→(2)からの続き
ところで、暫定政府は今回の騒乱について、当初から“国外に逃亡中のバキエフ元大統領とその一族の陰謀によって生じたものである”と、一貫して主張し続けています。
バキエフ元大統領は、今年4月の革命で失脚するまでの約5年間の間、自らの親類縁者や同郷者を国の要職につけ、社会的利権をほぼその一党で独占してきました。
まあ、権威主義的な大ボスが“利権のパイ”を政治的に独占し、その血縁や地縁を頼りに有象無象がそのパイに群がるという構図は、中央アジア諸国ではどこも大体似たようなものです。違いがあるとしたら、資源国であれば“パイ”の中身が“石油やガス”となり、クルグズスタンのような資源の無い国だと“欧米日やロシアからの援助とか基地の使用料”になることくらいでしょうか。
しかし、考えてみれば、このバキエフもまた前回(2005年)の“革命”によって実権を握ったのであり、その際には“前体制の悪しき遺産である汚職と縁故主義を一掃する!”みたいなことを盛んに訴えていたのでした。今の暫定政府も、2、3年後には案外似たようなものになっているのかもしれない。
そのバキエフ体制がたかだか数千人程度のデモであっけなく崩壊したのは、小さな“利権のパイ”をバキエフ一族が狭い範囲で独占し過ぎた結果だと言われています。子分の中でも分け前の少ない連中は、ケチな大ボスを意外とあっさり見放した、ということか。
あと、前にも書きましたが、クルグズスタンという国は、一応形としては“中央アジアで最も民主主義的な国家”ということになっており、報道に対する規制は周辺諸国よりも緩いし、治安機関もさほど強力なものではありません。
もし、これが隣のウズベキスタンだったら、いつぞやのようにメディアは直ちに統制。デモの参加者は片っ端から撃ち殺され、死体は行方不明になっていたに違いない。NHKの新・旧“シルクロード”効果によるものか、日本ではウズベキスタンに過剰に幻想的なイメージ(ラクダとか砂漠とかキタロウとか)を抱いている人が多いですが、あの国も、“本気を出す”と実は中国並みにヤバい国だったりします。
で、革命後はバキエフ元大統領はベラルーシに事実上の亡命。そのロシア人の第一夫人(こちらの民法では重婚は禁止されているが、元大統領には正妻以外に、クルグズ人妻が二、三人いたらしい。)との間に生まれ、その汚職と派手な夜遊びによりビシュケク市民の間でも悪評の高かった次男、マクシム=バキエフは現在英国で亡命申請中。他の一族や側近たちも、国外に逃亡するか、地下に潜伏してしまいました。
暫定政府は、彼らは多額の公金を横領、持ち逃げしたとして、1人につき最高10万ドル(今のレートで900万円くらい?)の懸賞金をかけています。日本の警察もよくやっている、“逮捕に繋がるような情報の提供者には...云々”というアレです。
地元の新聞各紙にも、“賞金首リスト”が載ってましたね。“国家級のお尋ね者の賞金首が900万って、何てショボいんだ!”と思う人もいるかもしれませんが、米1kgが100円、玉葱が1kg30円程度のこの国では、それでも十分な大金なのですよ。
話を元に戻すと、その賞金首の集団=バキエフ一味が、南部に騒乱を惹き起こすために、持ち逃げした多額の公金をばら撒いて大勢の“タジク人スナイパー”を雇い、彼らにオシュ近辺のクルグズ系住民とウズベク系住民の双方を襲撃させて両者の衝突を扇動した、というのが暫定政府の言い分です。
だとしたら、その動機は何なのか?
