さてそういう訳で結局世の中には3つのグループが存在している事になります。
1、最初のグループはアインシュタインのドップラー効果の式を最初から無視している人たち。
この人たちは「横ドップラーでは観測者はいつも静止していて、光源が常に動くものである」とどういうわけか信じこんでいます。
そうしてその認識にしたがってドップラー効果の式を導出し、また「横ドップラー効果を検出した」という実験内容を理解しています。
そうであればそういう方々にとっては「横ドップラー効果の観測では赤方偏移を検出する」となっているのです。(注1)
2、二番目のグループは「横ドップラーシフトでは観測者が動く場合がある」という事を認識しています。
しかしながらその場合でも観測者が観察する光の波長は伸びる、つまりは「横ドップラー効果の観測では赤方偏移を検出する」となっています。
その理由として、当方の知る限りでは以下の様になります。
彼らは「アインシュタインの式は知ってはいるが、観測者が動く場合は観測者には光行差が生じるので、観測者からみた時に90度上からの光を観測する事が横ドップラー効果の観測になる」と主張します。
そのように解釈するならば「観測者が動く場合でも横ドップラーシフトの観測結果は赤方偏移している」と主張するのです。
この人たちの信条は「受信側に立っている観測者のみが世界を正しく認識できる」と主張している事になります。
それゆえにこの人たちは「横ドップラー効果は赤方偏移でなくてはならない」と主張する為にアインシュタインの式をないがしろにしている様に見えます。
そうしてその主張は「光源の横に立っている観測者の世界認識は否定する」というものであって、それは「相対論主義者にあるまじき誤りを犯している」と批判されなくてはならないものなのです。(注2)
ちなみにこのグループには「アインシュタインの特殊相対性理論(1905年):http://fnorio.com/: https://archive.md/Gl1Hd#3-2-2 :をまとめて説明しているfnorio氏も入る事になる。
そうしてまたそれ以外の「アインシュタインが導出した式を理解している者達」も入っている様です。
それらの方々にとってはやはり「横ドップラー効果を検出したら赤方偏移していた」という実験結果の存在が大きいのではないか、と推測している次第です。
3、さて3番目のグループの人たちは「横ドップラー効果では観測者が動く場合がある」という事を認識しているし、「その場合には観測者は青方偏移を検出する」という事を知っているのです。
そこに属する人たちはアインシュタインを筆頭に、英語版ういき「相対論的ドップラー効果」: https://en.wikipedia.org/wiki/Relativistic_Doppler_effect :の編集者たち、そうしてまたその認識に基づいて「一般的に成立する相対論的ドップラー効果の式を発表した人たち」がはいります。
そうしてまた当方もこのグループに属する一人ですが、何分ともこのグループの構成員は少ない様です。
4、「一般的に成立する相対論的ドップラー効果の式」
さてこうしてようやく「一般的に成立する相対論的ドップラー効果の式」の説明に入る事になるのです。
その式は上記で示した英語版ういき「相対論的ドップラー効果」: https://en.wikipedia.org/wiki/Relativistic_Doppler_effect :の「音と光の相対論的ドップラー効果」で示されています。
そうしてそのういきの説明と式の形は数学者には分かりやすいのでしょうが、一般受けする形にはなってはいません。
式の形そのものはEq.10として示されています。
そうしてその式もまた
『相対論的なドップラーシフトですが、それは古典的なドップラーシフトの項と相対論が予測する時間遅れ因子sqrt(1-V^2)の積で表される。』
と言う主張に基づいている事が説明されています。
さてそれで、その式をこのシリーズで扱ってきた表現方法に変換してみると次のようになります。
f1=f0*(1-Vr*cos(Θ1))/(1-Vs*cos(Θ2))*sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2) ・・・(1)式
ここでVrは静止系に対する観測者の相対速度(=固有速度)、Vsは静止系に対する光源の相対速度(=固有速度)を示します。
但しVr、Vsの方向はお互いが近づく方向をプラスに取ります。
f1は観測される周波数、f0は光源の周波数です。
角度についてはこれまでと同様の取り方になります。
Θ1=π、Θ2=0がお互いが近づく方向、Θ1=0、Θ2=πがお互いが離れる方向です。
但しこの時 Θ2=abs(Θ1-π) の関係が成立しています。それで
