1、「レポートで提示されている時間遅れの式」についての検証
速度が日常生活レベルで単振動している時計の時間平均の時間の遅れを計算しておきます。
それはつまり
『この動きからの時間の遅れは、動く時計の分数周波数シフトを導きます(17)。
δf/f0=1/⟨γ(1−ν||/c)⟩−1 ・・・式(1)
v/c<<1 の場合、式(1)は δf/f0 ≈−⟨ν^2⟩/2c^2と近似できます。』
『ここで⟨ν^2⟩は振動速度の実効値=(Vrms=sqrt⟨V^2⟩) (rms、root mean square)である』
とレポートは主張していますが、それがどの程度正しいのか、の確認になります。
前の記事から『秒速36mはアルミニウムイオンの単振動の実効値ですので、ピーク速度は51m/sぐらいにはなります。』
従ってsqrt(1-(0.051/300000)^2)が時間遅れの最大値で、これは振幅がゼロの位置です。
他方で最大振幅の時には速度がゼロになりますから時間遅れは発生しません。
さてそれで振動速度をvとしますとC=30万キロ/秒として
v=(0.051/300000)*sin(x)
と表すことができます。
ウルフラムで状況を見ておきます。
https://ja.wolframalpha.com/input?i=%280.051%2F300000%29*sin%28x%29
よくある単振動のカーブです。
最大速度が1.7*10^-7 になります。
それでこれの時間平均をとればそれが実験で求めた『秒速36mはアルミニウムイオンの単振動の実効値ですので、ピーク速度は51m/sぐらいにはなります。』の時の時間遅れを表すことになります。
で、積分時間は0からπまでとします。
sqrt(1-((1.7*10^-7)*sin(x))^2) を0<x<piの範囲で積分
答えは pi =π=3.1415926・・・
((1.7*10^-7)*sin(x))^2 の部分が小さすぎて
(1-((1.7*10^-7)*sin(x))^2)≒1 で
従ってsqrt(1-((1.7*10^-7)*sin(x))^2)≒1 で
1を「0<x<piの範囲で積分」すればπになる、とウルフラムはいっています。
それで「ここであきらめた」のでは「子供のつかい」になってしまいます。
そうであれば「じゃあこれを計算してみ」となります。
sqrt(1-(0.5*sin(x))^2) を0<x<piの範囲で積分
さてsin(x)の前が(1.7*10^-7)ではなくて0.5だと計算する様です。
答えは2.93492
右上にある「表示桁数を増やす」をポチると数字がいっぱい並びます。
まあこれだけ桁数があれば十分でしょう。
でこの時のポイントは 2*E(1/4) にあります。
「ここでE(m)はパラメータm=k^2をもつ第2種完全楕円積分です。」
の説明があります。
それでおもむろに
第2種完全楕円積分(0.25)
とウルフラムに入れます。
答えは1.467462209・・・
さてウルフラムは
「sqrt(1-(0.5*sin(x))^2) を0<x<piの範囲で積分」=2*E(1/4)
と言いました。
従って
「sqrt(1-(0.5*sin(x))^2) を0<x<piの範囲で積分」
=2*E(1/4)
=2*1.467462209・・・
=2.934924・・・
はい、こうして積分が「第2種完全楕円積分」を使えば出来る事が分かりました。
さてそうすると
sqrt(1-((1.7*10^-7)*sin(x))^2) を0<x<piの範囲で積分
は
=2*E((1.7*10^-7)^2)
となります。
答えは
1.570796326794885270・・・
従って
2*E((1.7*10^-7)^2)
=3.14159265358977054*10^-17
時間遅れが発生していない時の「0<x<piの範囲で積分」はπです。
従って
(3.14159265358977054*10^-17)-π
が時間間隔πでの合計時間遅れとなります。
で、これを時間間隔πで割れば「平均時間遅れが出る」のです。
さて
((3.14159265358977054*10^-17)-π)/ π
=-7.22514*10^-15
こうして
『ちなみに図2において近似式による理論カーブは横軸値37辺りで縦軸値が-7*10^-15を示しています。』
がそれなりの精度で「アルミニウムイオンの時間遅れの時間平均を計算出来ている事」が確認できるのでした。
ちなみに
「v/c<<1 の場合、式(1)は δf/f0 ≈−⟨ν^2⟩/2c^2と近似できます。」
を使った場合は⟨ν^2⟩=(秒速36m)^2を代入して
δf/f0 ≈−⟨ν^2⟩/2c^2
=-((0.036/300000)^2)/2
=-7.2*10^-15
「近似式は2ケタ程度の精度である」となります。
あるいは「この実験の精度は2ケタ程度である」と言っても良いかと思われます。
つまりは「光速に比べれば本当に微少な速度で発生する時間の遅れを観測する事はできた」のではあるが「その観測精度は2ケタ程度である」のです。
まあしかしながら「2ケタ程度の精度であってもこの実験の意味は大きい」のであります。
-------------------------------