歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

ラビア=カーディル来日に対するトルコ人の反応

2009-07-30 08:01:18 | 東トルキスタン関係

“世界ウイグル会議”のラビア=カーディル議長が来日しましたね。まあ、この人の発言はしばしば誇張気味だ、とか、あと“世界ウイグル会議”も“全米民主主義基金”から支援を受けている以上、米国のヒモ付きではないか?”とか、色んなことを言われているわけですが、いかにそれが事実だとしても、自派を有利にするためのプロパガンダや“敵の敵”と結ぶ戦術は政治のイロハです。ある程度は仕方がないでしょう。徒手空拳では、圧倒的に強大な圧制者と喧嘩などできないわけで。しかも相手はあの中共ですw。

ラビア議長というのは、元は中国有数の大富豪でした。改革・開放時代に洗濯屋からのし上がったという模範的な“少数民族”の成功者であり、富にも名誉にも十分に恵まれていたわけです。彼の地の社会的な矛盾や苦しむ同胞には目もくれず、余計なことを言わずにただ体制に従っていれば、一族の未来は安泰だったはずなんですよ。それらを全て放擲して同胞の為に尽くしているという点だけをとっても、尊敬に値する人物ではないかと思うのです。

中央アジアとかあの辺のエラい人は、自分の一族と知り合いさえ富めば社会も国もどうなってもいいや”みたいなのが普通なので、余計にそう感じるのかもしれませんが。

そのラビア議長が日本に来たということで、中共の連中がえらく怒っているらしい。2日前の産経の記事で、こんなの↓がありました。

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 【ウイグル暴動】世界ウイグル会議議長来日で中国内に反発広がる 2009.7.27 19:52
http://sankei.jp.msn.com/world/china/090727/chn0907271954004-n1.htm

【北京=野口東秀】世界の亡命ウイグル人組織を束ねる「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長(62)=米国在住=の28日からの日本訪問をめぐり、中国外務省は27日、「日本政府は中国が何度も申し入れたことを顧みず、カーディル(氏)が日本を訪問し反中分裂活動を許したことに強烈な不満を表明する」とする報道官談話を発表した。

中国政府は新疆ウイグル自治区で5日に起きた暴動でカーディル議長を「扇動の黒幕」と名指しで非難、各国のビザ(査証)発給に神経をとがらせているが、この件で反日感情が広がることも懸念しており、激しい批判は控えている。

中国共産党機関紙・人民日報傘下の「環球時報」は27日、インドの地元紙の報道を引用する形で、ウイグル暴動前にカーディル議長がインドにビザ(査証)を申請したが、「インド領土内で反中的政治活動は許可できない」(インド外交筋)として「拒絶」されていた事実を挙げ、日本の対応は「非常に非友好的だ」との学者の声を紹介した。

記事には外交学院アジア太平洋研究センターの蘇浩主任の「(日本政府が)ビザを発給したのは、中国の台頭を抑えるためであり、西側諸国への追従でもある。中日関係に大きな障害をもたらすことになる」との批判も掲載された。

この報道を受け、インターネット上の掲示板には「日本を地球上から抹殺せよ」「日本製品の不買運動をしよう。中国は強大になった。打倒、小日本(日本への蔑称)」「日本の野心は永遠に変わらない。核兵器でつぶせ」などの書き込みがあふれた。


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「非常に非友好的」だとさw。大笑いですね。日本政府は単にビザを出しただけであって、ラビア議長を招いたわけでも、亡命を受け入れたわけでもないのにね。

この程度で大騒ぎするのであれば、まずは議長の亡命を受け入れて、これに支援までしている米国に噛み付くのが先でしょう。大勢のチベット人“民族分裂主義者w”とその亡命政府を何十年も抱え込んでいる、インドもお忘れなく

大体、“世界ウイグル会議”は彼の地で一から暴動を起こせるほど大がかりな組織ではありません。そのことは、“チベット亡命政府”やダライ・ラマのことは熱心に監視していた中国当局が、つい最近まで、そちらには大して関心を払っていなかったことでも分かるでしょう。自分自身の経験でも、数年前、カシュガルのネット屋でチベット独立派関係のサイトにアクセスできるか試してみたら、軒並み表示されなかったのに対し、東トルキスタン関係のは普通に見れましたから

で、中共の中の人たちは民族政策の失敗と統治能力の低下を自国の人民らに悟られないよう、ラビア議長やウイグル会議を巨大な“藁人形”に仕立てて大騒ぎしているわけです。それに日本も絡めれば、ナショナリズムを刺激してさらに人民の注意をそちらに向けることができる。それに、相手が米国だとあれだけど、日本であれば少し強い態度に出ても大丈夫だというわけで。

共産党の思惑はそんな感じかもしれませんが、あちらのネット人民たちの反応は本当にそんな具合なのでしょうか?産経の記事だからちょっと色をつけてるんじゃないかと思って、こちらの↓翻訳サイトを覗いてみたところ、

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「ansan's楽しい中国新聞(中国ニュース)」
http://ansan01.blog121.fc2.com/blog-entry-222.html

干涉他国内政,不会有好下场。全中国人民万処ル一心杀鬼子暑x!
(他国の内政に干渉する連中にはロクな運命は待ち受けてねえよ。全中国人は気持ちを一つにして日本鬼子を殺そうぜ!)

死鬼子,没看印度没敢发!
(死鬼子め。インドでさえビビってビザ発給できなかったのによ。)

充分说明了我们的敌人不是印度是日本。
 (中国の敵はインドではなく日本だったってことだな。)

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実際、こう↑らしい。ダメすぎるw。これも“愛国教育”の成果なのか?一体どっちが”内政干渉”なんだか。いい加減、自国民のガス抜きに他所の国を巻き込むのはやめて欲しいものですが。

しかし、こういうダメな愛国心の昂揚を見ていると、彼の地の民族問題はいかに体制が変わっても、解決しなさそうな気がして何だかうんざりしますね。

ところで、ラビア議長来日のニュースはトルコでも報道されました。これ↓は7/27日の日刊紙“ヒュリエット”の記事です。コメントは意外と沢山付いていました。
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「日中間に“カーディル”危機」  2009/7/27
原文:Çin'le Japonya arasında 'Kadir' krizi

http://www.hurriyet.com.tr/dunya/12154909.asp

中国は、予定されているウイグル人独立派の指導者ラビア=カーディル氏による日本の首都・東京への訪問を、激しく非難した。

※ 中国領のウイグル人の間では、“姓”は存在せず、普通は名前+父親名。つまり、ラビア=カーディルのラビアが名前、カーディル(男性名)は彼女の父親の名である。オスマン帝国時代のトルコでも同じく姓の概念は存在しなかったが、革命後は各々固定した“姓”を持たされることになった。そういうわけで、この記者も“カーディル”を姓とみなし、文中では彼女を指して“カーディル(氏)”という名を使っているが、何となく妙な感じなので訳文では全て“ラビア”と改めた。

