“世界ウイグル会議”のラビア=カーディル議長が来日しましたね。まあ、この人の発言はしばしば誇張気味だ、とか、あと“世界ウイグル会議”も“全米民主主義基金”から支援を受けている以上、米国のヒモ付きではないか?”とか、色んなことを言われているわけですが、いかにそれが事実だとしても、自派を有利にするためのプロパガンダや“敵の敵”と結ぶ戦術は政治のイロハです。ある程度は仕方がないでしょう。徒手空拳では、圧倒的に強大な圧制者と喧嘩などできないわけで。しかも相手はあの中共ですw。
ラビア議長というのは、元は中国有数の大富豪でした。改革・開放時代に洗濯屋からのし上がったという模範的な“少数民族”の成功者であり、富にも名誉にも十分に恵まれていたわけです。彼の地の社会的な矛盾や苦しむ同胞には目もくれず、余計なことを言わずにただ体制に従っていれば、一族の未来は安泰だったはずなんですよ。それらを全て放擲して同胞の為に尽くしているという点だけをとっても、尊敬に値する人物ではないかと思うのです。
中央アジアとかあの辺のエラい人は、“自分の一族と知り合いさえ富めば社会も国もどうなってもいいや”、みたいなのが普通なので、余計にそう感じるのかもしれませんが。
そのラビア議長が日本に来たということで、中共の連中がえらく怒っているらしい。2日前の産経の記事で、こんなの↓がありました。
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【ウイグル暴動】世界ウイグル会議議長来日で中国内に反発広がる 2009.7.27 19:52
http://sankei.jp.msn.com/world/china/090727/chn0907271954004-n1.htm
【北京=野口東秀】世界の亡命ウイグル人組織を束ねる「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長(62)=米国在住=の28日からの日本訪問をめぐり、中国外務省は27日、「日本政府は中国が何度も申し入れたことを顧みず、カーディル(氏)が日本を訪問し反中分裂活動を許したことに強烈な不満を表明する」とする報道官談話を発表した。
中国政府は新疆ウイグル自治区で5日に起きた暴動でカーディル議長を「扇動の黒幕」と名指しで非難、各国のビザ(査証)発給に神経をとがらせているが、この件で反日感情が広がることも懸念しており、激しい批判は控えている。
中国共産党機関紙・人民日報傘下の「環球時報」は27日、インドの地元紙の報道を引用する形で、ウイグル暴動前にカーディル議長がインドにビザ(査証)を申請したが、「インド領土内で反中的政治活動は許可できない」(インド外交筋)として「拒絶」されていた事実を挙げ、日本の対応は「非常に非友好的だ」との学者の声を紹介した。
記事には外交学院アジア太平洋研究センターの蘇浩主任の「(日本政府が)ビザを発給したのは、中国の台頭を抑えるためであり、西側諸国への追従でもある。中日関係に大きな障害をもたらすことになる」との批判も掲載された。
この報道を受け、インターネット上の掲示板には「日本を地球上から抹殺せよ」「日本製品の不買運動をしよう。中国は強大になった。打倒、小日本(日本への蔑称)」「日本の野心は永遠に変わらない。核兵器でつぶせ」などの書き込みがあふれた。
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「非常に非友好的」だとさw。大笑いですね。日本政府は単にビザを出しただけであって、ラビア議長を招いたわけでも、亡命を受け入れたわけでもないのにね。
この程度で大騒ぎするのであれば、まずは議長の亡命を受け入れて、これに支援までしている米国に噛み付くのが先でしょう。大勢のチベット人“民族分裂主義者w”とその亡命政府を何十年も抱え込んでいる、インドもお忘れなくw。
大体、“世界ウイグル会議”は彼の地で一から暴動を起こせるほど大がかりな組織ではありません。そのことは、“チベット亡命政府”やダライ・ラマのことは熱心に監視していた中国当局が、つい最近まで、そちらには大して関心を払っていなかったことでも分かるでしょう。自分自身の経験でも、数年前、カシュガルのネット屋でチベット独立派関係のサイトにアクセスできるか試してみたら、軒並み表示されなかったのに対し、東トルキスタン関係のは普通に見れましたから。
で、中共の中の人たちは民族政策の失敗と統治能力の低下を自国の人民らに悟られないよう、ラビア議長やウイグル会議を巨大な“藁人形”に仕立てて大騒ぎしているわけです。それに日本も絡めれば、ナショナリズムを刺激してさらに人民の注意をそちらに向けることができる。それに、相手が米国だとあれだけど、日本であれば少し強い態度に出ても大丈夫だというわけで。
共産党の思惑はそんな感じかもしれませんが、あちらのネット人民たちの反応は本当にそんな具合なのでしょうか?産経の記事だからちょっと色をつけてるんじゃないかと思って、こちらの↓翻訳サイトを覗いてみたところ、
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「ansan's楽しい中国新聞(中国ニュース)」
http://ansan01.blog121.fc2.com/blog-entry-222.html
干涉他国内政,不会有好下场。全中国人民万処ル一心杀鬼子暑x!
