消費増税の可否判断の材料(2) ~ 実質賃金は上がった下がったか?(平成26年10月 月例労働経済報告)

2014-10-25 14:02:15 | 日記
先のブログ記事の続編。厚生労働省が昨日発表した『平成26年10月 月例労働経済報告』によると、今年8月の労働経済面を見ると、雇用情勢は改善しているように見える。


《平成26年8月の指標》
・完全失業率(季節調整値)は3.5%(前月より0.3ポイント低下)
・就業者数(季節調整値)は6,362万人(前月より9万人増加)
・雇用者数(季節調整値)は5,606万人(4ヶ月ぶりの減少(前月差7万人減))
・有効求人倍率(季節調整値)は1.10 倍(前月と同水準)
・新規求人倍率(季節調整値)は1.62倍(前月差0.04ポイント低下)
・現金給与総額(原数値)は273,569円(前年同月比0.9%増)
・現金給与総額(実質賃金指数)は82.6(前年同月比3.1%減)


どの指標を以て労働経済醸成を評価するかは、その時々の政治判断によるだろう。しかし、国民が最も景気動向を体感するのは給与水準と思われる。その観点からは、「現金給与総額」について、原数値の前年同月比が0.9%増であっても、実質賃金指数の前年同月比が3.1%減であることは、決して景気好転とは感じられないだろう。こうした最も重要なことを前面に押し出さずに、単に雇用関連指数や給与総額の原数値が改善していると発しても、結局は見透かされることになる。下の資料を参照されたい。

全てを堂々と語った上で、社会保障財源確保策のための消費増税であることを、再度きちんと説明していくべきだ。社会保障費用が他に類なき著しい伸びを示しており、今後も更にその傾向が続くことは、誰でもわかっていることだからだ。



<資料>

(出所:厚生労働省『平成26年10月 月例労働経済報告』)

介護保険サービス需要は増加傾向を続ける ~ 介護給付費実態調査月報(平成26年8月審査分)

2014-10-23 23:24:31 | 日記
先のブログ記事の続編。厚生労働省が今日発表した『介護給付費実態調査月報(平成26年8月審査分)』によると、直近の動きは次のようなもので、最近の受給者数の月次推移は下の資料の通り。

1)受給者数:介護予防サービ1,199.1千人、介護サービスで3,853.5千人
2)受給者1人当たり費用額:介護予防サービス40.9千円、介護サービス193.4千円

当然のことながら、介護サービス受給者数については増加傾向が継いている。介護保険財政の持続可能性を慮れば、「受給者1人当たりの費用額」の上昇をいかにして抑制又は削減していくかが最大の課題であり、今後ともそうであり続けるだろう。

受給者数は今後とも漸増していくと見込まれ、そういう中で介護保険財政の持続性を維持するには、「受給者1人当たりの費用額」の漸減は必須となる。医療給付にも通じることだが、介護給付について『総額規制』を強行するための素地が敷かれ始めるのは、そう遠くないのではないだろうか。

本当は、今すぐにでも介護サービスの『総量規制』を実施すべきである。医療はとっくに切羽詰まっている。医療サービスに先行的に『総量規制』を導入するか、又は医療サービスと同時に『総量規制』を導入するか、いずれにせよその実施は遅きに失しかねない状況にある。



<資料>

(出所:厚生労働省『介護給付費実態調査月報(平成26年8月審査分)』)

国民年金保険料の納付率向上は無理な願望 ~ 積立方式への再修正が信頼回復への早道

2014-10-22 23:10:55 | 日記
厚生労働省が今日発表した『平成26年8月末現在 国民年金保険料の納付率』によると、平成26年8月末現在の国民年金保険料の納付率に係る概要は次のようなもの。

○平成24年度分(過年度2年目)の納付率は65.4%(24年度末から+6.4ポイント)
○平成25年度分(過年度1年目)の納付率は63.4%(25年度末から+2.5ポイント)
○ 平成26年4~7月分(現年度分)の納付率は56.4%(対前年同期比+1.6%)

国民年金保険料の直近の納付率は下の資料〔=国民年金保険料の納付率(現年度分)の推移〕にある通り。これを見ると、国民年金制度が“破綻状態”にあることは一目瞭然だ。国民年金保険料を納付していない人については、その気力がないのか、その能力がないのか等々幾つかの理由があるのようだ。とにかく、公的制度に必要な公平性の観点からは、国民年金制度は既に不公平極まりない状況になっている。

