特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

固有時パラドックス

2023-03-16 02:32:27 | 日記

1、固有時の導入

・ういき「固有時」( proper time)によれば: https://archive.ph/Rxssz :

『(固有時とは)注目する物体に伴い運動する系における時間である。
観測者系の時刻(=座標時)は座標変換に対し不変な量ではないため、観測者の時刻を用いて記述した物理法則は、他の系では適用できない。

固有時は座標変換に対して不変な形で物理法則を記述するために導入される。』となっています。

その定義は『ある観測対象について (ct)^2-x^2-y^2-z^2(c: 光速、t: 観測者にとっての時間、(x, y, z): 観測者にとっての物体の空間座標)はローレンツ変換に関して不変な量であり、いかなる座標系で観測しても同値となる。

そこで、この量をもとに d(cτ)^2=d(ct)^2-dx^2-dy^2-dz^2 として τ(タウ) および Τ=∫dτ を時刻と時間の不変量として定義する。この τ が固有時である。』となります。(注1)

注1:世界間隔が不変量である、と言う事を使うこのやり方は1908年にミンコフスキーがやり始めた固有時の定義・計算方法となります。(固有時そのものの相対論への導入はMN図の導入と伴にミンコフスキーの仕事です。)

「ミンコフスキーの4次元世界」@fnorio氏の

「(1)相対論的運動学」の「1.線素と固有時」 : https://archive.ph/H5i4f#4-1 : から以下引用

『・・・またこの質点に固定されている時計の進みをτとすればこの場合にはdx=dy=dz=0であるから

ds^2=c^2*dτ^2 >0 である。これは固有時と呼ばれる。』(注:τが固有時をしめす。ちなみにdsは線素とミンコフスキーは言っている。このdsを後の世代が世界間隔と言い出した模様。)

但し「 (ct)^2-x^2-y^2-z^2 で示される値がローレンツ変換に対して不変である」と最初に指摘したのはポアンカレであるとの事。


・もう少し当方にとって分かりやすい定義はランダウ、ジューコフによる次の定義です。(注2)

『 特殊相対性理論の段階での時間の概念は“座標的な観点”から考察されてきた。3つの空間座標と並んで、時間座標は事象を指定する役目を担ってきた。空間座標と同様に時間はある基準系に不可分に結びついており、同じ事象を記述する(x,y,z,t)であってもそれを観測する基準系が変わればローレンツ変換によって(x’,y’,z’,t’)に変換されるようなものであった。

 しかし、物理現象は、単に座標的な観点から規定されるものではない。時間の概念も座標的な観点から規定されるものではない。十分に小さい物体が存在するとき、この物体の中で様々な物理現象が生じるが、これらの現象は時間の流れの中で進行する。それ故にこの物体にとっては、それに即した或る時間が存在しているし、その時間はその物体に取って一様にながれている。

 そのとき、考えている物体系が等速運動をしているならば、それと共に運動する特殊相対性理論で言うところの基準系を選ぶことが出来るし、この基準系の時間が今考えている物体系内部で通用する時間であることは明らかです。

 しかし、物体が今考えている基準系に対して静止しているのではなくて、任意の運動をしている場合は、その物体系での時間の進みは基準系の時間の進みと異なったものになる事を特殊相対性理論は明らかにした。このとき、先ほどの基準系とは異なった基準系から最初の物体系を見たならば、その物体系の時間の進みは最初の基準系から見たものとは異なったものになる。

 そのとき、基準系を取り替えれば、最初取り上げた物体系の時間の進みは違ってくるが、物体系の時間の進みは、外部のいろいろな基準系の時間に服従して流れるわけではなく、その物体系と共に流れる時間が存在するはずである。その時間をその物体の”固有時”または固有時間と言うことにする。

 もちろん、この固有時は、物体系の中で生じる物理現象の進行によって測るしかありませんし、その物理現象の進行そのものが時間の進みであると言えます。

 結局、あらゆる物体にはそれぞれに固有な時間が結びついている。この固有時は、その物体の運動を記述するのに用いる基準系とはなんら関係がない。従って、特に基準系が変わっても、固有時は変わらない。

