歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

ウルムチ“血の日曜日事件”に対するトルコ人の反応(1)

2009-07-14 23:32:50 | 東トルキスタン関係

何だかウルムチが大変なことになってますね。とか、そんな悠長なことを言ってる状況じゃないのか。でも、テレビやネットで流れている現地の映像を見ていても、いまいちピンと来ないのですよ。

ウルムチは、これまで自分が最も多く訪れた中国の町であり、述べ滞在日数も、多分カシュガルの次くらいに長い。それだけに、見慣れた風景の中を鉄パイプを握った漢人の集団がうろついていたり、よく前を通ったモスクが投石でボロボロになってたり、よく昼飯を食いに行った包子屋の界隈が廃墟と化しているのを見ても、一向に現実感がありません。何なんだ、これは。

↓フランスのTV局「フランス2」が取材した2009年7月8日頃のウルムチ市内の様子。鉄パイプや棍棒を握った漢人の暴徒が通りをねり歩き、ウイグル人を見つけては襲撃している。“デビルマン”の最終回のようだ….。


現実感が無いといえば、ウイグル人がウルムチで大デモを起こすなんてことも、未だに信じられません。グルジャ(伊寧)とかカシュガルならまだ分かるんですけどね。ウルムチは昔も今も漢人による新疆支配の拠点であり、ウイグル人街なんて本当に一部の区域だけです。自分の中でも、“ウルムチ=漢人の町”というイメージでしたし。

とりあえず、ここに至るまでの成り行きをまとめると、
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<1>2009年5月、広東省韶関市にある香港資本の玩具工場で、新疆出身のウイグル人労働者600人が雇われる。
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<2>.工場をクビになった漢人労働者が、失職したのはウイグル人が大勢雇われたからだと逆恨み。“漢人女子工員がウイグル人たちにレイプされた”というデマをネットで流す。デマは凄まじい早さで労働者の間に広まる。
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<3>2009年6月26日の夜、ウイグル人労働者と漢人労働者の小競り合いが騒乱に発展、折から流れていたデマも手伝って、棍棒や鉄パイプで武装した漢人の集団がウイグル人たちの住む社員寮を襲撃。ウイグル人たちはナイフで応戦したらしい。
事件では双方に負傷者(漢人38人/ウイグル人78人)が出たが、最低でもウイグル人労働者2名が死亡。公安は積極的に介入しなかった。

この↓英紙ガーディアンの記事には、“自分らだけでも7~8人のウイグル人を撲殺した”、“全部で30人以上は死んでるはず”といった襲撃参加者の証言が出てくる。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jul/10/china-riots-uighurs-han-urumqi


↓寮に住む他の労働者が、携帯電話で撮影したと思われる事件の映像。漢人暴徒の集団がウイグル人労働者を、鉄パイプで文字通り〝撲殺”している。
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<4>事件の情報はネット経由で直ちに新疆や海外のウイグル人の間に広まる。この際、当局の発表は嘘で、死者の数は数百人に及ぶ”とか、“襲撃の際にウイグル人の女子工員がレイプされ、殺された”とか“事件を起こした漢人は無罪放免で、ウイグル人は全員解雇された”などと話が膨れ上がっていったらしい。真相の究明と犯人の逮捕を求める声が高まるが、当局は動かず。

※「ウイグル族解雇」は誤解
http://www.jiji.com/jc/v2?id=20090706uighur_riot_14 
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<5>2009年7月5日、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチにおいて、ネットや携帯で連絡を取り合ったウイグル人学生らが中心になって、件の襲撃事件の真相解明を求める大規模なデモを決行。一般人がこれに合流し、その数は3000を超えていたらしい。当初は平和的なデモだった。
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<6>7月5日夜から6日の朝にかけて、デモが暴動に発展。暴動となったのは、治安機関とデモ隊の間で小競り合いが起こり、治安機関の側が発砲したのが原因である可能性高し。乗用車への放火や店舗の破壊、通行人への暴行が相次ぎ、漢人を中心に大量の死傷者が発生。暴動の鎮圧後、実際に参加したか否かに拘わりなく、市内在住のウイグル人1500人以上が公安に逮捕される。

