『貯蓄』の格差(二人以上の世帯) ~ 平均1739万円を下回る世帯が3分の2

2014-05-16 21:06:58 | 日記
本日発表された総務省統計局の「家計調査報告(貯蓄・負債編)平成25年(2013年)平均結果速報(二人以上の世帯)」から、『貯蓄』の格差について次のようなことなどが読み取れる。


・二人以上の世帯について貯蓄現在高階級別の世帯分布を見ると、平均値(1739万円)を下回る世帯が約3分の2(68.0%)を占め、貯蓄現在高の低い階級に偏ったものとなっている(資料1)。勤労者世帯の場合には、平均値(1244万円)を下回る世帯が約3分の2(66.7%)である(資料2)。
・二人以上の世帯のうち世帯主が60歳以上の世帯(二人以上の世帯に占める割合49.1%)について貯蓄現在高階級別の世帯分布を見ると、二人以上の世帯全体では貯蓄現在高の低い階級に偏っている(資料3)。


同世代間扶助を考える際に必要となる財源の在り処としての貯蓄の評価については、貯蓄そのものだけでなく、『負債』についても見ていく必要がある。貯蓄・負債ともに、このブログ記事に記したリンク資料元を適宜参照されたい。

財政難が当分続く少子高齢社会への深みに入りつつある日本において、将来の社会保障財源の在り方を考える時、現役世代から退役世代への所得移転だけでは到底賄い切れないことは周知のこと。退役世代にはその退役世代間での相互扶助をしてもらうのが、社会保障システムと財政の持続可能性を維持する唯一の手段なのだろう。



<資料1>

(出所:総務省統計局資料


<資料2>

(出所:総務省統計局資料


<資料3>

(出所:総務省統計局資料

新たな認知症リスク ~ 保護先の生活費は誰が負担すべきか?

2014-05-15 23:38:08 | 日記
今日の毎日新聞ネット記事によると、台東区の認知症の女性(67)が2007年に館林市内で保護され今月12日まで身元不明のまま民間介護施設に入所していた問題で、女性の7年間の生活費が市から家族に請求される可能性があるとのこと。


<記事抜粋>
・07年10月に女性が保護されてから数週間は市が全額負担。その後、施設を居住先として仮の名前で市が住民票を作成、生活保護費を支給。
・保護当時は要介護3、現在は要介護5。介護保険は適用されず、全額が生活保護の介護扶助として施設側に支払われてきた。
・生活費用は、現在は月額30万円、7年間で総額1000万円以上。
・市の担当者は「本人や家族に資産があることが判明した場合、市が立て替えた費用の返還をお願いするのが原則」「前例がなく、我々の対応が今後のモデルになり得る。県や国の指導を仰ぎ、どのように対処すべきか慎重に判断したい」。
・田村厚生労働相は「どういう解決方法があるのか検討する」。
・群馬県内のある行政関係者は「今回のケースを知って『認知症の家族を見捨てても、行政が金を出して施設が世話をしてくれる』と考える人が出てこないか心配だ」。


先のブログ記事でも書いたが、認知症が原因で徘徊し、家族らが行方不明者として警察に届け出た人の数が、2012年に全国で延べ9607人に上っている。下の資料〔=行方不明者の状況(原因・動機別)〕にある通り、警察庁の調査では、平成24年から新たに『認知症』のカテゴリーが追加された。

徘徊を未然防止したり、徘徊しても所在をすぐに把握できるようにするのであれば、GPS技術などを活用した新システムを構築することが不可欠になってくるはずだ。プライバシー云々の問題提起もなされるだろうが、認知症による行方不明者を極力出さないようにしていくには、綺麗事は言ってもいられなくなる。

上記記事にあるような場合も含めて、認知症の行方不明者に係るケア費用負担の在り方については、政府としてきちんと制度化することを真剣に検討すべきだ。基本線としては、介護保険制度の枠内で手当することが妥当であり、認知症対策拡充のためには保険料率引上げも十分あり得る。

