一晩で減税案はできると自慢をしておりますが、自然増収はなにも政府の手柄でなく、国民大衆の勤労のたまものであります。(拍手)したがって国民にかえすのがとうぜんであります。さらに四年後には再軍備増強計画は倍加されて三千億になるといわれております。
 わが社会党は、これを中止して、こうした財政を国民大衆の平和な暮らしのために使え、本然の社会保障、減税に使えと主張するものであります。(拍手)
 池田総理は、投資によって生産がふえ、生産がふえれば所得がふえ、所得がふえれば貯蓄がふえ、貯蓄がふえればまた投資がふえる、こういっておるのでありますが、池田総理のいうように、資本主義の経済が循環論法で動いていたら、不景気も、恐慌も、首切りも、賃下げもなくなることになります。しかしながら――しかしながら、どうでしょうか。戦後十五年間、この間三回にわたる不景気がきておるのであります。なぜ、そういうことになるかといえば、生産が伸びた割に国民大衆の収入が増加しておらない、ところで、物が売れなくなった結果であります。したがってほんとうに経済を伸ばすためには、国民大衆の収入をふやすための社会保障、減税などの政策が積極的に取り入れられなければならぬと思うのであります。
 ところで最近では、政府の社会保障と減税とは、最初のかけ声にくらべて小さくなる一方、他方大資本家をもうけさせる公共投資ばかりがふくらんでおるのであります。こんな政策がつづいてまいりましたならば、不景気はやってこないとだれが保障できるでありましょうか。池田総理は、財源はつくりだすものであるといっておりますが、財源は税金の自然増収であります。日本社会党は、社会保障、減税の財源として自然増収によるばかりでなく、ほんとうの財源を考えておるのであります。
 その一つは、大企業のみ税金の特別措置をとっておる、措置法を改正して、大企業からもっとより多く税金をとるべきであると、私どもは主張するのであります。(拍手)
 ここで一言触れておきたいと思いますることは、来年四月一日より実施されんとする国民年金法の問題であります。本年政府は準備しておりまして、二十歳以上から百円、三十五歳になったならば百五十円と五十九歳まで一ぱい積んで、六十五歳から一カ月三千五百円の年金を支給しようというのであります。二十歳から百円、三十五歳から百五十円と五十九歳までかけると五分五厘の複利計算で二十六万有余円になるのであります。それを六十五歳からは三千五百円支給してもらうということは、自分で積み立てた金を自分でもらうということになって、これは私は、社会保障というよりかも、一種の社会保険、保険制度であろうと思うのであります。しかも死亡すれば終りという多くの問題を含んでおります。社会党としては、その掛金は収入によって考えて、さらに国民年金の運営については、その費用は国家が負担し、積立金も勤労国民大衆のために使う、この福祉に使うということを主張しておるのであります。したがいまして、この実施を一年ないし二年延期をいたしまして、りっぱな内容あるものにして実施をすべきであると強く主張しておるものであります。
 第二は、日米安全保障条約の問題であります。いよいよ解散、総選挙でありますが、日米安全保障条約に関して、主権者たる国民がその意思表示をなすということになっておるのであります。いわば今度の選挙の意義は、まことに重大なものがあろうと思うのであります。アメリカ軍は占領中をふくめて、ことしまで十五年日本に駐留をいたしましたが、条約の改正によってさらに十年駐とんせんとしておるのであります。外国の軍隊が二十五年の長きにわたって駐留するということは、日本の国はじまっていらいの不自然なできごとであります。インドのネールは「われわれは外国の基地を好まない。外国の基地が国内にあることは、その心臓部に外国の勢力が入り込んでいるようなことを示すものであって、常にそれは戦争のにおいをただよわす」こういっておるのでありますが、私どももまったく、これと同じ感じに打たれるのであります。(拍手)