実際、今考えている物体に二つの事情が起こり(注3)、その間にこの物体に取り付けられた時計(たとえば原子の固有振動数などを利用して計測する)の針が10回転したとすれば、この事実は我々がこの物体をどの様な基準系から観測したかによって左右されません。どの様な基準系から見ようと(注4)針が10回転した事実はかわりませんので“固有時”は絶対的な量です。(注5)』



注2:ランダウ、ジューコフ著(鳥居一雄、広重徹訳)「相対性理論入門」東京図書(1963年刊)の§11からの引用となります。

それで上記の部分は「双子のパラドックスと一般相対性理論(リンドラー座標)」: https://archive.ph/ZTCWc :の冒頭部分でfnorio氏によって引用されています。

注3:この部分、少しわかりにくい訳になっていますが、NM図で言う所のイベント(=事象点)の事です。

つまり固有時とは「イベント①からイベント②に物体が移動する間にその物体にくっついた時計の針が進んだ量である」と言う事になります。

注4:この部分「どの様な基準系から見ようと」と言うのは「注目している物体に対してどのような相対速度を持つ観測者がその物体にくっついた時計を観察しようとも」ということであり、これはそのまま「どのような速度でローレンツ変換をしようとも」と言い換える事ができます。

注5:「針が10回転した事実はかわりませんので“固有時”は絶対的な量です。」というのは「ローレンツ変換に対して固有時は不変な量です。」と言っている事になります。

つまり「固有時は観測系によらずに観測できる、客観的に存在している測定可能な値である」と言う事になります。

こうしてランダウ、ジューコフの定義の仕方でもミンコフスキーがいう様に「固有時は時間の不変量である」と言う事が分かるのです。



2、固有時を計算する2つの方法

縦軸にct、横軸にxをとった御存知MN図(ミンコフスキー図)、c=1にしますから実質上は縦軸にt、横軸にxとなります。

この2次元世界で考えていきます。

それで固有時ですが、MN図のうえにおかれた事象①=イベント①を表す座標は(t1 ,x1) と記されます。

そうしてこの場合の①の固有時τ①は

τ①^2=t1^2-x1^2

と計算されます。(注6)



さて「事象の固有時とはおかしな事をいう」という声が聞こえます。

それでMN図の上におかれた点①を事象①とみるか(この場合は点①は運動していません)、それともそれは「原点から点①に向かった物体の運動を表している」とみるか、これが点①についての2つの見方となります。

それで今回は点①を「原点から点①に向かった物体の運動を表している」と見ます。

そうしますと点①は速度 V1=x1/t1 で原点から右に時間間隔 t1 (秒)のあいだ動いて座標値 x1 に到達したのである、と言う様に読めます。

その時に点①にくっついて移動した時計①(この時計は原点でゼロリセットしています)が原点から座標(t1 ,x1)に到達するまでにかかった経過時間ΔT1は

ΔT1=t1 *sqrt(1-V1^2)

で計算できます。(但しこの経過時間ΔT1は時計①で計ったものです。)

これは原点におかれた時計に対して速度V1 で移動する物体①の時間は

sqrt(1-V1^2)

の割合で遅れるから、それに座標時間 t1 を掛ければよい、という事を示しています。

そうであればこの時に物体①にくっついて移動した時計①の針はΔT1(秒)をさしていた、という事になります。

ちなみに 座標時間 t1(秒)は原点におかれた時計で計測した値です。

これが固有時についてのもう一つの定義方法でした。



上記の2つの計算方法が同一の固有時を与える事を確認しておきましょう。

速度 V1=x1/t1=0.8Cとします。(但しここではC=1の単位系です。)

そうすると点①の座標はたとえば座標(t1 ,x1)=(1,0.8)と設定する事が出来ます。

さてそれで

τ①^2=t1^2-x1^2 によれば

τ①^2=1^2-0.8^2=0.36

従って

τ①=0.6

次に

ΔT1=t1 *sqrt(1-V1^2) によれば

ΔT1=1*sqrt(1-0.8^2)=0.6

こうしてめでたく

τ①=ΔT1 である事が確認できました。(注7)