家族への請求に関しては、一定の自己負担額相当分は考えられなくもないが、実際には制度的にも現実的にも無理筋と思われる。行方不明になった家族がどこかでケアを受けていることを期待して、後日所在がわかった際にそれまでの費用を負担することを想定してその分を貯蓄している人がそうそういるとは思えない。介護は他人に委ね、介護コストは広く社会全体で賄うというのが、少子高齢社会を生き抜いていく上での次善策なのではなかろうか。



<資料:行方不明者の状況(原因・動機別)>

(出所:警察庁資料

生活保護分野には未だアベノミクスの効果は見えず ~ 生活保護受給者数(平成26年2月分)

2014-05-14 20:54:05 | 日記
先のブログ記事の続編。今回は今年2月分の生活保護・被保護者調査だが、過去最高は更新しなかった。受給世帯は159万8818世帯で、過去最高だった前月に比して368世帯減った。

生活保護受給者・受給世帯数の増減の理由は様々だろうが、先のブログ記事などでも書いたように、これまでの経済対策も含めた歳出規模の伸びにかかわらず、生活保護に関連する指標は改善の兆しがあるとはとても言えない。

アベノミクスが始まったとされる昨年初め頃からの推移を見ても、ゆっくりとした悪化傾向を示してきている。過去の数々の景気対策が生活保護に係るデータ面での改善効果を示せなかったのと同様、アベノミクスも生活保護分野に効いているとは言えない。生活保護分野の改善は、景気・経済対策ではなく、全く別の政策を採る必要があるのだろう。



<資料>

(出所:厚生労働省資料

アベノミクスの経過 ~ 正規58万人減・非正規100万人増

2014-05-13 23:58:10 | 日記
総務省統計局が今日発表した「労働力調査(詳細集計)2014年1~3月期平均(速報)」の概要は次の通り。


・正規は3223万人、前年同期比58万人減、5期連続減
・非正規は1970万人、前年同期比100万人増、5期連続増
・非正規割合は37.9%、前年同期比1.6ポイント上昇、5期連続上昇
・完全失業者は239万人、前年同期比38万人減(うち失業期間が「1年以上」は前年同期比19万人減の90万人)
・非労働力人口は4550万人、前年同期比10万人減(うち就業希望者は443万人、前年同期比3万人減。就業非希望者は3986万人、前年同期比25万人減。就業非希望者のうち「65歳以上」は62万人増)


アベノミクスが始まってからの雇用情勢は“良し悪し混交”と言える。完全失業者数も非労働力人口も減ってはいるが、非正規が増えて、正規が減っている。この調査によると、雇用者数における正規・非正規の割合は62:38にまでなっており、四半期5期連続で非正規割合は高まってきている。

非正規という雇用形態が増えていることを憂う向きが多いようだが、非正規について現職の雇用形態に就いた主な理由については、下の資料にある通りだ。「自分の都合のよい時間に働きたいから」が24.6%、「家計の補助・学費等を得たいから」が21.8%、「正規の職員・従業員の仕事がないから」が18.9%となっている。

つまり、正規の仕事がないから仕方なく非正規という雇用形態に就いているのは最多の理由ではなく、2割にも満たない。「家事・育児・介護等と両立しやすいから」が11.0%とあるが、これには積極的理由と消極的理由の二つがあるだろう。いずれにせよ、これは今後増えていくだろうから、消極的理由の人々のためにも保育サービスや介護サービスに係る公的支援策への門戸を広げておく必要がある。



<資料:現職の雇用形態についた主な理由別非正規の職員・従業員の内訳(2014年1~3月期平均)>

(出所:総務省統計局資料

年金制度 ~ 支給開始年齢と平均寿命の国際比較

2014-05-12 01:12:15 | 日記
先のブログ記事の続編。年金制度で国際比較をしてもあまり意味はないとは思うのだが、厚生労働省から下の資料〔=支給開始年齢と平均寿命の国際比較〕が提示されている。

年金支給額など詳細な部分での違いはあれど、支給開始年齢と平均寿命という点では、日本も欧米諸国もそれほど大きな差異はない。各国の年金制度は、単に財政事情だけでなく、それぞれの国の社会保障政策に係る思想哲学が色濃く反映される。もっとも、それは他の政策にも共通していることだ。