 日米安全保障条約は昭和二十六年、対日平和条約が締結された日に調印されたものであります。じらい日本は、アメリカにたいして軍事基地の提供をなし、アメリカは日本に軍隊を駐とんせしめるということになったのであります。日本は戦争がすんでから偉大なる変革をとげたのであります。憲法前文にもありますとおり、政府の行為によって日本に再び戦争のおこらないようにという大変革をとげました。第一は主権在民の大原則であります。第二には言論、集会、結社の自由、労働者の団結権、団体交渉権、ストライキ権が憲法で保障されることになったのであります。第三は、憲法第九条で「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」これがためには陸海空軍一切の戦力は保有しない、国の交戦権は行使しないと決定をしたのであります。この決定によって、日本は再軍備はできない、他国にたいして軍事基地の提供、軍事同盟は結ばないことになったはずであります。しかるに日米安全保障条約の締結によって大きな問題を残しておるのであります。日本がアメリカに提供した軍事基地、それはアメリカの飛び地のようなものであります。その基地の中には日本の裁判権は及ばない、その基地の中でどんな犯罪が行なわれましても、日本の裁判権は及ばないのであります。(拍手)
 また日本の内地において犯罪を犯した人が基地の中へ飛び込んでしまったら、どうすることもできない。まさに治外法権の場所であるといわなければならぬと私は思うのであります。(拍手)
 このような姿は完全なる日本の姿ではありません。これが、はじめ締結された当時においては七百三十カ所、四国大のものがあったのであります。いまでも二百六十カ所、水面を使っておりまする場所が、九十カ所ある。これは日本完全独立の姿ではないと私は思うのであります。(拍手)
 さらにここには、アメリカに軍事的に日本が従属をしておる姿が現われておるといっても、断じて過言ではないと私は思うのであります。(拍手)
 そればかりではない。この基地を拡大するために、日本人同士が血を流し合う、たとえば立川飛行場は、現在アメリカの基地になっておる、このアメリカの基地を拡大するために、砂川の農民の土地を取り上げようとする、砂川の農民は反抗する、そうすると調達庁の役人は警察官をよんでまいりまして、これを弾圧する。農民の背後には日本の完全独立を求める国民があって支援する。そうやって、おたがいにいがみ合って血を流し、日本の独立はアメリカの飛び地を拡大するために、日本人同士が血を流さなければならぬという矛盾を持っておる独立であるといっても、断じて過言ではないと私は思うのであります。(拍手)
 したがいまして日本が完全独立国家になるためには、アメリカ軍隊には帰ってもらう、アメリカの基地を返してもらう、そうして積極的中立政策を行なうことが日本外交の基本でなければならぬと思うのであります。ところが岸内閣の手によって条約の改定が行なわれ、この春の通常国会で自民党の単独審議、一党独裁によって批准書の交換が行なわれたのであります。これによって日本とアメリカとの関係は、相互防衛条約を結ぶことになった。そうして戦争への危険性が増大をしてまいったのであります。
 さらに加えて、日本はアメリカにたいして防衛力の拡大強化をなすという義務をおうようになりまして、生活的には増税となって圧迫をうけ、おたがいの言論、集会、結社の自由もそくばくをうけるという結果を招来しておるのであります。(拍手)
 さらにわれわれが心配をいたしまするのは、防衛力の増大によって憲法改正、再軍備、徴兵制度が来はしないかということを心より心配するものであります。しかも防衛力の拡充については、日米間において協議をするということになっておりますから、一歩誤まれば、ここらから私はアメリカの内政干渉がきはしないかという心配をもつものであります。いずれにいたしましても、われわれは、このさいアメリカとの軍事関係は切るべきであろうと思う。同時に中ソ両国の間にある対日軍事関係も切るべく要求すべきであろうと思うのであります。そうして日本とアメリカとソビエトと中国、この四カ国、いわば両陣営を貫いた四カ国が中心になって、新しい安全保障体制をつくることが日本外交の基本でなければならぬと、私は主張するものであります。(拍手)
 諸君、もう一つの根源をなすものは、おたがいの独立は尊重する、領土は尊重する、内政の干渉をやらない、侵略はしない、互恵平等の立場にたって、そうして新しい安全保障体制というのがとうぜんでなければならぬと私は思うのであります。ある意味あいにおきまして、私どもはこんどの選挙をつうじまして、この安保条約の危険性を国民に訴えまして、議会においてはああいう状態になっておるけれども、日本の主権者たる国民が安保条約に対して正しき立場を投票に表わすのが、主権者の任務なりと訴えてまいりたいと考えております。