暫定政府によれば、その狙いは、この間の6月27日にクルグズスタン全国で行われた国民投票(レファレンダム)の阻止にあったと言います。
その国民投票(レファレンダム)とは、暫定政府によって提示された新憲法の是非を問うものでした。過去2代の政権において縁故主義と腐敗が横行した原因は、大統領に過度に権力が集中した結果であるということで、新憲法では大統領の権限は大幅に削られ、その分、議会の力が強くなっている。また、しばしば大統領に都合の良い法解釈を行い、その独裁に寄与してきたと悪評の高い“憲法裁判所”については、これを廃止。最高裁に統合するとしています。
要は、クルグズスタンの政体を、実質的に大統領制から議会中心の“議院内閣制”に変えてしまおうという訳です。
そして、憲法改正が承認された場合、暫定政府の指導者であるオトゥンバエワ暫定大統領が、来年(2011年)末の大統領選まで留任することになっていました。つまり、この国民投票(レファレンダム)は、国民に対し、現在の暫定政府の“正統性”を問うものでもあったわけです。
暫定政府の中の人たちにとっては、この“正統性”の問題は大変重要でした。というのも、民主的な手続きを経ずして4月の暴力革命によって実権を握った暫定政府の法的立場は、これまで極めて不安定なものでした。バキエフ一族が国外に逃亡した後も、暫定政府の承認を躊躇する国が多かったり、一連の騒乱にロシアが介入を渋ったりした所以です。
そんなわけで、彼らがクルグズスタン国民の総意に基づく政府として、その正統性を国際社会で認知させるためにも、この国民投票(レファレンダム)は是が非でも成功させる必要があった訳ですよ。
↓ビシュケク市内に出現した、国民投票(レファレンダム)の日時を告知する看板。上はクルグズ語、下はロシア語。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/86/40927c71464caaf17ca9e9a22c60eca9.jpg)
↓同じく、国民投票(レファレンダム)の日時を告知する看板。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/dd/e43a5c9a9ed0f6651a2ba07df573d9c7.jpg)
“クルグズスタン国民は、主権者にして国家の統治権力の源泉である”
“6月27日はレファレンダム(国民総投票)の日”
↓ビシュケク市内の各所に貼られていた、国民投票(レファレンダム)への参加を呼びかけるビラの一つ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/54/7615ba17ea3fd8e98ebe25b23f270e2f.jpg)
“6月27日は、国を挙げての国民投票(レファレンダム)の日!”
“国民投票(レファレンダム)は国家の命運、即ち君の命運を決するもの!”
“投票せよ!”
“国土は一つ、国民も一つ、将来も一つ”
↓同じく、国民投票(レファレンダム)への参加を呼びかけるビラの一つ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/c9/ffd9aa229818bc3520964a76a8937ce6.jpg)
“レファレンダム(国民総投票)”
“投票すること-これは貴方の権利にして義務である!”
↓投票日の直前、路上でタダで配られていたパンフレット“クルグズ共和国の憲法改正計画についての説明”(クルグズ語)。論点が分りやすく整理されている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/37/4dadfed9e95c6ba44505f51fd4465502.jpg)
↓国民投票(レファレンダム)の当日、ビシュケク市内に設けられた投票所の一つ。投票所は、主に各地区の学校や大学などの教育機関に設けられていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/93/8999c82e0ed3cd2fec729b80f9938fc1.jpg)
逆に、バキエフ一派からしてみれば、そうやって暫定政府の正統性が確立してしまうと、彼らが政権を奪回できる可能性は一気に低下してしまう。国民投票(レファレンダム)なんか失敗した方が良いってことになります。
では、失敗させるためにはどうしたら良いか?
一番簡単な方法は、なるだけ多くの有権者を投票に参加させないことでしょう。半数以上だと投票は完全に無効になるし、3-4割でもそれがもたらす正統性は、かなり怪しくなる。
具体的には、例えば、南部で広範囲な民族紛争でも起これば、物理的に多くの人間が投票に参加できなくなるし、さらには暫定政府の統治能力の無さを全世界に知らしめることができる。
まさに、一挙両得ではありませんか!
