介護保険制度を巡っては様々な課題があるが、その中でやはり一番大きなものは、介護保険財政が非常に厳しいということだろう。少子高齢化が確実に進みつつあり、介護保険サービス需要も相応に増え続けている。今後当面、その傾向に変わりはない。
介護保険サービスの根拠となっているのは介護保険法。その目的は次の通りで、とても崇高なものだ。
<介護保険法第1条(目的)>
この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
しかし、どんなに崇高な目的を持つ政策であっても、実際にそれを行うためのヒト・モノ・カネが十分になければ、中途半端な画餅で終わってしまう。介護保険サービス市場において最も大きな課題の一つは、介護人材がなかなか集まらないことと、その原因として介護賃金が低水準に留まっていることであろう。
厚生労働省資料によると、平均賃金では、「産業計」が32.4万円であるのに対して、「ホームヘルパー」は21.8万円と、その差額は10.6万円。私の試算では、介護職員(平成25年度現在で176.5万人)1人当たり月10.6万円引き上げるのに必要な予算額は、年間約1兆4千億円となる。
この財源をどこから捻出するかが最大の課題となる。本来であるならば、介護予算も含めた全ての予算について、いわゆる無駄の削減によって捻出すべきなのだろうが、それは事実上困難だ。介護が他の事業よりも優先順位が高いことについて、国民的合意を得ることは不可能に近い。社会保障費は、教育費や公共事業費、防衛費など他のどの予算よりも大きな支出額となっており、他の予算の削減分を財源とすることはまずできない。
あくまでも、社会保障費の中で予算額を調整するしか道はない。その場合、介護よりも支出額の大きい年金・医療からの財源転用があり得るが、これはこれで非常に難しい。介護が年金・医療よりも優先順位が高いことの説明がつきそうにない。だから、やはり介護保険財政の枠中で調整していくしか道はない。これを政策理念の観点から見ると、「国民皆介護」の修正となる。もともと、「国民皆介護」には無理があることは暗示されていたので、今後はそれを明示していくに過ぎない。「選択介護」にならざるを得ない。
更に、介護保険制度のもう一つの側面である「現役世代の負担軽減」という観点から考えると、「待機老人ゼロ」ではなく「介護離職ゼロ」を目標に据えていく必要がある。いわゆる介護離職は年間約10万人いるとの統計が出されている。昨年3月25日の厚生労働省資料によると、その時点で52.4万人にも上る待機老人をゼロにすることは、介護保険財政の規模からしても到底無理な目標であることは周知のことであり、それをいつまでも堅持することは、逆に介護保険サービス市場の持続可能性を削ぐことになりかねない。
既に逼迫している介護保険財政の制約の下で、介護賃金の水準を向上させるための財源を捻出するには、増税や保険料引上げをしない場合には、次のようなことがあり得るのではなかろうか。
(1)介護保険サービスの対象者の削減:①要介護・要支援の7区分のうち、介護保険サービスの対象とする区分を限定するとともに、②『介護離職』を余儀なくされる場合を優先的に介護保険サービスの対象とする。
(2)介護賃金の引上げ:賃金水準の目標を設定し、それを維持するために必要な財源を優先配分する。増税や保険料引上げをしないことを前提としているため、介護保険財政規模に総量規制を導入する。
こうした考え方を導く基本的なデータとしては、下の資料1〜3がまず挙げられる。
<資料1>
(出所:財務省資料)
<資料2>
(出所:財務省資料)
<資料3>
(出所:財務省資料)
介護保険サービスの根拠となっているのは介護保険法。その目的は次の通りで、とても崇高なものだ。
<介護保険法第1条(目的)>
この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
しかし、どんなに崇高な目的を持つ政策であっても、実際にそれを行うためのヒト・モノ・カネが十分になければ、中途半端な画餅で終わってしまう。介護保険サービス市場において最も大きな課題の一つは、介護人材がなかなか集まらないことと、その原因として介護賃金が低水準に留まっていることであろう。
厚生労働省資料によると、平均賃金では、「産業計」が32.4万円であるのに対して、「ホームヘルパー」は21.8万円と、その差額は10.6万円。私の試算では、介護職員(平成25年度現在で176.5万人)1人当たり月10.6万円引き上げるのに必要な予算額は、年間約1兆4千億円となる。
この財源をどこから捻出するかが最大の課題となる。本来であるならば、介護予算も含めた全ての予算について、いわゆる無駄の削減によって捻出すべきなのだろうが、それは事実上困難だ。介護が他の事業よりも優先順位が高いことについて、国民的合意を得ることは不可能に近い。社会保障費は、教育費や公共事業費、防衛費など他のどの予算よりも大きな支出額となっており、他の予算の削減分を財源とすることはまずできない。
あくまでも、社会保障費の中で予算額を調整するしか道はない。その場合、介護よりも支出額の大きい年金・医療からの財源転用があり得るが、これはこれで非常に難しい。介護が年金・医療よりも優先順位が高いことの説明がつきそうにない。だから、やはり介護保険財政の枠中で調整していくしか道はない。これを政策理念の観点から見ると、「国民皆介護」の修正となる。もともと、「国民皆介護」には無理があることは暗示されていたので、今後はそれを明示していくに過ぎない。「選択介護」にならざるを得ない。
更に、介護保険制度のもう一つの側面である「現役世代の負担軽減」という観点から考えると、「待機老人ゼロ」ではなく「介護離職ゼロ」を目標に据えていく必要がある。いわゆる介護離職は年間約10万人いるとの統計が出されている。昨年3月25日の厚生労働省資料によると、その時点で52.4万人にも上る待機老人をゼロにすることは、介護保険財政の規模からしても到底無理な目標であることは周知のことであり、それをいつまでも堅持することは、逆に介護保険サービス市場の持続可能性を削ぐことになりかねない。
既に逼迫している介護保険財政の制約の下で、介護賃金の水準を向上させるための財源を捻出するには、増税や保険料引上げをしない場合には、次のようなことがあり得るのではなかろうか。
(1)介護保険サービスの対象者の削減:①要介護・要支援の7区分のうち、介護保険サービスの対象とする区分を限定するとともに、②『介護離職』を余儀なくされる場合を優先的に介護保険サービスの対象とする。
(2)介護賃金の引上げ:賃金水準の目標を設定し、それを維持するために必要な財源を優先配分する。増税や保険料引上げをしないことを前提としているため、介護保険財政規模に総量規制を導入する。
こうした考え方を導く基本的なデータとしては、下の資料1〜3がまず挙げられる。
<資料1>
(出所:財務省資料)
<資料2>
(出所:財務省資料)
<資料3>
(出所:財務省資料)