 第三の問題は、日本と中国の関係であります。日本は第二次世界大戦が終わるまで、最近五十年の間に五回ほど戦争をやっております。そのところがどうであったかと申しまするならば、主として中国並びに朝鮮において行なわれておるのであります。満州事変いらい日本が中国に与えた損害は、人命では一千万人、財貨では五百億ドルといわれております。これほど迷惑をかけた中国との関係には、まだ形式的には戦争の状態のままであります。これは修正をされていかなければならぬと思うのであります。現在、日本と台湾とを結んで日華平和条約がありまするが、これで一億人になんなんとする中国のかなたとの関係が正常化されたと考えることは、非常に私は無理もはなはだしいといわなければならぬと思うのであります。中国は一つ、台湾は中国の一部であると私どもは考えなければならぬのであります。(拍手)
 したがって日本は一日も早く中国との間に国交を正常化することが日本外交の重大なる問題であると思うのであります。しかるに池田内閣は、台湾政府との条約にしがみついて、国連においては、中国の代表権問題にかんして、アメリカに追従する反対投票を行なっているのであります。まさに遺憾しごくなことであるといわなければなりません。われわれはいま国連の内部の状況をみるときに、私どもと同じように中立地域傾向が高まっておるということを見のがしてはならぬと私は思うのであります。(拍手)
 もしアジア、アフリカに中立主義を無視して、日本がアメリカ追従の外交をやっていけば、アジアの孤児になるであろうということを明言してもさしつかえないと思うのであります。(拍手)
 諸君、さいきん中国側においては、政府の間で貿易協定を結んでもいいといっておるのであります。池田総理は、共産圏との貿易はだまされるといっておるのでありまするが、一国の総理大臣からこういうようなことをきけば、いかがであろうかと思うのであります。池田総理は口を開けば、共産圏から畏敬される国になりたいといっている。これでは畏敬どころではない。軽蔑される結果になりはしないかと思うのでありまして、はなはだ残念しごくといわなければならないと思うのであります。自民党のなかにも、石橋湛山氏、松村謙三氏のように常識をもち、よい見通しをもった方々がおるのであります。(拍手)
 かつて鳩山内閣のもとにおいて日ソ国交が正常化するについて、保守陣営には多くの反対がありました。社会党は積極的に支持したのであります。われわれは保守陣営のなかでも、中国との関係を正常化することを希望して行動する人がありますならば、党派をこえて、その人を応援するにやぶさかでないということを申し上げておきたいと思うのであります。(拍手)
 第四は、議会政治のあり方であります。さいきん数年間、国会の審議は、ときに混乱し、ときには警官を議場に導入して、やっと案の通過をはかるというようなことさえ起こりました。いったい、こんな凶暴な事態が、こんな異常な事態がなぜ起こるかということを、われわれは考えてみなければならぬと思うのであります。国会の審議をみましても、社会党は政府ならびに自民党の提出します法案のうち、約八割はこれに賛成をしておるのであります。わが党が反対しておる法案は、警察官の職務執行法とかあるいは新安保条約とか、わが国の平和と民主主義に重大な影響を与えるものに対して、この大部分に対して私どもは反対しておるのであります。政府が憲法をこえた立法をせんとするものが大部分であります。日本社会党がこれらのものに本気になって反対しなかったら、わが国の再軍備はもっと進み、憲法改正、再軍備、お互いの生活と権利はじゅうりんされるような結果になってきておったといっても断じて私はいいすぎではないと思うのであります。
  諸君、議会政治で重大なことは警職法、新安保条約の重大な案件が選挙のさいには国民の信を問わない、そのときには何も主張しないで、一たび選挙で多数をとったら、政権についたら、選挙のとき公約しないことを平気で多数の力で押しつけようというところに、大きな課題があるといわなければならぬと思うのであります。(拍手。場内騒然)
〈司会〉会場が大へんそうぞうしゅうございまして、お話がききたい方の耳に届かないと思います。だいたいこの会場の最前列には、新聞社の関係の方が取材においでになっているわけですけれども、これは取材の余地がないほどそうぞうしゅうございますので、このさい静粛にお話をうかがいまして、このあと進めたいと思います。(拍手)それではお待たせいたしました、どうぞ――
(浅沼委員長ふたたび)選挙のさいは国民に評判の悪いものは全部捨てておいて、選挙で多数を占むると――
(このとき暴漢がかけ上がり、浅沼委員長を刺す。場内騒然)
 〈以下は浅沼委員長がつづけて語るべくして語らなかった、この演説の最終部分にあたるものの原案である〉