当面、少子高齢化では世界最先進国になり続ける日本。他国の年金制度を参考にしつつも、年金制度や医療保険制度など財政支出規模の大きな社会保障制度については、財政支出規模の抑制又は削減という『大ナタ』を振るう必要が出てきて久しい。その大ナタは、どのような大きさであっても、政治的には大ナタになってしまう。

だから、徐々にやっていくしかない。それは世界各国共通のことである。



<資料>

(出所:厚生労働省資料

長生きリスク ~ 「平均寿命の伸び」と「年金受給期間の伸び」

2014-05-11 21:45:28 | 日記
今日の日本経済新聞ネット記事毎日新聞ネット記事朝日新聞ネット記事などで既報の通り、田村厚生労働相が、公的年金の受取り開始年齢(支給開始年齢)について、個人の判断で75歳まで先送りできるよう検討する方針を明らかにしたとのこと。


<日経記事概要>
・厚労相「今も70歳までは選択で引き上げられ(受給開始後に)毎月もらえる額は増える。75歳まで選択制で広げる案が与党から出ており、一つの提案だ」、「67歳、70歳になるまでもらえないのは、国民の反発が非常に大きい」。
・政府与党内には主要国並みに受取り年齢を一律で67~68歳まで引き上げる案がある。
・現在、受取り開始年齢は国民年金が65歳。原則60歳だった厚生年金は男性が2025年度、女性が30年度までに65歳まで段階的に引き上げ。
・多くの人は受給開始年齢で年金をもらい始めるが、個人判断で受取り年齢を遅らせ、実際の受給開始後にもらえる額を増やす仕組みがある。
・今年は5年に1度の財政検証の年。社会保障審議会で年内に受取り年齢を含めた年金改革の方向性を示す。


国民年金の支給開始年齢は、制度発足当初より65歳。厚生年金の支給開始年齢は、制度発足当初は55歳だったが、その後の累次の改正により65歳に向けて徐々に引き上げられてきている。厚生年金の支給開始年齢引上げに関する経緯は、下の資料1の通り。

では、年金受給期間がどうかと言えば、下の資料2にあるように、平均寿命は順調に伸びてきている。以前から散々言われていることだが、平均余命が伸びてきたのだから、年金支給開始年齢を引き上げるのは、数字の上では正論であろう。しかし、政治的に非常に難しいことも以前からわかっている。国が国民に対して再び嘘をついたことになるからだ。

記事にある厚労相発言のうち「国民の反発が非常に大きい」というのは、年金受取りがそう遠くない時期に来ている有権者の反発が非常に大きいということなのではないか。自分もそうであるが、公的年金制度の恩恵に浴することができると本気で信じている現役世代がどれだけいるだろうか。

厚生年金保険制度が本格的に発足したのは戦後の昭和29年(1954年)で、その頃の平均寿命は男64歳・女68歳で、支給開始年齢は60歳であった。これが今では平均寿命が男80歳・女86歳で、支給開始年齢が60~65歳。単純に、年金受給期間が増えている。それだけ医療費も嵩む。更に少子高齢化がまだまだ進むことが確実視されている。

労働力の確保や社会保障財政の健全化のためには、社会保障に係る高齢者区分を65歳から引き上げるしかない。これと合わせて、年金支給開始年齢も引き上げていく必要がある。究極的には、『一人当たりの年金受給総額規制』ということになるだろう。全員が納得できる話ではないにしても、全員が理解できる話であるはずだ。

要するに、“長生きリスク”の拡大なのである。公的年金への依存度を少しでも小さくしておくことが、当面の現役世代の長生きリスク回避方法となる。



<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:平成25年版厚生労働白書

「健康寿命延伸社会」への険しい道(上)~(下)

