歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

ウルムチ“血の日曜日事件”に対するトルコ人の反応(2)

2009-07-18 16:41:39 | 東トルキスタン関係

→(1)からの続き

それはともかく、今回の一連の事件の背景には、よく言われるように、漢人とウイグル人の間の深刻な相互不信があるのは間違いないようです。 まず、一般的な漢人がウイグル人のことを内心どう考えているかについては、

“大陸浪人のススメ”のこの辺り↓の記事のコメント欄にある、中国人の書き込みや、
http://blog.goo.ne.jp/dongyingwenren/e/5437d3d2864f5dd9cbfd0cc8ae9a87b3
http://blog.goo.ne.jp/dongyingwenren/e/d0ed0d51a70e98586a394794468403ee

この↓コラムなどが参考になりますが、

新疆ウイグル「純粋な悪魔はいない」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090715/200181/?P=2

北京五輪前、当局は治安管理の一環として、ウイグル族出稼ぎ労働者を北京から一掃した。それを見た北京住民たちは「ウイグル族の文化レベルは低く、窃盗や犯罪などは日常茶飯事、とっても迷惑」と口を揃えた。道端で屋台を営むウイグル族を見かけなくなった。


中国社会、特に豊かな沿岸地方における一般的なウイグル人のイメージは“貧しくてガラが悪くて手癖も悪い異形の集団。しかも怪しい宗教を信じている。”みたいな感じらしい。ネガティヴというか、ほとんど“蛮族”扱いですね。よく、あの辺では内陸部からの“民工”(出稼ぎ労働者)への差別がきついと言いますが、ウイグル人の出稼ぎはその“民工”以下の存在のようです。漢語が下手で容貌も一見して異なるということで、目立ちやすいのか?

そういえば、10年くらい前に中国に留学していた知人も言っていたのですが、周囲に“新疆に行ってみたい”と話すと、決まって“あんな危ない所に行くな!”と反対されていたのだとか。でも、その割には実際に新疆に行ったことのある人など一人もおらず、不思議だったのだそうで…。

まあ、政治・経済的に“帝国”の中心に吸い寄せられた“周縁”の人々が社会の末端に位置づけられ、構造的な差別を受けがちだというのは、近代以降の世界ではよくある話かもしれない。英国での南アジア人然り、ロシアでのカフカス人然り、昔の日本での朝鮮人然り….。件のウイグル人差別に関しては、例の有名な“中華思想”も影響しているのかもしれませんが、その辺のことは自分にはよく分かりません。

ただでさえ悪く思われがちなのに、9・11事件前後からは、これに“ウイグル人=イスラーム原理主義者=テロリスト”というイメージも加わります。この事件の後、ムスリムに対する風当たりが強まったのは世界中どこでも同じですが、ことウイグル人に関しては、その責任の一端はどう考えても当局にあるのではないか。

というのも、中国政府はこれまで新疆の民族問題を覆い隠すために、“独立運動をやってる奴ら=海外のイスラーム過激派に操られた狂信者”という安直なプロパガンダに頼ってきたからです。

例えば、TVではこんな↓ドラマが流れていました。

ドラマ“新疆反恐紀実”より、「宗教教育により子供を洗脳するウイグル独立派」

 
管理人はこのドラマ“新疆反恐紀実”(反恐=反テロ)のDVD(全編ほとんどウイグル語、漢語字幕付き)を2年前にウルムチで入手したのですが、筋立てとしては、海外のイスラーム原理主義組織(多分)と連なる“悪いウイグル人(=独立派のウイグル人)”たちが政教一致のイスラーム国家の建国を目指して色んな悪さをし、それを正義の武警(武装警察)が淡々と退治していくという….。

あちらの国営放送でよくやっている愛国戦争映画と何ら変わりありません。ただ、“日本兵”が“悪いウイグル人”と入れ替わっただけの話で。でも一応、“国家=漢人”vs“ウイグル人=過激派”との印象を視聴者に与えないための配慮からか、武警の指揮官は漢人とウイグル人の双方がいるとの設定になっています。