まあ、結果としては暫定政府が6月27日に投票を強行したことで、そういう目論見があったとしたら失敗したことになりますが、実に説得力のある説です。
あるんだけど、ちょっと気になるのは、扇動者が“タジク人のスナイパー”であるとか、クルグズ人でもウズベク人でもない“第三者”であることが過剰に強調されている点ですね。
最近ではそれがエスカレートして、いつの間にかタリバーンやアル・カーイダ等のイスラーム原理主義勢力までもが絡んでいた、という話になっています。
-----------------------------------------------------------------------
「キルギス:テロ組織と前大統領側近が関与 民族衝突の原因」
http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20100625k0000m030078000c.html
【ビシケク大木俊治】
今月初めにキルギス南部で起きたウズベク系とキルギス系の民族衝突の原因を捜査してきたキルギス国家保安庁のドイシェバエフ 長官は24日、記者会見し、アフガニスタンを拠点とするイスラム過激派の国際テロ組織と、4月の政変でキルギスを追放されたバキエフ前大統領側近が手を組 み、混乱を引き起こしたと発表した。
長官によると、衝突に関与したのはアフガンの旧政権タリバンや国際テロ組織アルカイダと関係があり、中央アジアにイスラム国家の樹立を目指す「ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)」と「イスラム聖戦同盟」。
両組織の幹部とバキエフ氏の親族2人が5月初め、アフガン北部で会談し、キルギス南部で 騒乱を起こす見返りにバキエフ氏側が3000万ドルの報酬を支払うことで合意。パキスタンやアフガンからウズベク系戦闘員がタジキスタン経由でキルギス南部に入り、武力騒乱の準備を進めたという。
また6月の衝突後、パキスタンでIMUが幹部会を開き、キルギス南部での今後の活動を協議したとの情報もあると いう。
これらの情報は、バキエフ氏の次男で現在英国に逃亡中のマキシム氏と、バキエフ氏の弟で前国家警護庁長官のジャヌイシ氏との電話での会話を盗聴し た記録や、周辺国からの関連情報などで裏付けられたとしている。キルギス当局は外国籍を含む戦闘員20人を拘束したと発表している。
このほか武力衝突には地元の犯罪組織や、ウズベク系の自治州設置などを求めていた民族派組織も関与していたといい、ウズベク系組織幹部の親族4人を拘束したと発表。4人の自宅から押収したという自動小銃や手投げ弾、ガスマスクなどを会見で公開した。
--------------------------------------------------------------------------
“ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)”は、10年くらい前まではアフガニスタンの本拠地から、タジキスタンやクルグズスタンの南部を経由してウズベキスタンへの侵入を繰り返すなど、確かにその行動は活発でした。1999年に、バトケン州(クルグズスタン南西部)で日本人の鉱山技師4人を誘拐したのも彼らです。
ちなみに、その際に日本政府が秘密裏に払った身代金は当時のクルグズスタン政府を介してIMU側に渡された、ことになっていましたが、後(2005年の革命後)にその際の当事者の1人が、“実はIMUに支払われたのはその内の一部だけで、大部分は政府関係者の間で山分けにされていた”と証言。一時期、こちらのメディアでも話題になりました。
だけど、そういうのは大分前の話なんですよね。米軍のアフガニスタン侵攻によって主だった指導者が殺され、組織は壊滅したという説が有力です。現に、この10年というもの、南部でIMU絡みの事件なんてほとんど聞いたことがない。
それにしても、“中央アジアにイスラム国家の樹立を目指す”組織が、何でまたムスリム同士の民族抗争を煽ったりするのかね?どう考えても、ウンマ(イスラーム共同体)建設の障害になりそうな気がするんだけど...。
実に不自然ですね。
中国に至っては、“ウイグル人の独立派”が絡んでいるとか、訳の分らないことを言い出してるし。
-------------------------------------------------
中国、ウイグル族独立派十数人を拘束 テロ計画容疑
2010 年6月24日19時8分
http://www.asahi.com/international/update/0624/TKY201006240362.html
【北京=峯村健司】
中国公安省は24日、爆弾を用意して大規模テロを計画した疑いで、ウイグル族の独立を主張する東トルキスタン・イスラム運動 (ETIM)の幹部ら十数人を拘束した、と発表した。同省は、2008年8月の北京五輪前後に新疆ウイグル自治区で相次いだ警察当局などを襲撃した事件に ETIMが関与したとしている。
隣接する中央アジア・キルギス南部で起きた民族衝突についても、中国当局は「ウイグル独立勢力が関与している」(新華社通信)とみて波及を警戒しており、国境での厳戒態勢を強めている。
7月5日で、約200人が死亡したウルムチ騒乱から1年を迎えることから、強硬姿勢を示すことで再発を防ぐ構えだ。
発表によると、拘束されたのはアブドラシティ・アブライティ容疑者(42)ら。全員、昨年12月にカンボジアに密入国して中国に強制送還されたウイグル 族のグループとみられる。
公安省は、アブライティ容疑者らが2009年7月から10月にかけて、数十発の手製爆弾や火炎瓶などを準備し、新疆ウイグル自治区内で連続テロの計画を 立てていた、と説明している。
-----------------------------------------------------
クルグズ人とウズベク人の民族衝突が、ウイグル独立派に一体いかなる利益をもたらすのか?