2014-05-10 11:47:40 | 日記
【朝日新聞WEBRONZA】


「健康寿命延伸社会」への険しい道(上) 厚労省プラン「医療費・介護費の効果額5兆円」の2倍増を目指せ

「健康寿命延伸社会」への険しい道(中) 医療・介護費用の合理化と認知症対策

「健康寿命延伸社会」への険しい道(下) 目指せ生涯現役、後発医薬品、ICTの活用も


日本の家族類型 ~ 平均世帯人員も単身世帯割合も国際的には中程度

2014-05-09 15:28:02 | 日記
先のブログ記事に掲載した資料〔=資料2〔=世帯主65歳以上・75歳以上の世帯の家族類型別世帯数、割合(2010~2035年)〕によると、日本では2010年→2035年で、65歳以上の世帯における単独世帯割合は30.7%→37.7%、75歳以上の世帯における単独世帯割合は36.8%→39.7%となる見通しだ。近い将来の日本では、いわゆる高齢者世帯の4割弱が単身世帯になっていくようだ。

では、こうした傾向は世界的にはどうなのか。年齢を問わず全ての世代での統計で見てみる。下の資料1は国際比較、資料2は日本の一般世帯数での将来見通しである。現時点における国際比較では、日本の単独世帯割合はそれほど高いとは言えない。平均世帯人員も、高くもなく低くもなくといった感じだ。

日本での単独世帯数割は、2010年→2015年→2025年→2035年で、32.4%→32.0%→32.0%→32.0%と見通されている。高齢者世帯での単独割合と照らし合わせてみると、日本での単身世帯割合は概ね3~4割程度で推移していくだろう。

平均世帯人員も、単身世帯割合も、国際的には高くもなく低くもないようだ。これに関する“国際標準”などというものはない。日本は日本の事情を慮りながら、独自に必要な施策を行っていくべきだ。



<資料1>

(出所:国立社会保障・人口問題研究所資料


<資料2>

(出所:国立社会保障・人口問題研究所資料

『死にたい場所』と『死に場所』

2014-05-08 22:00:57 | 日記
先のブログ記事などでも書いたことだが、『死に場所』については、自宅が減って1割程度に、病院が増えて8割程度になっている。今後の死亡者数推移などは下の資料1〔=死亡場所別、死亡者数の年次推移と将来推計〕のように見通されている。

これまでの傾向を考えると、何らかの政策的誘導でもしない限り、『死に場所』が病院となる場合が、人数・割合ともに高止まっていくのではないだろうか。他方で、『死にたい場所』として挙げられるのは、先のブログ記事の資料〔=最期を迎えたい場所〕にある通り、自宅が5割半程度、病院が3割弱となっている。

少子高齢化は確実に進んでいくため、下の資料2〔=世帯主65歳以上・75歳以上の世帯の家族類型別世帯数、割合(2010~2035年)〕にある通り、高齢者単独世帯の数も割合も、現在より相当高まっていく。これらを単純に当てはめ合って考えると、『死にたい場所』が自宅であるとなると、自宅は『独りで死にたい場所』となってしまう。

病院よりも在宅の方がコスト合理性があるとされているので、介護・医療財政との兼ね合いも重々考慮していく必要がある。そうなると、独りで死ぬのは寂しいことなのだろうと想像してしまうが、それを覚悟するか、IT武装してバーチャルでは独りではない環境を作っておくか等々、今から本気で考えておかなければならない。少なくとも、自分はそうする。



<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:国立社会保障・人口問題研究所資料

『私の終末期医療への要望』を考えてみた・・・

2014-05-07 21:29:58 | 日記
内閣官房が主宰する「国・行政のあり方に関する懇談会」(第8回)では、下の資料1〔=私の終末期医療への要望〕が事務局より提示されていた。同時に、この国の現在及び将来の社会保障費用見通しとして、下の資料2〔=社会保障給付費の推移〕も出されていた。

日本の社会保障費の将来像に照らして考えながら、今の現役世代や退役世代が『私の終末期医療への要望』を書いてみると、どのような結果となるだろうか。終末医療は医療の一部に過ぎないが、それも含めて年金・医療・介護・生活保護の中の高齢者向け財政支出が社会保障費の増加をもたらしていることは、ここで詳しく説明するまでもない。

