特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

7-4・静止系が客観的な存在だと何が困るのか?(時間遅れの測定方法)

2023-12-27 02:04:35 | 日記

§4.時間遅れの測定方法

2つのすれ違う慣性系があった場合、どちらの時間が遅れているのか、それを測定するのは難しい、という話は以前しました。(注1

それは結局「2つ+1つの時計を使うランダウ、リフシッツの時間遅れの実験方法」についての詳細な検討結果からは「その方法によってはどちらの慣性系の時間が遅れているのか、判別できない」という結論になります。

そうしてまたそれに呼応する様に「2つ+1つの時計を使った時間遅れの測定実験」と言うものも現実に行われた事はありません。

その一方で「時間遅れの測定方法の思考実験」としては「ランダウ、リフシッツの実験方法」はよく取り上げられる様です。

その理由は「MN図による説明がやりやすい」という所にもあると思われます。

 

さらには「時間遅れの説明の為にアインシュタインが説明につかった」とされる「光時計を用いた実験」も行われていません。

これもまた「思考実験どまりのアイデア」の様です。

 

他方で実際に時間遅れの測定実験は行われており、その結果は常に特殊相対論の計算に一致した結果を得ています。(注2

そうして実際に行われた時間遅れの測定実験は以下の3つのタイプに分類する事が可能です。

 

1、μ粒子の寿命による崩壊を使うもの(ミュー粒子の生成~崩壊までの時間をタイマーとして使うもの

ミュー粒子が生成されてから崩壊するまでの寿命を時計の代わりにタイマー(=所定の固有時間が経過するとサインを出して知らせるもの)として使うタイプの実験。

この実験の特徴は「ミュー粒子生成後、生存しているミュー粒子の走行距離とミュー粒子の数を観測する」という所にあります。

つまり「時計の時間遅れを直接比較測定している訳ではない」のです。

そうであれば「時刻合わせをする必要がない」のです。

1-1、宇宙線由来のミュー粒子をつかったもの

この場合、μ粒子と地球はそれぞれが独立した等速直線運動する2つのすれ違う慣性系と見ることが出来ます。そうであればこの状況はまれに見る「2つのすれ違う慣性系でどちらの時間が遅れていたのか」を測定したものになっています。

Rossi と Hoag、Physical Review 57、pg 461 (1940)。
ロッシとホール、『フィジカル・レビュー』59、223ページ(1941年)。

この測定では「ミュー粒子の寿命が延びる事で地表まで宇宙線で生成されたミュー粒子が到達している」という事実を観測によって示したもの。

そうであれば「あらわにはミュー粒子の時間の遅れを時計を使って測定した」と言うものになってはいない事に注意が必要です。

そうではなくで「地球慣性系から見た時に、寿命が尽きるまでのミュー粒子の走行距離が伸びた事」を観測・検証しているのです。

1-2、円運動するミュー粒子の寿命を測定したもの

Bailey et al.、「円軌道における正および負のミューオンの相対論的時間拡張の測定」、Nature 268 (1977 年 7 月 28 日)、301 ページ。
Bailey et al.、Nuclear Physics B 150 pg 1–79 (1979)。

この場合は「運動しているミュー粒子の寿命の延びを運動していないミュー粒子の寿命と比較している」のです。

しかしながらこの場合でも「寿命が尽きるまでのミュー粒子の走行距離が伸びた事を観測している」ととらえる事も可能です。

 

2、横ドップラー効果を使った「時間の遅れの測定」(原子あるいは原子核が出す光を基準光源として使うもの

電離させた水素ガスが発する基準光の周波数(=波長)が時間遅れが発生する事で基準光の値から変化する事を使ったもの。

これもまた「時計の時間遅れを測定した」のではない実験です。

従って「時刻合わせをする必要がない」のです。

2-1、一般には『HE Ives と GR Stilwell、「移動原子時計の速度に関する実験的研究」、J. Opt.社会午前。28ページ 215–226 (1938)。JOSA 31ページ 369–374 (1941)。
この古典的な実験では、移動する原子の横方向のドップラー効果を測定しました。』とされていますが、この実験は「横ドップラーの実験」ではなく「W縦ドップラーの実験である」という事は前に説明した通りです。

