歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

“草薙事件”がトルコ人から誤解されている件

2009-04-28 08:56:12 | トルコ関係
前回の続きでアゼルバイジャンの掲示板を物色していたら、トルコのニュースサイト“Haber⑦com”で興味深い記事を見つけました。というわけで、今回はそちらを訳してみようと思います。トルコは旧ソ連圏ではないですが、まあ隣ということで、諒とされたし。

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「公園で全裸になったポップ・スター!」
原文:Parkta çırıl çıplak bir pop yıldızı!
http://www.haber7.com/haber/20090423/Parkta-ciril-ciplak-bir-pop-yildizi.php
日本の首都・東京で泥酔し、全裸で公園を徘徊していたポップ・スター、ツヨシ=クサナギが警察により逮捕。連行されるのに抵抗した34歳のポップ・スターは“裸になって何が悪い?”(直訳だと、“裸になることのどこが間違っているのだ?”)と問うた。

東京の警察は、公園で裸の人物が騒いでいるとの近隣住民の苦情を受け、日本国内で非常に人気のあるユニット“SMAP”のメンバー、ツヨシ=クサナギを現行犯で逮捕した。 日本放送協会(NHK)によれば、この34歳のポップスターは地面に座り込んで連行を拒否。警察官を見ながら“裸になって何が悪い?”と尋ねたという。 テレビのニュースでは、この有名なポップ・スターの逮捕された公園や、取調べを受けている留置場の前にファンたちが集まるのが目撃されている。

ツヨシ=クサナギは、彼を含めた5人からなるユニット“SMAP”が1991年にデビューして以来、国内で高い人気を得て、TVドラマや映画に出演。朝鮮語に堪能なクサナギは、韓国でも人気がある。 トヨタは、この事件のために、この有名なスターの顔を使っていたレンタカーのCMの放映を取りやめた。なお日本では、公然猥褻罪(原文では“公風良俗に反する行動”)は6ヶ月以下の懲役あるいは三千ドル以下の罰金。

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“例の事件”はトルコでも報道されてたんですねw。ただ、よく読むと、内容が日本でのそれとは微妙に違っています。ちなみに、日本の新聞記事はこんな↓感じでした。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2009042302000231.html

東京都港区の公園で全裸になったとして、警視庁赤坂署は二十三日、公然わいせつの疑いで、人気グループ「SMAP」メンバーの草なぎ剛容疑者(34)=東京都港区赤坂九=を現行犯逮捕した。草なぎ容疑者が出演するCMの放送が中止されるなど、影響が広がっている。

逮捕容疑は、二十三日午前三時ごろ、自宅近くの区立檜町公園で全裸になったとされる。「知人二人と赤坂の居酒屋でビールや焼酎を飲んだ。何で裸になったかは覚えていない。反省している」と話し、容疑を認めているという。 

同署によると、公園の近くに住む男性が同日午前二時五十五分ごろ、「酔っぱらいが騒いでいる」と一一〇番。署員三人が駆け付けると、草なぎ容疑者は泥酔状態で全裸になって芝生の上にあぐらをかいており、「裸だったら何が悪い」などと叫んだり、手足をばたつかせるなど暴れたりしたため、保護用のシートで拘束し、パトカーに乗せたという。

(以下略)



まず、事件が起きたのが夜中の3時であるということには一切触れられていません。これを読んだトルコ人たちは、酔っ払った草薙氏が、白昼の公園に堂々と全裸で乱入してきたと考えるでしょう。でもって、衆人環視の中で前転を繰り返したり、「アイヤァァ!」、「バァァカ!バァァカ!」などと大声で叫ぶという。まさに掛け値なしの“怪人”ですね。面白すぎる!でも、そうなってたら、芸能生命どころか社会的生命も危うかったんだろうけど。

まあ、記者がそう書くのも仕方が無いのかもしれない。東アジア圏の人々とは違って、普通のトルコ人はSMAPの影響力がどの程度かなんて知らないわけで。たかだか一人の芸能人が“夜中に”しかもほとんど無人の公園で泥酔し、脱いだと言うだけでどうして「大事件」となるのか、また何故に日本社会がこれほど大騒ぎしているのか、彼らは理解できないに違いない。正直、自分もよく分かりません

さらに、この記事では明らかに“裸になって何が悪い?”という発言に重点が置かれているように思えます。日本での報道のように草薙氏自身による“反省“とか”謝罪“みたいな言葉や、酔った上での過失を連想させるような描写は一切無い。当人のキャラについての知識なんて皆無のトルコ人読者たちは、恐らくこのクサナギという男を、既成の秩序に挑戦し続ける、パンクな芸術家肌の人物だと想像するのではないでしょうか。