――どんな無茶なことでも国会の多数にものをいわせて押し通すというのでは、いったい何のために選挙をやり、何のために国会があるのか、わかりません。これでは多数派の政党がみずから議会政治の墓穴を掘ることになります。
 たとえば新安保条約にいたしましても、日米両国交渉の結果、調印前に衆議院を解散、主権者たる国民に聞くべきであったと思います。しかし、それをやらなかった。五月十九日、二十日に国会内に警官が導入され、安保条約改定案が自民党の単独審議、単独強行採決がなされた。これにたいして国民は起って、解散総選挙によって主権者の判断をまつべきだととなえ、あの強行採決をそのまま確定してしまっては、憲法の大原則たる議会主義を無視することになるから、解散して主権者の意志を聞けと二千万人に達する請願となったのであります。しかるに参議院で単独審議、自然成立となって、批准書の交換となったのであります。かくて日本の議会政治は、五月十九日、二十日をもって死滅したといっても過言ではありません。かかる単独審議、一党独裁はあらためられなければなりません。また既成事実を作っておいて、今回解散と来てもおそすぎると思います。わが社会党は、日本の独立と平和、民主主義に重大な関係のある案件であって国民のなかに大きな反対のあるものは、諸外国では常識になっておるように総選挙によって、国民の賛否を問うべきであると主張する、社会党は政権を取ったら、かならずこのとおりに実行することを誓います。議会政治は国会を土俵として、政府と反対党がしのぎをけずって討論し合う、そして発展をもとめるものであります。それには憲法のもと、国会法、衆議院規則、慣例が尊重されなければなりません。日本社会党はこの上に行動をいたします。
 最後に申し上げたいのは現在、日本の政治は金の政治であり、金権政治であります。この不正を正さねばなりません。現在わが国の政治は選挙でばく大なカネをかけ、当選すればそれを回収するために利権をあさり、時には指揮権の発動となり、カネをたくさん集めたものが総裁となり、総裁になったものが総理大臣になるという仕組みになっております。
 政治がこのように金で動かされる結果として、金次第という風潮が社会にみなぎり、希望も理想もなく、その日ぐらしの生活態度が横行しております。戦前にくらべて犯罪件数は十数倍にのぼり、とくに青少年問題は年ごろのこどもをもつ親のなやみのタネになっております。政府はこれにたいして道徳教育とか教育基本法の改正とかいっておりますが、それより必要なことは、政治の根本が曲がっている、それをなおしてゆかねばなりません。
 政府みずからが憲法を無視してどしどし再軍備をすすめ、最近では核弾頭もいっしょに使用できる兵器まで入れようとしておるのに、国民にたいしては法律を守れといって、税金だけはどしどし取り立ててゆく。これでは国民はいつまでもだまってはいられないと思います。
 政治のあり方を正しくする基本はまず政府みずから憲法を守って、きれいな清潔な政治を行なうことであります。そして青少年には希望のある生活を、働きたいものには職場を、お年寄りには安定した生活を国が保障するような政策を実行しなければなりません。日本社会党が政権を取ったら、こういう政策を実行することをお約束申します。以上で演説を終りますが、総選挙終了後、日本の当面する最大の問題は、第一は中国との国交回復の問題であり、第二には憲法を擁護することであります。これを実現するには池田内閣では無理であります。それは、社会党を中心として良識ある政治家を糾合した、護憲、民主、中立政権にしてはじめて実行しうると思います。
  諸君の積極的支持を切望します。
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異次元の少子化対策って新「産めよ殖やせよ」なのか~岸田総理年頭記者会見~

2023-01-10 | 小日向白朗学会 情報

2023年1月4日岸田総理の年頭記者会見のなかで、こんなお話が出ている。
   ・・・・・先ほど私は伊勢神宮に参拝し、国民の皆さんにとって今年が
   すばらしい1年になるよう、また、日本、そして世界の平和と繁栄をお
   祈りしてまいりました。 今年の干支(えと)は、「癸(みずのと)卯
  (う)」です。「癸卯」の「癸」は、十干の最後に当たり、一つの物事が
   収まり、次の物事へ移行する段階を、そして「卯」は、「茂(しげ 
   る)」を意味し、繁殖する、増えることを示すと言われています。この
   両方を備えた「癸卯」は、去年までの様々なことに区切りがつき、次の
   繁栄や成長につながっていくという意味があると言います。 私は、本
