バーとホテルと農業と…           ほんまはテレビ

東京から徳島の山奥へ移住したテレビディレクターの田舎暮らしドキュメント。毎日なんやかんややっとることの記録です。

みてとる

2012年06月14日 11時25分35秒 | いちいち
この町に来て『みてとる』という言葉を度々耳にします。
「よおみてとれよ」と言われた時は、
「よく見ておけよ」程度に考えていました。
先日、友人の家で彼の父親と一緒にお酒を飲んだとき、
「大工仕事はだいたいみてとれるけんな」とお父さんが言いました。
お父さんは大工ではありませんが、
家の構造をよく見ると、教わらなくても自分で出来るそうです。
それが『みてとる』。


お父さんが改装したという玄関。風情があります。


友達が作ったかまど。これもみてとったもの。

大工に限らず、職人の世界では良く「技術は見て盗め」と言います。
料理人の世界でも良く聞く言葉。
テレビの世界でも昔はそんな事をいう先輩がいました。
それが最近では、新人教育は「親切・丁寧」があたりまえ。
でも、この町に来て本来仕事とは、
『見て覚える』ことが大切なのだと改めて考えさせられました。

例えば農作業のお手伝いをしていても、
農家さんは必要最低限の注意を言うだけで、
あとはほとんど指示をしません。
手際や出来が悪くても、
注意をするのはよっぽどの時だけ。
草刈りの手伝いをして、僕が上手く出来ていなくても、
農家さんは黙ってもう一度刈り直すだけ。
最初はなぜだろうと疑問に思っていました。
効率は悪いし、時間も余計掛かります。

農家さんが黙っている理由、
一つには「耳で聞いた事は、結局身に付かない」という事だと思いました。
でも、いろいろと作業をするうちに、
それだけではないと感じるようになりました。
それは「全く同じ仕事は、何一つとしてない」という事。
草刈り一つをとっても、
全てが同じ草ではないし、
山の傾斜もまちまち。
季節も違えば、使う鎌も違う。
もし付きっきりで手取り足取り教えたとしたら、
一番大切な事が身に付かないからではないでしょうか?

山で仕事をし、生きて行くためには、
一つとして同じ事が無い状況の中で、
どんな時でも対処できる能力を身につける必要があります。
様々な状況、仕事のしかた、その出来具合を自分でしっかりと見て、
自分の手で試し、失敗を重ねながら身につける。
この町の人たちは、それが一番大切な事だと、
経験的に知っているように感じます。
だからいちいち口で教えたりしないし、
いちいち聞こうともしない。

今、借りている家の横で小さな畑をやっているのですが、
「頑張っとるなぁ」と言われるくらいで、
「こうした方がいい」と言う人は誰もいません。
(多分心の中ではいろいろ言いたい事はあると思うんですが・・・)
だから他の人の畑を見ながら、いろいろとやってみる。
どんなに失敗をしてもいいから、
なにか一つでも身に付くよう、自分なりにやってみる。
そして畑の変化を良く見ておこうと思っています。


うちの畑。ジャガイモ、トマト、茄子、ピーマン、キュウリ、唐辛子、枝豆、ネギ、サラダ菜などを植えています。

『みてとる』
最近よくこの言葉を心の中でつぶやきます。
すると物の見え方が少し変わってきました。
『みてとる、みてとる、みてとる・・・』
どうでしょう、いろんな物を見るのが楽しくなってきませんか?

焼き鳥屋いちいち

2012年06月03日 22時14分00秒 | いちいち
東京では夜仕事が終わってから、
「さて今夜の晩飯は何にしようか」と考えることが多かった。
どんなに遅くなっても食事の選択肢には困らなかった。
どちらかというと選択肢が多すぎて悩むことの方が多かった気がする。

山の上で暮らしはそうはいかない。
一番近い商店まで車で片道15分。
もちろん夜になると店は閉まってしまう。
だから冷蔵庫の中身は常に頭の中に入っていて、
翌日の晩飯ぐらいまでは考えておくようになった。

今日の晩ご飯はカレーにするつもりだったのだが、
夕暮れが近づくに従ってなんだか気分が変わってきた。
酒を飲みながら、まったり食事をしたい気分・・・。
冷凍庫を開けると鶏肉が少しだけあった。
もも肉、そしてせせり(ネック)まである。
「今夜は焼き鳥にしよう!」と一人で盛り上がった。
畑に行ってネギを一本切ってきて、
「さて串に刺そうか」と思ったところで手が止まった。
竹串が、ない・・・。

どこを探しても無い。
買った覚えが無いのだから当たり前である。
脳裏でいろんな声が飛び交い始めた。
「やっぱり予定通りカレーにすればいいんじゃない」
「それとも車で竹串を買いにいく?行った店に置いてあるかどうかは知らないけどね」
「串に刺さなくても炭火で焼けばいいじゃないの・・・」

テンションは一気に下がっていった。
僕はビールのグラスを片手に、焼き鳥にかじりつきたかったのだ。
「串に刺さっていない焼き鳥屋なんて認められるか!」
ザワザワザワ・・・。
風の音が聞こえた。
ここは天空の基地「いちいち」
これは神様が僕に与えてくれる試練なのだ。

庭に出てみた。
ザワザワザワ・・・音のする方に行くと、竹林があった。


細い竹を一本拝借し、鉈でいくつかに割ってみた。


カッターナイフで削って竹串を作ってみた。
早く食べたい気持ちを抑えて、削ることだけに集中。
削りすぎて何本も失敗したけど、だんだん上手く出来るようになってきた。


完成した竹串に鶏肉を刺してみる。
なかなかいいんじゃない?


早く食べたい・・・気持ちを抑えて
炭火を起こし、火鉢に乗せると白い煙と共に香ばしい匂いが。
これこれ!こんな焼き鳥屋に行きたかったんです!


今日は障子を開けて、天空のビヤガーデンを気取ってみました。


空にはまん丸のお月様が、
いつもは見えない山の稜線を照らしてくれました。
今夜の焼き鳥は最高に美味しかった。

この文を書きながら、果てしなくどうでもいいことだなぁと思いましたが、
幸せのために手間を惜しまないこと、
これこそが「いちいち」なのだと感じた夜でした。