歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

「対日戦勝記念日」制定に対するロシア人の反応(9)

2010-09-20 22:15:29 | ロシア関係
→(8)からの続き

さて、法制化後初の“対日戦勝記念日”は、実際にはどういう感じだったのでしょうか?

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ロシア:極東各地で「対日戦勝利」65周年行事
http://mainichi.jp/select/world/news/20100903k0000m030038000c.html  

(前略)

ロシアでは、日本が連合国への降伏文書に調印した45年9月2日を「第二次大戦終結の日」としており、今年7月にメドベージェフ大統領が署名した法改正で「国の記念日」に制定された。 

サハリン州では旧ソ連時代からの伝統で3日を「対日戦勝記念日」とし、祝賀行事を行ってきたが、今年は2日に主要行事を移行、軍事パレードに初め て戦車など兵器が登場し、規模を拡大した。ただ、ホロシャビン州知事は大統領が招集した別の会議へ出席し、地元行事を欠席。市内も戦勝を祝う看板はほとん どなく、従来と大きな違いはなかった。 

このほか太平洋艦隊の基地があるウラジオストクなどで記念行事が開催された。一方、首都モスクワでも式典が開かれたが、出席者は100人程度にとどまり、国家を挙げて祝う5月9日の対ドイツ戦勝記念日と比べ関心の低さを印象づけた。

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どうやら、サハリン(樺太)以外では大して盛り上がらなかったようですね。まあ、当然でしょう。

この記事の前半の方でも触れましたが、普通のロシア人の歴史認識の中での“日ソ戦争”は、“大祖国戦争(=独ソ戦)”に比べて極めてマイナーな存在です。戦争そのものへの関心も低いというか、ひどい場合は日露戦争と区別がつかない人すらいるわけで...。

ロシアの人気ポータルサイト“Mail.ru”の掲示板でも、今年の7月に“記念日”が制定される大分前からそれに関するアンケートのスレがいくつか立てられていたのですが、

例えば、

4月に立てられていたこれ↓だと、
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<教えて!ナロード>  
「対日戦勝記念日を祝日にすべきと言う、(ロシア上院議長)ミローノフの提案を支持する?」
原題:Поддерживаете ли Вы предложение Миронова ввести праздник победы над Японией?
http://otvet.mail.ru/question/37735436/


<ナロードの答え>(回答人数47人)
・支持する:17人(36.17%)

・支持しない:25人(53.19%)

・どっちとも言えない:5人(10.64%)


<ナロードのコメント>
論評ナロード1号
不可分の祝日みたいなものがあるって???バカだな。


論評ナロード2号

最終的にうちらがポーランド仲良くなり始めたのは、11月4日の祝日が出来た後だった。日本の場合はもっとましなんじゃない?

※1612年、ポーランド軍占領下のモスクワで起きた、“愛国者”たちによる反ポーランド蜂起を記念した祝日。2005年に制定された。


論評ナロード3号
あれは不名誉な戦争だった!

論評ナロード4号
うちらは日本には完全に負けてるんだけどな。ミローノフが知らないのも無理はない。何せ奴は、プーチン的な“エリート”なんだから。

※日露戦争のことを指していると思われる。


論評ナロード5号
奴(=ミローノフ)が言ってるのは、1945年(の戦争)の方だぞ。
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 “支持しない”が“支持する”を上回っていますね。そして、やっぱり日露戦争と区別できて無い人たちがいる....。

また、

去年の12月に立てられたこちら↓でも、
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<教えて!ナロード>   
「もうすぐロシアで対日戦勝記念日が復活、祭日として休みになるって噂があるんだけど? 」
原題:Ходят слухи, что скоро в России День Победы над Японией будет восстановлен и станет нерабочим, праздничным днем?
http://otvet.mail.ru/question/28885083/

1945年9月2日の夕方、日本の無条件降伏の後で、モスクワのソ連邦最高会議幹部会は“対日戦勝記念日”の制定を決めた。しかしながら、フルシチョフが権力を握ると、この日は“取り消され”てしまった。いかなる公的文書も存在しないというのに。対独戦勝記念日の方も事情は同じで、5月9日はブレジネフ時代の1965年にして初めて、全国民の祝日かつ、休日となったんだ。

このロシア政府の決定をどう思う?何しろ、日本の側は1945年9月2日の降伏条件を忘れてしまったのか、少しも躊躇することなく、自分らの要求をロシアに突きつけてばかりいるわけで。

また同時に、現在のロシアでは不当に忘れられている、当時の極東ソ連軍最高総司令官にして天才的な軍司令官、A.M.ヴァスィーレフスキーソ連邦元帥の役割についてはどう?