日本の共同通信の報道によれば、在日中国大使のスイ=ティエンカイ(崔天凱)氏は記者会見の場で“日本である重大犯罪が起こり、その首謀者を第三国が招聘したとしたら、日本の人民はどう感じるだろうか?”との表現を用いて語ったとのこと。

スイ(催)大使はまた、ラビア氏の訪日が、近年好転しつつあった日中関係に害をもたらすのは許されるべきではない、と警告しつつ、“共同で取り組む必要のある案件が一人の犯罪者により損なわれたり、もしくは共通の利益に向けられている注意が他の件にそれてしまうのは防がねばならない”と言った。

中国は、今月、新疆ウイグル自治区に於いて発生し、200人に近い犠牲を出した騒憂事件を計画したとして亡命中の世界ウイグル会議の指導者、ラビア氏を訴追。一方のラビア氏は、こうした主張を否定している。

来日はシンポジウム出席のため

ラビア氏は、日本の首都・東京で7月29日に開かれるシンポジウムで講演を行ったり、またメディア向けに記者会見を開くことになっている。来日が待望されているのはそのためだ。

中国ウオッチャーらが注目しているのは、中国政府が、昨年発生した民族紛争を扇動したとして訴追しているチベット亡命政府の指導者ダライ・ラマの外遊については常々非難してきたのに対し、ラビア氏の外遊を声高に批判することなんて、これまでほとんどなかったという点である。

<ハルクのコメント>

論評ハルク1号
どの国にも同じ脅しをかけてるんだな。どう関係が悪化したとしても、日本は世界の技術大国なんだよ。お前らのガラクタなんざ要るもんか!


論評ハルク2号
>1号
いくら日本が技術大国だといっても、中国には最安の労働力がある。日本人たちは技術を発展させてはいるが、その製品は中国で生産されてるんだ。残念なことに、どの国も同じく中国に縛られるか、あるいは近いうちに縛られる運命にあるわけだ。


論評ハルク3号
日本人たちはラビアのことを心配してくれるんだな。あのAKP(公正発展党)が中国にびびってビザを出さず、入国もさせず、アラブ人じゃないから支援もしないあのウイグル人のことを….。

※ この人は世俗派で公正発展党が嫌いらしい。現在の公正発展党政権は、何年か前にラビア=カーディルがトルコを訪れようとした際、ビザの発給を断っている。また、アラブ人云々というのは、ガザ紛争の際に派手な反イスラエルのパフォーマンスで支持率を向上させた公正発展党とエルドアン首相が、今回は相手が中国と言うことで引き気味になっていることに対する皮肉かと思われる。


論評ハルク4号
中国はもちろん嫌がるだろうよ。あいつらがやった虐殺や、拷問や、諸々の汚いことを喋ってしまうだろうからな。あいつらはそれが話題になることすら我慢できないわけだ。奴らの目的は、東トルキスタンに住むテュルクを絶滅することにある。


論評ハルク5号
漢人たちは、世界にテュルク系民族が一人も残らなくなるまで虐殺を続けるだろう….。奴らは俺たちに対し、歴史に根ざした敵意をもってるんだ。


論評ハルク6号
日本と言うのは反中の国なんだよ。中国人は日本人が嫌いだし、日本人も中国人のことを嫌ってる。


論評ハルク7号
昔、中国市場というのは世界でこれほど支配的じゃなかった。というか、中国って貧しかったんだよな。今では真の意味で強国化、富国化しつつある。10年後、奴らが空母を何隻も買い込んで、うちらの国境に迫ってきたとしても、全然驚かないだろうよ。もちろん、俺たちの側だって国民の9割は中国製品を手放せていない。中国の強国化は、俺らにも責任があるってことだ。


論評ハルク8号
うちは日本みたいにはなれなかったんだな….
※かつてラビア=カーディルがトルコのビザ発給を拒否されたことを言っている。


論評ハルク9号
分離主義は、どの国でも罪だ。そして、罰せられるものなんだ。俺たちの国がPKK(クルド人独立派の通称)に懲罰を与えようとして、長年果たせずにいるようにな。中国は強力な国で、分離主義は認めていない。俺たちもそういうことができればなあ

※ かつてのトルコ共和国は国内のクルド人に対しては徹底した同化政策をもって臨んできたが、近年ではEUに入るために、文化的な自治を認める方向に動きつつある。ただ、国内には他にも様々なエスニック集団があるものの、彼らにはその種の権利はほとんど認められていない。

論評ハルク10号
漢人たちがやらかした残虐行為は、外道の所業だな。


論評ハルク11号

我らがトルコ国家に、日本ほどの“漢の国”となるのを期待するのは、夢物語だろうか?


論評ハルク12号

俺に一つ考えがある。漢人らに腹が立つのであれば、中国で迫害されているテュルク系民族をトルコに受け入れて、みんなで助けてあげようじゃないか!

※ 既に1950年代にやっている。中共の支配を逃れて国外に流出したウイグル難民は、一時期アフガニスタンやパキスタン北部に住んでいたのだが、当時のトルコ政府はこれを大量に受け入れた。その中には、かつての東トルキスタン共和国の関係者も含まれていたという。ウイグル系トルコ人の数は、全国で現在3万ほど。なお、“世界ウイグル会議”は、これらウイグル系トルコ人たちの互助組織が母体となっている。


論評ハルク13号
中国はテュルク系民族が一人も残らなくなるまで虐殺を続けるだろう、とかいってる奴がい居るけど、確かに歴史的な敵意ってものはあるだろうな。かつてテュルク系遊牧民の南下を防ぐために造られた、万里の長城を見るまでもなく。でも、たかだか200人程度のテュルクを殺しただけでこれだけ騒ぎになるということは、中国当局はこれ以上度を越したことはしないんじゃないか?と俺は思うんだが……

※トルコのメディアの一部には、中国当局が発表した死者約200人はすべてウイグル人だと報道しているところがある。


論評ハルク14号

漢人たちはトルコ人を憎む余りに、ヨーグルトすら食えないんだ

※西欧諸語の“ヨーグルト”という言葉はトルコ語(あるいは別のテュルク系言語)に由来している。ブルガリア語ではないので誤解無きよう。ちなみに、あちらでのヨーグルトは日本で言えば味噌レベルの基本的な食材で、あらゆる料理に使われる。でも、普通の中国人はそんなこと知らないだろう........。

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この中で一番印象的なのは“9号”ですかね。クルド人について何か言われた時の普通のトルコ人の反応は、結構こんな感じだったりします。基本的に自己中な人たちなんですよ。でもって、それは何だか、チベットやウイグルに関して突っ込まれたときの漢人の反応を思わせるという……。

最近はお互いにあれこれ言ってますが、両者は意外とよく似ているのかもしれません。当人らが気づいていないだけで。



 


トルコのメディアは、東京のウイグル支援デモをどう報道したか?