従って本来の意味での横ドップラー効果を使った「時間の遅れの測定」は

ハッセルカンプら、Z. Physik A289 (1989)、151ページ。
実験室では実際に90度の測定値が得られます。SRと数パーセントの精度で一致します。

ちなみにこの場合は赤方偏移を検出しています。

2-2、円運動と横ドップラーを組み合わせたもの

この場合は原子が出す光ではなく原子核が出す光を基準光源として使います。

Kündig (1963) は、メスバウアー吸収体が中央のメスバウアーエミッターの周りで高速の円形経路で回転する実験について説明しました。以下で説明するように、この実験的な配置により、クンディッヒによる青方偏移の測定が行われました。(注3)

エミッターであるコバルトの放射性同位元素57Coの主な崩壊モードはベータ崩壊で、それに伴ってガンマ線が放出されます。具体的には、57Coはベータ粒子(電子)を放出して57Feに変わり、同時にガンマ線も放射線として放出されます。

メスバウアー吸収体は57Feで、これが回転中心から放射されてくるガンマ線を共鳴吸収します。

そうするとメスバウアー吸収体の後ろに設置されているガンマ線カウンターの検出数がへる、これでガンマ線を共鳴吸収した時のメスバウアー吸収体に発生している時間遅れを検出します。(注4)

 

2-3、光学原子時計を構成しているAl+イオンを単振動させた時の時間の遅れを使ったもの

この場合は原子が出す光を基準光源として使っています。

これは観測者が動いている場合の横ドップラー効果の測定になっている

ちなみにこの場合は青方偏移を検出しています。

アルミニウムイオンを電場をつかって振動させた時計のほうが、静止していた時計よりも時間の進み方が遅かった。: https://archive.md/lDxfq :(注5)

 

3、実際に2つの時計の時間経過を比較した「時間遅れの測定」(時刻合わせをした時計を使うもの

ハーフェレとキーティング、Nature 227 (1970)、270 ページ (提案)。
サイエンス Vol. 177ページ 166–170 (1972) (実験)。

原子時計を飛行機に積んで世界一周させて、それを地上に設置された時計の経過時間と比較したもの。

この実験では「時計の経過時間を比較する為に時刻合わせをした」のです。

ちなみにこの実験が後日に至りてGPS衛星の時間遅れの修正方法に結びつく事になります。

 

さてこれらを使っている運動の種類から以上の3つのタイプに分類する事も出来ます。

・等速直線運動を使った時間遅れの測定

1-1、宇宙線由来のミュー粒子をつかったもの

2-1、横ドップラー効果を使った「時間の遅れの測定」:ハッセルカンプら:赤方偏移の検出

 

・等速ではない直線運動=単振動を使った時間遅れの測定

2-3、光学原子時計を構成しているAl+イオンを単振動させた時の時間の遅れを使ったもの:青方偏移の検出

 

・円運動をつかった時間遅れの測定

1-2、円運動するミュー粒子の寿命を測定したもの:Bailey et al. Nature

2-2、円運動と横ドップラーを組み合わせたもの:Kündig (1963):青方偏移の測定

3、実際に2つの時計の時間経過を比較した「ハーフェレとキーティングの時間遅れの測定」

 

 

注1:詳細は以下の「・時間の遅れを測定するのは難しい」シリーズにてご確認願います。

 ・時間の遅れを測定するのは難しい

 ・その2・ 時間の遅れを測定するのは難しい

 ・その3・ 時間の遅れを測定するのは難しい

 ・その4・ 時間の遅れを測定するのは難しい

注2:「4. 時間遅延と横ドップラー効果のテスト」: https://math-ucr-edu.translate.goog/home/baez/physics/Relativity/SR/experiments.html?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc#Recent_Tests :

: https://archive.md/G2GFO :

注3:「相対論的ドップラー効果」: https://archive.md/6dO3g :

注4:「加速されたシステムにおける横ドップラー効果の測定」: https://archive.md/68MQG :この実験内容については後日、もう少し詳細にレビューすることと致します。