※2009/7/12の朝日新聞の記事より
http://www.asahi.com/international/update/0712/TKY200907110280.html

↓映像自体は中国の国営放送(CCTV)が撮ったもの

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<7>当局は、暴動での死者140~150人、負傷者は800人程度と発表。しかしその内訳は明らかにせず暴動は世界的なウイグル独立派の組織〝世界ウイグル会議“とその指導者ラビア=カーディル女史が扇動した破壊活動であるとの声明を出す。

※ 2009/7/11、自治区政府が騒乱の死者184人、その内74%が漢人と発表。一方、“世界ウイグル会議”はウイグル人の死者だけでも1000人以上としているが、いずれも信憑性は不明。
http://www.47news.jp/CN/200907/CN2009071101000060.html
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<8>中国メディアは当局の発表をなぞり、漢人側の被害のみ強調する報道を行う。治安機関の不手際には触れず。TVでは、ウイグル人が暴れている場面や漢人死傷者のグロ映像のみが繰り返し流される。
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<9>7月7~8日、メディアの報道で煽られた漢人約一万が鉄パイプや包丁で武装して町をねり歩き、ウイグル人を見つけては暴行を加え、その居住区を襲撃。治安の維持のため武装警察や軍が投入されていたものの、あまり積極的には動かなかったらしい。この際の死傷者の数は不明。なお、この件については中国国内ではほとんど報道されてないようだ。

↓ウルムチの路上で漢人暴徒から袋叩きにされるウイグル人の男性 

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<10>7月10日、市内に展開する武装警察はさらに増員され、公安相の孟建柱がじきじきに乗り込んでこれを指揮。治安は回復しているとされる

※ポプラ殿のコメントによれば、孟建柱は8日の時点で周永康と交代していた模様。

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<11>
7月11~12日、市内の緊張は続いており、武装警察によるウイグル人住民の逮捕・連行が相次ぐ。市内で謎の石油タンク爆発。
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<12>7月13日、ウルムチ市内でウイグル人3人がナイフ等で治安部隊の兵士を襲撃。2名が射殺される。当局は、“ウイグル人どうしの争いを止めようとして発砲したと発表←今ここ

※「警察がウイグル人2人を射殺、暴動後のウルムチで」
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2620866/4356753


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ざっと、こんな感じですか。 しかし、今なお不明な点が多すぎます。中でも、一番分からないのがこのプロセスの<6>の部分ですね。“デモ”はいかにして“暴動”に発展したのか?中国メディアは確かに“暴動”の部分は詳細に報道しています。ウイグル人暴徒がバスを横転させるところとか、暴徒に殺害された漢人の死体の映像をじゃんじゃん流している。

でも、“デモ”の部分についてはTwitterなどを経由して流れた個人撮影の動画がyoutubeなどにアップされてるくらいで、ほとんどスルーです。ことに、“デモ”と“暴動”の“間”に何があったかについては、まったく言及しない。

当局も昨年のラサ事件で多少は学習したのか、今回は海外メディアの取材も一応は認めています。でも、こちらにしても証言者として登場するのは暴動によって被害を受けた“可哀想な漢人の犠牲者”ばかり。ウイグル人の死傷者は出てきません。どうやら、病院等での取材の対象は当局が事前に選んでいるらしい。

で、彼らの意に沿わない情報収集を試みたメディアは、テレ東の記者みたいに拘束されたり、町から追い出されたりしている。と。

※「ウイグル取材中のテレビ東京記者、一時拘束」
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20090711-OYT1T00002.htm