2009-07-28 00:32:44 | 東トルキスタン関係

二週間ほど前、東京都内で在日ウイグル人らを中心に、ウルムチ事件への抗議デモが行われたとのこと。

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『ウイグルに自由を』 都内で700人デモ  2009年7月13日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2009071302000091.html

中国新疆ウイグル自治区で発生した暴動で、日本在住のウイグル人ら約七百人が十二日、東京都内でデモを行い、中国政府の少数民族政策に抗議した。

デモに先立ちあいさつした在外ウイグル人組織「世界ウイグル会議」の日本代表、イリハム・マハムティ氏は「今回の事件は突発的ではなく、六十年来の怒りが爆発したものだ」と主張。ウイグル人が差別的な待遇を受けてきたことが事件の伏線にあると訴えた。

この日は日本在住のチベット人やモンゴル人、台湾人らも参加。亡命チベット人で、桐蔭横浜大学のペマ・ギャルポ教授は「われわれの戦いは、民族の文化を守り抜くための正義の戦い。明日、あさってに終わるものではない」と諸民族が連帯し、中国政府に圧力をかけていくよう呼びかけた。

この後、渋谷駅周辺を約三キロ行進し、「ウイグルに自由を」などとシュプレヒコールを上げた。

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これ↓が実際のデモの模様らしいのですが、


時々“マスコミは真実を報道しろ!”とか“NHKは捏造をするな!”みたいな、ウイグルとはあまり関係の無さそうなシュプレヒコールが聞こえるのは気のせいでしょうか?

その辺が謎だったのですが、どうやら一部の参加者に対し、“チャンネル桜”界隈から以下のような↓通達が出回っていたらしい。なるほど。そういうことか。
http://blog.livedoor.jp/antijapanhunter/archives/51222406.html

■中国政府によるウイグル人虐殺 抗議デモ■

【日時と場所】 平成21年7月12日(日) 13時00分 中国大使館前抗議行動 (場所が分からない方は、六本木駅6番出口に12時50分に集合してください) 
         (中略)
 ※「NHKの大罪」Tシャツを「中共の大罪」に修正するシールをお分けしますので、是非、「NHKの大罪」Tシャツを着用してください。


「NHKの大罪」Tシャツというのはこういうもの↓だそうで….。


ちなみに、これ↓は何年か前に釜山の服屋で買った「竹島は韓国のものだ」Tシャツ。


どこか似ているのは、用途が同じだからか?

とりあえず、どちらを着ててもモテなさそうですがw。まあ、こういうのを着てる人たちは具体的にウイグル人の事がどうこうというよりも、とにかく中国を叩くための口実が欲しいんだろうなあ。

でも、今のようにウイグル問題をほぼ全世界がスルーしている状況下にあっては、いかなる支援デモであれ貴重なことは間違いありません。普通の人の参加は期待できないですしね。

このデモの模様は、トルコの複数のメディアでも報道されました。

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 「日本人たちがウイグル人を支援」   2009/7/14
原文:Japonlardan Uygurlara Destek
http://www.haberim.net/japonlardan-uygurlara-destek-haberi-328/

日本の首都東京に於いて、東トルキスタンで進行中の蛮行を非難するため、2000人余りの人々の参加による集会が催された。集会には日本の政治家たちをはじめとして、日本在住のチベット人、モンゴル人、台湾人らの参加者が多かった。このような動きは、在日トルコ人たちからも支持されている。

集会では日本、東トルキスタン、トルコ、チベット、それに台湾の国旗が掲げられたが、中でも、キョク・バイラック(青天新月旗=東トルキスタン共和国の旗)が東京の街角で翻るのが見られたのは、貴重なことだ。

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参加人数が倍以上に増えているような気もしますが、あちらの報道ではよくあることです。だからそれはいいとしても、問題は記事に添えられていた写真なんですよ。

どんな写真かと言うと、

↓コレなんですが......


えーと….。

“キョク・バイラック”でも日章旗でもなく、どう見ても太極旗ですw。ありがとうございました。

東京じゃないよな、これは。

くどいようですが、あちらの人間のほとんどは、東アジア諸民族の区別なんてついていません。それは一般人だけの話ではなく、メディアの人間でもこれほど豪快に写真を取り違えるほどなのです。

ただですね、最近ちょっと気になるのは、Youtubeでは現在トルコ人と中国人の間で動画の投稿合戦、罵倒合戦が続いているのですが、トルコ人のコメントで“中国製品をボイコットして、日本と韓国のものを買おう!”とか、“漢人は太古からの敵だが、日本民族と朝鮮民族は俺たちの味方だ”みたいなのがやたらと目につくことです。

何か”日本と韓国”で一セットなんですよ。あたかも”ボスニア・ヘルツェゴヴィナ”とか昔の”チェコスロヴァキア”みたいな感じで使われている。でもって、中国からはきっちりと区別されている、という。

これには、あちらの大衆の間で根強い人気を持つ極右的な民族主義思想の一つ、“汎トゥラン主義”トゥランはイランの対概念で、ほぼ現在の北・中央アジアを指す)も影響しているのかもしれません。この思想は、要するにトルコ語と近い関係にあるアルタイ系やウラル系の言語を話す諸民族を政治的に統合して一つの国を造ろうという考え方です。この思想を信奉する人たちは、モンゴル語や満洲語のみならず、朝鮮語や日本語もアルタイ系言語の中に入れてしまうのが普通ですね。つまり、日本人や朝鮮人は漢人とは区別して、同胞とみなすわけです。あくまで“観念的な”同胞ですけどね。

そういう土壌があるのは確かなんだけど、自分自身の経験から言っても、最大の転機はやはり2002年のワールドカップであるような気がします.。

なお、このニュースサイトではこの記事についてのコメントは未だ一つもありません。他のニュース系サイトの似たような記事でも同じ。ウイグルネタは、内容によっては何百も書き込みがあったりするんですけどね。日本での反応にはさほど興味がないということか?


ウルムチ“血の日曜日事件”に対するトルコ人の反応(4)

2009-07-23 15:34:42 | 東トルキスタン関係

→(3)からの続き

これに対して、“俺はウイグルが大好きだ”みたいな発言は、多分単なる好事家程度にしかみなされなさそうです。“人道的な”関心の度合いから言えば、チベット人どころか鯨とか犬とか二酸化炭素にも負けるんじゃないか。あちらで流行らないものは日本でも流行らない。普通は“ウイグル?何それ?獄長?”くらいの勢いですよね。“西域”とか“シルクロード”みたいな言葉をつければ反応する人はさらに増えそうですが、彼らは彼らで古代ウイグル人のことはともかく、現代のウイグル人には関心が無さそう(古代ウイグル人と現在のウイグル人では、話している言語の系統にしろその文化にしろ、かなり異なります)。

一方、ウイグル人からしたら同宗者にあたるイスラーム世界はどうかというと、インドネシアとイランで少しデモがあり、あとイランの法学者が少し文句を言ったのを除けば、ほぼ沈黙しているに等しい。半年前、イスラエルがガザに侵攻した際にあれだけ大騒ぎしたアラブ諸国の連中も、一部の過激派を除けば完全にスルーですよ。一体どうなってるんでしょうか?