中国4千年の叡智は、自分のような凡俗の徒には到底理解できないようです。
誰か説明してください。
しかしまあ、横領した莫大な国家予算を元手にクルグズスタンの政権を奪回、アル・カーイダやタリバーンや麻薬の密売組織と組んで中央アジアにイスラーム国家の樹立を目指し、さらには東トルキスタンの解放までも目論んでいる、とか....露メディアの報道によると、あのベレゾフスキーとも繋がりがあるらしい。
きっと、一年前にウルムチ事件が起きたのも、旧ソ連圏の郵便ポストが青いのも、ビシュケクのオヴィール(=内務省ヴィザ・移民局のこと。ヴィザの延長や外国人登録を担当)のババアの性格がとてつもなく悪いのも、全て“バキエフ団”の仕業なのでしょう。
凄い、凄いよ“バキエフ団”。
凄すぎて、もはや何の団体だか、よく分らなかったりします。
いや、もちろん、今回の南部の騒乱で扇動者らしき集団がいたらしきことは、海外メディアやら人権団体やら国連やら色んなところが言っていることです。多分事実なのでしょう。
また、バキエフの支持者が5月中に南部のオシュやジャララバードで州庁舎を占拠したり、一部のウズベク人勢力と衝突するなど諸々の騒ぎを起こしていたことを思えば、バキエフ一派が件の騒乱と無関係だとは考えにくい。
でも、バキエフ一派の関与を疑うのであれば、外国人のスナイパーとか、“悪の総合商社w”たるバキエフ団みたいな“第三者”よりも先に、もっと問題とされるべき当事者がいるはずです。
そうです。
元々、南部はバキエフ派の支持母体でした。そして、彼の地には今でもバキエフを支持する“普通の”クルグズ人が大勢いたのです。南部の行政機構や治安機関も同じ。今のオシュ州知事メリスべク某(ちなみに、“メリスべク”とはME=マルクスとエンゲルス、LI=レーニン、S=スターリン+BEK=クルグズ語の尊称。ソ連時代の一時期流行った名前らしい)などは、革命前はバキエフ元大統領の忠実な子分でした。特に治安機関の関係者は、より武器を横流しさせやすい立場にあったのではないか。
それにもかかわらず、暫定政府は彼らの関与については一切触れません。また、国際機関など第三者による騒乱原因の調査も頑に拒んでいるような感じです。
一体、何を恐れているのか?