国民年金制度は、年金制度全体の中でどのような位置にあるのか。年金制度は非常に複雑だが、先のブログ記事の資料2〔=費用負担の仕組み〕と資料3〔=公的年金全体の流れ〕を見ると、国民年金や厚生年金の位置付けが一応わかる。同資料4〔=年金特別会計(平成24年度当初予算)〕を見ると、単年度の年金財政規模がわかるが、その【歳入】の中の「国民年金勘定」のうち「保険料収入(16,245億円)」が上記の納付率を算出する素となる国民年金保険料である。

年金特別会計の全体規模からすると、国民年金保険料収入の割合は数%程度でしかない。今更言っても仕方ないことだが、もともと賦課方式も修正賦課方式も、年金制度を持続ならしめるものではない。それが顕在化して久しい今、国民年金保険料の納付率が低いことに対して、どのような政策的手立てを講じるべきなのか。それは、国や自治体が納付率向上のための呼び掛けをし続けることなのか。

このような不公平な状況を放置すべきでないという理由も含めて、積立方式に移行すべきとの機運が醸成されるのは必然のことだ。人口ピラミッドの形が逆転しつつある時代における年金制度は、現行制度の基本である“世代間扶助”の機能強化ではなく、自己責任原則を基本とする制度へと『再修正』していく改革が必要である。

国民年金制度は現行のまま存続する間は、年金行政側が国民年金保険料の納付率を上げるべく取立・回収に勤しむのは当然のことではある。しかし、実際には国民年金保険料の納付率を100%に近付けることは無理筋に思える。下の資料からも、実は多くの人々はとっくにそのことに気付いているのではなかろうか。

国民年金保険料の納付率向上ではなく、修正賦課方式から積立方式への再修正が最も早道だ。それには相当の時間を要する。永遠に終着点に辿り着くと思えない納付率100%への道よりは、政策的にも遥かに優位に立っていることも間違いない。



<資料>

(出所:厚生労働省資料

5月1日の総人口:1億2710万人(前年比21万人減)、うち65歳以上3257万人(前年比108万人増) 

2014-10-20 20:38:17 | 日記
総務省統計局が今日発表した『人口推計(平成26年10月報)』によると、今月1日現在の概算値と去る5月1日現在の確定値は、それぞれ次の通り


【平成26年10月1日現在(概算値)】
○総人口:1億2709万人(前年同月比21万人減(0.17%減)

【平成26年5月1日現在(確定値)】
○総人口:1億2709万8千人(前年同月比21万2千人減(0.17%減))
 ・ 0~14歳人口 1629万9千人(前年同月比16万6千人減(1.01%減))
 ・15~64歳人口 7822万6千人(前年同月比112万9千人減(1.42%減))
 ・65歳以上人口 3257万3千人(前年同月比108万3千人増(3.44%増))
○日本人総人口:1億2549万5千人(前年同月比25万9千人減(0.21%減))


総人口の推移は下の資料にあるように、減少傾向の真っ只中にある。今後長期的にも、この傾向が続く。既にわかっていることではあるが、65歳以上は増え、65歳未満は減っている。今後更に少子高齢化が進むことになるが、「65歳」という区切りを「70歳」にまで上げていくことになる可能性がある。

先のブログ記事でも健康寿命について書いたが、健康寿命が延伸していくようであれば、「65歳」は引き上げざるを得なくなる。退役年齢が高くなれば、現役での出世速度はその分だけ遅くなる。現役期間の長期化とは、そういうものであろう。



<資料>

(出所:総務省統計局『人口推計(平成26年10月報)』)

消費増税の可否判断の材料(1) ~ 給与額は上昇、実質賃金は下降(平成26年8月 毎月勤労統計調査)

2014-10-17 22:45:31 | 日記
厚生労働省が今日発表した『毎月勤労統計調査 平成26年8月分結果確報』によると、去る8月の給与水準について報告がなされている。安倍政権は、来秋の消費増税(税率8%→10%)の判断について、今年7~9月の経済指標を基にすることになっている。