<ナロードの答え>(回答人数33人)
・早くそうすべきだったんだよ。祖先の栄光を忘れるなんてことは、卑劣なことだ。政府はこの祭日を元に戻す必要がある。国民のみなが知り、記憶するように。:6人(18.18%)

 ・日本は関係ない。これは我々自身、つまりロシア自身の問題だ!:10人(30.30%)

・もう祭日は十分。多すぎるんだよ!:17人(51.52%)
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わざわざ祭日にまでする必要はない、と言う人が大半です。

まあ、もっと最近に立てられたもの↓では、
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<教えて!ナロード>
「9月3日の対日戦勝記念日を復活させ、ロシアの一連の歴史的戦勝記念日の列に加えるのは、意味のあること?」
原題:СТОИТ ЛИ ВОССТАНОВИТЬ ДЕНЬ ПОБЕДЫ НАД ЯПОНИЕЙ и ВКЛЮЧИТЬ 3 СЕНТЯБРЯ В ПЕРЕЧЕНЬ ПРАЗДНИКОВ ВОИНСКОЙ СЛАВЫ РОССИИ?
http://otvet.mail.ru/question/28963394/

著名な歴史家にして日ソ戦争の従軍者、元兵士のマフムート=ガレーエフは、自らの論文で以下のように問う-“なぜ我々は、対日戦勝記念日を忘れるよう強いられねばならないのか?”と。 ロシア連邦議会は、1945年9月3日の“対日戦勝記念日”を、公的なカレンダーから削除している。

彼はさらに、ロシアがまさに世界政治の議事日程の中で決定的な役割を果たす大国の一つへと戻りつつある現状において、こうした事実は当惑をもたらすものだ、とも言う。

日本では、既に1981年には“ソヴィエト領土の日(←北方領土の日?)”が公的に制定されており、以来、毎年2月7日には南クリル(=千島)諸島の内4島の対日返還を求める行事が、国中で騒々しく執り行われているのだ。 その一方で、ロシアにおいては、ちょっと我が軍の勝利に言及しただけで憤慨するような、市民の集団が幅をきかせている。こうした人々には、我が国の敗北がよりお好みなのだろう。

(以下、13世紀以来の歴史的な戦勝記念日をいちいち列挙していき、故に、対日戦勝記念日も法制化すべきだという話になるのだが、長すぎるので省略。)


<ナロードの答え>
(回答人数47人)
・そう、まだ遅くない!先人らによって獲得されたロシアの栄誉は神聖なものであり、政治家がこれを評価しないのは冒涜である。:22人(46.81%)

・もちろん、意味はある。でも、この問題に取り組んだり、ロシアの歴史を知り、公益に尽くそうとしているお偉方なんているのかね?:12人(25.53%)

・そうした栄誉を誰が必要としてるんだ?:13人(27.66%)
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賛同者の数はより多いわけですが、それでも、半数近くは懐疑的だったりします。 全体として、対日交渉に“国内世論の圧力”というカードを加えたい現政権や右派が政治的動員をかけようと頑張っているにもかかわらず、一般国民の側は無関心で、中々それに乗ってくれてないという雰囲気ですね。

普通のロシア人のそうした冷めた雰囲気が、より濃厚に感じられるスレがありました。
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<教えて!ナロード>
「みんなは対日戦勝記念日って必要だと思う?というか、日本ではツシマ海戦(=日本海海戦)やらペールル・ハールボル(=真珠湾)攻撃の記念日ってどう祝ってんのかね?」
原題:вам нужен день победы над японией ? интересно как у них день Цусимы отмечается или Перл Харбора ?
http://otvet.mail.ru/question/38093527/


<ナロードの答え>
回答ナロード1号
それって...赤の広場で大騒ぎする口実が、また一つ増えるだけだろ。


回答ナロード2号
これは、まさに歴史的事件の評価の問題だな。ロシアやソ連の側から見たうちらの歴史は、専ら勝利の歴史だ(解釈という意味では、グルジアに対する勝利にどんな意味がある?って話になるけど)。うちらの歴史に事実上、敗北は存在しない。でも、この地球に存在するのがうちらだけではない以上、各々の民族に独自の歴史が存在する。でもって、いずれの民族も自分らの歴史を“客観的”だとみなしている!訳だ。思うに、歴史的事件が客観的なものとなるのは、当事者双方の解釈が考慮に入れられたときだろうな。実際、うちらはツシマ海戦(日本海海戦)についても、取上げるのは“ヴァリャーク”や“カレーイェツ”乗組員たちの英雄的なエピソードばかり。敗北の原因?そんなものは無い。うちらには勝利あるのみなんだよ。

