自由民主党総裁選挙が近づく中で石破茂元幹事長が動き出した。2024年8月12日、朝日新聞デジタルは『石破茂氏が台湾訪問、頼総統らと面会へ 安保政策で存在感アピール』で石破元幹事長の動向を配信している。
『……
自民党総裁選に立候補の意向を固めている石破茂元幹事長が12日、台湾を訪問した。14日まで。頼清徳(ライチントー)総統や蔡英文(ツァイインウェン)前総統らとの面会を調整している。
訪問したのは、超党派の国会議員でつくる「日本の安全保障を考える議員の会」で、石破氏は教育無償化を実現する会の前原誠司代表と共同団長を務める。自民党の中谷元・元防衛相らも参加した。
訪問を前に石破氏は「北東アジアの安全保障環境をどのように考えるのか。問題意識を共有しておかないと、これから先の安保環境を語ることはできない」と強調した。台湾有事への懸念を背景に安保政策で存在感をアピールする狙いがある。
……』
石破茂氏は、自民党総裁選で現政府が行っている非常に危険な対中国政策を引き継ぐことを内外に明らかにしてしまったのだ。
愚かの極みと云う以外に無い。
対中国外交に関して上川外務大臣は、事あるごとに「戦略的互恵関係」であると断言している。戦略的互恵関係はと云えば「一つの中国」政策であり、その本質は「台湾は中国領」だということである。
ここで云う「戦略的互恵関係」に付いては外務省広報に『「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明』[i]として厳密に定義されている。
『……
- 双方は、日中関係が両国のいずれにとっても最も重要な二国間関係の一つであり、今や日中両国が、アジア太平洋地域及び世界の平和、安定、発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っているとの認識で一致した。また、双方は、長期にわたる平和及び友好のための協力が日中両国にとって唯一の選択であるとの認識で一致した。双方は、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、また、日中両国の平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展という崇高な目標を実現していくことを決意した。
- 双方は、1972年9月29日に発表された日中共同声明、1978年8月12日に署名された日中平和友好条約及び1998年11月26日に発表された日中共同宣言が、日中関係を安定的に発展させ、未来を切り開く政治的基礎であることを改めて表明し、三つの文書の諸原則を引き続き遵守することを確認した。また、双方は、2006年10月8日及び2007年4月11日の日中共同プレス発表にある共通認識を引き続き堅持し、全面的に実施することを確認した。
- 双方は、歴史を直視し、未来に向かい、日中「戦略的互恵関係」の新たな局面を絶えず切り開くことを決意し、将来にわたり、絶えず相互理解を深め、相互信頼を築き、互恵協力を拡大しつつ、日中関係を世界の潮流に沿って方向付け、アジア太平洋及び世界の良き未来を共に創り上げていくことを宣言した。
- 双方は、互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならないことを確認した。双方は、互いの平和的な発展を支持することを改めて表明し、平和的な発展を堅持する日本と中国が、アジアや世界に大きなチャンスと利益をもたらすとの確信を共有した。
(1)日本側は、中国の改革開放以来の発展が日本を含む国際社会に大きな好機をもたらしていることを積極的に評価し、恒久の平和と共同の繁栄をもたらす世界の構築に貢献していくとの中国の決意に対する支持を表明した。
(2)中国側は、日本が、戦後60年余り、平和国家としての歩みを堅持し、平和的手段により世界の平和と安定に貢献してきていることを積極的に評価した。双方は、国際連合改革問題について対話と意思疎通を強化し、共通認識を増やすべく努力することで一致した。中国側は、日本の国際連合における地位と役割を重視し、日本が国際社会で一層大きな建設的役割を果たすことを望んでいる。(3)双方は、協議及び交渉を通じて、両国間の問題を解決していくことを表明した。
- 台湾問題に関し、日本側は、日中共同声明において表明した立場を引き続き堅持する旨改めて表明した。
……』
とある。
2には「戦略的互恵関係」の基盤となったのは1972年9月29日に発表された日中共同声明、1978年8月12日に署名された日中平和友好条約及び1998年11月26日に発表された日中共同宣言であったことが纏められている。これらの中で最も重要なことは5でも協調しているように「一つの中国」なのである。これを簡単にまとめると次のようになる。
「戦略的互恵関係」=「一つの中国政策」=台湾は中国領
対中国政策に関してあの上川外務大臣ですらも「戦略的互恵関係」を支持すると断言しているのだ。
それにもかかわらず日本政府は、台湾有事という中国敵視政策を行っている。それは「防衛三文書」で中国を仮想敵国として防衛力を整備することで莫大な予算を獲得することができたからである。つまり日本政府が二重規範(ダブルスタンダード)外交を行っているのは防衛予算という防衛利権を失いたくないためである。これに尽きる。
しかし、日本政府は、危険な二重規範外交を続けていることを国民に知らせないように巧妙に隠蔽している。そのため「戦略的互恵関係」が「一つの中国」政策であることを悟られないようにしている。そのため「これほど今の両国関係の実態とかけ離れた言葉はない。これをうのみにして厳しい国際情勢への直視を怠り、軍事的、経済安全保障的に日本にとっての脅威、懸念である中国との付き合い方を誤る国民や企業が出てくることを恐れる。」[ii]という社説まで登場してきている。
そのため、2024年5月20日、中国の呉江浩駐日大使は、台湾情勢をめぐり日本が台湾の独立に加担すれば「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言するまでに至った[iii]。これは現日本政府が二重規範外交を行っていることについて中国としては、日本に国連憲章「旧敵国条項」を発動する可能性を示唆することになった。
この敵国条項に関する日本政府の解釈であるが、平成21年六6月19日提出の衆議院「国連憲章の旧敵国条項(第五十三条、第百七条)に関する質問主意書」[iv]にみることができる。特にアンダーライン部分は注意されたい。