個人的な感想としては、とにかくつまらん。その単純で勧善懲悪的な内容もさることながら、何よりも、悪役がちっとも強そうじゃないんですよ。悪そうではあるんですけどね。海外のテロ組織と繋がってる割には妙に貧乏臭くて、アジトでは鍛冶屋みたいな奴がトンテンカンテンとピストルを自作している。

で、そういうホームメイドな武器で地道に独立運動をやっている健気な連中を、自動小銃や火炎放射器で完全武装した武警が淡々と撃ち殺す。絵的には、戦闘というよりも一方的な虐殺ですね。ひどすぎる。悪役が同情されるプロパガンダ映画ってどうなんだよw。そんな感じで、映画としての娯楽性もゼロに等しい。

ゼロなんですが、そのDVDは市内のDVD屋ならどこでも、それこそ道端の違法な露店でもハリウッド映画などと一緒に売られていました。ひょっとしたら、お上からそういう通達が出ていたのかもしれない。

↓“新疆反恐紀実”の表紙。裏には「中英文字幕」とあったが、英文の字幕なんてついてなかった。まあ、あちらではよくある話だけど。


↓その時に、ついでに買ったDVD“731軍妓慰安婦(=従軍慰安婦)”の表紙。その凄まじいタイトルと意味の分からない英訳、おどろおどろしい写真、それに“旧731部隊は人体実験用の施設のみならず、慰安所まで持つほどの多角経営ぶりだった”という説明文(多分。乏しい漢語の知識で解読したものなので、ちょっと違うかもしれない)に興味を惹かれてついつい買ってしまったのだが、中身は地味な愛国映画だった。“慰安婦”は少し登場するが、731部隊はまったく関係なし。何だかなあ。


それで、劇中では一応バランスを取るためか、

・“良いウイグル人”→漢語を流暢に話し、ちゃんと漢人の親友もいる。世俗的で品性良好で爽やかなルックス。公務員と共産党員が多い

・“普通のウイグル人”→歌って踊るのが大好きな気楽な良民。多少は漢語を話し、漢人とも融和的。怪しいウイグル人を見かけると、きちんと公安に通報する。

・“悪いウイグル人”登場した瞬間に悪役だと分かる顔。性質も粗暴。ウイグル語しか話さず、イスラーム的。もちろん党員ではなく、海外にヤバい友達が多い。趣味は時限爆弾とか拳銃の自作、それに独立運動。w

と三種類のウイグル人が出てくるのですが、

この中で見る側の記憶に残るのは圧倒的にキャラが立っている“悪いウイグル人”ではないかと思われます。少なくとも自分はそうでしたからw。そうやって偏見は助長されていくんでしょう。

↓“悪いウイグル人”の壮絶過ぎる末路(動画の2:30~3:00辺り)。これはひどいw


それとですね、“少数民族”であるウイグル人は、蔑視と同時に妬みの対象でもあるようです。かつてのソ連もそうでしたが、中国政府は“少数民族”の離反を防ぐ狙いもあって、彼らに対してはアファーマティヴ・アクション的な政策をとってきました。主要民族である漢人との格差を是正するために、様々な“特権”が与えられたわけです。

漢人は一人しか子が産めないのに対し、“少数民族”なら2人まで子が持てたり、大学入試の際、“少数民族”であれば点数に下駄を履かせてもらえたり、といった具合に。お陰で、あちらには“偽装少数民族”も多いらしい。

で、漢人の一部にはこれを“逆差別”だとして吹き上がる連中がいるようで….。言わば中華版“在特会”ですねw。こういう人たちにしてみれば、ウイグル人というのは、中華人民共和国の枠内で近代化され、沿岸部の経済発展のおこぼれに預かっている。しかも漢人には無い様々な特権を国から与えられているにもかかわらず、独立を求めたり、果ては暴動を起こして漢人を殺しまくったりする“とんでもない恩知らず”ということになる。