そして、そういう人物が、酔っているとは言え、確固たる意志をもって公共の場で全裸となって座り込み、やってきた官憲に対して「人間が裸で何が悪い?」と根源的な問いを突きつけるのです。どうですか?格好良すぎる。何だか“戦闘的なダダカン”みたいだ……。

現に、この記事のコメント欄では彼をそのような“芸術家”と捉えて同情し、これを逮捕した日本の治安当局の態度は芸術や表現の自由に理解が無く「反動的だ」と非難する意見が結構多かったですね。

以下はそのコメント欄の訳です。
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<ハルクのコメント>
※ハルク=Halk、トルコ語で”人民”の意。

論評ハルク1号
彼は正しい人間だ。注目を浴びるために半裸でうろつきまわる人間もいれば、脱ぐ人間もいる。そのために全部脱いでしまったからといって、どうだと言うんだ。


論評ハルク2号

俺には何だか反動の匂いが漂ってくるぞ、みんな...。ほら、当局によって公的に人間の自由が脅かされているじゃないか日本の将来は、この時点から悲観的な方向に堕しつつある..もはや日本は退行し始めるんだ....。


論評ハルク3号
日本よ….. 反動的になるな。



論評ハルク4号
文明とは肉体を解放することだと言うのであれば、この日本人は我々よりも文明的ってことだ。メフメット=アキフ=エルソイを偲ぼう.....

※ 近代トルコ文学を代表する詩人の一人。現トルコ国歌の作詞者でもある。20世紀の初め、雑誌等で伝え聞いた日本の近代化の成功と帝政ロシアに対する戦勝に感銘を受け、日本を題材とした作品をいくつか作っている。


論評ハルク5号
芸術は芸術のためのものなんだ。彼は芸術のために脱いだんだろう


論評ハルク6号
人間が全裸で徘徊してどうなるんだ!とかいうのは、あたかも正しいことを言ってどうなるんだ!と言うようなもんだぞ。


論評ハルク7号
>2号wwww
あんたは日本は退行し始めるといっているが、実は日本は(現時点でも)後進的なんだよ。なぜなら、彼らはアタテュルク主義者じゃないから…。

※ アタテュルク主義者とは、トルコ共和国・建国の指導者ケマル=アタテュルクの教えを守って、政教分離と社会の世俗化・近代化を志向する人々を指す。別名「ケマリスト」。この人の言うことはまるで意味が分からないかもしれないけど、どうしてこの言葉が出てくるかについては後述。ちなみに、そのアタテュルクは生前、非西欧圏で唯一自力で近代化を成し遂げた国として、日本をその手本とすべしと語っていたと言われるのだが、こいつは多分知らないのだろう。


論評ハルク8号
あのさ、この脱いだ人に腹を立てるんじゃないよ。これよりどうやって世俗的になれると言うんだ?この世界では、衣服をたくさん着ていれば着ているほど反動的で反世俗的、裸であれば極めて世俗的な国民ってことになるんだよ。w


衣服を沢山着て肌を隠す=イスラームの戒律に忠実=政教一致のイスラーム主義者

なるだけ肌を晒す=イスラームの戒律に忠実でない=政教分離の世俗主義者

だと言いたいらしい。これについての詳細は後述。



論評ハルク9号
もちろん、(クサナギは)正しいことを言っている。元来、人間は服を着て生まれてきただろうか?服なんてもので苦労することはない。実際に、君は我が国でもそうした行動をとることになるだろう。閉じこもっていては普遍的な世界は得られない。それを手にするために、服をあまり着るまいといって、彼方へ飛び出していくんだ。

※第二のエガシラになれということか?wあと、この文章の後半はあまり意味が分かりません。要するに全裸になるのは良いことwだってことらしいんだけど。


論評ハルク10号
写真は無いのか?…動画か画像をみないことには、この記事に書いてあることは信用できないな。wwwもちろん冗談だけど。アッラーよ、こいつらに良き知恵を与えたまえ。ww

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そんな話じゃないんだけど….w。ところで、同じく草薙氏の行動を芸術的なパフォーマンスと完全に誤解したw上で、日本の警察の対応を支持する人たちもいるらしい。ネット上ではどうか知りませんが、トルコ国民全体でいえば、多分こちらの方が圧倒的に多いでしょう。

というのも、トルコというのは、実は日本に比べて肌の露出には意外とやかましい所なのですよ。その背景にはイスラームに根ざした伝統があります。ご存知の通り、この宗教はユダヤ教と同じで、現実の生活に関わる細かい律法のようなものが沢山あるわけです。

