介護賃金を引き上げる方法の考え方(例)

2015-04-24 14:28:22 | 日記
介護保険制度を巡っては様々な課題があるが、その中でやはり一番大きなものは、介護保険財政が非常に厳しいということだろう。少子高齢化が確実に進みつつあり、介護保険サービス需要も相応に増え続けている。今後当面、その傾向に変わりはない。

介護保険サービスの根拠となっているのは介護保険法。その目的は次の通りで、とても崇高なものだ。


<介護保険法第1条(目的)>
この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。

しかし、どんなに崇高な目的を持つ政策であっても、実際にそれを行うためのヒト・モノ・カネが十分になければ、中途半端な画餅で終わってしまう。介護保険サービス市場において最も大きな課題の一つは、介護人材がなかなか集まらないことと、その原因として介護賃金が低水準に留まっていることであろう。

厚生労働省資料によると、平均賃金では、「産業計」が32.4万円であるのに対して、「ホームヘルパー」は21.8万円と、その差額は10.6万円。私の試算では、介護職員(平成25年度現在で176.5万人)1人当たり月10.6万円引き上げるのに必要な予算額は、年間約1兆4千億円となる。

この財源をどこから捻出するかが最大の課題となる。本来であるならば、介護予算も含めた全ての予算について、いわゆる無駄の削減によって捻出すべきなのだろうが、それは事実上困難だ。介護が他の事業よりも優先順位が高いことについて、国民的合意を得ることは不可能に近い。社会保障費は、教育費や公共事業費、防衛費など他のどの予算よりも大きな支出額となっており、他の予算の削減分を財源とすることはまずできない。

あくまでも、社会保障費の中で予算額を調整するしか道はない。その場合、介護よりも支出額の大きい年金・医療からの財源転用があり得るが、これはこれで非常に難しい。介護が年金・医療よりも優先順位が高いことの説明がつきそうにない。だから、やはり介護保険財政の枠中で調整していくしか道はない。これを政策理念の観点から見ると、「国民皆介護」の修正となる。もともと、「国民皆介護」には無理があることは暗示されていたので、今後はそれを明示していくに過ぎない。「選択介護」にならざるを得ない。

更に、介護保険制度のもう一つの側面である「現役世代の負担軽減」という観点から考えると、「待機老人ゼロ」ではなく「介護離職ゼロ」を目標に据えていく必要がある。いわゆる介護離職は年間約10万人いるとの統計が出されている。昨年3月25日の厚生労働省資料によると、その時点で52.4万人にも上る待機老人をゼロにすることは、介護保険財政の規模からしても到底無理な目標であることは周知のことであり、それをいつまでも堅持することは、逆に介護保険サービス市場の持続可能性を削ぐことになりかねない。

既に逼迫している介護保険財政の制約の下で、介護賃金の水準を向上させるための財源を捻出するには、増税や保険料引上げをしない場合には、次のようなことがあり得るのではなかろうか。

(1)介護保険サービスの対象者の削減:①要介護・要支援の7区分のうち、介護保険サービスの対象とする区分を限定するとともに、②『介護離職』を余儀なくされる場合を優先的に介護保険サービスの対象とする。
(2)介護賃金の引上げ:賃金水準の目標を設定し、それを維持するために必要な財源を優先配分する。増税や保険料引上げをしないことを前提としているため、介護保険財政規模に総量規制を導入する。

こうした考え方を導く基本的なデータとしては、下の資料1〜3がまず挙げられる。


<資料1>

(出所:財務省資料

<資料2>

(出所:財務省資料

<資料3>

(出所:財務省資料

介護職の賃金引上げ試算 〜 年間1兆4千億円の財源で全産業平均に並ぶ

2015-04-03 08:40:07 | 日記
現状、介護職員の賃金水準は低い。これを全産業平均並みに引き上げるとしたら、どのくらいの財源が必要となるか、試算してみた。

下の資料にあるように、厚生労働省「平成25年賃金構造基本統計調査」によると、「産業計」が32.4万円で、「ホームヘルパー」は21.8万円。その差額は10.6万円。