   年を昨年の様々な出来事に思いをはせながらも、新たな挑戦をする1年
   にしたいと思います。・・・・・
素晴らしいことではないか。「繁殖、増える」…というキーワードを示したうえで新しい挑戦をするというのだ。「新しい」って、いったい何をする気なのか、この先のお話を聞いてみよう。
   ・・・・・急速に安全保障環境が厳しさを増す中で、国民の命や暮らし
    を守るために待ったなしの課題である、防衛力の抜本的強化、エネル
    ギーの安定供給のためにも、多様なエネルギー源を確保するためのエ
    ネルギー政策の転換とGX(グリーン・トランスフォーメーション)
    の実行、さらには、日本における第二の創業期を実現するためのスタ
    ートアップ育成5か年計画、資産所得倍増に向け、長年の課題であっ
    たNISA(少額投資非課税制度)の恒久化など、先送りの許されな
    い課題でした。昨年に引き続き、本年も覚悟を持って、先送りできな
    い問題への挑戦を続けてまいります。 特に、2つの課題、第1に、
    日本経済の長年の課題に終止符を打ち、新しい好循環の基盤を起動す
    る。第2に、異次元の少子化対策に挑戦する。・・・・・
ということです。防衛力強化と少子化対策、いいですね。「抜本的」とか「異次元」とかフォルテッシモマーク入りですし本当に力を入れるのだと思います。関係なさそうで実はかなり密接に関係しているこの二つの言葉「防衛力」「少子化」、キーワードとして胸にとどめておこう。年頭にきちんと表明しているのはそれなりの心づもりがあるからでしょう。それについて岸田首相はさらに言葉を重ねています。
    ・・・・・権威主義、国家資本主義的な国々と、自由主義、資本主義
     を掲げる我々民主主義国家との対立を深刻化させていま
     す。・・・・・
ということが防衛力強化を進める理由ということらしい。このステロタイプな言葉遣いについてはすでに主要マスコミがこぞって繰り返し使用しながら報道しているので耳にタコができているくらいである。これは一般消費者にある方向性を持ったイメージを定着させるための広告業界の常識的手法らしい。この言葉、つまり、権威主義、とか、自由主義とか、こんなタームをタグづけすることによって消費者の思考を停止させてしまう手法である。その証拠に、あなたは権威主義、国家資本主義という言葉でどこの国を思い浮かべただろうか。自由主義という言葉でどこの国を連想しただろうか。そして、それが対立しているということらしいが、…実は昨今の多様性華やかな時代に世界はそんな単純な二元論では語れないのだけれど、…まあ、この点については別の機会に譲るとして。さらに次のように話されている。
     ・・・・・今年のもう一つの大きな挑戦は少子化対策です。昨年の
     出生数は80万人を割り込みました。少子化の問題はこれ以上放置
     できない、待ったなしの課題です。経済の面から見ても、少子化で
     縮小する日本には投資できない、そうした声を払拭しなければなり
     ません。こどもファーストの経済社会をつくり上げ、出生率を反転
     させなければなりません。本年4月に発足するこども家庭庁の下
     で、今の社会において必要とされるこども政策を体系的に取りまと
     めた上で、6月の骨太方針までに将来的なこども予算倍増に向けた
     大枠を提示していきます。 しかし、こども家庭庁の発足まで議論
     の開始を待つことはできません。この後、小倉こども政策担当大臣
     に対し、こども政策の強化について取りまとめるよう指示いたしま
     す。対策の基本的な方向性は3つです。第1に、児童手当を中心に
     経済的支援を強化することです。第2に、学童保育や病児保育を含
     め、幼児教育や保育サービスの量・質両面からの強化を進めるとと
     もに、伴走型支援、産後ケア、一時預かりなど、全ての子育て家庭
     を対象としたサービスの拡充を進めます。そして第3に、働き方改
     革の推進とそれを支える制度の充実です。女性の就労は確実に増加
     しました。しかし、女性の正規雇用におけるL字カーブは是正され
     ておらず、その修正が不可欠です。その際、育児休業制度の強化も
     検討しなければなりません。小倉大臣の下、異次元の少子化対策に
     挑戦し、若い世代からようやく政府が本気になったと思っていただ
     ける構造を実現するべく、大胆に検討を進めてもらいます。・・・