(他国の内政に干渉する連中にはロクな運命は待ち受けてねえよ。全中国人は気持ちを一つにして日本鬼子を殺そうぜ!)
死鬼子,没看印度没敢发!
(死鬼子め。インドでさえビビってビザ発給できなかったのによ。)
充分说明了我们的敌人不是印度是日本。
(中国の敵はインドではなく日本だったってことだな。)
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実際、こう↑らしい。ダメすぎるw。これも“愛国教育”の成果なのか?一体どっちが”内政干渉”なんだか。いい加減、自国民のガス抜きに他所の国を巻き込むのはやめて欲しいものですが。
しかし、こういうダメな愛国心の昂揚を見ていると、彼の地の民族問題はいかに体制が変わっても、解決しなさそうな気がして何だかうんざりしますね。
ところで、ラビア議長来日のニュースはトルコでも報道されました。これ↓は7/27日の日刊紙“ヒュリエット”の記事です。コメントは意外と沢山付いていました。
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「日中間に“カーディル”危機」 2009/7/27
原文:Çin'le Japonya arasında 'Kadir' krizi
http://www.hurriyet.com.tr/dunya/12154909.asp
中国は、予定されているウイグル人独立派の指導者ラビア=カーディル※氏による日本の首都・東京への訪問を、激しく非難した。
※ 中国領のウイグル人の間では、“姓”は存在せず、普通は名前+父親名。つまり、ラビア=カーディルのラビアが名前、カーディル(男性名)は彼女の父親の名である。オスマン帝国時代のトルコでも同じく姓の概念は存在しなかったが、革命後は各々固定した“姓”を持たされることになった。そういうわけで、この記者も“カーディル”を姓とみなし、文中では彼女を指して“カーディル(氏)”という名を使っているが、何となく妙な感じなので訳文では全て“ラビア”と改めた。
日本の共同通信の報道によれば、在日中国大使のスイ=ティエンカイ(崔天凱)氏は記者会見の場で“日本である重大犯罪が起こり、その首謀者を第三国が招聘したとしたら、日本の人民はどう感じるだろうか?”との表現を用いて語ったとのこと。
スイ(催)大使はまた、ラビア氏の訪日が、近年好転しつつあった日中関係に害をもたらすのは許されるべきではない、と警告しつつ、“共同で取り組む必要のある案件が一人の犯罪者により損なわれたり、もしくは共通の利益に向けられている注意が他の件にそれてしまうのは防がねばならない”と言った。
中国は、今月、新疆ウイグル自治区に於いて発生し、200人に近い犠牲を出した騒憂事件を計画したとして亡命中の世界ウイグル会議の指導者、ラビア氏を訴追。一方のラビア氏は、こうした主張を否定している。
来日はシンポジウム出席のため
ラビア氏は、日本の首都・東京で7月29日に開かれるシンポジウムで講演を行ったり、またメディア向けに記者会見を開くことになっている。来日が待望されているのはそのためだ。
中国ウオッチャーらが注目しているのは、中国政府が、昨年発生した民族紛争を扇動したとして訴追しているチベット亡命政府の指導者ダライ・ラマの外遊については常々非難してきたのに対し、ラビア氏の外遊を声高に批判することなんて、これまでほとんどなかったという点である。
<ハルクのコメント>
論評ハルク1号
どの国にも同じ脅しをかけてるんだな。どう関係が悪化したとしても、日本は世界の技術大国なんだよ。お前らのガラクタなんざ要るもんか!