そもそも、社会保障に必要な安定財源を確保するための消費増税を短期的な経済動向で判断することは奇妙ではある。だが、政治的にそう決まったので仕方ない。経済動向を示す指標には様々あるが、賃金水準はその最たるものになるであろう。そういう意味では、この8月分の結果による効果や影響は相当なものになるはずだ。

月間現金給与額はごく一部の業種を除いて、前年比でプラスになっている(資料1)。これは、これだけを見ると決して悪い数字ではない。むしろ、実態を反映していると思われる。しかし、名目賃金指数を消費者物価指数で除して算出した実質賃金の動きを見ると、ここ1年で明らかに下降傾向にある(資料2)。

これは、消費増税に対しては大きなマイナス材料となる。だからと言って、消費増税の回避を悦ぶべきではない。今後の社会保障財源が確定しないということだけではない。そのように判断しなければならないほど、経済事情が改善していない結果が数字で出ていることを憂慮せざるを得ない。そこで景気対策の大判振る舞いをするとしても、それは確実に短期的な税収減をもたらす諸刃の剣となる。

いずれにせよ政治判断に委ねられるわけだが、短期的経済指標だけで長期的財源確保策を決する愚挙から早々に脱しないと、いつまで経っても将来不安は解消されない。増税は嫌な事ではあるが、それをしないことによるリスクを数字で再度現していく必要がある。



<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:厚生労働省資料

老健入所者の退所先希望 ~ 「自宅」は本人が20~30%であるのに対して、家族はたった4~9%・・・ 

2014-10-16 23:36:33 | 日記
いわゆる介護保険3施設とは、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム(特養))、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設(介護療養病床)がある。利用者数(平成24年10月現在)で見ると、特養が約49.8万人、老健が約34.4万人、介護療養病床が約7.5万人となっている。詳細は資料1を参照されたい。

今日開かれた厚生労働省・社会保障審議会の第6回介護給付費分科会介護報酬改定検証・研究委員会で配布された資料『介護老人保健施設の在宅復帰支援に関する調査研究事業(速報版)』では、老健入所者の事情などについて興味深い調査結果が示されている。

このうち、資料2では入所目的についての調査結果が出ており、本人の事情としては「リハビリテーション」が58.3%で最多、家族の事情としては「自宅介護の困難」が85.2%で最多。また、資料3では、退所先の希望についての調査結果が出ており、本人の約20~30%が「自宅」を希望しているのに対し、家族が「自宅」を希望しているのは4~9%程度。

老健は在宅復帰を本来目的とする施設である。利用者やその家族が本当に理解しているか、理解はしていても在宅復帰はもともと念頭に置いてはいないのか等々いずれにしても、老健が終の棲家となりつつあることは数字により示されている。本人と家族の意識の相違は、特に驚くことではない。実際に自分の周囲での出来事を考えれば、退所先として積極的に自宅で歓迎する家族の割合が少ないのは、大いに頷ける。切ない話ではあるが、それが現実というものだ。

特養が老健化することはないだろうが、老健が特養化することは今後ますます増えていくと予想する。それを見据えた政策転換を明確に打ち出していくべきだ。もちろん、介護財政の持続性維持が大前提となる。そのためには、介護保険事業の質と量の一方又は両方に関して、必要な合理化も進めていくことになるだろう。介護保険事業は、ナショナルミニマムであって、ナショナルマキシマムではない。



<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:厚生労働省資料


<資料3>

(出所:厚生労働省資料

2013年 健康寿命・平均寿命ともに延伸 ~ 男71.19歳・80.21歳、女74.21歳・86.61歳 

2014-10-14 23:10:23 | 日記
厚生労働省は今月1日に開いた健康日本21(第二次)推進専門委員会で、日本人の「健康寿命」と「平均寿命」がいずれも延伸しているとの調査結果などを提示した。

健康寿命とは、日常的に介護を必要としない期間のこと。この調査によれば、2013年は男性71.19歳、女性74.21歳。2010年の前回調査に比べて男性が0.78年、女性0.59年それぞれ伸びている。平均寿命から健康寿命を差し引いた「日常生活に制限のある期間」は、男性9.02年、女性12.40年で、それぞれ前回調査から0.11年、0.28年短縮した(資料1・資料2)。

