事例検討の提出者考察(一部改)
「改めて振り返ってみると、Aさんの機嫌に妻が振り回され、妻の機嫌にケアマネが振り回されている感がある。現場のケアはAさんと向き合い、Aさんに直接かかわることで目標を持てると思われるが、相談者自身はケアマネとして支援の基が見えていないと感じる。認知症を患っている老々介護であり、妻の気持ちは閉じやすく、閉ざされてしまうとAさんの支援もまた閉ざされてしまう。妻もまた老齢であるがための頑固さや今までと違う状況に対する問題解決能力の低下があることを踏まえた上で妻の本位をくみ取れていないと思う。Aさんの支援に繋がるように、妻のAさんへの思いと視点をどのように理解し共有したらよいのか考えたい。」(この他に提出理由、利用者基本情報、アセスメント、居宅サービス計画、要点、モニタリング記録を提出されている)
アヒルのコメント
このような状況になれば一般的に援助職者が達成可能なゴールを見出すことができず、無力感に襲われることが多く、何をゴールにすべきか悩むものです。ケアマネジャーもそのゴールを設定するのですが、妻の協力が得られず、支援が具体化できず悩む結果となりました。
妻の置かれている状況が援助職者にとって「非常に辛いであろう」と共感はできるものの、妻の要望や態度が激しく変化するため援助職者が何をしていいのかわからなくなると「せめて少しでも利用者を満足させたい」という思いに駆られるでしょう。
ケアマネジャーが利用者の主体性と妻の気分の変化の判断がつかなかったために、「利用者、家族に振り回された」と思える関わり方をしたのは理解できます。
ここでは、利用者の抱える問題の種類と、妻のストレスの対処法の特異性を理解する必要があります。妻は利用者側として消費者意識を強く持ちケアマネジャーやデイサービスに要求を出しています。
夫とのこれまでの生活歴で培われた関係性や思い、病気に対する考えなど支援者として考えなければならない要素です。
妻は支援をしても解決の糸口が見えない、自分の衰えへの自覚など、怒っても解決の方法がない、とても深い悲しみを伴ったストレスを抱えていると想定できます。では、こんなとき、人は問題にどう対処するのでしょう? 何もない時にはいちいち反応しないような、身のまわりの小さな問題にぶつけることもよくみられます。これは、表現できない抑圧された怒りを秘めているときに起こりがちです。この事例の場合はそれが、クレームとなってケアマネジャーやデイサービスに押し寄せました。
介護を続けたいが一人では続けられない、長女夫婦には迷惑を掛けたくないが支援を受けないと頼らざるをえないかもしれない。自分の言うことを聞いて欲しいがケアマネジャーは理解してくれないと相反する思いが何重にも折り重なっている。もしそうならば対処できない問題と認識されるでしょう。
妻はケアマネジャーやデイサービスに対して、「どれだけのことをしてくれるの」と迫り、ケアマネジャー等は「どれだけ私を信用して、どれだけのことをさせてくれるのですか」という主導権の争いをお互いしているようにも見えます。
人が持っている本質的なニーズである自分の人生に対するコントロール感の闘いが行われているのかも知れません。互いに辛い時期ではあるますが、この過程を経ることによって双方の役割がお互いに認識されていくのでしょう。
また、妻は他者に対する攻撃性と言う鎧を身にまとっていなければ介護が続けられないと認識しているのかもしれません。実は鎧は、妻の介護意欲の源かもしれないません。鎧を身にまとっていることが支援の妨げになっていると思っも、無理に鎧をとってしまえばどっと崩れてしまうのではないかという心配もあります。緊張の糸が切れてしまうという心配です。介護を続けるために鎧が必要なものであれば、鎧をまとっているということがわかっても、それを無理矢理外すような働きかけはしないことです。
初回面談で妻は「夫のが給料を入れてくれず、苦労して生活をしてきた」と訴えました。あれだけ苦労させられた夫を見捨てず介護している自分を再評価してほしい、その取組みが周りの人から十分に評価されていないと言う思いかもしれません。その実感を持つためにもコントロール感を強く求めているのでしょう。そうであれば「振り回され状態」は容易に解決しないでしょうが、その思いを含めての介護でもあるのでケアマネジャーは「できることは全力で支援するが、無理なことできないことは絶対にしない」と言う覚悟が必要でしょう。
妻の存在を介護者としてだけ見るのではなく、一人の生活者として捉え直してみることによって、自分自身を認め協調的な見方や態度を身につけていけるのではないでしょうか。まだ、妻は自分が納得できるコントロール感を持っていない段階なので、挑戦的、他責的な対応が続くかもしれませんが「クレームの多い、わがままな介護者」と見るのではなく個人として接する努力がケアマネジャーには必要なのでしょう。