女性が家族以外の異性になるだけ肌を露出すべきでない、というのもその一つですが、男性でも公の場で余計な肌の露出が好まれないのは同じで、例えば田舎の方で膝下の出たズボンでウロウロしてたりすると、露骨に嫌がられたりします。

それを思えば、公の場で全裸になるなんてことは、公衆道徳がどうこうとか言った以前に、信心深い人々にとってみれば、とてつもなくバチ当たりなことなのですよ。大分前に、トルコの田舎の方でやった何かのイベントで江頭2:50が全裸になり、観客が激怒して暴動寸前の騒ぎになったことがありましたが、あれは江頭がパンツを脱いだ瞬間に、極端な話、社会の秩序を乱す“神の敵w”の如き存在となったためでした。

もちろん、トルコは他のイスラム圏の国々に比べればかなり西欧化が進んだ国であり、都市部での人々の暮らしぶりは欧米やこちらとも大して変わらないように見えるのですが、元々はそういう社会なのです。

今のような状態は、1923年に国父ケマル=アタテュルクの主導でトルコ共和国が成立して以来、国家と欧化した少数のエリートによる上からの政教分離=世俗化、というかよりぶっちゃけて言えば、国家が宗教を厳格に管理し、国民には学校教育を通じて政教分離を叩き込むことで、“非イスラーム化”がじわじわと進められてきた結果に他なりません。

ただ、非イスラーム化といっても、実際にはソ連のイスラーム地域で行われたような宗教勢力の徹底的な殲滅(モスクの閉鎖や破壊、宗教関係者の抹殺や強制収容所送りetc.)に比べればかなり穏健なものでしたから、“主に都市部のエリートからなる少数の世俗派vs 地方の農民や商工業者に支持されるイスラーム派”の対立は今に至るまで続いています。

というか、これまで前者が国家を牛耳って後者を支配してきたといった方がいいかもしれません。その辺りは革命前のイランとよく似ているのですが、トルコがそうならなかったのは、建国以来のアタテュルク主義者の牙城たる軍が、常に世俗派の側に味方してきたという事情によります。

くどくどと書いてきましたが、要するに何を言いたいかと言うと、トルコでは肌の露出とか服装の問題は世俗派とイスラーム派の対立に直結しやすいわけですよ。そして、誤って伝えられた“草薙事件”の情報は、完全に本来の文脈から離れて、あたかも”スカーフ問題”のように両者の対立のネタになってしまっている、と。

大まかにまとめれば、

草薙を擁護する=宗教による肌の露出の規制に反対“世俗派”

草薙を批判する=宗教による肌の露出の規制に賛成“イスラーム派”

ということです。そう考えれば、上のコメントを寄せている人はほとんどが「世俗派」ということになる。「7号」とか「8号」の言ってることも、何となく分かるのではないでしょうか。

これに対して、草薙批判=イスラーム派の言い分は以下↓の通り。

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「ポップ・スター、公園にて裸で拘束される」

原文:Pop yıldızı parkta çıplak yakalandı
http://www.internethaber.com/news_detail.php?id=189133&interstitial=true

(以下、記事の内容は前出のそれとほとんど同じ)


評論ハルク1号
神のお許しあれ…しかし、日本の法律って........というのも、日本みたいな非イスラーム国ですら、このような状態に至った人間たちを公然猥褻(直訳すると、“公風良俗に反する”)」の咎で罰しているというのに、トルコではタクシム(※イスタンブルの繁華街)のような場所で、人々が街中で頻繁に買春したりする有様だ。誰も関心を示さないとはいえ、こういうことをしてる奴らは、他の人々の(宗教的な戒律に基づく)道徳心に悪影響を与えているのではないか?

トルコでこうしたことを法制化したいというのであれば、まず体制の転換を訴えて集会みたいなのをやってる共和主義者(=世俗派)をどうにかしないとな…….。

※現在の与党「公正発展党(AKP)」はイスラーム主義的な政党。世俗派は、その解党を目指している。


編集部より
親愛なる読者のみなさま、ここに寄せられたコメントは、当編集部の規準にはそぐわないものだったため、表示しておりません。

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 どうやら、ここの「評論ハルク1号」とこれに反発する世俗派の人との間にものすごいバトルが展開されたようで、2つ目以降のコメントは全て編集部により削除されてしまったようです。何だか…..。  

しかし、草薙氏本人は大陸の彼方で、まさかこういうことで自分の名前が使われてるとは、思いもよらないでしょうねw。

アゼルバイジャン人から見た日本の写真家たち

2009-04-24 23:27:32 | アゼルバイジャン関係

考えてみれば、このブログを開設してから訳したのってロシア語の掲示板ばかりですね。まがりなりにも〝対象地域=“旧ソ連圏”と銘打っているからには、たまには他の言語のものも扱った方がいいんでしょう。