そんな中、ウルムチ事件の報を知った人々が国内のあちこちでデモを起こし、激昂した世論に突き上げられる形で政府の要人が公的に中国を非難せざる得なくなっているという、奇特な国があります。

そうです。テュルク系諸国の盟主を自認する(人たちがとにかく大勢いる)中東の大国、あのトルコ共和国です。

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トルコ商工相「中国製品ボイコットを」
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp1-20090710-516414.html

中国新疆ウイグル自治区の大規模暴動に絡み、トルコの エルギュン商工相は9日、トルコ中部で行われた貿易 関係者との会合で「抗議のためトルコ人は中国製品を ボイコットすべきだ」と述べた。一方、商工省報道官は 「発言は大臣の個人的な意見で、トルコ政府の方針では ない」としている。 トルコ人とウイグル族は民族的に関係が深く、トルコ国内 には多数のウイグル族が居住。8日には首都アンカラの 中国大使館前で数百人が抗議デモをした。
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私的な発言とはいえ、現役の商工大臣が中国製品のボイコットを呼びかけている。凄い話です。

で、このニュースに対する人々の反応は以下の通り。膨大な数の書き込みがついていました。本文は上の日本語の記事とほとんど同じなので、省略。

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「エルギュン大臣から中国製品ボイコットの呼びかけ」
原文:Bakan Ergün'den Çin'e boykot çağrıs
http://www.haberturk.com/ekonomi/haber/158079-tumyorumlar-Bakan-Ergunden-Cine-boykot-cagrisi.aspx

<ハルクのコメント>

論評ハルク1号
こいつは未来の大統領だな。


論評ハルク2号

中国製品なんてゴミと同じだ。俺はこの不買運動に参加するぞ。


論評ハルク3号

我らがアタテュルクは意味も無く“トルコ人にはトルコ人以外の友人はいない”と仰ったわけではない。トルコは何故、未だウイグル人への友情を示せないんだろう?ご先祖様を裏切った国であるパレスチナは助けたと言うのに….。ムスリムであるだけでなく、テュルクの同胞である我らが血族に対し、何故支援の手を差し伸べないんだ?

※第一次大戦中の、オスマン帝国に対するアラブの反乱のことを指すと思われる。


論評ハルク4号

俺は仕方なく中国に住んでる者だが、この“人でなし”どもに対し、ありとあらゆる形で不買運動を呼びかけたい。


論評ハルク5号

トルコ人の力を見せてやろうぜ。品物を見て、“MADE IN CHINA”とあれば、買うのをやめるんだ!


論評ハルク6号

トルコが中国から物を買うのをボイコットするとか言ってもだな、米、仏、英、独と欧州はどこでも、またアジアの方も全部の国が中国から物を輸入してるんだ。中国は今の経済危機から脱するための鍵となる国だろう。全てが中国にかかっている。お前らも現実的にならないと。


論評ハルク7号

フランス議会がアルメニア人大虐殺を非難を決議したときも不買運動があったけど、あんな尻つぼみにならないようにしないとな。今度は最期までやり遂げるんだ。


論評ハルク8号

俺は大臣の発言を全力で支持する!同胞が中国人に隷属しているということを、俺たちは知るべきなんだ!


論評ハルク9号

でも、大臣閣下がお話になっているマイクですら、中国製なんだけども。


論評ハルク10号

どれが中国製だか分かればボイコットのしようもあるんだけど…..今や何でも中国製なんだよなあ。


論評ハルク11号

いいぞ、大臣!


論評ハルク12号

“自分がトルコ人であると言えることは、何と幸せなことだろうか”
※アタテュルクの言葉


論評ハルク13号

ボイコットって….冗談だろ?w大臣は何ら状況を把握せずにしゃべってる。今やそこら中が“メイド・イン・チャイナ”だというのに….。


論評ハルク14号

中国製品を買うのは間違いってことになったのか?今頃になって?俺たちは何年もの間、有害な中国製品の害を受けてきたのに。一体政府は今まで何をやってたんだ?


論評ハルク15号
中国製品をボイコットするだけじゃなくて、中国大使もこの国から追い出そうぜ!



論評ハルク16号
中国製の品物の何と多いことか….。でも、抗議行動は絶対にやらないといけない!代替品が見つからないと、ちょっとつらいことになるかもしれないけど….。そういう呼びかけを大臣の口から聞けるとは、素晴らしいことだ。


論評ハルク17号

トルコ民族は、この世界で自供自足が可能な唯一の民族だ。アッラーはこの民に全てをお与えになった。今こそトルコ世界は統一されるべきだ!


論評ハルク18号
大臣は中国製品のボイコットを呼びかけたけど、その言葉は奴の個人的な考えに基づくものであって、大臣という役職には関係ないとか言いやがった。こいつも“チン・チョン”中国人に対する蔑称)だな。


論評ハルク19号
中国という、一匹の巨大な怪物が生み出されてしまった。我々はみんなでこれに“止マレ!”と言わなければならない。今がその時なんだ。みんな、能うる限り反対の声に耳を傾けてくれ。今回は雑音に耳を貸す必要は無い。全ての中国製品をボイコットしよう。買うのをやめよう。人間性の名において!

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ニュースサイトの掲示板は差別用語の類がすぐ削除されると言うのもありますが、全体的にコメントはおとなしめですね。Youtubeや個人サイトの掲示板では“細目”、“チビ”、“犬を食う奴ら”、“アッラーよ中国を滅ぼしたまえ!”といったダイレクトな罵倒語が飛び交っていました。まあ、最後の奴以外は漢人のみでなく、東アジア人全般に対して使われがちなのがちょっとあれなんですが......。

その一方で、“現実的な国益を考えろ”みたいな、冷静なコメントも見られるのですけど、この両者の違いには、いつものような世俗派とイスラーム派に加えて、トルコ民族主義の曖昧な部分も絡んだ面倒くさい背景があります。これについてはまた後ほど。

→(5)に続く

 


ウルムチ“血の日曜日事件”に対するトルコ人の反応(3)

2009-07-23 14:37:12 | 東トルキスタン関係
→(2)からの続き

何かですね、漢人の中には“漢人こそがウイグル人に“文明”と近代化をもたらしたのだ。もし彼の地が中国の一部でなければ、今でもアフガニスタンみたいな状態であったに違いない”みたいなことを平気で口走る人がいるようです。アフガン人に対し失礼だろう、とかそういう話はさておき、多分、そうはならなかったのではないか。

中国本土の人々の感覚では、伝統的にあの辺は西の地の果てかもしれませんが、19世紀の半ば以降は、隣はすぐ帝政ロシア/ソ連でした。そして、清朝の末期から今の中国が成立する辺りまで、“旧新疆省”は事実上、その影響下にあったのです。 もし中国領にならなければ、間違いなくソ連の一部か“第二のモンゴル”になっていたでしょうね。