そういう視点で『私の終末期医療への要望』を考えていくと、終末期医療だけではなく、「高齢者向け財政支出全般への要望」まで拡げて考えてみるべきではないだろうか。財政見通しは、国の持続性を計る有力な指標の一つだ。将来の子孫たちの苦楽の度合いに直結することなので、今が良ければ良しとはいかない。

実際、高齢者人口密度の高い『街』を人工的に創っていくしかないと思う。



<資料1>

(出所:内閣官房「国・行政のあり方に関する懇談会」(第8回)資料より)


<資料2>

(出所:内閣官房「国・行政のあり方に関する懇談会」(第8回)資料より)

介護保険政策の究極目標 ~ 現役労働力世代を救うのは『介護休業ゼロ化』

2014-05-06 21:54:39 | 日記
今朝の朝日新聞ネット記事によると、朝日新聞が全国の主要100社を対象に実施したアンケートでは、9割が介護休業期間を法定日数より延長しているとのこと。


<記事要旨>
○育児・介護休業法は、要介護状態の家族1人につき通算93日の介護休業と年5日の介護休暇を認めている。短時間・フレックス勤務なども企業に義務。
○アンケートの結果、介護休業期間について、独自に延長している企業が84社(90%)。最長は3年でサントリーホールディングス、コマツ、三菱地所、東京ガス。2年以上3年未満も7社。最多は休業期間1年とする企業で、3分の2を占める62社。


先のブログ記事でも掲載したが、「過去5年間に介護・看護のため前職を離職した者は48万7千人」であることから、『介護離職は年間10万人』と最近しばしば言われる。親の介護は子どもが行うべきと考える現役世代の人が多いからか、要介護者の親を抱えていると職場で不利になるからか、幾つかの要因が指摘されている。

介護保険制度の趣旨は、いわば『介護の外部委託化(アウトソーシング)』を社会的に浸透させていくことだ。施行されて既に14年が経過しようとしているが、自分の周囲のことを考えても、介護保険制度の利用方法や相談窓口は案外知られていないのではないだろうか。

介護保険制度の周知も含めて、職場において介護保険制度に関するコンシェルジェのような存在を内製化するか外部委託するか、何らかの制度化が必要だろう。労働力不足社会の日本は、『介護離職ゼロ化』、更には『介護休業ゼロ化』を目指すべきだ。企業にとって必要な人材の介護離職や介護休業をゼロ化することは、産業競争力の維持と介護サービス産業の発展に資する。

もっとも、介護保険財政を慮れば、介護保険サービスの費用対効果を極力高いものにしていく改革を大胆に進めていくことも必要だ。そのためには介護保険財政の持続可能性を重視する必要がある。具体策としては、既設の設備・施設の活用を原則化することや、高校・大学の履修単位化、現役・退役を問わず介護労働ポイント制度化など、でき得る全ての仕組みを用意しておくべきである。



<資料>

(出所:総務省統計局資料

“認可保育所の待機児童”の6割解消 ~ 『潜在的待機児童』の解消には程遠い

2014-05-05 22:39:06 | 日記
今朝の日本経済新聞ネット記事では、政府が「待機児童ゼロ」の目標として掲げる2017年度までに保育サービス大手主要4社だけでも160カ所を新設、待機児童の6割強に相当する約1万4千人分の利用枠を設けるとのこと。


<記事抜粋>
・国が昨年、株式会社による保育所の運営を認めるよう自治体に通達を出したことなどが背景。
・認可保育所に入れない待機児童数の直近ピークは10年の2万6千人。減少傾向にあるが高水準。
・社会福祉法人各法人とも財政余力に乏しく、営利目的で運営していないこともあり、新設は年1、2カ所にとどまる。
・保育サービス大手のJPホールディングス、こどもの森、サクセスHD、アートチャイルドケアは3月末時点で計260カ所の認可保育所を運営。17年度末までに施設数を13年度末と比べて6割増やす。
・15年度から子育て支援制度に消費増税分から年間7千億円。
・保育士不足は深刻で、厚労省は17年度に7万4千人の保育士が足りなくなると予測。「潜在保育士」60万人程度いるとされる。