平均寿命と健康寿命との差が大きくなると高齢者の医療・介護費が増えるため、政府は2020年までに健康寿命を2010年の平均より1歳以上延伸する目標を掲げている(日本再興戦略 中短期工程表)。前回(2010年)と今回(2013年)で健康寿命が延伸した背景については、「概ね死亡率及び不健康割合が共に改善したこと」によるとされている(資料3)。

健康寿命の延伸は喜ばしいことだ。しかし、日常的に介護を必要とする期間が長期化する平均寿命の延伸については喜べない。健康寿命以降の期間をいかに短くし、尊厳ある最期を迎えることができるか ―― これが日本の抱える最大の課題であることは、健康な日本人の全員に共通の認識であるはずだ。

今の政治をこのまま続けると、“The road to hell is paved with good intentions”(地獄への道は善意で舗装されている)となる。このままでは、我々の世代ではそれをほんの少ししか体感しないだろうが、我々の子の世代はそれを強く体感し始めるだろう。だから、我々の世代で大きな痛みを凌いでいく必要がある。本格的な『改革』ができるとしても、“団塊の世代”以降での話にならざるを得ない。



<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:厚生労働省資料


<資料3>

(出所:厚生労働省資料

「老後」の在宅介護では誰から介護されたいか? 〜 「家族だけ」は1割弱、「家族+ヘルパー」は6割

2014-10-10 12:18:09 | 日記
先のブログ記事の続編。厚生労働省の『平成24年高齢期における社会保障に関する意識等調査報告書』では、年をとって介護が必要になり自宅で介護される場合の希望に関する調査結果が掲載されている。

それによると、「家族だけ」は8.1%しかないが、「ホームヘルパーなど外部の者の介護を中心とし、あわせて家族による介護を受けたい」(34.2%)と「家族の介護を中心とし、ホームヘルパーなど外部の者も利用したい」(27.1%)で、家族と外部の者の両方からの介護を受けたいというのが6割程度である(資料1)。年齢階級別では、それほど大きな差は見られない(資料2)。

先のブログ2記事(☆1☆2)でも書いたが、年をとって「介護を必要とする場合」にどのような場所で生活したいかについては、「住み続けた自宅」(18.7%)も含めて「在宅」での生活を望む者が43.1%で、また、年をとって「人生の最後をむかえるとき」にどのような場所で生活したいかについては、「住み続けた自宅」(37.5%)も含めて「在宅」での生活を望む者が41.3%と、いずれも4割が「在宅」を希望している。

そもそも在宅介護を受けたい人が4割程度でしかない中で、「家族だけ」での介護を希望するのが1割弱だということ。家族に迷惑をかけたくないという思いが出ていると思われる。自分の周囲を見ても、そういう人の方が多いのは確かではある。年齢階級別(資料2)では、仕事や家事に忙しい現役世代と退役世代・若年層の間で若干の違いが見て取れる。これは、実生活における関心事が年齢別で異なることを反映していると思われる。



<資料1>

(出所:厚生労働省『平成24年高齢期における社会保障に関する意識等調査報告書』)


<資料2>

(出所:厚生労働省『平成24年高齢期における社会保障に関する意識等調査報告書』)

1人当たり30万7500円 ~ 総額39.2兆円のうち22.1兆円・56.3%が65歳以上(平成24年度国民医療費)

2014-10-09 00:19:07 | 日記
厚生労働省が昨日発表した『平成24年度 国民医療費の概況』のポイントは次の通り。


◎平成24年度の国民医療費:総額39兆2117億円(前年度比6267億円増、1.6%増)、1人当たり30万7500円(前年度比1.9%増)
○制度区分別:「公費負担医療給付分」2兆8836億円(7.4%)、「医療保険等給付分」18兆5826億円(47.4%)、「後期高齢者医療給付分」12兆6209億円(32.2%)、「患者等負担分」4兆9296億円(12.6%)
○財源別:公費のうち「国庫」10兆1138億円(25.8%)、「地方」5兆321億円(12.8%)、保険料のうち「事業主」7兆9427億円(20.3%)、「被保険者」11兆1776億円(28.5%)、その他のうち「患者負担」4兆6619億円(11.9%)