何しろ、スターリンは本格的にあの辺を分捕るつもりだったという話です。第二次大戦前に行われた松岡洋右との会談の際にも、“満洲と南モンゴルにおける日本の権益を認める代わりに、北モンゴルと新疆はウチがもらう”なんてことを言っていたほどで。 1944~1946年に渡って新疆の西部に存在した“東トルキスタン共和国”などは、まさに、そのための布石だったと言えるでしょう。

建前としては、現地のウイグル人やカザフ人の民族主義者が主体となっていたわけですが、それをお膳立てし、政治・軍事的な実権を握っていたのはソ連国籍の中央アジア人やロシア人でした。この辺の事情は、ちょうど同じくらいの時期にイラン領アゼルバイジャン(南アゼルバイジャン)付近にアゼルバイジャン人やクルド人の独立政権が出現し、イランからの分離を試みたのとよく似ています。実現の可能性が低いと見るや、ソ連が民族主義者たちをあっさり見捨てた点もまた同じ。

↓東トルキスタン共和国の版図=だいたいこの地図で色のついている辺り

出典: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Location_of_Ili_Prefecture_within_Xinjiang_(China).png

ここ↓の地図方がより正確です。なお、この中で“イリ”とある都市が共和国の首都“グルジャ(伊寧)”
http://saveeastturk.org/jp/index.php/%EF%BC%92%E3%81%A4%E3%81%AE%E6%9D%B1%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD

↓東トルキスタン共和国軍の首脳たち。現在の中国ではこの名は避けられ、“民族軍”と呼ばれている。

出典:http://www.uyghur1.com/uyghur/viewtopic.php?t=683

↓東トルキスタン共和国軍の騎兵部隊。現在“北疆”と言われる新疆北部において、蜂起の主体となったのはカザフ人だった。当時のカザフ人は主に遊牧生活を送っており、この騎兵部隊もカザフ人のものだと思われる。ちなみに、蜂起を指揮したカザフ人オスマンは、後に侵攻してきた人民解放軍に対してもゲリラ戦を展開。敗れて処刑されている。

出典:http://www.uyghur1.com/uyghur/viewtopic.php?t=683

↓東トルキスタン共和国軍内の女性たち。軍服は、やはり当時のソ連赤軍のものによく似ている。

出典:http://www.uyghur1.com/uyghur/viewtopic.php?t=683

↓映画の中で、国民党軍をボコボコにする東トルキスタン共和国軍。ソ連赤軍から兵器や人員の支援を受けた東トルキスタン軍は強力であり、一時は新疆省の省都、迪化(現ウルムチ)に迫るくらいの勢いだった。

今の中国共産党の公式史観においては、東トルキスタン共和国の建国運動は“三区(東トルキスタン共和国が支配したイリ、タルバガタイ、アルタイの3地区を指す)革命”と呼ばれ、ウイグル人やカザフ人の“民族独立運動”ではなく、国共内戦時に中国各地で起こった“反国民党蜂起の一環”とみなされている。お陰でこんな映画も作られているが、漢語を話すウイグル人の軍隊が漢人の軍隊を圧倒する光景を、ウイグル人たちはどういう気持ちで見ているのか。



あの辺が中国領となったのは、あくまで蒋介石が“北モンゴル(=今のモンゴル国) ”の独立を認めて妥協したのと、あとは米英がソ連を牽制した結果に他なりません。

で、もしソ連領になっていれば、あちらでは“大躍進”や“文革”は無かったですから、恐らく、はるかに順調に“近代化”は進んでいたものと思われます。もちろん、ロシア人の移民はやってきたでしょうが、元の絶対数が漢人とは比較にならないほど少ないわけで….。かつてソ連に属していた中央アジア諸国の例から推測する限り、せいぜい数十万~百万くらいだったのではないでしょうか。その一方で、モンゴルや極東の場合と同様、入植していた漢人は殆ど追い出されたでしょうね。

結果として、ウイグル人などのテュルク系諸民族が多数派を占めたままで1991年のソ連崩壊を迎え、棚ぼた式に独立を獲得できたかもしれない。雰囲気的には、文化・民族的にウイグル人と最も近いウズベク人の国、ウズベキスタンを小型にしたような感じか。

その代わり、スターリンが死ぬまでの間に民族知識人とか宗教関係者の類は軒並み粛清されたり、収容所送りになったりして、伝統文化の破壊と非イスラーム化は中共のそれ以上に苛烈なものになっていたかもしれません。全体的な生活習慣はロシア化し、無神論者で、かつロシア語しか喋れないようなウイグル人エリートたちが国を牛耳るようになっていたに違いない。

汚職の蔓延もひどいことになったでしょう。今の中央アジア諸国、特にウズベキスタンを見ていると大体想像がつきますよ。あの辺の国々と比べると、中国の方がまだ“法治度”は高いので。あと、タクラマカン砂漠はソ連もやはり核実験場に使ったことでしょう。カザフスタン東部の、周りに人が住んでる所ですらどかどかやってたくらいですから。

それを思えば、ウイグル人自身にとって、どちらが良かったかは分からないかも。中ソのどっちかを選べなんて、あまり楽しくない二者択一ですけどね。でも、ソ連側に入ってれば、少なくとも自らの故郷において“少数民族”となる道だけは、避けられたかもしれない。

まあ、そんな仮定の話よりも重要なのは、彼の地は何十年もロシア/ソ連の影響下にあっただけに、それだけロシア文化の影響を受けやすかったということです。その中心はロシア領事館があり、ロシア領中央アジアとの間の事物の往来も密接であったグルジャ(伊寧)とイリ盆地の辺りでした。

特に、19世紀末~20世紀の初めには、帝政ロシアのムスリムの間でロシア文化を介して西欧文明を摂取し、自力で近代化を進めようという社会運動(“ジャディード運動”)が起こりますが、それはウイグル人の間にも伝播。裕福な商人らは子弟をロシア領の学校に留学させました。その中から、東トルキスタンの新しい知識人が生まれていきます。

つまり、漢語を一切経由せずに近代文明を受容するルートが存在したということですよ。

しかも、時期的にも、中国本土の漢人たちが沿岸部にある香港のような植民地や、天津や上海などの租界、または日本や各国に送られた留学生を介して西欧文明を取り入れ始めた頃と、そんなに変わらないという。 同時に、彼らは当時の中央アジアやオスマン帝国の知識人の間に広まっていた“汎テュルク主義”思想世界のテュルク系諸民族を政治的に大同団結させよう、という思想)の影響を受け、言語を基盤にした近代ナショナリズム思想にも目覚めていくことになります。

それまで、各々“カシュガル人”とか“ムスリム”と名乗っていた東トルキスタンのテュルク系ムスリム定住民の共通の呼称として、古代ウイグル王国にあやかった“ウイグル”を採用したのは、1921年にソ連のアルマ・アタ(現カザフスタンのアルマトゥ)に集まったそうした知識人たちでした

※参考 http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/publictn/89/contents-49.pdf