故に、欧米メディアがウイグル人に対し同情的なのは、きっとこの期に乗じて中国を分割・植民地化しようという下心を抱いているからに違いないw。もしくは、中国が超大国になるのを許すつもりが無いからに違いないw。そんな風に見えるのでしょう。

一方、ウイグル人の側はどうかというと、新疆の方を個人で旅行していて、現地のウイグル人から漢人や彼らの境遇について愚痴られた経験のある人って、結構多いんじゃないでしょうか?自分も仲良くなったウイグル人からは、多少言葉が通じると言うのもあってか、よく漢人の悪口を聞かされたものです。

例えばですね、大分前、カシュガルに長居していた頃に毎日通ってたラグマン(あの辺の、うどんのような麺料理)屋のオヤジと世間話をしていたときのことです。どういう流れだったかは覚えてないのですが、

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-「戦争の時、日本人がナンジン(南京)で漢人を30万も殺したって本当なのか?」

-「そこまで多くは無いだろうけど、何万人も殺したのは事実だと思う。」

-「それは良くないことだ。」

-「そうだね。」


「たった30万じゃだめだろうが。何であいつら全部、ぶち殺さなかったんだ?」

-「…………..」

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オヤジはニコニコ笑いつつ、
かつ手で首をちょん切るジェスチャーをしながら言うのでした。

......怖い!怖いよ、オヤジ! ........


何だか複雑な気分になりましたよ。そんなことを言われても、非常に反応に困るわけです。日本人の一人としてはね。とりあえず、自分は苦笑いする他なかったですかね。

他にも、寝台バスで移動中に知り合った若いウイグル人で、“TVがきっかけで日本贔屓になった”という奴がいました。日本製ドラマが好きだとか、そういう話か?と思ったら、どうも違うようなのです。

聞けば、中国のTVでは年がら年中愛国戦争映画やドラマをやっていて、新疆ではウイグル語やカザフ語吹き替え版も流れている。そこに出てくる悪役はたいがい日本軍。日本兵は基本的に残虐非道なキャラ設定になっており、時おり“バカー”とか“ヨーシ”といった片言の奇妙な日本語を発しては、漢人の善男善女を拷問にかけたり、殺したりします。

ちなみに、自分が見たその手の“日本兵”の中で最も印象に残っているのは、ロープで逆さ吊りにされた捕虜に対して憎々しげな笑みを浮かべながら、

“ハチロ(=八路軍)ノ居場所ヲー、言ッテクダサイヨー、言ッテクダサイヨー、バカー”

と、棒読みの日本語で尋問しては、その腕に真っ赤に熱した焼き鏝をジューっと押し当てる“慇懃無礼”な憲兵wでした。

話を元に戻すとですね、彼はそういう映画で漢人が日本兵に苛められるシーンを見ては、“実に痛快な気分になっていた”と言うのです。

いや、そんなことで好きになられたってなあ…と、これまた反応に困るのですが、作った側も、まさかこんな風に消費している“中国公民“がいるとは思わないでしょうね。

これらはちょっと極端な例かもしれませんが、漢人はそこまで嫌われているのか?、と正直、驚いたのでした。それも、学生とかその手の運動をやってそうな人たちではなく、普通の人たちがさらっとそういうことを言うのです。本当に、さらっと。

もちろん、彼の地のウイグル人の全部が全部、漢人を嫌っていると言うことはないでしょう。それでも、共産党の宣伝とは違って、ある種の“反漢感情”は彼らの間に確実に存在するのであって、それは民族主義とかイスラームみたいな理屈以前の、リアルな日常生活に由来する根深いものなのだなあと、つくづく痛感した次第なのです。

そうした感情の原因が、中国本土と新疆の経済格差にあるというのはよく言われることです。でも、いかに大きな格差があっても、お互いに直接の接触が無ければ、格差は格差として認識されないわけで。