平成24年度の国民医療費の総額は39.2兆円とのこと。この途方もなく巨額の金額をわかりやすく表現するために最もよく使われるのが、GDP(国内総生産)とNI(国民所得)に対する比率で、対GDP比8.30%、対NI比は11.17%。これまでの推移を示すと、平成に入ってから急増基調となっている。(資料1)。

国民医療費の内訳について様々な要素ごとに見ると(資料2)、医療財政構造を改革するのに必要なマクロ視点が自ずと醸成される。例えば、後期高齢者を始めとした高齢者の自己負担をどの程度引き上げられるか、年齢階層ごとに医療費総額をどの程度抑えられるか、財源として公費と保険料の比率をどのような形にしていくか、入院・通院など医科診療をどの程度抑えられるか、といったようなことであろう。

こうした改革の視点は、医療保険システムをいかに持続性あるものにしていくか、即ち費用負担の在り方をいかに適格なものにしていくかである。こうした危機感の原点は、将来の人口見通し(資料3)が起点であり終点である。医療サービスには費用がかかる。その費用を負担する人が相対的に少ない時代が続く限り、医療サービスは規制的に抑制していかざるを得ない。



<資料1>

(出所:平成24年度 国民医療費の概況


<資料2>

(出所:平成24年度 国民医療費の概況


<資料3>

(出所:国立社会保障・人口問題研究所HP

アベノミクスは生活保護改善に効能なし ~ 被保護世帯数160万超で過去最多・被保護実人員216万人超

2014-10-08 16:08:36 | 日記
厚生労働省が今日発表した『被保護者調査(平成26年7月分概数)』によると、被保護世帯数は約160万、被保護実人員は約216万。全体としては近年、横這いないし漸増で推移してきている(資料1)。

より詳しくは、今日の共同通信ネット記事にもあるように、被保護世帯数が160万8994世帯(前月比4580世帯増)というのは過去最多で、被保護実人員数は216万3716人(前月比4876人増)だった。被保護世帯数や被保護実人員数の増減の理由は政府の景気・経済対策と結果的に関連がないことは、これまでもこのブログで何回か書いてきた(資料2)。同様に、アベノミクスも生活保護分野の改善に効能を及ぼしているとは言えない。

高齢者世帯が被保護世帯全体に占める割合は、今後一層増えていくと見込まれる。上記の厚労省資料からわかるように、65歳以上の高齢者世帯が前月から2755世帯増えて75万5810世帯、全体の約47%を占める。扶助の種類では、生活扶助、住宅扶助、医療扶助の割合が大きい。

いずれの扶助も抑制していくことになるだろうが、個々の受給ごとに事情が異なるので、マクロ財政の視点から優先・劣後の順位付けをすることは極めて難しい。最終的には、例えば一人当たり受給額の総額規制など上限を設定するといった手法しかないだろう。これは、高齢者向け社会保障費に適用されるべきことでもある。



<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:厚生労働省資料

意外なデータ:若年労働者で「親」との同居は男41.4%、女54.2%

2014-10-07 21:06:59 | 日記
先のブログ記事の続編。先月25日に厚生労働省が発表した『平成25年若年者雇用実態調査の概況』では、若年労働者(15~34歳の労働者)の同居家族の状況について行った調査の結果が掲載されている。

家族と「同居している」75.6%、「同居していない」24.0%となっている。同居家族の続柄は、「親」が男41.4%、女54.2%でそれぞれともに最多。子が15~34歳であることを考えると、その殆どが、介護など『親の面倒を見る子』ではなく、『親の家に住まわせてもらっている子』なのではないだろうか。

特に30~34歳での「親」と同居が、男で30.8%、女で39.1%となっているのは、30歳を過ぎても経済的に自立できていない若年労働者が相当数存在していることを現していると言えよう。

雇用形態別で見ると、正社員では「親」と同居が41.2%、「配偶者」と同居が30.9%であるのに対して、正社員以外では「親」と同居が59.0%、「配偶者」と同居が19.4%となっている。正規・非正規の差は、こうした側面でも現れている。



<資料>

(出所:厚生労働省『平成25年若年者雇用実態調査の概況』)