注6:上記のういきよりd(cτ)^2=d(ct)^2-dx^2-dy^2-dz^2でした。

ここでC=1単位系を使いますので

d(τ)^2=d(t)^2-dx^2-dy^2-dz^2

tとxだけの2次元の世界ですから

d(τ)^2=d(t)^2-dx^2

d(t)=t1,dx=x1,d(τ)=τ ですので

τ①^2=t1^2-x1^2 です。

注7:数値を使わずに一般解=>(t1 ,x1)で計算してもこうなります。

V1=x1/t1  ですから

ΔT1=t1 *sqrt(1-V1^2)

=t1 *sqrt(1-(x1/t1 )^2)

=sqrt(t1^2-(x1 )^2)

=sqrt(τ①^2)=τ①



さて、ご安心の程を。

当面ここまでの話ではパラドックスの存在はまだ見えてきてはいませんね。

つまりは「ここまでの話は業界の常識である」と言う事になります。


追伸:固有時についてのとらえ方について

ミンコフスキーのやった固有時の導入を「世界間隔(ct)^2-x^2-y^2-z^2が不変量である」という所から数学的な数式展開によって導き出したもの、と見る立場があります。

それはたとえばEMAN物理の固有時のとらえ方に見る事が出来ます。

EMAN物理「固有時の意味」: https://archive.ph/Dzr74 :によれば

固有時の導入は「苦肉の策」であった、と言う事になります。

『そこで,仕方ない.こんな方法ではどうだろう.ローレンツ変換をしても変わらない量があったのに注目しよう.』

と言う事で『しかもdτはローレンツ変換しても値の変わらない便利な量である!』ので固有時τを導入した、という見方です。

まあ、数式展開を見るだけであれば「このようなスタンスもありかな」とは思います。(注8)

しかしながら「物理的な内容を重視する」ならば「ランダウ、ジューコフによる記述の方が良い」と評価するのは「当方の個人的な見解=好みの問題」ですかね。

まあそうなんではありますが ランダウ、ジューコフが示した様に「固有時がローレンツ不変である事=どのような相対速度を持つ観測者が観察しても同じ値になる」というのは、ローレンツ不変量からの数式展開をするまでもなく、物理的な状況を考えるならば「きわめて常識的な事、当たり前の事」なのであります。

そうして「その常識的な事」をローレンツ変換がローレンツ不変量として出してくる、と言う事の方が「不思議な事」あるいは「見事な事である」と言えます。

追伸の2
そうしてまたその様に言う事とは別に「それはおかしいだろ」「今までは時計と観測者との間の相対速度によって『運動していると見なされる時計の時間』は『観測者の時間よりも遅れて観測される』と言っていたのではないのか?」と問わなくてはなりません。

特殊相対論を認めるならば「相対速度の大小によって運動している時計の時間の遅れ=時計の針の位置は変わる事になるはずだ」と。

そうであれば「今までの時間遅れの話」と「ここで言っている固有時の話」は折り合いがつかない様に見えるのだが、、、。

・・・そう言う訳で、次の話がいよいよ「固有時パラドックスの登場」と言う事になるのです。


注8:すこしフライングで申し訳ないのですが、EMAN物理のスタンスが現れている記述がここにもありました。
「4 元速度」: https://archive.ph/KLmSo :『・・・実はこのようにするのは,物理的な意味合いからではなく,数学的な要請からなのである.』

どのようにして自然を理解していくのか、その時に数学は確かに強力な武器となりますから、一概に「数式展開ではこうなる」という進め方を否定するものではありません。

まあそうなると後はやはり「好みの問題」と言う事になりましょうか。

ちなみに「何で固有時みたいなものを導入しなくてはいけないのか?」について言えば「たとえばE=MC^2の導出がスマートに行える」と言うのが一つの答えになるかと思います。

そうしてまた相対論的な運動方程式というものも数学的にはスマートに導出できる、となりましょうか。

加えて相対論を量子力学に展開する時にも固有時の導入によって見通し良く行う事ができた、と言う事につながっている様です。ー>: http://fsci.4rm.jp/modules/d3forum/index.php?topic_id=4221#post_id29705 :


PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/vUhr2