5、日本の安全保障の筋書きを作る英国王立統合国防安全保障問題研究所
ところでコメンテーターとしてテレビに出演する防衛省防衛研究所政策研究部長兵頭慎治には国民に知られていない裏の顔がある。それは彼らが英国王立統合国防安全保障問題研究所(Royal United Services Institute for Defence and Security Studies、略称RUSI)と深い関係があるということだ。兵頭自身も2007年に英国王立統合国防安全保障問題研究所(RUSI)客員研究員をしていたと経歴書に記載していることから間違いない。その他に兵頭は、2019年から「内閣官房領土・主権をめぐる内外発信に関する有識者懇談会委員」だというのである。これは、平成25(2013)年4月、国際関係・国際法・歴史研究などに造詣の深い有識者を集めて設置した懇談会である。安倍晋三が第96代内閣総理大臣に就任したのが平成24年12月26日であることから、安倍の発案で設置した懇談会だということになる。そして兵頭の所属が内閣官房であることから秋葉剛男国家安全保障局長を補佐する役割を担っていたものと思われる。つまり兵頭は「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の下書きを作っていたと考えて間違いない。そんな兵頭であるが、「自衛隊の指揮権」が日本ないにもかかわらず、恰も日本に主権があるかの如く内外に発信し続ける有識者である。すなわち兵頭の仕事は、プロパガンダを流布することだった。それで、頻繁にテレビに出演し「(ロシアによる)一方的な力による現状変更」が日本の安全保障に重大な影響を及ぼしていると流布しているのだ。
ひとまず兵頭の経歴はこのくらいにして、RUSIであるが1831年に創設された防衛・安全保障分野における世界で最も古いイギリスのシンクタンクとある。そして本部はロンドンで、所長はカリン・フォン・ヒッペル(Karin von Hippel)とある。彼女は、キングス・カレッジ・ロンドンの防衛研究センターに勤務、ワシントンにある戦略国際問題研究センターに勤務、その後アメリカ国務省のテロ対策局の上級顧問として勤務後の2015(平成27)年11月30日にRUSI所長に就任している。ところで彼女(フォン・ヒッペル)名で検索したところ平成28(2016)年5月17日付け外務省ホーム・ページに次のような記載があった。
『……
フォン=ヒッペル英国王立防衛安全保障研究所所長による安倍総理大臣表敬
平成28年5月17日
本17日午後6時40分から約15分間,安倍晋三内閣総理大臣は,カリン・フォン=ヒッペル英国王立防衛安全保障研究所(Dr. Karin von Hippel, Director General, Royal United Services Institute for Defence and Security Studies(RUSI))所長による表敬を受けたところ,概要は以下のとおりです。
- 安倍総理大臣から,RUSIの活動は日英間の安全保障分野での協力強化に貢献している,五輪における英国のテロ対策の知見の共有に感謝する,日英の安全保障分野での協力が進む中,RUSIの役割がますます増大することを期待する旨述べました。
- これに対し,2.フォン=ヒッペル所長から,安倍総理大臣によるRUSIの活動への評価に感謝する,日英間の安全保障分野での協力に一層協力していきたい旨発言がありました。』
なんとRUSIは平成28(2016)年以前から安倍晋三の外交問題をサポートしていたというのだ。つまり安倍晋三の外交政策の下書きはRUSIが作成していたのだ。その後、RUSIと兵頭の関係が途切れたとは考えられないので、兵頭らはRUSIの統括下でロシアとウクライナの地域紛争は国際法違反だというプロパガンダ(propaganda)をメディアに繰り返し流し続け「ロシアは悪である」という情報操作を行っていたのだ。諺に「盗人にも三分の理」という。少なくとも日本は、戦闘を継続している「悪党なロシア」であっても、ロシアの言い分も聞く必要があるはずだ。しかし、日本国内では、ウクライナとロシアの開戦以降、絶えてロシアの言い分を聞く機会を作ってというニュースは聞いたことがない。
あるのは、令和4(2022)年3月23日に国会内で行われたゼレンスキー(Volodymyr Oleksandrovych Zelenskyy)の演説集会だけである。それも冒頭のあいさつをしたのが「統一教会に頭が上がらない細田衆議院議長」なのである。悪い冗談にしか思えない。