こういうのも、近代的なナショナリズムとしての“中華民族主義”が中国本土で唱えられるようになった時期とほぼ同じですね。 また、中央アジアにおいて何百年も使われてきた煩雑なチャガタイ文語の代わりに、口語に則した現代ウイグル語を整備したのも彼らです。くどいようですが、これも中国本土における“白話運動”と時期的にはほぼ同じ。

でも、ロシアで教育を受けた人々ばかりだったからか、現代ウイグル語の交通、技術関係、政治用語といった近代語彙はロシア語からの借用語ばかりですね。漢語由来のものは少ない。

例えば、今手元に、昔ウルムチで入手した漢-ウイグルの会話集があるのですが、
↓「ウイグル語日常会話500句」(2001年、新疆人民出版社)


その語彙集をちょっと見ただけでも、たった1頁の中に、


切符
Belətべレット(←露語“билет” ビリェートから)

Maşinaマシナ←露語“машина”マシーナから

飛行機Ayroplanアイロプラン(露語“Аэроплан”アエロプラーンから)
※古い言葉。今では使われていない。

列車Poyizポイズ(露語“поезд”ポーイズドから)

と、明らかにロシア語経由で入ったと分かるものが、こんなに見つかります。

ついでに言えば、ソ連の後押しで“東トルキスタン共和国”建国の中心となった民族主義者というのも彼らのことです。共和国はソ連が中国と妥協したことによって潰れてしまい、ある者は国外に逃げ、ある者は殺されてしまうのですが、新疆に残った連中にとっては、人民解放軍やそれと一緒に中央からやってきた漢人たちは“蛮族”にしか見えなかったんじゃないですかね。

ちょうど、第二次大戦時にフィリピンに攻めてきた日本兵が、米化した上層階級の目には“野蛮人”にしか映らなかったのと同じで。1950年代、中国にとってソ連は“先進国”であり“国造りのモデル”でした….。

要するに何を言いたいのかというと、一つは歴史的に、彼の地に近代文明をもたらしたのは漢民族ではないということ。もう一つは、新疆が中華人民共和国に編入される以前の段階で、ウイグルの知識人や商人らは既にロシア文化を介して西欧文明とナショナリズムの洗礼を受けており、彼らの間に近代的な民族意識は確実に存在したのだ、という話です。というか、自分らの方が先にソ連の文化になじんでいたと言うことで、漢人全般に対しては、ある意味優越感さえもっていた可能性もある。少なくとも、“格下意識”などは皆無だったでしょう。

こう書くと、そんなものはお前の主観ではないかと言われそうですが、現在の中央アジア諸国の連中、殊にあちらで生まれ育ったウイグル人の中国観や漢人観というのが、まさにこうなのですよ。“ロシア人>中央アジア人>中国人”みたいな感じ。ちなみに、この“中国人”には日本人や朝鮮人もしばしば含まれますw。だから、当時の、ロシアやソ連で学んだウイグル人らがどういう対漢感情を持っていたかについても、何となく想像がつくわけで…。

一方、地方のオアシス農民たちにはその手の思想は浸透していなかったのでしょうが、彼らは彼らで“イスラーム”や住んでいる都市や村に強固な帰属意識を持ち、漢人や回族を同胞だとみなす感情なんてなかったと思われます。そもそも、南部の方だと日常的に漢人と接する機会そのものが少なかっただろうし。

いずれにしても、この60年もの間、彼らが漢人への同化に消極的だったのは、ある意味当然だと思うわけです。 漢人たちは、どうもその辺りの歴史的経緯に無頓着すぎますね。ウイグルやチベット、それにモンゴルといった民族のことを、新中国の成立後、上から作られた他の50いくつかの“少数民族”と同じに考えていては、到底彼らの怨念は理解できないでしょう。

で、それが理解できない限り、“ウイグル問題=イスラームという宗教の問題”とみなす風潮は続くのでしょうが、何かそういうのは、かつて満洲で頻発した抗日運動を“共産主義者の陰謀”の一言で片付け、現地の漢人の間でも高まっていた“中華民族主義”には全く注意を払わなかった過去の日本人を思い起こさせます…..。

それはともかく、この件についての先進諸国の反応は冷たいですね。一応、日本を含むいくつかの国で亡命ウイグル人とその支持者によってちょこちょことデモが起きてはいるものの、昨年の“ラサ暴動”の時のようなお祭り騒ぎにはとても及ばない。ネット上のハンドル名で「~@Free Uygur」とか付けてる人って見ますか?全然見ないでしょう?こういうチベットとの違いは一体何なのでしょうか?

その理由としては、曰く、“世界的な大不況からの脱出は中国経済の成長如何にかかっているわけで、各国は中国を刺激したくない。”また曰く、“ウイグル人の独立運動にはイスラーム原理主義団体が絡んでそうなので、どの国も支援には二の足を踏んでいる。” 確かにそうなのでしょう。

でも、それって国家同士の話ですよね。民間での反対運動がちっとも盛り上がらないのは、つまる所、ウイグル人やウイグル文化は欧米人には人気が無いってことなんじゃないでしょうか。あちらのインテリの間では、“チベット”とか“仏教”は一種のブランドです。“チベットに興味がある”と言うと、何だか社会派っぽくて精神世界にも造詣が深そうで、何よりもお洒落ですよ。あちらでお洒落なものは、日本でもすぐに流行るわけで。


→(4)に続く
 

ウルムチ“血の日曜日事件”に対するトルコ人の反応(2)

2009-07-18 16:41:39 | 東トルキスタン関係

→(1)からの続き

それはともかく、今回の一連の事件の背景には、よく言われるように、漢人とウイグル人の間の深刻な相互不信があるのは間違いないようです。 まず、一般的な漢人がウイグル人のことを内心どう考えているかについては、

“大陸浪人のススメ”のこの辺り↓の記事のコメント欄にある、中国人の書き込みや、
http://blog.goo.ne.jp/dongyingwenren/e/5437d3d2864f5dd9cbfd0cc8ae9a87b3
http://blog.goo.ne.jp/dongyingwenren/e/d0ed0d51a70e98586a394794468403ee

この↓コラムなどが参考になりますが、

新疆ウイグル「純粋な悪魔はいない」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090715/200181/?P=2

北京五輪前、当局は治安管理の一環として、ウイグル族出稼ぎ労働者を北京から一掃した。それを見た北京住民たちは「ウイグル族の文化レベルは低く、窃盗や犯罪などは日常茶飯事、とっても迷惑」と口を揃えた。道端で屋台を営むウイグル族を見かけなくなった。


中国社会、特に豊かな沿岸地方における一般的なウイグル人のイメージは“貧しくてガラが悪くて手癖も悪い異形の集団。しかも怪しい宗教を信じている。”みたいな感じらしい。ネガティヴというか、ほとんど“蛮族”扱いですね。よく、あの辺では内陸部からの“民工”(出稼ぎ労働者)への差別がきついと言いますが、ウイグル人の出稼ぎはその“民工”以下の存在のようです。漢語が下手で容貌も一見して異なるということで、目立ちやすいのか?