保育サービスの拡充に民間の力を活用することは望ましいことであり、その点においても、この記事にある民間保育サービス大手各社の動きが歓迎すべきものだ。しかし、“認可保育所の待機児童”だけを施策の対象としているという本質的な問題に関しては、解決の方向性が見出されていない。

別の寄稿で書いたように、私が試算するだけでも『潜在的待機児童』の数え方は複数ある。厚労省が“認可保育所の待機児童”として発表するのは数万人単位であるが、私が試算するといずれの場合でも『潜在的待機児童』は数百万人単位となる。

この日経新聞記事にあるように、“認可保育所の待機児童”の6割強に相当する1万4千人分の利用枠が設けられることはもちろん喜ばしいことではある。だが、残り4割弱の分はもちろんのこと、それとは比較にならないほどに多くの『潜在的待機児童』の解消に向けて、厚労省は先ず『潜在的待機児童』を早急に数え始めるべきだ。政策対象の数をきちんと把握しなければ、その政策は大成しようがない。

政府の人口維持目標 ~ 『2060年代に1億人程度』への道筋

2014-05-04 07:53:13 | 日記
今朝の日本経済新聞ネット記事によると、政府が「50年後(2060年代)に人口1億人程度を維持する」との中長期の国家目標を設けるとのこと。


<記事抜粋>
・合計特殊出生率は12年で1.41。60年に同2.07以上に引き上げ、人口1億545万人程度にすることを目指す。
・出生率改善のため、国費ベースで3兆円規模の出産・子育て支援の倍増を目指す。
・「資源配分は高齢者から子どもへ大胆に移す」「費用は現在世代で負担」と明記し、国債発行を前提に高齢者に厚く配分している社会保障予算を見直す。
・労働力に関する現行の統計とは別に新たな指標も。20歳以上70歳未満を「新生産年齢人口」と定義し、雇用制度などの社会保障政策を設計。
・外国人材の活用に関しては「移民政策としてではなく、外国人材を戦略的に受け入れる」とする。
・一連の改革は今後5年程度で集中的に具体策を検討し、実施する方針。


このブログで再三再四提言してきたことが、ようやく政府中枢から本格的に政策案として提起されることを期待したい。人口を維持していく方策には多くの手法が考えられてきたが、要するに、若年現役世代の負担をいかに軽くしていくかである。そして、そのための社会インフラとしての子ども子育て制度や介護制度に関する諸改革が必須となる。

この記事では「国費ベースで3兆円」との数字が書かれているが、例えば、保育分野では先のブログ記事で書いたように、「必要となる保育士」46万人分の給与を全産業平均と同程度にする費用は年間1.7兆円、或いは介護分野では先のブログ記事で書いたように、介護職の給料引上げを試算してみると年間1兆円で全産業平均に並ぶことなどからしても、妥当な数字の単位と思える。

事ここに至っては、骨太の方針においてどのような作文がなされようとも、財源の在り処である年間100兆円を上回る高齢者向けを中心とした“年金・医療”に係る財政支出の削減に依る以外に妙案はない。有権者の多くを構成する高齢者に対してする政治的説得を、今後中長期に亘って行っていくしかない。それが、人口維持目標に向かう唯一の道筋ではないだろうか。

別の寄稿を始めとしてこのブログでも何度か書いてきたことだが、現在の一般的な高齢者の年齢区分である「65歳以上」を「70歳以上」、「75歳以上」、「80歳以上」に引き上げていく必要に迫られる時が来るだろう。全体の人口構成が高齢化するとなれば、高齢者・高齢世帯の定義も同様に高齢化させていくべきだ。

そして、遠からず日本は「64歳以下が65歳以上を支える国」から『69歳以下が70歳以上を支える国』になり、次に『74歳以下が75歳以上を支える国』になっていかざるを得ない。今の高齢世代は逃げ切るから、数十年後に高齢世代となる我々は覚悟しておかなければならない。だから、今から準備しないといけない。