とりあえず、“秘密結社バキエフ団”や、ウズベク人でもクルグズ人でもない“謎のタジク人スナイパー”といったものは、自分にはその“何か”から人々の目を逸らすためのネタだとしか思えません。
でもって、その“何か”こそが、今回の騒乱をここまで悪化させた原因だと考えています。
これについて語るには、いったん何百年か時代を遡らないといけませんね。
話がまた長くなりそうなので、ちょっと項を改めましょう。
ところで、暫定政府は今回の騒乱について、当初から“国外に逃亡中のバキエフ元大統領とその一族の陰謀によって生じたものである”と、一貫して主張し続けています。
バキエフ元大統領は、今年4月の革命で失脚するまでの約5年間の間、自らの親類縁者や同郷者を国の要職につけ、社会的利権をほぼその一党で独占してきました。
まあ、権威主義的な大ボスが“利権のパイ”を政治的に独占し、その血縁や地縁を頼りに有象無象がそのパイに群がるという構図は、中央アジア諸国ではどこも大体似たようなものです。違いがあるとしたら、資源国であれば“パイ”の中身が“石油やガス”となり、クルグズスタンのような資源の無い国だと“欧米日やロシアからの援助とか基地の使用料”になることくらいでしょうか。
しかし、考えてみれば、このバキエフもまた前回(2005年)の“革命”によって実権を握ったのであり、その際には“前体制の悪しき遺産である汚職と縁故主義を一掃する!”みたいなことを盛んに訴えていたのでした。今の暫定政府も、2、3年後には案外似たようなものになっているのかもしれない。
そのバキエフ体制がたかだか数千人程度のデモであっけなく崩壊したのは、小さな“利権のパイ”をバキエフ一族が狭い範囲で独占し過ぎた結果だと言われています。子分の中でも分け前の少ない連中は、ケチな大ボスを意外とあっさり見放した、ということか。
あと、前にも書きましたが、クルグズスタンという国は、一応形としては“中央アジアで最も民主主義的な国家”ということになっており、報道に対する規制は周辺諸国よりも緩いし、治安機関もさほど強力なものではありません。
もし、これが隣のウズベキスタンだったら、いつぞやのようにメディアは直ちに統制。デモの参加者は片っ端から撃ち殺され、死体は行方不明になっていたに違いない。NHKの新・旧“シルクロード”効果によるものか、日本ではウズベキスタンに過剰に幻想的なイメージ(ラクダとか砂漠とかキタロウとか)を抱いている人が多いですが、あの国も、“本気を出す”と実は中国並みにヤバい国だったりします。
で、革命後はバキエフ元大統領はベラルーシに事実上の亡命。そのロシア人の第一夫人(こちらの民法では重婚は禁止されているが、元大統領には正妻以外に、クルグズ人妻が二、三人いたらしい。)との間に生まれ、その汚職と派手な夜遊びによりビシュケク市民の間でも悪評の高かった次男、マクシム=バキエフは現在英国で亡命申請中。他の一族や側近たちも、国外に逃亡するか、地下に潜伏してしまいました。
暫定政府は、彼らは多額の公金を横領、持ち逃げしたとして、1人につき最高10万ドル(今のレートで900万円くらい?)の懸賞金をかけています。日本の警察もよくやっている、“逮捕に繋がるような情報の提供者には...云々”というアレです。
地元の新聞各紙にも、“賞金首リスト”が載ってましたね。“国家級のお尋ね者の賞金首が900万って、何てショボいんだ!”と思う人もいるかもしれませんが、米1kgが100円、玉葱が1kg30円程度のこの国では、それでも十分な大金なのですよ。
話を元に戻すと、その賞金首の集団=バキエフ一味が、南部に騒乱を惹き起こすために、持ち逃げした多額の公金をばら撒いて大勢の“タジク人スナイパー”を雇い、彼らにオシュ近辺のクルグズ系住民とウズベク系住民の双方を襲撃させて両者の衝突を扇動した、というのが暫定政府の言い分です。
だとしたら、その動機は何なのか?
