2、音と光のドップラーシフトの関係
前のページで述べた状況をまた別の観点から見てみます。
ういき「ドップラー効果」: https://archive.md/MNLxG :より
音の場合は
『観測者も音源も同一直線上を動き、音源S (Source) から観測者O (Observer) に向かう向きを正とすると、観測者に聞こえる音波の振動数は、
観測者に聞こえる音波の振動数=音源の出す音波の振動数*ドップラー係数
それでドップラー係数を表す部分は
(V-vo)/(V-vs)と表される。
但しここで
V : 音速、vo : 観測者の動く速度、vs : 音源の動く速度』
となっています。
これをこのシリーズの速度方向の符号の取り方にあわせて書き変えますと上記ドップラー係数を表す式は
(V+vo)/(V-vs)
となります。
さてここでV(=音速)で分子、分母を割りますと
(V+vo)/(V-vs)
=(1+vo/V)/(1-vs/V)
ここで改めてvo/V=vo、vs/V=vsとします。
つまりは「音源と観測者が動く速度を音速で規格化する」のです。
さてそうするとこの式は
(1+vo)/(1-vs)・・・(5)式
となります。
ここで 1≧vo≧0、1≧vs≧0 です。
こうしますと前のページの光のドップラー係数の計算途中で出てきた式
(1+a)/(1-b)=(1+Vr)/(1-Vs)
と(5)式は同じ形の式になるのです。
さてそれでここで音についても相対速度Vを導入します。
(紛らわしい事にういきではVを音速で使ってました。しかし音源と観測者の移動速度を音速で規格化しましたので今は音速としてのVは見えなくなっています。そうしてこれ以降ではVを相対速度を表すものとして使います。)
そうしますと音の場合は相対速度Vは
V=vo+vs
となります。
これはガリレイ変換での速度の合成則です。
ここでvo=vsの場合は
vo=vs=V/2
となります。
そうであれば(5)式のドップラー係数は
(1+vo)/(1-vs)
=(1+V/2)/(1-V/2)
となるのです。
他方で光の場合は
ドップラー係数=sqrt(1+V)/sqrt(1-V)
でした。
この二つの式を0<V<1でプロットしてみます。
y=(1+V/2)/(1-V/2),y=sqrt(1+V)/sqrt(1-V),y=100000(V-1.0) プロット 0<V<1.1,0<y<40
結果は「この二つのグラフはまるで違って見える」というものです。
コトブキ色が光、青色が音の場合を示します。
しかしながら実は光は相対速度V=1で衝撃波の発生(=ドップラー係数が無限大に発散している)となります。
他方で音はV=1では衝撃波とはならずV=2で衝撃波が観測されます。
従って次はV=2での音の状況を見てみる事になります。
y=(1+V/2)/(1-V/2),y=100000(V-2.0) プロット 0<V<2.1,0<y<40
音の場合はV=2でドップラー効果が無限大に発散する事(=衝撃波が発生している)が確認できます。
そうであれば音のドップラー効果がV=1で無限大に発散する様に音のドップラー係数の式を手直しして光の場合と比べてみます。
(1+V/2)/(1-V/2)ーー>(1+V)/(1-V) に変更
この変更は「音でもドップラー係数の式がV=1で衝撃波が発生する様に規格化した」という事に相当します。(注1)
y=(1+V)/(1-V),y=sqrt(1+V)/sqrt(1-V),y=100000(V-1.0) プロット 0<V<1.1,0<y<40
両方の式共にV=1で無限大に発散していますが、カーブの状況が異なり、音の方が早く発散しています。
しかしながらおおむねその挙動は同じように見えます。
つまりは「波の性質としてのドップラーシフトを見た時」には「音の場合も光の場合も似た挙動を示す」のです。
以上、見てきました様に「音も光もV=1でドップラー係数は発散する」のです。
ただし発散の仕方は音の方がはやい。
とはいえ音の場合は空気を基準とした時の音源の移動速度vs と観測者の移動速度voを使った場合、ドップラー係数を計算するは次の様になっています。
(1+vo)/(1-vs)・・・(5)式
ここで移動速度は音速で規格化すみ。
他方で光の場合は客観的に存在する静止系を基準とした場合、光源の固有速度Vsと観測者の移動速度Vrを使った縦ドップラー係数の式は
(1+a)/(1-b)=(1+Vr)/(1-Vs)となっています。
但し移動速度(=固有速度)は光速で規格化すみ。
加えてここではVr=Vsの条件の時、つまりは「相対論的な時間遅れの効果がドップラー係数に影響を与えない条件の時」が前提です。
このように見た場合には音と光のドップラー係数を表す式は同じになるのです。(注2)
しかしながらここで相対速度Vを導入してこの2つの式を書き変えるとそこには違いがでてきます。
音の場合のドップラー係数
(1+V)/(1-V)
光の場合のドップラー係数
sqrt(1+V)/sqrt(1-V)
この違いが生じる原因は音の場合は音源と観測者との間の相対速度Vがガリレイ変換での速度の加算式
V=vo+vs
で決まるのに対して、
光の場合は光源と観測者との間の相対速度Vがローレンツ変換での速度の加算式
V=(Vr+Vs)/(1+Vr*Vs)
となっている為です。
さて、つまりは光のドップラーシフトの一般式は
古典的なドップラー効果を表す項*相対論的な時間遅れを表す項
と見かけ上はなっていて、相対論的な効果は「時間遅れを表す項」だけの様な説明がなされていますが実は「古典的なドップラー効果を表す項」においても「相対論的な速度の加算式」を通じて「相対論的な効果が入り込んでいる」のです。
そうであれば実は光のドップラーシフトの一般式は
古典的なドップラー効果を表す項を相対論化した項*相対論的な時間遅れを表す項
であると言えます。
但し「古典的なドップラー効果を表す項を相対論化した項」の項は見た目は「音のドップラー係数を計算する形式と同じになっている」と言う所が「紛らわしい所」ではあります。
注1:音と光のドップラー係数の比較を一つのグラフで行う為にはこうした工夫が必要です。
注2:この部分だけを見ますと「光にも音と同じような、波を伝える物質的な媒質が存在している」かのように見えます。
しかしながらその様な「光に対する物質的な媒質=エーテル」を想定し、なおかつ「ガリレイ変換による速度の加算則」をつかっては光のドップラーシフトの一般式の挙動を説明する事はできないのです。
その事を上記で示した最後のグラフが示しています。
つまりは「光のドップラー効果の一般式は物質的な光の媒質としてのエーテルの存在を否定している」のです。
他方で「光のドップラー効果の一般式は静止系が客観的に存在する事を否定しておらず、むしろその事を肯定しています。」