「老後」で人生最期の時はどこに住みたいか? 〜 「在宅」が」4割、「病院」が3割

2014-10-05 10:29:30 | 日記
先のブログ記事の続編。厚生労働省の『平成24年高齢期における社会保障に関する意識等調査報告書』では、年をとって生活したいと思う場所についての調査結果が掲載されている。

このうち、年をとって「人生の最後をむかえるとき」にどのような場所で生活したいかについては、「住み続けた自宅」(37.5%)も含めて「在宅」での生活を望む者が41.3%、「病院などの医療機関」が27.9%となっており、「特別養護老人ホームなどの施設」は4.6%しかない(資料1)。年齢階級別では、高齢になるにつれて「住み続けた自宅」の割合が減り、「病院などの医療機関」の割合が増えている(資料2)。

先のブログ記事では、「老後」に介護を必要とする場合に住みたい場所について、「在宅」が4割、「施設」が3割という結果であったことをを載せた。上述のような「老後」で人生最期の時はどこに住みたいかとの問いには、「在宅」が4割というのは同じ程度ではあるが、「施設」は5%未満と少ない一方で「病院」が3割に上った。

病院など医療機関の役割は在宅回帰を目的としているが、介護は終の棲家であることを主な目標とする。人生最期の場所が病院でありたいとの希望が3割もあるのは、医療保険制度の本来目的に照らすと、全く合っていないことになる。病院を終の棲家にする方向で政策変更をするのであれば別だが、今の制度下では病院で最期を遂げる人数は減らしていく必要がある。病院など医療機関では、人生最期の時ではない患者への医療の方が圧倒的に多いからだ。

この場合、「在宅」と「施設」のいずれを増やしていくかは、介護保険財政見通しに大きく依拠する。少子高齢化が更に進んでいく中では、人生最期の時に近い人への介護ニーズと医療ニーズが重なる場合が増えていくと思われる。もっと切羽詰まってくれば、介護保険制度と医療保険制度の融合話が真実味を帯びて来るだろう。実は今でも切羽詰まってはいるのだが、既得権益の線引きの方が優先されている。

既得権益が高齢者層に比較的多いことを考えれば、ごく当たり前のことではある。だから、今の中年層が自分たちが高齢者層に入り込む数十年後のことを熟慮して、若年層への利権配分を厚くしていくようにしていかなければならない。団塊の世代が“逃げ切る”ことを前提とした改革を、今から数十年計画で徐々に実行していく必要がある。



<資料1>

(出所:厚生労働省『平成24年高齢期における社会保障に関する意識等調査報告書』)


<資料2>

(出所:厚生労働省『平成24年高齢期における社会保障に関する意識等調査報告書』)

『介護の景況感』は悪くない ~ 収支差率は全体的には概ね良好、給与費率はサービスごとに大差あり

2014-10-04 21:35:30 | 日記
今日の日本経済新聞ネット記事でも報じられているが、昨日開かれた厚生労働省・社会保障審議会の介護給付費分科会介護事業経営調査委員会(第11回)では、介護保険サービスの4類型(施設系サービス、通所系サービス、訪問系サービス、その他のサービス)ごとの収益率の差異を垣間見ることができる。調査結果のまとめの総括から抜粋した概要は、次の通り。


◎ 各介護サービスの収支差率は一部サービスを除き5%以上、10%以上となっているものもある。
(1)施設系サービスの収支差率はいずれも5%以上。施設系サービスの収入に対する給与費の割合は、前回調査と比べ、介護老人保健施設で上昇。
(2)訪問系サービスのうち、訪問介護、訪問入浴介護、訪問リハビリテーション、訪問看護ステーションの収支差率は5%以上。訪問系サービスの収入に対する給与費の割合は、前回調査と比べ、夜間対応型訪問介護、訪問リハビリテーションで上昇。
(3)通所系サービスの収支差率はいずれも5%以上、通所介護の収支差率は10%以上。
(4)その他のサービスのうち、複合型サービス、居宅介護支援の収支差率はマイナス、短期入所生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、小規模多機能型居宅介護の収支差率は 5%以上、特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護の収支差率は10%以上。その他のサービスの収入に対する給与費の割合は、前回調査と比べ、特定施設入居者生活介護で下降。