亡命したウイグル人独立派の組織“世界ウイグル会議”は、デモは元々学生中心の平和的のものであり、それが暴動に転化したのは、治安機関の発砲が原因だとしています。まあ、この団体の流す情報は普段から誇張美味なところがあるのでアレなんですが、暴動から一週間が経ち、他の海外メディアもこの件についてぽつぽつ報道し始めていることを思えば、発砲があったのは間違いなさそう。

犠牲がどの程度かは分かりませんが…..。 この発砲については、“共産党内の派閥抗争が反映している”という説もあるようです。

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「ウイグル暴動 政権に衝撃 開放政策 ひずみ一気に」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2009071302000092.html

胡主席は昨年、「抗議行動への武力鎮圧は極力控える」と全国の公安部門に通達した。今回の暴動で多くの死傷者が出たのは「江沢民前国家主席の勢力が実力行使で対処し、影響力誇示を図った」(香港紙・リンゴ日報)ためで、胡主席がサミットから緊急帰国したのは権力闘争が一因だったとの見方もある。
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胡錦濤を追い落とすために、江沢民派が仕掛けた謀略だというわけです。つまり、ウイグル人たちを敢えて“暴れさせるために”撃たせたと。陰謀論だと言われればそうなのですが、政府内における治安関係のトップである中央政治法律委員会・書記の周永康や公安相の孟建柱といった人々が、いずれも江沢民派と仲が良いというのは、何かの偶然でしょうか?

トップ同士の壮大な足の引っ張り合いは彼の国の政治の常だし、江沢民一派には、数年前にやはり同じような目的で反日キャンペーンを煽っていた「前科」がありますからね。妙に納得させられてしまいます。

一方、中国当局はこれを全面否定。あくまで新疆に民族問題などは存在せず、米国のひも付きである“世界ウイグル会議”、もしくは海外のイスラーム原理主義組織に扇動されたウイグル人たちが、“グレムリン化”して暴れまわっただけだ。当局がデモを潰したのは弾圧ではなく、単に犯罪者を制圧したに過ぎない。というシナリオで押し通すつもりのようです。

中国メディアの報道にウイグル人死傷者が登場しないのは、このためなんでしょう。“治安部隊から自動小銃で撃たれた”と言い出す一般人がいたら、色々とまずいわけです。また、中国国内では7/7~8の漢人暴徒によるウイグル人襲撃が報道されていないのも理由は同じでしょうね。

冷静に考えれば、今回の一連の騒乱では広東省での衝突事件にしろウルムチでのデモ・暴動にしろ、事態を悪化させた最大の要因は当局の対応不足というか、不手際でした。また、ネット上でデマが際限なく拡大していった裏には、近年のネットの発達で政府の公式発表の怪しさを誰もが知るところとなり、人々が政府の公式発表を信頼しなくなっているのが大きい。

要するに、明らかに現体制の統治能力は低下しているということです。 そう考えれば、当局が国内メディアを通して広めようとしているシナリオの意図が、何となく分かるような気がしませんか?

つまり、共産党は自らの正統性の揺らぎと統治能力の低下から国民の目をそらせたい。そのために、メディアを総動員して、事件の背後にあるとする“世界ウイグル会議”と米国もしくはアル=カイーダとの繋がりを強調してナショナリズムを煽る一方で、中国本土で広まっている“ウイグル人=野蛮で狂信的”という偏見を利用して、暴動の責任を一方的にウイグル人側に帰してしまう。

でもって、60年来の民族問題は存在しないことにして、“お上”の失策や責任もチャラにしようというわけです。実に安易ですね。憎悪の連鎖はまだまだ続くに違いない。

こんな単純なプロパガンダに乗せられて、ネット上でウイグル人を叩きまくったり、“西側メディアの中国への偏見”に対して憤慨している中国の人民はダメ過ぎるでしょう。今みたいな体制が続く限り、ちょっと間違えば、この手の理不尽な暴力は彼ら自身にも降りかかりかねないというのに。

→(2)に続く