東京都の保育士に係る実態調査 ~ 「退職を考えているのが2割」は高いか低いか

2014-05-03 20:13:20 | 日記
本日のNHKニュースによると、東京都に登録している保育士の2割が退職を考えていることが実態調査で分かったとのこと。


<報道概要>
・都は、都に保育士登録をしている3万1550人を対象に実態調査。
・現在保育の仕事に就いているのは53%、過去保育の仕事に就いたが19%、保育士として働いたことはないが26%。
・現在保育士の仕事に就いている人のうち仕事を続けたいと答えたのが79%、退職を考えているが18%。
・退職を考えている理由は複数回答で、「給料が安い」65%、「仕事量が多い」52%、「労働時間が長い」37%。




先のブログ記事などでは、保育士を希望しない理由で最も多いのが「賃金が希望と合わない(47.5%)」であり、「他職種への興味(43.1%)」、「責任の重さ・事故への不安(40.0%)」、「自身の健康・体力への不安(39.1%)」がこれに次いでいることを書いた。賃金水準が就業動機の全てだとは言わないが、賃金水準が就業動機の相当部分を占めていることは容易に窺える。

賃金水準が就業動機において重要な要素であることは、どの業種にも通じることであろう。保育士とて、それは言えることだ。そういうデータから考えると、現職の保育士のうち退職を考えている割合が2割程度というのは、それほど驚くような話でもない。

むしろ、先のブログ記事などで提起しているように、保育士への人件費補助を大胆に拡充していくようにすべきだ。財源は、社会保障費用のうちから捻出するのが筋であり、それは総額100兆円を上回る高齢者向けを中心とした“年金・医療”に係る財政支出の削減に依るしかない。

社会保障制度によって支えられる側が、社会保障制度を支える側に対して過度の負担をかけ始めて久しい。国の持続可能性は、退役世代ではなく、現在の現役世代と将来の現役世代に左右される。国として優遇すべき世代が現役世代であるべき理由は、そうした点にもあるからだ。

“雇用情勢改善”と景気停滞感のアンバランス

2014-05-02 20:40:31 | 日記
総務省統計局が今日、労働力調査の2013年度平均2014年1~3月期平均2014年3月分を発表した。それぞれの概要は次の通り。


<2013年度平均>
 ・就業者数6322万人(前年度比47万人増)
 ・完全失業者256万人(前年度比24万人減)
 ・完全失業率3.9%(前年度比0.4ポイント低下)

<2014年1~3月期平均>
 ・就業者数6281万人(前年同期比42万人増)
 ・完全失業者数239万人(前年同期比38万人減)
 ・完全失業率3.7%(前年同期比0.6ポイント低下)

<2014年3月分>
 ・就業者数6298万人(前年同月比52万人増。15か月連続増)
 ・雇用者数は5541万人(前年同月比56万人増)
 ・完全失業者数246万人(前年同月比34万人減。46か月連続減)
 ・完全失業率3.6%(前月と同率)


このブログでもしばしば掲載しているもので、2012年からの毎月の推移を見た直近のものは下の資料の通り。先のブログ記事などでも書いているが、賃金水準という点でアベノミクスの効能が現れているとは言えない。マクロ雇用情勢という視点では、安倍政権になってから好い傾向は着実に続いている。もちろん、個別のミクロ雇用情勢には差異があり、業種間での『雇用情勢格差』となって現れる。

今日の日本経済新聞ネット記事にあるような「雇用情勢は着実に改善が進んでいる」との政権側の評価について、それ自体は間違ってはいない。しかし、経済指標や賃金指標に改善の兆しが見られないので、国民経済社会全体の景気浮揚感は殆どないだろう。雇用情勢の改善傾向が景気停滞感の中で浮遊しているというアンバランス。

どの指標に注目するかで評価は変わってくるが、一般的に最も景気動向を体感させるのは実質GDPや賃金の水準のはず。第三の矢とそれ以降に実がないものばかりなのが痛い。それでは実質GDPも賃金も低位固定が精一杯だ。社会保障制度改革や原子力発電再開など英断を要する施策が打たれなければ、数字で現れようがない。経済は数字であり、数字は経済である。



<資料>

(出所:総務省統計局資料