とういうわけで、試しにアゼルバイジャンのポータルサイト“EylencE(Əyləncəエイレンジェ=“娯楽”の意).az”の掲示板をのぞいてみました。

アゼルバイジャンというのはイランの北西にある人口約800万の小さな国で、主にトルコ語に近いアゼルバイジャン語が話されています。

アゼルバイジャンの位置  出典wiki


住民の大半がシーア派のムスリム。1991年にソ連から独立したのですが、歴史的には約200年前に帝政ロシアに併合されるまで、ずっとイラン文化圏の一部でした。一般に、イランの民族主義者というのは「歴史的なイラン文化圏=本来あるべきイラン国家の領域」とみなしがちなのですが、そうした経緯から、彼らにとってこの地域は(現地の住民の希望とは関係無しに)「未回収のイラン」ということになっているらしい。中華民族主義者にとってのモンゴル国みたいなものでしょう。

それはともかく、例のごとく最初は日本に関わりのあるものを取り上げようと思ったのですが、それっぽいスレはほとんど皆無。ロシアのとは大違いですよ。

まあ、日常的にロシア語で何か読んでいる人間が世界全体で少なくとも1億人以上いるのに対し、アゼルバイジャン語の読み手は多くて800万足らず。とにかく、母集団の規模が違いすぎるロシアとアゼルバイジャンの間のネットの普及度の違いを考えれば、その差はさらに大きくなるでしょう。

※実は国境を挟んだ南側のイラン領にも千数百万に及ぶアゼルバイジャン語の話し手が住んでいるのですが、イラン政府は彼らに対し母語による教育を認めておらず、公の場で使われるのは専らペルシア語です。彼らの間では、アラビア文字を使って書かれたアゼルバイジャン語の書物が流通していたりもするのですが、一般人はラテン文字で書かれたアゼルバイジャン語が読めません。

アゼルバイジャン語が話されている地域   出典wiki


そもそも、アゼルバイジャン人でも教育程度の高い人々は普通にロシア語が読める、というか、首都に住む上層階級の連中はアゼルバイジャン語よりも、むしろロシア語の方が得意だったりしますから、アゼルバイジャン語のサイトで自分の興味の対象が見つからない場合は、とっととロシアのサイトに飛ぶでしょう。というか、アゼルバイジャン語のサイトなんて最初からスルーしているかもしれない

こうした状況は、実はバルト三国を除く旧ソ連圏の各国に共通しています。帝政ロシアの時代からこのかた、主にロシア語を通じて近代文明を取り入れてきたインテリ層にとってみれば、「俺たちの国は独立したんだ!さあ、これからは民族語だけで読み書きしろ!」なんて言われても厳しいわけですよ。

何しろ、紙メディアにしてもネットにしても、各民族語よりもロシア語の方が圧倒的に選択肢は多いですから。それに、人間は難しいことを考える際は、やはり学校教育を受けた言語で考えがちなものだと思うのですが、彼らの多くは幼稚園の段階からロシア語で教育を受けている。

もちろん、これにも地域によって差があって、例えばソ連時代から民族語が大きな力を持ち、独立後は公の場からひたすらロシア語の排除が進んでいるグルジアみたいな国もあれば、ロシア語抜きだと高等教育もままならない中央アジアのカザフスタンやクルグズスタン(キルギス)みたいな国もあります。アゼルバイジャンはその中間くらいでしょうか。件のポータルサイトも、アゼルバイジャン語とロシア語の2言語対応になっています。

ちょっと話がそれました。そんな具合で、掲示板の方には日本関係のスレはなかったのですが、このサイトの管理者のブログにはけっこうそれ関係の記事がありました。これもその一つです。

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「日本の写真家たちw」
原題:Yapon fotoqraflar :)))
http://www.eylence.az/blogs/index.php/eylence/2007/11/27/p8413#more8413
















<ハルグのコメント>

※ハルグ(xəlq)=アゼルバイジャン語で“人民”の意。


論評ハルグ1号
最後の写真はいいなww。


論評ハルグ2号
これらの写真は、本当に現実を映していると思う。ww日本の人々は誰もがとても文化的で、鷹揚で、“繊細な“性格の持ち主なんだ。彼らがこのような姿勢で写真を撮っているのも、まさにそれが原因だろう。俺自身の経験に基づく、主観的な感想だけどww。


論評ハルグ3号
俺には…これはちょっとできないかも。日本人から学ぶべきことは本当に”たくさん“あるな。本当にたくさん….。全ての領域、そして全てのことにおいて….。