『……
さらに、二〇〇六年四月六日の参議院外交防衛委員会において、麻生外相(当時)は、「敵国条項につきましては、一九九五年、今から約十一年前になりますけれども、そのときのいわゆる国連の総会で死文化、死んだ文章、既に死文化しているとの認識を示す決議案というものが圧倒的多数の賛成で既に可決をされておりますんで、死文化したというのはもう現実であります。
ただ、昨年の九月のあの国連、あれは首脳会合だったと記憶しますが、成果文書におきましても、この条項において敵国への言及を削除するとの決意というものがなされております。ただ、今おっしゃいますように、これを正式な文章から削除するためには加盟国の三分の二の批准というものが必要とされておりますんで、これは安保理改革を含む話とちょうど関連をするところでもありますので、敵国条項の削除については今後とも求めていくのは当然のこととして、今現実問題として死文化されておるというところまで、日本、ドイツ、いろいろ努力をした結果というものは既に十一年前にでき上がっておるところではございます。」と答弁されている。
ただ、昨年の九月のあの国連、あれは首脳会合だったと記憶しますが、成果文書におきましても、この条項において敵国への言及を削除するとの決意というものがなされております。ただ、今おっしゃいますように、これを正式な文章から削除するためには加盟国の三分の二の批准というものが必要とされておりますんで、これは安保理改革を含む話とちょうど関連をするところでもありますので、敵国条項の削除については今後とも求めていくのは当然のこととして、今現実問題として死文化されておるというところまで、日本、ドイツ、いろいろ努力をした結果というものは既に十一年前にでき上がっておるところではございます。」と答弁されている。
……』
この主意書が引用した日本政府の旧敵国条項に対する考え方を説明したのが、台湾有事を演出して莫大な防衛利権を手に入れた張本人である麻生太郎副総裁である。その麻生副総裁によれば、日本政府は「敵国条項は死文化」としている。ただし「正式な文章から削除するためには加盟国の三分の二の批准というものが必要」で、そのためには「敵国条項の削除については今後とも求めていく」と、死文化しているといいながらも国連憲章本分からは削除されていないことを認めている。つまり、日本政府の「死文化」という解釈は間違いなのである。
したがって呉江浩駐日大使が言うように、日本政府が二重規範外交を続けた場合には、中国は日本に対して敵国条項を発動して「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」というのは正しいのだ。
その結果、中国が「敵国条項」を適用して尖閣列島侵攻するならば、日本の道理は通用せず、国連憲章の下で鉄槌を食らわされることになる。その際に日本政府が頼みの綱とする「日米安保条約」は、昨年、アメリカが中国と「一つの中国」政策に回帰したことから台湾有事に軍事介入しないだけではなく、更に上位の旧敵国条項によりアメリカでする中国を支持する以外にないのだ。これが、アメリカは日本の安全保障には何ら役立たないという現実なのだ。
以上のように日本政府は危険な外交を展開している中で、石破茂元幹事長は、よりによって、訪台して台湾政府と台湾有事について会談するということは麻生太郎副総理が始めた「台湾有事」を継続させて「日本の民衆が火の中に連れ込まれる」ことも厭わないという狂気の会談なのである。
そのうえ石破元幹事長とともに訪台するのは防衛三文書を取りまとめることに尽力するだけでなく、自民党の安全保障政策に反対する野党を分断させてきた「教育無償化を実現する会」の前原誠司代表である。これは、自由民主党が分裂して下野することで莫大な外交利権及び防衛利権そして公共利権を失うことを恐れる麻生太郎副総理による、自民党温存策に石破茂元幹事長が乗ったということを意味している。
やはり、石破茂元幹事長は、イスラエルが孤立し、ウクライナが崩壊に直面し、BRICSのGNPがG7を超えたという世界情勢が理解できない単なる「軍事おたく」の愚図だった。(寄稿:近藤雄三)
【参考】
・(2024年04月23日)『麻生太郎自由民主党副総理の訪米は自民党の命乞い ―「もしトラ」がいよいよ無視できなくなった自由民主党のあせり―』
・(2024年02月07日)『上川外務大臣による外交演説は「内政と外交」矛盾の極み -麻生副総裁は莫大な「外交及び防衛」利権を統括する戦争屋―』
・(2024年01月21日)『自民党内で派閥解消が進んでもアメリカに国家主権を売渡した事実は拭えない』
・(2024年01月26日)『高橋洋一氏『日米合同委員会出席者は端牌』論に付いて ―家産官僚制が日本を亡ぼす―』
・(2023年09月27日)『麻生太副総裁が公明党を「ガン」と批判するのは、アメリカ軍が海上保安庁を利用できないから』
・(2023年08月14日)『自由民主党外交政策が大失策となった原因』
[i] 『「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声』https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/visit/0805_ks.html
[ii] 2024年4月24日、産経新聞「<主張>戦略的互恵関係 誤解を招く「言葉遊び」だ」https://www.sankei.com/article/20240424-LQL5GKHOTNN5RLQFSOHVO4VKOY/
[iii] NHK「中国駐日大使 “台湾独立加担 日本民衆火の中に” 外務省抗議」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240531/k10014467041000.html#:~:text=%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%91%89%E6%B1%9F%E6%B5%A9,%E3%82%92%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
[iv] 衆議院質問主意書「国連憲章の旧敵国条項(第五十三条、第百七条)に関する質問主意書」https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a171569.htm