そういえば、10年くらい前に中国に留学していた知人も言っていたのですが、周囲に“新疆に行ってみたい”と話すと、決まって“あんな危ない所に行くな!”と反対されていたのだとか。でも、その割には実際に新疆に行ったことのある人など一人もおらず、不思議だったのだそうで…。

まあ、政治・経済的に“帝国”の中心に吸い寄せられた“周縁”の人々が社会の末端に位置づけられ、構造的な差別を受けがちだというのは、近代以降の世界ではよくある話かもしれない。英国での南アジア人然り、ロシアでのカフカス人然り、昔の日本での朝鮮人然り….。件のウイグル人差別に関しては、例の有名な“中華思想”も影響しているのかもしれませんが、その辺のことは自分にはよく分かりません。

ただでさえ悪く思われがちなのに、9・11事件前後からは、これに“ウイグル人=イスラーム原理主義者=テロリスト”というイメージも加わります。この事件の後、ムスリムに対する風当たりが強まったのは世界中どこでも同じですが、ことウイグル人に関しては、その責任の一端はどう考えても当局にあるのではないか。

というのも、中国政府はこれまで新疆の民族問題を覆い隠すために、“独立運動をやってる奴ら=海外のイスラーム過激派に操られた狂信者”という安直なプロパガンダに頼ってきたからです。

例えば、TVではこんな↓ドラマが流れていました。

ドラマ“新疆反恐紀実”より、「宗教教育により子供を洗脳するウイグル独立派」

 
管理人はこのドラマ“新疆反恐紀実”(反恐=反テロ)のDVD(全編ほとんどウイグル語、漢語字幕付き)を2年前にウルムチで入手したのですが、筋立てとしては、海外のイスラーム原理主義組織(多分)と連なる“悪いウイグル人(=独立派のウイグル人)”たちが政教一致のイスラーム国家の建国を目指して色んな悪さをし、それを正義の武警(武装警察)が淡々と退治していくという….。

あちらの国営放送でよくやっている愛国戦争映画と何ら変わりありません。ただ、“日本兵”が“悪いウイグル人”と入れ替わっただけの話で。でも一応、“国家=漢人”vs“ウイグル人=過激派”との印象を視聴者に与えないための配慮からか、武警の指揮官は漢人とウイグル人の双方がいるとの設定になっています。

個人的な感想としては、とにかくつまらん。その単純で勧善懲悪的な内容もさることながら、何よりも、悪役がちっとも強そうじゃないんですよ。悪そうではあるんですけどね。海外のテロ組織と繋がってる割には妙に貧乏臭くて、アジトでは鍛冶屋みたいな奴がトンテンカンテンとピストルを自作している。

で、そういうホームメイドな武器で地道に独立運動をやっている健気な連中を、自動小銃や火炎放射器で完全武装した武警が淡々と撃ち殺す。絵的には、戦闘というよりも一方的な虐殺ですね。ひどすぎる。悪役が同情されるプロパガンダ映画ってどうなんだよw。そんな感じで、映画としての娯楽性もゼロに等しい。

ゼロなんですが、そのDVDは市内のDVD屋ならどこでも、それこそ道端の違法な露店でもハリウッド映画などと一緒に売られていました。ひょっとしたら、お上からそういう通達が出ていたのかもしれない。

↓“新疆反恐紀実”の表紙。裏には「中英文字幕」とあったが、英文の字幕なんてついてなかった。まあ、あちらではよくある話だけど。


↓その時に、ついでに買ったDVD“731軍妓慰安婦(=従軍慰安婦)”の表紙。その凄まじいタイトルと意味の分からない英訳、おどろおどろしい写真、それに“旧731部隊は人体実験用の施設のみならず、慰安所まで持つほどの多角経営ぶりだった”という説明文(多分。乏しい漢語の知識で解読したものなので、ちょっと違うかもしれない)に興味を惹かれてついつい買ってしまったのだが、中身は地味な愛国映画だった。“慰安婦”は少し登場するが、731部隊はまったく関係なし。何だかなあ。


それで、劇中では一応バランスを取るためか、

・“良いウイグル人”→漢語を流暢に話し、ちゃんと漢人の親友もいる。世俗的で品性良好で爽やかなルックス。公務員と共産党員が多い

・“普通のウイグル人”→歌って踊るのが大好きな気楽な良民。多少は漢語を話し、漢人とも融和的。怪しいウイグル人を見かけると、きちんと公安に通報する。

・“悪いウイグル人”登場した瞬間に悪役だと分かる顔。性質も粗暴。ウイグル語しか話さず、イスラーム的。もちろん党員ではなく、海外にヤバい友達が多い。趣味は時限爆弾とか拳銃の自作、それに独立運動。w

と三種類のウイグル人が出てくるのですが、

この中で見る側の記憶に残るのは圧倒的にキャラが立っている“悪いウイグル人”ではないかと思われます。少なくとも自分はそうでしたからw。そうやって偏見は助長されていくんでしょう。

↓“悪いウイグル人”の壮絶過ぎる末路(動画の2:30~3:00辺り)。これはひどいw


それとですね、“少数民族”であるウイグル人は、蔑視と同時に妬みの対象でもあるようです。かつてのソ連もそうでしたが、中国政府は“少数民族”の離反を防ぐ狙いもあって、彼らに対してはアファーマティヴ・アクション的な政策をとってきました。主要民族である漢人との格差を是正するために、様々な“特権”が与えられたわけです。

漢人は一人しか子が産めないのに対し、“少数民族”なら2人まで子が持てたり、大学入試の際、“少数民族”であれば点数に下駄を履かせてもらえたり、といった具合に。お陰で、あちらには“偽装少数民族”も多いらしい。

で、漢人の一部にはこれを“逆差別”だとして吹き上がる連中がいるようで….。言わば中華版“在特会”ですねw。こういう人たちにしてみれば、ウイグル人というのは、中華人民共和国の枠内で近代化され、沿岸部の経済発展のおこぼれに預かっている。しかも漢人には無い様々な特権を国から与えられているにもかかわらず、独立を求めたり、果ては暴動を起こして漢人を殺しまくったりする“とんでもない恩知らず”ということになる。

故に、欧米メディアがウイグル人に対し同情的なのは、きっとこの期に乗じて中国を分割・植民地化しようという下心を抱いているからに違いないw。もしくは、中国が超大国になるのを許すつもりが無いからに違いないw。そんな風に見えるのでしょう。

一方、ウイグル人の側はどうかというと、新疆の方を個人で旅行していて、現地のウイグル人から漢人や彼らの境遇について愚痴られた経験のある人って、結構多いんじゃないでしょうか?自分も仲良くなったウイグル人からは、多少言葉が通じると言うのもあってか、よく漢人の悪口を聞かされたものです。

例えばですね、大分前、カシュガルに長居していた頃に毎日通ってたラグマン(あの辺の、うどんのような麺料理)屋のオヤジと世間話をしていたときのことです。どういう流れだったかは覚えてないのですが、

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-「戦争の時、日本人がナンジン(南京)で漢人を30万も殺したって本当なのか?」

-「そこまで多くは無いだろうけど、何万人も殺したのは事実だと思う。」

-「それは良くないことだ。」

-「そうだね。」


「たった30万じゃだめだろうが。何であいつら全部、ぶち殺さなかったんだ?」

-「…………..」

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オヤジはニコニコ笑いつつ、
かつ手で首をちょん切るジェスチャーをしながら言うのでした。

......怖い!怖いよ、オヤジ! ........