論評ハルグ4号
実に刺激的な写真家たちだ!スレ主はハンドル名変えたんだね。おめでとう。で、一番目のコメントに同意。俺も、彼らがこの姿勢で写真を撮っているのは、その誠実さと鷹揚さの現われだと思う


管理人(女性らしい)
ありがとう。でも、内輪では前から使ってた名前なんだけど。


論評ハルグ5号
素晴らしい姿勢で立ってるな!www


論評ハルグ6号
えーと、私が思うに、これは彼らが堂々と仕事をしている証だと思う。つまり、何よりもまず責任感をもって仕事に取り組んでるってこと。他人からこんな変な姿勢でいるところを撮られたくないのなら、ロボットみたいにぼーっと突っ立って撮ればいいわけでしょ?でも、そうすることでより注意深く、より良い写真が取れるのなら、こっちの方が良いはず。

写真ありがとね>管理人

※日本人に対する褒め言葉としては、ロシアの方でもよく使われます。


論評ハルグ7号
こいつら皆マイケル・ジャクソンからダンスの手ほどきを受け....,,,それを撮影技術に応用したんだろwwww最後の写真の女なんて、もはやジェニファー・ロペスの域に達しているな。wwww


論評ハルグ8号
彼らは写真を撮ってるんじゃない、苦行に耐えてるんだ!wwwこの写真家たちを撮った奴自身は、一体どんな格好で撮ってたんだろう???wwwww 管理人よ、素晴らしい写真をありがとう。

※原文は“onlar shekil yox ezab cekirler:))”と、同じ動詞を用いる慣用句“Şəkil çəkmək=煙草を吸う“+”Əzab çəkmək=苦しみに耐える“が掛詞になっています。それを反映させたような、うまい訳が思い浮かばなかった...。


論評ハルグ9号
管理人さんは、7番目の写真は俺たちのことを考えて貼ったのか?ww


論評ハルグ10号
写真家って良い仕事だよな。俺も写真を撮るのが好きなんだけど、残念ながら300万画素のカメラが付いた携帯が買えないんだ。いつかは1200万画素のデジカメを買いたいもんだけど…。

写真家なのか?w

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ここに書き込んでいる人々の年齢は、多分大学生くらいではないかと思うのですが、ネタとして笑うにせよフォローするにせよ、東アジア人の行動に無理やり“精神性”を読み込んで解釈しようとするのは、やっぱりロシアのインテリと同じ感じがしますw。

もしこれが隣のイラン人とかトルコ人であれば、単に“変わった容貌”で、“変わったファッションセンス”を持つ人たちが、“変な格好”をしているから笑うという、ある意味正常なw反応を示すのではないかと。

それは別にいいのですが、問題なのはああいうカンフーの基本姿勢みたいな構えで写真を撮ったり、不思議な角刈り頭だったりする人たちは果たして日本人なのかってことでw。

そういえば、以前、中央アジアのタジキスタンの山中にある村の学校を訪問した際に、教室の壁には「世界の人々」と題して、雑誌か何かから切り取ってきたような世界各地の民族の写真が貼られていたのですが、その中の“日本人”貼りついたような笑顔をした60年代っぽいファッションの男女が海岸を走っていて、よく見たら胸には金日成バッジみたいなのがついてた覚えがw......。

ここいらの普通の人は、東アジアの主要三民族の違いなんてロシア人以上に理解していません。「日本人ならブルース・リーの本当の死因を知ってるはずだ!一体死因は何なんだ?」みたいなことを言われても驚いたり、日本と中国の文化的な違いを説明するなんて無駄な努力はせず、「実は、あれはフリーメイソンの陰謀で云々...」と冷静に正確な情報だけを伝えるよう、心がけるべきなのでしょう。

 


“新”極東共和国は誕生し得るか?(3)

2009-04-18 07:21:14 | ロシア関係

(2)からの続き

ともかくも、ロシアが押さえている今でこそ中国もおとなしくしていますが、もし彼の地域がロシアの手から離れたとなれば、それこそ上のスレでロシア人たちが議論しているように、中国が「祖国統一」を旗印に併呑に取りかかる可能性は十二分に有り得るでしょう。

そして、一旦中国の領土となれば、別に当局が奨励しなくても、土地を求める漢人移民たちが勝手にじゃんじゃか押し寄せてくるに違いありません。極東のロシア人は数的に中国全体のみでなく、極東の中だけでも一挙に“少数民族”となるのは間違いない。

それのみならず、言語的なハンデを抱え、かつ漢人に比べてまったく勤勉でない普通の元極東ロシア人たちは、社会のあらゆる局面で周縁に追いやられることになるでしょう。平たく言えば、ウイグル人やチベット人と同じ運命を辿ことになる。確かに地域の経済+農業開発は劇的に発展するでしょうけど、それが彼ら自身の生活圏の大規模な破壊に見合うものか、また、どれほどの極東人がその恩恵にあずかれるかは極めて怪しいものがあります。