『……
本日は、山東参議院議長、岸田内閣総理大臣、海江田衆議院副議長、小川参議院副議長をはじめ、衆参両院の多くの国会議員が、ウクライナ大統領ゼレンスキー閣下の演説を拝聴するために、一堂に会しています。
……」
と挨拶を行っている。さらにはゼレンスキーの演説が終わると、続いて参加した国会議員がスタンディングオベーショ(Standing ovation)まで行うという猿芝居までして国民間に「ウクライナかわいそう」というマインドを醸成するための世論操作に協力していた。
ここまでしてロシアを悪者にするにはそれなりの理由があるはずである。その答えもRUSIを調べることで見つけ出すことができる。RUSIは、2012年から日本に地域本部がある。そのホーム・ページに設立目的が示されている。
『……
RUSIは2012年、180年以上の歴史を持つ英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute for Defence and Security Studies: RUSI)のアジア拠点としてRUSI Japanを東京に開設しました。RUSI Japanは以来、日本と英国の安全保障関係を単なるパートナーの段階から同盟の段階へと引き上げるため、両国の安全保障コミュティーの関係強化に取り組んできました。その一環として、2013年10月、日本で初めて日英安全保障会議を開催し、その後も、東京とロンドンで定期的に会議を開催して両国の専門家同士が意見を交換する場を提供しています。また、2020年の東京五輪に向けてテロ対策の専門家会議を開催し、テロ対策では世界で最も豊富な経験をもつ英国の知見を日本国内に発信しました。そのほか、日本の直面する安全保障問題についても米国的な視点に偏らない英国的な視点から分析や情報を発信しています。
……』
とある。つまりRUISは平成24(2012)年から日本とイギリスが再び同盟、つまり、「新日英軍事同盟」を締結するための活動に取り組んでいたのだ。
RUSIは、イギリスと日本が軍事同盟を締結することで、これまでの自民党政権が「日米安全保障条約」を基軸として組み立ててきた「米国的な視点に偏らない英国的な視点」から安全保障を提供すると言っている。
日本の安全保障の根幹は憲法である。その神髄は憲法前文に記されている「戦争放棄」である。この意味するところは、アメリカに売渡した自衛隊指揮権を、イギリスが取戻してくれると考えるのは大間違いである。「世界軍事力ランキング 2023年」[1]によれば日本の戦闘機が320機に対してイギリスは130機にしか過ぎない。それで日本が独自に進めてきた次期戦闘機の開発をイギリス及びイタリアと共同で進めることになったのも、イギリスの航空戦力が弱体化していることに対する焦りなのだ。それで様々な「うまい話」を持ち出して日本に接近してきたのだ。
現在のイギリスの思惑は過去の歴史を振り返ることで凡その察しが付く。明治38(1905)年にイギリスが日本と条約を締結した真の目的は、植民地インドを防衛するために不足する陸兵を日本に派遣させることであった。その時に日本の陸海軍をだました手口は、すでに旧式化していたにもかかわらず「強大なイギリス海軍力」で日本の防衛を保証するという幻想を抱かせ安心させて締結させたものだった。つまりイギリスの大芝居だったのだ。この大芝居に乗せられ甚大な損失を出してまで日本が得たものといえば、ビクトリア女王が明治天皇に「大英勲章」を授与してきただけなのだ。
今度のイギリスもまた、アメリカと同様に自衛隊を傭兵としてインド太平洋で利用したいということなのだ。この欲深なイギリスの要求に対したいして現在の自民党政権は、喜々として要求に応じイギリスに隷属しようとしているのだ。歴史を知らない愚かな話である。
翻って、今次のイギリスが日本に提供する安全保障に対して、それに見合うだけの要求事項はなにか。それもRUSI Japanのホーム・ページに示されている[2]。
『……
このようにRUSIは日英の安全保障関係を強化し、インド太平洋地域の安定に貢献することを目指しています。RUSI Japanは2019年、それまでの地域本部から日本特別代表部に格上げされ、活動を強化しています。
……』