平成21年10月〜平成24年3月の2.5年の時限措置として、介護職員の月給を平均1.5万円引き上げる『介護職員処遇改善交付金』が実施された。この時の予算額は総額3975億円。

これは、全国平均で介護職員(常勤換算)1人当たり月1.5万円に相当する額として設定された。当時の厚労省の説明では、この1.5万円とは、あくまでも交付率を決定するために用いた指標であり、事業の規模や職員体制によっては全ての事業者に介護職員1人当たり月額1.5万円の助成が行われるわけではないとのこと。

精確性を追求せずに、あくまでも目安程度の概算で見積もると、介護職員1人当たりの給料を月1.5万円引き上げる予算額は、年間で1590億円(=2975億円/2.5年)となる。これを応用すれば、次のようになる。

・介護職員1人当たり月3万円引き上げるのに必要な予算額:年間3180億円
・介護職員1人当たり月6万円引き上げるのに必要な予算額:年間6360億円
・介護職員1人当たり月9万円引き上げるのに必要な予算額:年間9540億円

但し、これは平成21年度での介護職員数141.3万人を対象としていると思われるので、直近の介護職員数(平成25年度で176.5万人)に補正すると、それぞれ以下の通りとなる。

◯介護職員1人当たり月3万円引き上げるのに必要な予算額:年間  3972億円
◯介護職員1人当たり月6万円引き上げるのに必要な予算額:年間  7944億円
◯介護職員1人当たり月9万円引き上げるのに必要な予算額:年間1兆1917億円

こうした試算方法を基にすれば、介護職員(平成25年度現在で176.5万人)1人当たり月10.6万円引き上げるのに必要な予算額は約1兆4千億円となる。この財源をどこから捻出するかが最大の課題となるが、それはまたいずれ。



<資料> 

(出所:厚生労働省資料

『真の待機児童数』は何人いるのか? 〜 厚生労働省は正確に把握せよ!

2015-04-01 19:25:24 | 日記
先月20日の厚生労働省発表によると、認可保育所への入所を希望しても入れなかった待機児童は、昨年10月1日時点で全国に43,184人だったとのこと。ここで言う「待機児童」とは、上記の通り、認可保育所に入所希望を出しておきながら入所できなかった児童のこと。

では、認可保育所への入所申込みをしているかどうかを問わない『真の待機児童数(=潜在的にいる全ての待機児童数)』はいったいどのくらいいるのだろうか?

私が試算すると、概ね180万人〜360万人の規模となる。これほどバラツキがあるのは、試算の前提によって結果が大きく異なることを示している。もっとも、これは私の試算に過ぎないので、厚労省が公式に『真の待機児童数』の数を試算ないし把握しておくべきだ。

待機児童の解消が少子化対策や労働力確保策の点で喫緊の課題であること、今さら論を待たない。政策のターゲットになるべき『真の待機児童数』が、今は"認可保育所の入所申込み者"だけに限られている。これはもはや、不合理どころではなく不公平だ。

下の資料にあるように、毎年4月と10月の待機児童数では大きな差がある。4月集計と10月集計に違いがあるのは、年度途中での認可保育所申込みが4月の新年度入所で大幅に減るといった理由による。

この資料からわかるように、認可保育所の待機児童数では3歳未満が約9割を占めている。これは、年齢が低い児童ほど保育サービス供給量が少ないということだ。自分の周囲を見ても言えることだが、児童の年齢で大差がある保育サービス政策では少子化対策にも労働力確保策にもならない。

社会保障分野において高齢者対策分野から子ども子育て分野への予算配分を手厚くしていくとともに、実際の保育ニーズを重々踏まえた保育サービス供給体制を構築していくべきだ。

2017年4月に予定されている消費増税は嫌に決まっている。だが、これにより待機児童対策など子ども子育て政策に充てる財源が確保されるのであれば、許容せざるを得ない。社会保障は、高齢世代のためだけではなく、現役若年世代のためのものでもあると、我々は改めて認識していく必要がある。



<資料>

(出所:厚生労働省「保育所入所待機児童数(平成26年10月)