こうした事態を避けるための選択肢としては、


1. 北朝鮮のように独自に核武装。


2. 日本や韓国みたいに、軍事的に米国の庇護下に入る。

3. 中央アジア諸国のように、軍事的にロシアの庇護下に入る。


のいずれかしかないのだろうけど、


選択肢(1)はロシアも国際社会も許さないだろうから、多分×


選択肢(2)は昨年のグルジア戦争にすら介入しなかった米国が、より危ない橋を渡るとは思えないので×

選択肢(3)だと何のための独立か分からないので×


うーん。完全独立を目指した場合、“新極東共和国”の前途は極めて暗いですね。


また、上のスレッドでは“内政面”の問題は話題に登っていませんが、あの辺りの政治風土からしたら、万が一モスクワの支配から脱したとしても、今度は極東版の“ミニ・プーチン”やら“ミニ・オリガルヒ”が現れて、結局一般人の生活は変わらないのではないかという可能性も、また高いように思えます。極東人による政治は、必ずしも極東人自身のためになるとは限らない。

これには身近な実例がありまして、モスクワによる締め付けが緩かったイェリツィン時代、沿海州にはナズドラチェンコという腐敗した(極東に限らず、当時の地方の首長は皆そういう感じでしたけど)州知事がいました。この人は自由に権力が振るえるのを良いことに自らの取り巻きとともに公金を横領しまくり、社会的インフラは劣化。電力や温水(ロシアでは住宅の集中暖房に使われる)の供給が滞るなどの「エネルギー危機」を招き怒ったプーチンにクビにされてしまいました。もしクビにならなければ、彼とその愉快な仲間たちの天下は、さらに長く続いていたはずなのですよ。

それともう一つ、“極東人”を長期に渡って一つに統合するためのアイデンティティの核となるようなものも、ありません。極東のロシア人の話すロシア語は、多少の方言的な差はあるとは言われますが、モスクワで話されている言葉と大して違いはない。宗教も文化も同じ。そんな中で、極東人をモスクワからの自立に向けて奮い立たせるようなものがあるとしたら、今現在だと「中古車」なんでしょう

でも、そうした「中古車ナショナリズム」は、関税が下がって再び中古車が輸入できるようになれば、直ちに雲散霧消するはずで.....。そうなると、地域ごとの主導権争いが顕在化するかもしれない。かつての「極東共和国」も、地域ごとの対立には随分と悩まされたといいますから。

そういったことを考えれば、極東人にとっては、下手に独立しようなんて考えず、あくあでロシア国家の枠内でより高度な自治を獲得するというのが、最良の選択肢ということになりそうです。

ただ、この国の政治的な伝統においては、これまでガチガチの中央集権か、はたまた各地に小ボスが群雄割拠するカオス状態かという両極端なパターンがあるのみで、その中間の適度な地方自治なんて実現した試しがないわけで.....。少なくともプーチンが権力を握っている間は、ロシアはひたすら前者のベクトルに進みそうですから、これも当分は無理そうな感じがします。

つまるところ、極東人はどこまでいっても“プーチンか?胡錦濤か?の魔の二択”というか、“前門の虎、後門の狼”的な状況から逃れられないってことなのでしょう。これは中央アジア諸国やモンゴルなど、中露の間に挟まれた全ての国の人々についても言えることなのですが.....。


“新”極東共和国は誕生し得るか?(2)

2009-04-18 07:08:09 | ロシア関係
(1)の続き

ところで、Google・ロシア版の掲示板でも似たようなスレッドがあったのですが、こちらの議論はより具体的ですね。 差別語を使う人間もいないし。

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<教えて!ナロード>

「極東地方にとって、ロシアからの分離は有益だろうか?」
原文:Будет ли выгодно дальнему востоку отделиться от россии?
日本製ネコ車への関税撤廃かw?あるいは完全に中国に合流すべきなのか?じゃあ、シベリアは?モスクワの支配なんて受けない方が良いのかね?