案の定である。イギリスが求めているのは、日本の安全保障とは何ら関係もない「インド太平洋の安定に貢献する」こと、すなわち「兵力提供」を求めているのだ。イギリスが求める兵力とは言わずもがな自衛隊のことである。ところが日本国憲法第九条で「……武力による威嚇又は武力の行使は、国際間紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。……」とあることから憲法を改定しない限り「インド太平洋」に自衛隊を派遣することはできない。従ってイギリスが日本と軍事同盟を締結するには、日本が憲法を改正することが絶対条件になっているのだ。さもなければ権利と義務の関係から軍事同盟は成立しえない。
そのため安倍晋三はRUSIの指導下で犯罪者集団統一教会の強力な選挙支援を受けて国政選挙に臨んで憲法改正に必要な三分の二の国会議員を確保することに全力を注いだ。それもこれも、憲法を改正してインド洋まで自衛隊を派遣できる体制を整えたいからである。さらに、万が一のことを考えて、野党の国民民主党や日本維新の会、さらには立憲民主党内にも改憲賛成議員を忍ばせるという極めて巧妙な戦略を実施してきた。それで野党にも統一教会の支援を受けた国会議員が多数いるのだ。
RUSIが指導する改憲プログラムは単に国会に留まるだけではなく経済界、労働運動にも及んでいる。日本政府は経済界に対して、軍拡によって生ずる旺盛な軍事需要を提供できる体制を求めている。そのため日本政府は経団連等に「安定的な軍事費を賄う増税をおこない集中的に軍需産業に投下することと、量産効果を考えて兵器輸出も可能となるプランを提供する」ことで改憲に賛成させる段取りなのだ。
労働界に対する改憲プログラムは日本の政治手法を熟知した自民党の悪知恵であろうが野党分断を中心に進めている。日本の野党二党は、支援団体が連合であることを利用し国政選挙の比例投票では国民民主と立憲民主の両党が「民主」としていることから、2党で投票総数を案分することになっている。つまり国民は、改憲を反対して投票しても、改憲に賛成する国民民主のカウントされてしまうのだ。実にずるい「連合」である。これは自民党政権を支援する連合の「ゲリマンダー」と云って差し支えないであろう。ここまでいい加減な野党では真の民意を反映することは難しい。
さらにメディア対策として電通とNHKは、平和を希求する国民を「一方的な現状変更を行う」ロシアの脅威の前には軍備拡張と憲法改正が必要であるというイメージ操作を行ってきた。これらを考えるとすでに国会だけでなく産業及び金融まで大政翼賛運動に賛成して改憲を実施できる体制が整いつつある。まさにワイマール憲法崩壊という悪夢の歴史をもう目の当りにするとは皮肉な話である。
いずれにしろ自民党政権が日本の防衛範囲を「……インド太平洋地域の安定に貢献……」としている限り憲法改正を前提として行動していることは間違いない。
以上のような観点から有識者会議を考えると、日本外務省は日本の国益をイギリスに売り渡すために仕事をしているのだ。
RUSIが日本に地方本部を開設した当初のイギリスは、21世紀は世界経済の中心がインドと太平洋に移行することを見越し、極東の中心となる日本に狙いを定めて活動していた。ところが2019年に地方事務所から日本特別代表部に格上げしている。つまりイギリスは、2017から2018年頃に、日本の安全保障が急激に変化したことから、早急に日本と新たな軍事同盟を締結し、日本に安全保障を提供するとともに欧州と太平洋地域にあるイギリス連邦国のオーストラリアとニュージーランドとを結ぶ経済回廊を確保するために自衛隊がもつ海軍及び空軍力を利用する必要が生まれた。そのため日本特別代表部を開設することになったのだ。
ところでRUSIにとって日本特別代表部が如何なる位置関係にあるかと云えば、そのスタッフから凡その見当が付く。RUSIジャパンのアドバイザーには、サー・ジョン・スカーレット(Sir John Scarlet)元英国秘密情報局MI6(Military Intelligence 6、略称MI6)長官、地政学と歴史学の視点から現代の国際情勢を読み解とくジェレミー・ブラック(Jeremy Black)エクセター大学歴史学教授、イギリス議会の安全保障委員会や国防委員会の特別顧問を務めているマイケル・クラーク(Prof Michael Clarke)RUSI特別名誉フェローが就任している。これはRUSI日本特別代表がRUIS本部の直轄で活動していて、現在のイギリス外交の中で非常に重要な位置を占めている証拠でもある。そのRUISの最大の課題は、クリミア戦争(1853~56年)から現代(2023年)までロシアなのである。
余談になるがイギリス外交は、しばしば、地政学という用語を多用する。これはイギリスが海軍力を背景に世界覇権を握ってきたことからうまれたドグマ(dogma)なのだ。海軍が駆けつけることができる地域をリムランド、自慢の戦艦が行けない地域をハートランドとした。つまり自慢の海軍力が生かせる地域と、海軍力が及ばない内陸部という勢力図のことなのだ。