「メスバウアー効果」: https://archive.md/rMApu :

注5:原論文 サイエンス掲載2010年:Optical Clocks and Relativity Creators Chou, C. W.etc

: https://zenodo.org/records/1230910 : https://archive.md/jqfM3 :

 

追記:特筆すべきは「実際に時刻合わせをした時計の時間経過を比較して時間遅れを観測した」と言う実験が一つしかない、「ハーフェレとキーティングの時間遅れの測定実験のみである」という所にあります。

そうしてこの「時計を使った実験」も実験の主旨としては「時刻合わせをした2つの時計の一つを静止したままで、もう一つを円運動させた」というものになっています。

つまりは「ランダウ、リフシッツが示している時間遅れの実験」というのは行われた事が無い、実際には「実現不可能な方法である」という事になりそうです。

そうであればその方法を解析した結果出てくる「時間の遅れはお互い様」という主張は「確かめようがないもの」という事になります。

 

さて「時刻合わせをした2つの時計を使って、「運動している方の時間が遅れる」を確認する為には「円運動を使う」か「往復運動を使う(=双子のパラドックスでの運動を使う)」か、いずれかの方法によって「とにかく運動している方の時計を静止させていた時計の方に戻すしかない」のです。

そうしてこのやり方で「運動していた方の時計が遅れていた」ならば「時間のおくれは確かに存在していて、それは一方的である」となるのです。

この時に「時間の遅れはお互い様」論者の反論する為の根拠とされるものは「運動に従って横Gや縦Gが発生していて、それが時間の遅れを引き起こしたのだ」と言うものがあります。

しかしながら「運動に従って発生する横Gや縦Gは時間の遅れを引き起こさない」というのが実験から確認されている事実なのであります。(注6)

さてそうなりますと「いったい何が時間の遅れを引き起こすのか?」という話になります。

答えは「ミンコフスキー空間での走行距離が時間の遅れを引き起こす」となります。

「ん、ミンコフスキー空間?なにそれ?」

はい、それは「客観的に存在する静止系、別名を真空」と言います。

 

注6:「円軌道上の正および負のミュオンの相対論的時間遅延の測定」: https://archive.md/i5aGs :『CERNミュオンストレージリングで、正のおよび負の相対論的な(γ = 29.33)ミューオンの寿命が測定され、結果は以下の通りです:τ+ = 64.419 (58) µs、τ- = 64.368 (29) µsです。正のミューオンの値は特殊相対性理論および静止状態での測定寿命と一致しています。アインシュタインの時間拡張因子は、95%信頼区間で2×10^-3の相対誤差で実験と一致しています。特殊相対性理論を仮定すると、μ-の平均固有寿命はτ0- = 2.1948(10) µsとされ、これはこれまでに報告された中で最も正確な値です。この値が以前のτ0+の測定値と一致することは、ミューオン崩壊における弱い相互作用におけるCPT不変性を確認しています。』<--円運動速度で計算したミュー粒子の時間の遅れ=寿命の延びと観測値が一致した。したがって「円運動に伴ってミュー粒子に作用している横Gは寿命の延びに影響を与えていない」という結論になります。

「σ ±寿命と縦加速度」: https://archive.md/SisVS :『11T 水素バブルチャンバー HYBUC 内部での 420 ~ 500 Me V/c K- の相互作用を利用して、飛行中に 120,000 σ +/-崩壊のサンプルが生成されました1,2。粒子の寿命について崩壊を使用して 0.5 ~ 5.0 × 10^15G の縦方向加速度の影響を調査する方法について説明します。加速度が寿命に及ぼす影響が観察されれば、ローレンツ変換および/または粒子崩壊のダイナミクスが加速度に敏感であることが示されます。これらのデータは、ローレンツ因子を変化させ、相対論的な素粒子時計を静止状態に戻す加速は、寿命に観察可能な変化を残さないことこのヌル結果は、ミューオンに対する横加速度の影響に関する以前の測定結果を補完します13。』<--縦Gも粒子の寿命の延びに影響を与えない、と言っています。

 

PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/doQvd