<ナロードの答え>


回答ナロード1号

その件(中古車への関税)については、良いとか悪いとか言うのは難しい。でも、何か違った形になることは間違いないな。 ロシアから分離するなんていうのは、無意味でくだらないことだ。地方が望めば望むだけ権限を得られた時代は過ぎたんだよ。

※ソ連末期~1990年代前半の混乱期には、チェチェンやタタールスタンなどの民族共和国だけでなく、一般の州や地方でも自治権拡大の動きが盛んでした。当時、議会と対立していた大統領イェリツィンは、地方の首長を味方につけるために大幅に譲歩。自治権の大盤振る舞いを行い、その結果あちこちに小イェリツィンみたいな地域ボスが出現しますが、それらはプーチン時代にことごとく潰され、中央集権化されて現在に至っています。



回答ナロード2号

分離したとしても、極東が独立を維持するのは無理(極めて魅力的な天然資源のおまけもついているし)。どのような場合であれ、どこかの国の保護国みたいな形になるだろうな。経済的にはもっとマシになるかもしれないけど、その場合、もともと住んでいた住民は完全な少数派になり、(中国とかからの)移民から圧迫を受けるだろう。

※極東地方全体の人口は、北の方のカムチャッカ半島とかその辺を含めても660万程度です。確かに漢人が自由に移民できるようになれば、ロシア人が「少数民族」となるのは間違いない。

今はまず無理だろうけど、15年くらい前だったら非常にあり得たんじゃないかな。



回答ナロード3号

考えてもみろよ。極東がロシアから分離、中国の一部になったとする。で、その中国でお前に仕事なんてあるのか?人件費の安い中国の農民や、本当に優秀な中国人技術者のできないようなことをお前ができるのか?ってこと。今の中国で、お前に今の何倍も給料を払う物好きがいるとでも思う?

※的確すぎる指摘です。何だかんだといっても、今の中国には、“頭脳”と“安価な労働力”のそのどちらもあるわけで。

まあ、御参考までに付け加えるとだな、中国には年金なんてものはなく、年寄りはその子供らが養っている。公的な社会保障は一切期待するなよ。w

死して屍拾う者無しだ!www

※こんなことを言っていますが、ロシアの方の社会保障制度も、はっきりいってロクなものではありません。普通の老人たちは年金だけじゃ暮らせない、といつもぼやいているし、治療費の安い公立病院に行くと、麻酔無しで歯を削られたり、骨折した骨を適当な形にくっつけられたりします。あと、どちらの国に属そうが、仕事が無ければ食っていけないことに変わりはありません。まあ、自分はどっちの国民にもなりたくないですけどw。



回答ナロード4号

極東地方がロシアから分離するなんて、誰も認めないだろwでも、今でも大いにその兆候のあるエネルギー危機に圧迫されれば中国人たちはまさに極東を食い尽くすだろう



回答ナロード5号
モスクワの奴らは既にウラル山脈の向こう側まで買い占めてる。バザールでの小売商に対し法的登録を義務化した際に、そこで商売をやってた中国人たちは追いされてしまった

だから、極東が分離したとしても、シベリアはロシアに残るだろう。で、極東の奴らがまた日本の“ネコ車”を売ろうとしても、すぐに輸入は禁止されるだろうな。

※旧ソ連圏の国々において庶民の経済の中心であるバザールは、元々はコルホーズ(集団農場)の余剰生産物などを売買する場だったといいます。それが、1990年代初めの混乱期に生活に困った人々が家財道具やら、担ぎ屋をやって他国(トルコなど)から安くで仕入れてきた消費財やらを売るようになり「闇市」化。次第に大きな「卸売市場」へと変貌していったのでした。

そこでは、商売上手(悪く言えば“躊躇無くウソがつけて、情け容赦なくボッタくれる”能力)で、かつ団結力の高いアゼルバイジャン人などのカフカス系民族の集団が勢力を持つ場合が多かったのですが、極東やシベリアでは、満洲(東北地方)辺りから安価な中国製消費財とともに流れ込んできた中国人の小商人が、同じく力を持つようになりました。 彼ら異質の集団は、普通のロシア人からはいかがわしい“マフィア”とみなされがちですね。

近年、ロシア政府はこれらバザールに対する法的規制を厳しくし、欧米風のショッピング・モールに整備しようとしているのですが、その結果として、不法滞在者を多く含むカフカス人や中国人の小売商は排除される傾向にあります。




回答ナロード6号
一体誰に有益、というか有益たり得るのか?

極東の住民にとって有益なのか?-これは大きな問題だ。

モスクワの連中にとって有益か?-明らかに違う

多分、中国人にとって有益なんじゃないか?‐そうだろう

基本的にロシアは奴らに屈しないとしても、中国人にとって彼の地は必要なのかね?寒いのにね。



回答ナロード7号
分離してしまえ。今こそ極東はソ連に加盟するのだ!