イギリスは、地政学というドグマに従って現代も行動している好例がある。それは安倍晋三がロシアと平和条約締結交渉をおこなったことである。
令和元(2019)年9月5日付けでイズベスチヤ紙(ロシア)に対する安倍総理大臣書面インタビューで「ロシアと対話を続け,平和条約を締結したい」という書面を提出している。その冒頭で安倍晋三はプーチン大統領と26回にわたり会談を行った実績を根拠に「……プーチン大統領と「粘り強く」対話を重ね,平和条約を締結したい……」ことと「クリル諸島における共同活動と極東の投資」を希望していることを伝えている。結論から言うと、安倍晋三とプーチンは平和条約を締結することはできなかった。
交渉が失敗した理由は明らかである。安倍晋三はロシアの安全保障に無知であったという以外ない。クリミア戦争のころからロシアという内陸国家が外洋を利用して交易をおこなうにはバルト海、黒海からダーダネル海峡、極東にあるウラジオストクの三つの港しかない。ところが安倍晋三は、ロシアの安全保障を危うくする、ウクライナによるNATO加盟に賛成しているにもかかわらず、ロシアと平和条約を締結して北方領土の返還を勝ち取ろうとした。ロシアとって、日本に北方領土を返還したうえに、そこにアメリカ軍が駐留したとしたらウラジオストクの封鎖が現実のものとなり安全保障としては由々しき事態に陥ることになる。
まさかと思われるであろうが、外務省が作成した日米地位協定に関する機密文書『日米地位協定の考え方』[3]には、北方領土が返還となった場合に、そこにアメリカ軍の施設が作られるであろうことは疑うべき余地もないことを認めている。
日米地位協定第2条(施設・区域の提供と返還)第1項で「我が国は施設・区域の提供に関する米側の個々のすべてに要求に応じる義務を有してはいない」の中で次のように述べている[4]。
『……関係地域の地方的特殊事情(例えば、適当な土地の欠如、環境保全のための特別な要請の存在、その他施設・区域の提供が当該地域に与える社会・経済的影響、日本側の財政負担との関係)により、現実に提供が困難な(中略)事情が存在しない場合にも我が国が米側の提供要求に同意しないことは安保条約において想定されていないと考えるべきである
……
このような考え方からすれば、例えば北方領土の返還の条件として『返還後の北方領土には施設・区域を設けない』との法的義務をあらかじめ一般的に日本側が負うようなことをロシアに約束することは安保条約及び地位協定上問題があるということになる
……』
という注意書きが付されている。ロシア側からすれば、この条文があることから北方領土の返還により米軍基地の設置を排除できない、つまり、北方領土にアメリカ軍基地を設置できるのだ。これによりロシアの安全保障に重大な支障が生じることになる。つまり安倍晋三の外交方針はRUSIにより策定されていて、その中の一つが北方領土返還交渉であった。北方領土の利用価値を知り尽くしているRUSIは、日本がロシアと北方領土問題で交渉して、あわよくばロシアが日本に北方領土を返還した場合は、ロシアが外洋に出ることができる三つの港湾の内の一つを封鎖できると考えていたのだ。この点をプーチンは見破っていたのだ。「食事をしたり」「ゴルフをする」ことで外交が成り立つと考えていた安倍晋三は暗愚な内閣総理大臣であったと云う以外ないであろう。
・「令和4年日本国国防方針」策定には英国王立統合国防安全保障問題研究所(RUSI)が深く関与している。
・RUSIは英国情報局秘密情報部(Military Intelligence 6、略称MI6)の一部機関である。
・RUSIが日本で活動しているのは新日英同盟の締結のためである。
・RUSIは日本政府にアメリカと同じように自衛隊指揮権行使を求めている。
・防衛省防衛研究所はRUSIのプロパガンダ部門となって内閣府を拠点に積極的な活動をおこなっている。
・したがって「令和4年日本国国防方針」は日本の国防とは何ら関係のないイギリスの都合により作成されていることから、日本の国益とは対極になる‘痴態’である。
(第四回終了)
[1] https://news24-web.com/military-ranking/
[2] http://www.rusi-japan.org/
[3] 琉球新報社編『日米地位協定の考え方』高文研(2004年12月8日)。
[4] 同上書(31頁)。