何だか複雑な気分になりましたよ。そんなことを言われても、非常に反応に困るわけです。日本人の一人としてはね。とりあえず、自分は苦笑いする他なかったですかね。

他にも、寝台バスで移動中に知り合った若いウイグル人で、“TVがきっかけで日本贔屓になった”という奴がいました。日本製ドラマが好きだとか、そういう話か?と思ったら、どうも違うようなのです。

聞けば、中国のTVでは年がら年中愛国戦争映画やドラマをやっていて、新疆ではウイグル語やカザフ語吹き替え版も流れている。そこに出てくる悪役はたいがい日本軍。日本兵は基本的に残虐非道なキャラ設定になっており、時おり“バカー”とか“ヨーシ”といった片言の奇妙な日本語を発しては、漢人の善男善女を拷問にかけたり、殺したりします。

ちなみに、自分が見たその手の“日本兵”の中で最も印象に残っているのは、ロープで逆さ吊りにされた捕虜に対して憎々しげな笑みを浮かべながら、

“ハチロ(=八路軍)ノ居場所ヲー、言ッテクダサイヨー、言ッテクダサイヨー、バカー”

と、棒読みの日本語で尋問しては、その腕に真っ赤に熱した焼き鏝をジューっと押し当てる“慇懃無礼”な憲兵wでした。

話を元に戻すとですね、彼はそういう映画で漢人が日本兵に苛められるシーンを見ては、“実に痛快な気分になっていた”と言うのです。

いや、そんなことで好きになられたってなあ…と、これまた反応に困るのですが、作った側も、まさかこんな風に消費している“中国公民“がいるとは思わないでしょうね。

これらはちょっと極端な例かもしれませんが、漢人はそこまで嫌われているのか?、と正直、驚いたのでした。それも、学生とかその手の運動をやってそうな人たちではなく、普通の人たちがさらっとそういうことを言うのです。本当に、さらっと。

もちろん、彼の地のウイグル人の全部が全部、漢人を嫌っていると言うことはないでしょう。それでも、共産党の宣伝とは違って、ある種の“反漢感情”は彼らの間に確実に存在するのであって、それは民族主義とかイスラームみたいな理屈以前の、リアルな日常生活に由来する根深いものなのだなあと、つくづく痛感した次第なのです。

そうした感情の原因が、中国本土と新疆の経済格差にあるというのはよく言われることです。でも、いかに大きな格差があっても、お互いに直接の接触が無ければ、格差は格差として認識されないわけで。

問題なのは、やはりここ60年に渡って政府が奨励し、現在でも続いている漢人移民の流入であり、彼らとウイグル人の間にある“新疆内”での格差でしょう。そして、その格差以上に深刻なのは、増え続ける漢人移民によって従来の生活圏が“物理的に”狭められる一方なのと、あと国家の側がイスラーム原理主義の浸透を警戒するあまりに彼らの文化や信仰に過剰に干渉し、“このままでは完全に同化されるだけだ”といった危機感を彼らに抱かせていることでしょう。

新疆が中華人民共和国に組み込まれた当時、漢人の割合は4~5%だったといいます。毛沢東をはじめとする首脳からしてみれば、ソ連の後押しで独立運動なんてやってたウイグル人なんて信用ならない。もしソ連とコトを構えるようなことになれば、ウイグル人は100%裏切って漢人を叩き出し、新疆はソ連の16番目の民族共和国となるか、モンゴルみたいな衛星国になるのは間違いない。そんな感じだったんじゃないでしょうか。

現に、中ソが対立していた時代には、ソ連では新疆から亡命してきたウイグル人たちに軍事組織を作らせたりして、外側から独立運動を煽っていましたし。

そんなわけで、中国政府は“新疆=中国の不可分の領土”という既成事実を作るために、人民解放軍の一部を“生産建設兵団”(=屯田兵)としてあちこちに入植させます。政府はさらに中国本土からの移民を増やそうとしますが、当時は好き好んで“地の果て”に移住するような漢人は少なかったため、しばしば罪人や“不良分子”が強制的に送り込まれたのでした。

で、ある程度現地に漢人の社会が出来上がっていくと、その後は自然と移民が流入するようになり、現在では漢人が全体の人口に占める割合はウイグル人のそれと同じ約4割。統計に入ってない分も含めれば、さらに多いという噂すらあります

ただですね、ウイグルと漢は数的にはほぼ同じとはいえ、その内訳は大きく異なります。漢人は主に都市部に住んでいる。ウルムチやカラマイみたいな大都市のみならず、最近では地方の小さな町に行っても漢人の方が多い。

これに対して、ウイグル人の大半は農村に住んでいます。中国では、都市部と農村部では生活水準にしろ、収入にしろ、受ける教育のレベルにしろ、それこそ天と地の差があるといいますが、その点は新疆も例外ではありません。

だからこそ政府は、アファーマティヴ・アクション的な政策を採ってウイグル人エリートの数を増やし、格差を是正しようとしてきたわけですが、中国の一部である以上、漢語の能力が社会的上昇の鍵であるという現実はどうしようもない。

特に最近は、政府の“西部大開発”の号令により、豊富な資源を目的に中国本土の民間企業が大挙して進出してきたものの、それらが相手にするのは漢人の企業であり、雇うのも地元の漢人でした。急激な経済成長の恩恵を受けたのは主に彼らだったのです。お陰で両民族間の格差はさらに拡大し、平均収入の差は3倍以上という話もあります。

そればかりか、気がついてみれば最寄りの町が“漢人の町”になっている。田舎にいけば漢人の村が増えてきており、故郷にいながらにして“少数民族”になりつつある。その上、モスクに頻繁に通っていると国から目をつけられるという...。

ウイグル人の人口は現在約860万人ですが、それが少なく感じられるのは比較の対象が漢民族だからであって、中央アジアの辺りで860万といったら、実は十分に“大民族”です。ウズベク人、カザフ人に次いで3番目くらいでしょう。

クルグズ(キルギス)人の総人口なんて、その半分くらいです。にも拘わらず、クルグズ人は独立した国家(=クルグズスタン)を持ち、漢人の流入は自分らで管理できる。自らの文化や伝統について他民族から細かく干渉されることも無い。彼らと自分らの違いは何か?と考えたら、ウイグル人はとても納得がいかないでしょう。

→(3)につづく