高齢化の進行で、年々増加する認知症。厚生労働省によると、「日常生活に支障をきたす」と要介護認定された、認知症とみられる高齢者は推定208万人以上にのぼっている。それに伴い、予防や早期発見に対する意識も高まっており、従来の運動やレクリエーションのほか、ゲームソフトや教材などが続々と登場。楽しみながら取り組めるツールに人気が集まっている。
◆“かくれんぼ”
堺市南区にある通所施設「パナソニックエイジフリーにわしろデイセンター」。十数人のお年寄りがテレビ画面をのぞきこみ、時折、歓声を上げる。
画面に大きく映るのは、4つの窓のある家の絵。そこに子供が現れて、1つの窓の内側に隠れる。次に、家が90度、180度などくるりと回転。子供が隠れた窓がどこだったかを当てる、というゲームだ。
参加者は、手のひらに専用バンドをはめており、正解だと思った窓にバンドを向ける。「こっちかな」「いや、こっちでしょう」と悩みながら腕を振る動作に、本人も周囲の人たちも思わず笑顔に。画面に「正解」の文字が出ると拍手が沸き起こる。
「くるくるかくれんぼ」と名付けられたこのゲームソフト。滋賀大学教育学部の渡部雅之教授(発達心理学)らのグループが平成17年から研究に取り組み、滋賀県草津市内の企業と共同で一昨年に製品化した。
ゲームで問われるのは、記憶力のほか、頭の中でイメージを回転させて空間的にとらえる力。大学生から高齢者まで200人以上にこのゲームに挑戦してもらったところ、認知症の初期や脳卒中の後遺症から回復途上の患者の場合、正答率は75%前後と低く、回答するまでの時間もやや長い、という結果が出たという。渡部教授は「堅苦しい検査ではなく、遊び感覚で取り組みながら、早期発見の一助となるのでは」と話す。
既に多くの高齢者施設で導入されており、同施設では昨年秋から導入した。60代の男性は「家の絵がコロコロ動くので難しいけれど、おもしろい。認知症は心配ですが、まだまだ私の場合、大丈夫そう」と笑顔を見せる。東川智子所長は「認知症だけでなく、集中力や精神状態を観察でき、ほかの疾患の可能性も探ることができます」と期待している。
◆計算、読み書き
「公文式教室」で知られる「公文教育研究会」も高齢者向けに認知症の予防・改善を目的にした「くもん学習療法センター」を設立。脳機能研究で知られる東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授と共同で、思考などをつかさどる大脳の前頭前野を活性化させるプログラムを開発している。
例えば、改善を目的とした教材は、「2+2」など簡単な足し算や引き算をしたり、「仕事に出かける」などの平易な文章を音読したりする。
こういった認知症の改善を目的とした学習療法は全国1358施設で取り入れられ、予防を目的とした健康教室も約200の自治体が採用している。
教材に取り組むときには施設のスタッフと向き合い、ゆっくりとしたペースで会話を楽しみながら行うことがポイント。「『トイレに行きたい』といった意思表示ができるようになるなど改善するケースは多いですね」と、同センターの二瓶(にへい)澄夫さん。表情がなくなっているお年寄りに笑顔が戻るなど幅広い効果が期待できるという。
【産経新聞・田野陽子】
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