暫定政府によれば、その狙いは、この間の6月27日にクルグズスタン全国で行われた国民投票(レファレンダム)の阻止にあったと言います。
その国民投票(レファレンダム)とは、暫定政府によって提示された新憲法の是非を問うものでした。過去2代の政権において縁故主義と腐敗が横行した原因は、大統領に過度に権力が集中した結果であるということで、新憲法では大統領の権限は大幅に削られ、その分、議会の力が強くなっている。また、しばしば大統領に都合の良い法解釈を行い、その独裁に寄与してきたと悪評の高い“憲法裁判所”については、これを廃止。最高裁に統合するとしています。
要は、クルグズスタンの政体を、実質的に大統領制から議会中心の“議院内閣制”に変えてしまおうという訳です。
そして、憲法改正が承認された場合、暫定政府の指導者であるオトゥンバエワ暫定大統領が、来年(2011年)末の大統領選まで留任することになっていました。つまり、この国民投票(レファレンダム)は、国民に対し、現在の暫定政府の“正統性”を問うものでもあったわけです。
暫定政府の中の人たちにとっては、この“正統性”の問題は大変重要でした。というのも、民主的な手続きを経ずして4月の暴力革命によって実権を握った暫定政府の法的立場は、これまで極めて不安定なものでした。バキエフ一族が国外に逃亡した後も、暫定政府の承認を躊躇する国が多かったり、一連の騒乱にロシアが介入を渋ったりした所以です。
そんなわけで、彼らがクルグズスタン国民の総意に基づく政府として、その正統性を国際社会で認知させるためにも、この国民投票(レファレンダム)は是が非でも成功させる必要があった訳ですよ。
↓ビシュケク市内に出現した、国民投票(レファレンダム)の日時を告知する看板。上はクルグズ語、下はロシア語。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/86/40927c71464caaf17ca9e9a22c60eca9.jpg)
↓同じく、国民投票(レファレンダム)の日時を告知する看板。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/dd/e43a5c9a9ed0f6651a2ba07df573d9c7.jpg)
“クルグズスタン国民は、主権者にして国家の統治権力の源泉である”
“6月27日はレファレンダム(国民総投票)の日”
↓ビシュケク市内の各所に貼られていた、国民投票(レファレンダム)への参加を呼びかけるビラの一つ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/54/7615ba17ea3fd8e98ebe25b23f270e2f.jpg)
“6月27日は、国を挙げての国民投票(レファレンダム)の日!”
“国民投票(レファレンダム)は国家の命運、即ち君の命運を決するもの!”
“投票せよ!”
“国土は一つ、国民も一つ、将来も一つ”
↓同じく、国民投票(レファレンダム)への参加を呼びかけるビラの一つ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/c9/ffd9aa229818bc3520964a76a8937ce6.jpg)
“レファレンダム(国民総投票)”
“投票すること-これは貴方の権利にして義務である!”
↓投票日の直前、路上でタダで配られていたパンフレット“クルグズ共和国の憲法改正計画についての説明”(クルグズ語)。論点が分りやすく整理されている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/37/4dadfed9e95c6ba44505f51fd4465502.jpg)
↓国民投票(レファレンダム)の当日、ビシュケク市内に設けられた投票所の一つ。投票所は、主に各地区の学校や大学などの教育機関に設けられていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/93/8999c82e0ed3cd2fec729b80f9938fc1.jpg)
逆に、バキエフ一派からしてみれば、そうやって暫定政府の正統性が確立してしまうと、彼らが政権を奪回できる可能性は一気に低下してしまう。国民投票(レファレンダム)なんか失敗した方が良いってことになります。
では、失敗させるためにはどうしたら良いか?
一番簡単な方法は、なるだけ多くの有権者を投票に参加させないことでしょう。半数以上だと投票は完全に無効になるし、3-4割でもそれがもたらす正統性は、かなり怪しくなる。
具体的には、例えば、南部で広範囲な民族紛争でも起これば、物理的に多くの人間が投票に参加できなくなるし、さらには暫定政府の統治能力の無さを全世界に知らしめることができる。
まさに、一挙両得ではありませんか!
