特殊相対論では「運動しているものの時間は遅れる」という。
そうして観測事実もそれを裏付けている。
但し観測出来ている内容は「地上に立っている観測者からのみの報告」であって、実際に運動している者から地上の時計を見た時にどう見えるのか、その様な事を直接報告した事例はない。
しかしながらずうっと議論しているのは「慣性飛行しているアリスとボブは、お互いに相手の時計が遅れている」と本当に報告するのかどうか、という事である。
そうして業界の常識では「そのように報告する」となっている。
さてこれは本当なのだろうか?
そこで前のページで議論した内容が生きてくる。
「すれ違う2台のロケットにのったアリスとボブはお互いが相手の時計の針の位置を読むことができる」という話である。
そうしてその時に読み取った相手のロケットの時刻についてはアリスとボブとの間では常に合意が成立するのであった。
そうしてこの事は「この業界の常識」でもあった。
さてここでキャロルに登場してもらう事になる。
キャロルはアリスと同じ方向に同じ速度でアリスより先行する形で左から右へ飛行している。
そうして、キャロルとアリスの時計の時刻合わせは済んでいる。(注1)
ボブは右から左に飛行するのだが、まずはキャロルとすれ違う事になる。
その時にボブはキャロルの時計を見てその時刻に自分の時計を合わせる。
次にボブはアリスとすれ違うのだが、その時にボブはアリスの時計をみて時刻を読み取る。
同様にしてこの時にアリスもボブの時計を見て時刻を読み取る。
さて、以上の話、ここまでは「誰の時計が遅れているのか?」と言う話はいっさいしていない。
相対論が言う「お互いの時計が遅れてみえる」とアリスとボブが主張しているかどうかは話してはいない。
だがすれ違う時の相手の時計の針の位置についてはアリスとボブの間で合意が成立しているのである。
つまりアリスとボブがすれ違いざまにお互いの時計の針の位置を読み取った、その値と自分が載っているロケットの時計の針の位置を比べれば「どちらの時計が遅れていたのか」確認できるのである。
そうしてそうやって確認した事実については「アリスとボブとの間で意見の相違はない」のである。
アリスが「ボブの時計が遅れていた」と確認すればボブも又「自分の時計が遅れていた」と確認するのであって「いいや、アリスの時計が遅れていた」と主張する事はないのである。
さてこの事は「業界の常識が矛盾している」という事を示している。
1:2台のすれ違うロケットの間では相手の時計の針の位置を読む事が可能である。
2:アリスとボブはお互いに相手の時計が遅れていたと主張する。
この2つの主張は同時には成立しない。
1番目の主張が成立するならば、2番目の主張は成立しないのである。
そうして当方のスタンスと言えばもちろん1番目の主張を認めるものでありますから、2番目の主張は却下される事になります。
注1:アインシュタイン同期
https://en-m-wikipedia-org.translate.goog/wiki/Einstein_synchronisation?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc
↑
同一の慣性系に属する、但し距離的には離れている2者は光を使って時計の時刻合わせが出来る、というお話。
上記の場合はアリスとキャロルは同一の慣性系に属する為、アインシュタイン同期を使って時刻合わせが可能となる。
それに対してボブがキャロルやアリスの時計の針の位置を読めるのは、距離が無視できるほどに近い位置ですれ違うからである。
そうしてそれは「同じ時に同じ場所にいたから時刻合わせが出来た」という状況に似ている。
追伸
「運動している相手の時計は遅れて見える」という特殊相対論の主張は、実は2つのステップからなっている事が分かる。
最初の前提は「近づいてくる2台のロケットはすでに何らかの形で時刻合わせが済んでいる必要がある」という事である。
そうして2つ目の前提は「妥当な時間が経過したのちに2台のロケットはすれ違い、その時に相手の時計の針の位置が読める」というものである。
そうでなければ「お前の時計が遅れている」などという事は言えないからである。
その様に考えてみるならば本当に時計にとっては「時刻合わせが重要である」という事が分かるのである。
つまり「時刻合わせが終わっていない時計には、その時計がどんなに正確であろうとも、何も主張する事ができない」のである。
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