※これは間違い。“ヴァリャーク”は仁川沖海戦で圧倒的に優勢な日本海軍に対し、最後まで孤軍奮闘したロシアの軍艦。日本海海戦とは関係ない。


<ナロード・ベストアンサー>

思うに、こういうのは日本との関係を悪化させる第一歩となるんじゃないかな。というより、例の論争の渦中にある四島を巡る交渉に際しての、(日本側の主張に対する)うちらの政府なりのリアクションでは?だとしたら、“対日戦勝”の文言も付け加えないとな。でも、うちらにはそんな祝日は必要じゃない。騒ぐ口実になるだけだから(最初の書き込みにあったように).....その内、みんな分かるだろうw。
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“真珠湾攻撃の日をどう祝うか?”とか聞かれても、自分を含めた今の日本人は当惑する他ないわけですが、そういうのは多分、戦後のGHQによる日本の非武装化と厭戦意識の植え付けが、ある程度成功した結果なのでしょう。戦前には日本海海戦(5/28)=“海軍記念日”、奉天大会戦(3/10)=“陸軍記念日”と、日露戦争絡みの主要な戦勝記念日はいずれも祝日扱いになっていました。もしも対米英戦に勝ってれば、“真珠湾攻撃の日”やら“シンガポール陥落の日”も普通に祝日になっていたに違いないw。

まあ、個人的には(今回の“対日戦勝記念日”を巡るゴタゴタの例でもよく分かるように)他国とのトラブルの種になりがちな、戦争がらみの祝日は必要ないと思ってますけどね....。

ところで、この件について報じた毎日のより詳しい記事によれば、この“対日戦勝記念日”制定のため、政府やら右派を一生懸命焚きつけてきたのは、クリル(千島)列島をその管轄下に抱えるサハリン(樺太)州らしい。

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 ロシア:対日勝利祝う「第二次大戦終結の日」 記念行事、5000人献花--サハリン

http://mainichi.jp/select/world/news/20100903ddm007030128000c.html

(前略)

◇北方領土問題、背景に ロシアで「第二次世界大戦終結の日」が制定された背景には、北方四島を管轄するサハリン州の10年以上に及ぶ強い働きかけがあった。 

政権は決定を避けてきたが、求心力強化のため終戦65年を国家政策の柱に据えた今年、ついに認めざるを得なくなったとされる。記念日の名称に「対日戦勝」を避ける妥協案で日本に配慮したともみられるが、サハリン州がさらに要求をエスカレートさせる可能性もある。 

同州で対日関係の窓口を務めるポノマリョフ儀典局副局長(元州議会議員)は毎日新聞に「国連憲章は加盟国が(大戦時の)連合国の決定を受け入れる と明記しているが、日本は大戦の結果の受け入れを拒否している。今回の決定は第一歩に過ぎない」として、さらに記念日の「格上げ」を求めていく可能性を示 唆した。 

(略)

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>記念日の名称に「対日戦勝」を避ける妥協案で日本に配慮したともみられる>が、サハリン州がさらに要求をエスカレートさせる可能性もある。

一体何を考えているのでしょうか?

放っといたら、日本の要求が“南樺太と千島列島全ての返還”にまでエスカレートするとでも思っているのか?だとしたら、そんなのは杞憂というものでしょう。将来的に日本の国力が衰退こそすれ、これ以上伸長することなど恐らく無いわけで。

彼らが真に警戒すべきは、むしろ西方の“友好国”じゃないですかね。中国の民族主義者たちが“中国固有の領土”であると主張する清朝の領域には、現在の沿海州やアムール地方のみならず、サハリン(樺太)島もきっちり“庫頁島”の名で組み込まれているのですが、そういう事を彼らは知ってるのか?

今後、南樺太が日本領になるケースと、樺太全島が沿海州ともども中国に呑み込まれるケースを比べた場合、どう考えても後者の可能性の方が高いように思えるんですけどね。

幸いにして、今の中国だと、ロシア人には中国56族の一つ“オロス族”として、既に公的な民族枠が設けられています。だから、サハリン(樺太)が中国領となった暁には、現地のロシア人は問題なくこの“オロス族”に編入されることになるでしょう。

政治的には“サハリン州”に代わる自治単位として“庫頁(薩哈林)オロス族自治州”が設けられ、一定の枠内での自治とロシア語の使用も認められるはず。ただ、経済的な面では、本土から流入してくる膨大な数の漢人移民に対して、商才においても勤勉さにおいてもまず太刀打ちできないだろうし、上級言語である漢語を解さないという言語的なハンディも相まって、(新疆の多くのウイグル人のように)二級市民化する危険が非常に大きい。

まあ、政府の少数民族保護政策の一環として、バザールでピロシキくらいは売らせてもらえるかもしれないけどw。

いざ、そうなるか、あるいはそうなりかかった時に、“もっと身近に同盟者が必要だった”とか、“日本ともっと仲良くしておけばよかった”とか、後悔しても遅いと思うのですが。

→(10)に続く


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1 コメント

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Unknown ()
2010-09-21 02:48:00
ちょっといい顔みせればホイホイ乗ってくると思われてるんじゃないかなーと勝手に想像。
その辺の日本観は実際どうなんでしょう?
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