ということで、かなりの熱の入れようである。なぜこんなに一生懸命に少子化対策を打ち出したのか、その理由につながるのが、昨年12月16日に閣議決定した防衛強化三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)である、という仕掛けであろう。いままでこつこつと自民党応援団の統一教会が国内各地方で市議等に働きかけて地道な活動を展開し「家庭」の大切さを切々と訴え続けてきたこと、せっかく「こども家庭庁」と「家庭」という文字まで役所名に組み込んで「家庭」を国家戦略の一つに組み込んできたこと、等々の成果も十分出てきていると踏んでいるのかもしれない。
     ・・・・・本年、再び我が国はG7議長国を務め、5月にはサミッ
     トを開催します。今年の開催地は広島です。ロシアのウクライナ侵
     略という暴挙(注②)によって国際秩序が大きく揺らぐ中で、自由、
     民主主義、人権、法の支配(注①)といった普遍的価値(注①)を守り
     抜くため、そうしたG7の結束はもとより、G7と世界の連帯を示
     していかなければなりません。同時に、対立や分断が顕在化する国
     際社会をいま一度結束させるために、グローバルサウスとの関係を
     一層強化し、世界の食料危機やエネルギー危機に効果的に対応して
     いくことが求められます。・・・・・そして、ロシアの言動により
     核兵器をめぐる深刻な懸念が高まる中、被爆地広島から世界に向け
     て、核兵器のない世界の実現に向けた力強いメッセージを発信して
     まいります。こうした考えの下、まずは、諸般の事情が許せば、1
     月9日からフランス、イタリア、英国、カナダ、そして米国を訪問
     し、胸襟を開いた議論を行う予定です。・・・・・ このうち、米
     国バイデン大統領との会談は、G7議長としての腹合わせ以上の意
     味を持った大変重要な会談になると考えています。我が国は年末に
     安全保障政策の基軸たる3文書の全面的な改定を行いました。そし
     て、それを形あるものにする防衛力の抜本的強化の具体策を示しま
     した。これを踏まえ、日本外交、安全保障の基軸である日米同盟の
     一層の強化を内外に示すとともに、自由で開かれたインド太平洋の
     実現に向けた更に踏み込んだ緊密な連携を改めて確認したいと思い
     ます。
   注記①ウィキペディアによると、英連邦加盟国は民主主義・人権・法の
   支配といった共通の価値観でつながっているそうである。さらに、加盟
   国を「自由で平等」なものとして確立したとも記されており、このまさ
   にステロタイプな語列は岸田総理の言葉ではなく、イギリス連邦からの
   借用である。つまり、普遍的価値と続けてはいるものの、別に普遍的で
   はなく、あえて言えば「イギリス的」ということである。「イギリス的
   価値を守り抜くためG7と世界との連帯を…」と読むと真実を理解しや
   すくなる。
なぜ防衛力を強化する必要があるのかがくっきりと示されている。ロシアのウクライナ侵攻(注②)によって国際秩序が揺らいでしまったので、G7諸国と協力してこの揺らぎをもとに戻す必要がある。そのためには、日本も防衛力を強化しなければならないということなのだろう。けれど、日本国憲法で国際紛争を解決する手段としての戦争は放棄されているのであり、もし、上記に具体的に示されている国々、フランス、イタリア、英国、カナダ、そしてアメリカなどともにロシアを武力で退治するということはできない相談なのである。なら、どうしょうか。そこで出てくるのが「改憲」だ。NATOオブザーバー参加国(parliamentary observer nations)としてのスタンスを確立して、❝アメリカ組❞に認められるためにも改憲して戦争のできる国にしなければならない。昔からの念願なのだ。では戦争のできる国とは何なのか。改憲については、着々と準備を進めており、統一教会系自民議員がのきなみ落選したとしても、さらに政教分離の認識が多少とも深まったりで公明が沈んだとしても、すでに維新、国民民主などの改憲サポートチームとの連立によって3分の2は確保できる、つまり改憲可能と踏んでいるのだろう。維新の躍進、さらに東進攻勢は自信を深める根拠にもなっているのではないだろうか。あえて言えば、自民主体でなく維新主体の与党でも構いはしない、というくらいの覚悟はできていると思う。