問題なのは、やはりここ60年に渡って政府が奨励し、現在でも続いている漢人移民の流入であり、彼らとウイグル人の間にある“新疆内”での格差でしょう。そして、その格差以上に深刻なのは、増え続ける漢人移民によって従来の生活圏が“物理的に”狭められる一方なのと、あと国家の側がイスラーム原理主義の浸透を警戒するあまりに彼らの文化や信仰に過剰に干渉し、“このままでは完全に同化されるだけだ”といった危機感を彼らに抱かせていることでしょう。

新疆が中華人民共和国に組み込まれた当時、漢人の割合は4~5%だったといいます。毛沢東をはじめとする首脳からしてみれば、ソ連の後押しで独立運動なんてやってたウイグル人なんて信用ならない。もしソ連とコトを構えるようなことになれば、ウイグル人は100%裏切って漢人を叩き出し、新疆はソ連の16番目の民族共和国となるか、モンゴルみたいな衛星国になるのは間違いない。そんな感じだったんじゃないでしょうか。

現に、中ソが対立していた時代には、ソ連では新疆から亡命してきたウイグル人たちに軍事組織を作らせたりして、外側から独立運動を煽っていましたし。

そんなわけで、中国政府は“新疆=中国の不可分の領土”という既成事実を作るために、人民解放軍の一部を“生産建設兵団”(=屯田兵)としてあちこちに入植させます。政府はさらに中国本土からの移民を増やそうとしますが、当時は好き好んで“地の果て”に移住するような漢人は少なかったため、しばしば罪人や“不良分子”が強制的に送り込まれたのでした。

で、ある程度現地に漢人の社会が出来上がっていくと、その後は自然と移民が流入するようになり、現在では漢人が全体の人口に占める割合はウイグル人のそれと同じ約4割。統計に入ってない分も含めれば、さらに多いという噂すらあります

ただですね、ウイグルと漢は数的にはほぼ同じとはいえ、その内訳は大きく異なります。漢人は主に都市部に住んでいる。ウルムチやカラマイみたいな大都市のみならず、最近では地方の小さな町に行っても漢人の方が多い。

これに対して、ウイグル人の大半は農村に住んでいます。中国では、都市部と農村部では生活水準にしろ、収入にしろ、受ける教育のレベルにしろ、それこそ天と地の差があるといいますが、その点は新疆も例外ではありません。

だからこそ政府は、アファーマティヴ・アクション的な政策を採ってウイグル人エリートの数を増やし、格差を是正しようとしてきたわけですが、中国の一部である以上、漢語の能力が社会的上昇の鍵であるという現実はどうしようもない。

特に最近は、政府の“西部大開発”の号令により、豊富な資源を目的に中国本土の民間企業が大挙して進出してきたものの、それらが相手にするのは漢人の企業であり、雇うのも地元の漢人でした。急激な経済成長の恩恵を受けたのは主に彼らだったのです。お陰で両民族間の格差はさらに拡大し、平均収入の差は3倍以上という話もあります。

そればかりか、気がついてみれば最寄りの町が“漢人の町”になっている。田舎にいけば漢人の村が増えてきており、故郷にいながらにして“少数民族”になりつつある。その上、モスクに頻繁に通っていると国から目をつけられるという...。

ウイグル人の人口は現在約860万人ですが、それが少なく感じられるのは比較の対象が漢民族だからであって、中央アジアの辺りで860万といったら、実は十分に“大民族”です。ウズベク人、カザフ人に次いで3番目くらいでしょう。

クルグズ(キルギス)人の総人口なんて、その半分くらいです。にも拘わらず、クルグズ人は独立した国家(=クルグズスタン)を持ち、漢人の流入は自分らで管理できる。自らの文化や伝統について他民族から細かく干渉されることも無い。彼らと自分らの違いは何か?と考えたら、ウイグル人はとても納得がいかないでしょう。

→(3)につづく