まあ、結果としては暫定政府が6月27日に投票を強行したことで、そういう目論見があったとしたら失敗したことになりますが、実に説得力のある説です。
あるんだけど、ちょっと気になるのは、扇動者が“タジク人のスナイパー”であるとか、クルグズ人でもウズベク人でもない“第三者”であることが過剰に強調されている点ですね。
最近ではそれがエスカレートして、いつの間にかタリバーンやアル・カーイダ等のイスラーム原理主義勢力までもが絡んでいた、という話になっています。
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「キルギス:テロ組織と前大統領側近が関与 民族衝突の原因」
http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20100625k0000m030078000c.html
【ビシケク大木俊治】
今月初めにキルギス南部で起きたウズベク系とキルギス系の民族衝突の原因を捜査してきたキルギス国家保安庁のドイシェバエフ 長官は24日、記者会見し、アフガニスタンを拠点とするイスラム過激派の国際テロ組織と、4月の政変でキルギスを追放されたバキエフ前大統領側近が手を組 み、混乱を引き起こしたと発表した。
長官によると、衝突に関与したのはアフガンの旧政権タリバンや国際テロ組織アルカイダと関係があり、中央アジアにイスラム国家の樹立を目指す「ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)」と「イスラム聖戦同盟」。
両組織の幹部とバキエフ氏の親族2人が5月初め、アフガン北部で会談し、キルギス南部で 騒乱を起こす見返りにバキエフ氏側が3000万ドルの報酬を支払うことで合意。パキスタンやアフガンからウズベク系戦闘員がタジキスタン経由でキルギス南部に入り、武力騒乱の準備を進めたという。
また6月の衝突後、パキスタンでIMUが幹部会を開き、キルギス南部での今後の活動を協議したとの情報もあると いう。
これらの情報は、バキエフ氏の次男で現在英国に逃亡中のマキシム氏と、バキエフ氏の弟で前国家警護庁長官のジャヌイシ氏との電話での会話を盗聴し た記録や、周辺国からの関連情報などで裏付けられたとしている。キルギス当局は外国籍を含む戦闘員20人を拘束したと発表している。
このほか武力衝突には地元の犯罪組織や、ウズベク系の自治州設置などを求めていた民族派組織も関与していたといい、ウズベク系組織幹部の親族4人を拘束したと発表。4人の自宅から押収したという自動小銃や手投げ弾、ガスマスクなどを会見で公開した。
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“ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)”は、10年くらい前まではアフガニスタンの本拠地から、タジキスタンやクルグズスタンの南部を経由してウズベキスタンへの侵入を繰り返すなど、確かにその行動は活発でした。1999年に、バトケン州(クルグズスタン南西部)で日本人の鉱山技師4人を誘拐したのも彼らです。
ちなみに、その際に日本政府が秘密裏に払った身代金は当時のクルグズスタン政府を介してIMU側に渡された、ことになっていましたが、後(2005年の革命後)にその際の当事者の1人が、“実はIMUに支払われたのはその内の一部だけで、大部分は政府関係者の間で山分けにされていた”と証言。一時期、こちらのメディアでも話題になりました。
だけど、そういうのは大分前の話なんですよね。米軍のアフガニスタン侵攻によって主だった指導者が殺され、組織は壊滅したという説が有力です。現に、この10年というもの、南部でIMU絡みの事件なんてほとんど聞いたことがない。
それにしても、“中央アジアにイスラム国家の樹立を目指す”組織が、何でまたムスリム同士の民族抗争を煽ったりするのかね?どう考えても、ウンマ(イスラーム共同体)建設の障害になりそうな気がするんだけど...。
実に不自然ですね。
中国に至っては、“ウイグル人の独立派”が絡んでいるとか、訳の分らないことを言い出してるし。
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中国、ウイグル族独立派十数人を拘束 テロ計画容疑
2010 年6月24日19時8分
http://www.asahi.com/international/update/0624/TKY201006240362.html
【北京=峯村健司】
中国公安省は24日、爆弾を用意して大規模テロを計画した疑いで、ウイグル族の独立を主張する東トルキスタン・イスラム運動 (ETIM)の幹部ら十数人を拘束した、と発表した。同省は、2008年8月の北京五輪前後に新疆ウイグル自治区で相次いだ警察当局などを襲撃した事件に ETIMが関与したとしている。
隣接する中央アジア・キルギス南部で起きた民族衝突についても、中国当局は「ウイグル独立勢力が関与している」(新華社通信)とみて波及を警戒しており、国境での厳戒態勢を強めている。
7月5日で、約200人が死亡したウルムチ騒乱から1年を迎えることから、強硬姿勢を示すことで再発を防ぐ構えだ。
発表によると、拘束されたのはアブドラシティ・アブライティ容疑者(42)ら。全員、昨年12月にカンボジアに密入国して中国に強制送還されたウイグル 族のグループとみられる。
公安省は、アブライティ容疑者らが2009年7月から10月にかけて、数十発の手製爆弾や火炎瓶などを準備し、新疆ウイグル自治区内で連続テロの計画を 立てていた、と説明している。
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クルグズ人とウズベク人の民族衝突が、ウイグル独立派に一体いかなる利益をもたらすのか?