(1-Vr*cos(Θ1))/(1-Vs*cos(Θ2)) の項が古典的なドップラー効果を表す部分で
sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2) の項が相対論的な効果(=時間遅れの効果)を表します。
さてこの式をみますれば
Vr=0、Vs≠0で通説の式(=光源が相対速度Vsで動く場合の式)
ν’=ν*sqrt(1-V^2)/(1-V*Cos(Θ1))
に、そうしてまた
Vr≠0、Vs=0でアインシュタインの式(=観測者が相対速度Vrで動く場合の式)
ν’=ν*(1-V*Cos(Θ2))/sqrt(1-V^2)
になる事は明白です。(注3)
注1:前に代表例をあげたが、参考までに再掲示しておきます。
日本語のういき「ドップラー効果」を始めとしてその他の横ドップラーシフトの説明、あるいは式の導出では全て「動くのは光源で観測者は静止している」という条件になっています。
つまり「横ドップラーシフト=赤方偏移」と主張しているのです。
以下そのように主張している代表例を示します。
・光のドップラー効果 (横方向): https://archive.md/cbVVE :
・第 11 回 相対論における諸現象(波動・光)
https://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~norihiro.tanahashi/pdf/SR/note_SR-11.pdf
・特殊相対論入門
https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900121237/rel.pdf
・2 相対論的ドップラー効果
https://www.astr.tohoku.ac.jp/~chinone/Compton/Compton-node2.html
ちなみに「通説の式が唯一のドップラー効果を表す式である」かのように主張する日本語版ういきの立場は「正解のうちの半分しか語っていない」のですから、試験で言うならば「50点」つまり「不合格」なのです。
注2:アインシュタインは「全ての慣性系は平等である」と宣言しました。
そうであれば「光源の横に立つ観測者がどのように世界を見ているのか」ということも「受信側に立つ観測者が見えている世界認識のありよう」と平等に評価されなくてはなりません。
そうであればこそ「観測者間の公平性を担保する為にもW横ドップラーの測定が必要となる」のです。
あるいは「観測者が見る世界は光行差が生じる」のでより客観的に「幾何学的な位置関係で90度という条件(=光の進行方向と運動方向が直交する条件)をきめる」というやり方のほうが公平なのです。
ちなみに「光行差を使ってアインシュタインのドップラー効果の式の導出を否定する方々」は「アインシュタインの式を曲解している輩である」という事になります。
なんとなればそれは結局は「アインシュタインの式は不要で、通説の式があればそれでよい」と主張している事になるからです。
注3:しかしながらこの式を発表したBrown, Kevin S. "The Doppler Effect". Mathpages. Retrieved 12 October 2018.の両名が「静止系は客観的に存在する」という主張をそれほど前面には出してはいない様です。
それはたとえば「ローレンツの様に何かとても大事なものを数式として導き出せた」としても「それが持つ物理的な内容を正しく把握できているとは限らない」という様な状況と同じように見えます。
相対性理論についての考察: https://archive.md/UGhQM : https://www.mathpages.com/rr/rrtoc.htm :
4.1 不動の時空: https://archive.md/anZ4r :
それに対して彼らの主張のメインは「音のドップラーシフトを表す式と光のドップラーシフトを表す式は一つにまとめる事ができる」というものです。
なお(1)式の導出については「2.4 音と光のドップラーシフト」: https://archive.md/X7yH :に詳しくまとめられています。ご参考までに。
追記:(1)式は観測者が測定することになる光の周波数(=光速/波長)が精度よく測定できればVrとVsの値がわかる、という事を示しています。
もっとも角度Θを精度よく決める事はなかなか難しい事ですが。
ちなみに光源と観測者の間の相対速度VはVrとVsの相対論的な加算式から計算される事になります。
つまり「未知数は2つ、VrとVs」で「光源と観測者の間の相対速度V、角度Θ、それから観測者が観察した周波数f1、および光源の周波数f0が既知数」となります。
おっと式は(1)式とVrとVsの相対論的な加算式の2つです。