18歳で選挙参加できるようにし、さらに野党がぼろぼろの今こそ解散総選挙、といった方法論をとればまず戦争禁止をうたう憲法は外されると踏むのもわかる気がする。でもそれだけでオッケー、というわけではない。同時進行的に進めているのが、予算確保して防衛3文書を実現するということだ。そうしておいてこれまた同時進行的に、人的資源の確保をはかなければならないわけである。つまり現状の自衛隊の人的規模では到底戦争は不可能だ。防衛省によれば、現在自衛隊の定員は247,154人、現隊員は230,754人にとどまる。人口6775万人のフランスでさえ31万人の軍人を抱えているのである。人口比で言えば60万くらいは欲しいところと踏むだろう。そのくらいのレベルにはもっていかなければ、という問題意識があるであろうことは容易に想像できる。それが「異次元の少子化対策」の意味だろう。でも今からって。十分だ。小池都知事が一人毎月5000円給付、などというわかりやすい政策を打ち出しているし、これに追随する自治体も出てくるだろう。18歳にもなれば十分に戦闘要員になることができる。ゼレンスキーがロシアの侵攻を受けたとたんに18から60歳までの男子の出国を禁止、消耗品としての兵力確保策に出たことも参考にしたかもしれない。戦争には「人」が要るのである。もちろん戦争で死んでくれる「人」である。ガバメント・イシュー、GIさんがたくさん必要なのだ。そのために以前から竹中=パソナラインの徹底で非正規社員溢れる国家にしたし、若者が希望持てる国ではない中で「国防」こそが若者の新しい「夢」として復活する、と読んでいるのではないか。これから5,000円給付と並んで10代向けの国防プロパガンダが増えてくるような予感がするが、悪い初夢か。
   注記②「ロシアのウクライナ侵攻」によって国際秩序が揺らいでしまっ
   た…とあり、すべての始まりはロシアの侵攻にあるとしている点がほか
   の主要マスコミの報道にも見られており、これも耳にタコができるくら
   い、私たちに刷り込まれている。単純に言っても今回の侵攻については
   ソ連崩壊1992年か、少なくとも2004年オレンジ革命まで、あるいはど
   んなに短くとも2014年マイダン革命までさかのぼらないと真実は全く
   見えない。台湾有事にしても少なくとも1972年上海コミュニケくらい
   までは遡らないと見えてこないのと同じである。
 いまから82年前1941年(昭和16年)1月22日、当時の近衛文麿内閣は「人口政策確立要綱」を閣議決定している。このなかには「一家庭に平均5児を 一億目指し大和民族の進軍」と記されているそうである。
 当時の人口は7350万人、これを1億にまで産めよ殖やせよ、と煽ったのである。目的は兵力・労働力の増強である。さらに当時の朝日新聞には「従来の西欧文明にむしばまれた個人主義、自由主義の都会的性格がいけないのだ」「自己本位の生活を中心にし、子宝の多いことを避ける都会人の多いことは全く遺憾至極である」、「結婚年齢を10年間で3年早め、引き下げる。男子25歳、女子21歳に引き下げる」、「平均5児以上をもうける」、「(昭和35年には)1億人人口を確保する」などとあり、加えて、多子家庭の優遇策や多産家庭の表彰、無子家庭や独身者には課税、などがみられるという。昨今では、2016年5月の「ニッポン1億総活躍プラン」のなかで出生率1.8%を目指す、といった感じでレベルは大きく下回ってはいるものの、発想は全く同一といってよいだろう。
 これより4年前の1937年(昭和12年)に日中戦争が本格化、物資、資金、労働力などを軍需最優先とする国家総動員政策と並行して国民精神総動員運動を推進し同年8月に「国民精神総動員実施要綱」を決定しているが、人口増を狙う近衛の政策はこれらを前提としているものと言える。
 国家が「家庭」を戦略の一環に組み込んでしまうととんでもないことになるということは歴史が証明している。団塊の世代現象が起きたのは「もう戦争がない」という安心感があって出てきたものである。安心してこどもを育てることができ人としての幸せを追求できると誰もが思ったからである。旧統一教会が「幸せな家庭生活のために」…などというのはまあ良いとしても、何ら「安心感」のないところで、国家の力で兵力・労働力確保のために新しい産めよ殖やせよ戦略を実行推進させてしまうと、8月15日の再来も単なる悪夢ではないことになるやもしれない。
(文責:吉田)
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