中国4千年の叡智は、自分のような凡俗の徒には到底理解できないようです。
誰か説明してください。
しかしまあ、横領した莫大な国家予算を元手にクルグズスタンの政権を奪回、アル・カーイダやタリバーンや麻薬の密売組織と組んで中央アジアにイスラーム国家の樹立を目指し、さらには東トルキスタンの解放までも目論んでいる、とか....露メディアの報道によると、あのベレゾフスキーとも繋がりがあるらしい。
きっと、一年前にウルムチ事件が起きたのも、旧ソ連圏の郵便ポストが青いのも、ビシュケクのオヴィール(=内務省ヴィザ・移民局のこと。ヴィザの延長や外国人登録を担当)のババアの性格がとてつもなく悪いのも、全て“バキエフ団”の仕業なのでしょう。
凄い、凄いよ“バキエフ団”。
凄すぎて、もはや何の団体だか、よく分らなかったりします。
いや、もちろん、今回の南部の騒乱で扇動者らしき集団がいたらしきことは、海外メディアやら人権団体やら国連やら色んなところが言っていることです。多分事実なのでしょう。
また、バキエフの支持者が5月中に南部のオシュやジャララバードで州庁舎を占拠したり、一部のウズベク人勢力と衝突するなど諸々の騒ぎを起こしていたことを思えば、バキエフ一派が件の騒乱と無関係だとは考えにくい。
でも、バキエフ一派の関与を疑うのであれば、外国人のスナイパーとか、“悪の総合商社w”たるバキエフ団みたいな“第三者”よりも先に、もっと問題とされるべき当事者がいるはずです。
そうです。
元々、南部はバキエフ派の支持母体でした。そして、彼の地には今でもバキエフを支持する“普通の”クルグズ人が大勢いたのです。南部の行政機構や治安機関も同じ。今のオシュ州知事メリスべク某(ちなみに、“メリスべク”とはME=マルクスとエンゲルス、LI=レーニン、S=スターリン+BEK=クルグズ語の尊称。ソ連時代の一時期流行った名前らしい)などは、革命前はバキエフ元大統領の忠実な子分でした。特に治安機関の関係者は、より武器を横流しさせやすい立場にあったのではないか。
それにもかかわらず、暫定政府は彼らの関与については一切触れません。また、国際機関など第三者による騒乱原因の調査も頑に拒んでいるような感じです。
一体、何を恐れているのか?
とりあえず、“秘密結社バキエフ団”や、ウズベク人でもクルグズ人でもない“謎のタジク人スナイパー”といったものは、自分にはその“何か”から人々の目を逸らすためのネタだとしか思えません。
でもって、その“何か”こそが、今回の騒乱をここまで悪化させた原因だと考えています。
これについて語るには、いったん何百年か時代を遡らないといけませんね。
話がまた長くなりそうなので、ちょっと項を改めましょう。