 
以上のことを視覚的に示したものが下の資料1・資料2。全体的には、『介護の景況感』は決して悪くない。収支差率(収入に対する利益の比率)は概ね良好だが、給与費率(収入に対する給与の比率)はサービス細目ごとに大差がある。

介護保険サービスは介護保険料と税金という公的資金を動力源とする一大市場を形成している。公的色彩の強い事業であるとは言え、サービス産業の一種であるので、事業採算性や給与水準など民間事業では当たり前の経営指標の良し悪しで事業体としての浮沈が決まる。

先のブログ記事などこのブログでは何回も書いてきたことだが、例えば、介護サービス産業における給与水準は他の産業との比較において非常に低い方にある。先ずはこれを是正していく必要があり、その財源をどこに求めるかについて、個々の介護事業者に委ねるか、一定のルールを敷くか、真剣に検討していくべきだ。十中八九、何らかルール化がなされるだろう。

少なくとも、上記の日経新聞ネット記事にあるような「
特養ホームには毎年生じる黒字をため込んだ「内部留保」が1施設あたり3億円、総額で2兆円もあるとの指摘がある。特養ホームを運営する社会福祉法人の団体は「施設の修繕や将来の建て替えに必要なお金だ」と主張するが、サービスや職員の給与にかかるコストを低く抑え利益を生んでいるとの見方もある」などと書かれないような業界体質にする方策を早急に用意しておくべきである。


<資料1>

(出所:厚生労働省資料


<資料2>

(出所:厚生労働省資料

アベノミクスの雇用環境への効能 ~ マクロでは好調傾向、ミクロでは好調・不調それぞれ

2014-10-03 17:21:41 | 日記
総務省統計局が先月30日に発表した「労働力調査(基本集計) 平成26年(2014年)8月分」によると、先月の就業者数や雇用者数、完全失業率などについては次の通り。

 ・就業者数6363万人(前年同月比53万人増、20か月連続増)
 ・雇用者数5600万人(前年同月比38万人増)
 ・完全失業者数231万人(前年同月比40万人減、51か月連続減)
 ・完全失業率(季節調整値)3.5%(前月比0.3ポイント減)

先の春闘の結果を見ていると、大企業や中堅企業の一部に関しては、賃金水準という点でアベノミクスの効能が現れていると言える。マクロ雇用情勢については、2012年からの毎月の推移(下の資料2~資料1)に見られるように、安倍政権になってから好い傾向は着実に続いてきている。

個別のミクロ雇用情勢はそれぞれ異なるので、『雇用情勢格差』も見られるところだ。更に例えば、正規の職員・従業員数は3305万人で前年同月比4万人減で、非正規の職員・従業員数は1948万人で前年同月比42万人増となっている。マクロ指標とミクロ指標を適切に抽出して比較しないと、適格な景況判断はできない。

アベノミクスへの評価としては、高いものもあれば低いものもある。各種の経済指標や賃金指標には、好調・不調がまちまちである。安倍政権の現下の最大の課題の一つは、法律上では来年10月に予定されている消費増税(税率8%→10%)の可否判断。

どの指標に注目するかで評価は違ったものになるが、一般的に最も景気動向を体感するのは、実質GDPや賃金の水準であろう。我々国民が特に肌で感じるのは賃金に違いない。先のブログ記事に書いたが、現金給与総額は前年同月比1.4%増で6か月連続増ではあるが、実質賃金指数(現金給与総額)は前年同月比2.6%減となっている。これは、消費者物価指数の前年同月比4.0%上昇が影響している。

実質賃金が上昇しないと、本質的には景況改善を感じ難い。そこに辿り着くまでには、今の傾向が続くにしても、まだかなりの時間を要すると思われる。消費増税は、そういう点での短期的影響を伴うものだ。消費増税が遅過ぎたことは、社会保障関連費用の見通しやこれまでの財政関連指標を見ればすぐにわかる。

だとしても、社会保障財源確保という長期モノのための消費増税でさえ、足許の短期的な指標で決められてしまう。これが日本の財政危機をじわじわと深いものにしてきた危機管理面での根源的欠陥である。



<資料1>

(出所:総務省統計局「労働力調査(基本集計)平成26年(2014年)8月分(速報)」


<資料2>

(出所:総務省統計局「労働力調査(基本集計)平成26年(2014年)2月分(速報)」)