論評ハルク2号
>1号
いくら日本が技術大国だといっても、中国には最安の労働力がある。日本人たちは技術を発展させてはいるが、その製品は中国で生産されてるんだ。残念なことに、どの国も同じく中国に縛られるか、あるいは近いうちに縛られる運命にあるわけだ。
論評ハルク3号
日本人たちはラビアのことを心配してくれるんだな。あのAKP(公正発展党)が中国にびびってビザを出さず、入国もさせず、アラブ人じゃないから支援もしないあのウイグル人のことを※….。
※ この人は世俗派で公正発展党が嫌いらしい。現在の公正発展党政権は、何年か前にラビア=カーディルがトルコを訪れようとした際、ビザの発給を断っている。また、アラブ人云々というのは、ガザ紛争の際に派手な反イスラエルのパフォーマンスで支持率を向上させた公正発展党とエルドアン首相が、今回は相手が中国と言うことで引き気味になっていることに対する皮肉かと思われる。
論評ハルク4号
中国はもちろん嫌がるだろうよ。あいつらがやった虐殺や、拷問や、諸々の汚いことを喋ってしまうだろうからな。あいつらはそれが話題になることすら我慢できないわけだ。奴らの目的は、東トルキスタンに住むテュルクを絶滅することにある。
論評ハルク5号
漢人たちは、世界にテュルク系民族が一人も残らなくなるまで虐殺を続けるだろう….。奴らは俺たちに対し、歴史に根ざした敵意をもってるんだ。
論評ハルク6号
日本と言うのは反中の国なんだよ。中国人は日本人が嫌いだし、日本人も中国人のことを嫌ってる。
論評ハルク7号
昔、中国市場というのは世界でこれほど支配的じゃなかった。というか、中国って貧しかったんだよな。今では真の意味で強国化、富国化しつつある。10年後、奴らが空母を何隻も買い込んで、うちらの国境に迫ってきたとしても、全然驚かないだろうよ。もちろん、俺たちの側だって国民の9割は中国製品を手放せていない。中国の強国化は、俺らにも責任があるってことだ。
論評ハルク8号
うちは日本みたいにはなれなかったんだな….※。
※かつてラビア=カーディルがトルコのビザ発給を拒否されたことを言っている。
論評ハルク9号
分離主義は、どの国でも罪だ。そして、罰せられるものなんだ。俺たちの国がPKK(クルド人独立派の通称)に懲罰を与えようとして、長年果たせずにいるようにな。中国は強力な国で、分離主義は認めていない。俺たちもそういうことができればなあ※。
※ かつてのトルコ共和国は国内のクルド人に対しては徹底した同化政策をもって臨んできたが、近年ではEUに入るために、文化的な自治を認める方向に動きつつある。ただ、国内には他にも様々なエスニック集団があるものの、彼らにはその種の権利はほとんど認められていない。
論評ハルク10号
漢人たちがやらかした残虐行為は、外道の所業だな。
論評ハルク11号
我らがトルコ国家に、日本ほどの“漢の国”となるのを期待するのは、夢物語だろうか?
論評ハルク12号
俺に一つ考えがある。漢人らに腹が立つのであれば、中国で迫害されているテュルク系民族をトルコに受け入れて、みんなで助けてあげようじゃないか!※
※ 既に1950年代にやっている。中共の支配を逃れて国外に流出したウイグル難民は、一時期アフガニスタンやパキスタン北部に住んでいたのだが、当時のトルコ政府はこれを大量に受け入れた。その中には、かつての東トルキスタン共和国の関係者も含まれていたという。ウイグル系トルコ人の数は、全国で現在3万ほど。なお、“世界ウイグル会議”は、これらウイグル系トルコ人たちの互助組織が母体となっている。
論評ハルク13号
中国はテュルク系民族が一人も残らなくなるまで虐殺を続けるだろう、とかいってる奴がい居るけど、確かに歴史的な敵意ってものはあるだろうな。かつてテュルク系遊牧民の南下を防ぐために造られた、万里の長城を見るまでもなく。でも、たかだか200人程度のテュルクを殺しただけでこれだけ騒ぎになる※ということは、中国当局はこれ以上度を越したことはしないんじゃないか?と俺は思うんだが……
※トルコのメディアの一部には、中国当局が発表した死者約200人はすべてウイグル人だと報道しているところがある。
論評ハルク14号
漢人たちはトルコ人を憎む余りに、ヨーグルトすら食えないんだ※。
※西欧諸語の“ヨーグルト”という言葉はトルコ語(あるいは別のテュルク系言語)に由来している。ブルガリア語ではないので誤解無きよう。ちなみに、あちらでのヨーグルトは日本で言えば味噌レベルの基本的な食材で、あらゆる料理に使われる。でも、普通の中国人はそんなこと知らないだろう........。
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この中で一番印象的なのは“9号”ですかね。クルド人について何か言われた時の普通のトルコ人の反応は、結構こんな感じだったりします。基本的に自己中な人たちなんですよ。でもって、それは何だか、チベットやウイグルに関して突っ込まれたときの漢人の反応を思わせるという……。
最近はお互いにあれこれ言ってますが、両者は意外とよく似ているのかもしれません。当人らが気づいていないだけで。