※ ロシア革命後の内戦期、各地の地方政権や民族勢力がソヴィエト・ロシアに帰順したのは事実上、赤軍の武力によるものでしたが、法的には“対等の権利”を持つ各民族共和国が、“自発的”に結合して、一つの連邦を形成したことになっていました。ちなみに、ソ連時代の極東地方は常にロシアの一部であって、独自の自治単位をもったことはありません。


<ナロード・ベストアンサー>

ウラル以東のものは、何であれモスクワとは条件付きでしか繋がってないように思えるな。ウラジヴォストークからモスクワまでの航空券は、本当に億万長者じゃないと買えないよ。1020ルーブリ(約3万円)もかかる。それより高いってことはないけど。列車も同じくらい。

今後、東シベリアと極東が完全に中国の支配下に入らないようにするためにはカネと発達したインフラと豊富な雇用機会を併せ持つ、新しい本当の地域の中心が必要になると思う。現在、そういうものは存在しないし、政治的な権力と経済がモスクワとピーチェル(サンクト・ペテルブルクの愛称)に集中している状況では、その見込みも無いだろう。

モスクワに住む人間が異国気分を味わうには、そこから150kmも離れれば十分だ。距離が遠ければ遠くなるほど、その感は強くなる。4~6000kmともなれば、これはもはや“別の惑星”だろうな。そんなんだから、モスクワの連中には分からないんだ。中国人たちは、もう大分前から、活発にこれらの地域を吸収しようとしている。もちろん、これからも、だ

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「ベスト・アンサー」を書いたのは極東人でしょうか?しかし、リアルに極東地方の独立について考えた場合、まず第一に問題になるのは、当然ながら安全保障の問題でしょう。何しろ、広大な土地と天然資源に恵まれた人口700万に満たない小国が、ロシア・中国・北朝鮮という面倒な国三連星wと“直に”国境を接することになるのですから。置かれる環境の厳しさは、日本の比ではありません

中でも中国は、基本的に「旧清朝の最大版図=“歴史的に中国固有の領土”」とみなしている節がありますから、1858~1860年まで清朝の領土であった現在の極東地方の中心部、即ち沿海州とアムール州、それにハバロフスク地方の一部などいわゆる歴史的な「外満洲」は、すっぽり「未回収の中国」リストに入ることになります。あちらで市販されている地図帳を見ても、例えばハバロフスクなんかは「哈巴罗夫斯克(伯力)」みたいに、ロシア名と清朝時代の旧名が併記されてますね。

「外満洲」についてはこちら↓を参照。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E6%BA%80%E5%B7%9E

外満洲=日本海沿岸のピンク色の区域。

出典:CIA World Factbook

清朝の最大領域(18世紀後半、乾隆帝の時代)

出典:wikipedia(日本版)

生前の毛沢東も、日本からやってきた訪中団に対し、「日本にとっての“北方領土問題”はたかだかいくつかの島の問題に過ぎないが、中国にとっての“北方領土問題”は外(=北)モンゴルやら沿海州やら、実に広大な領域に及ぶのだ!」みたいなことを語ったという話もあるほどで。

とはいえ、清朝の皇帝は単に中華王朝の君主であったというだけでなく、満洲やモンゴル諸部族に対しては遊牧世界のハンチベット人に対してはチベット仏教世界の庇護者でもありました。帝国の領土はアイシンギョロ(愛新覚羅)氏の“皇帝の”土地であり、そこに住む人々は(“中華民族”でも“国民”でもなく)“皇帝の”臣民であったわけです。ましてや、19世紀半ばまで“封禁の地”として公には漢人の移住が禁じられていた満洲(特に内満洲の北側とか外満洲)を、それ自体が近代的な概念である“中華民族”固有の領土云々というのは、あまりに無理があるでしょう。

あちらの民族主義者の中には、その中に樺太まで入れる人がいるようですが、これに至っては根拠すら分からない。隣だからついでに入れとけばいいやって感じですかね?こういう人たちからしたら、間宮林蔵なんかはただのウソツキなんだろうなあ。

もちろん、だからといって「ロシア固有の領土」でも無いんですけどね。北海道や樺太が本来はアイヌ人やらニヴフ人等のものであるのと同様、あの辺はツングース系の満洲人やエヴェンキ人等の先住民の土地ということになるのでしょう。今の国境線は、周辺の大国によるここ150年間に渡る分割の結果というか、偶然の産物に過ぎません。

もし日露戦争とロシア革命が無ければ、中露の国境線は多分、瀋陽の北辺りに引かれてたんだろうし。モンゴルも南北(内外)に分裂することなく、一緒にロシアの保護領となっていたでしょうね。


→(3)に続く

“新”極東共和国は誕生し得るか?(1)

2009-04-16 20:07:15 | ロシア関係

前回前々回の記事でも触れたように、ここ最近の極東に対するクレムリンの仕打ちは、なかなか厳しいものがあります。プーチンら政府首脳も“ムチ”だけではまずいと考えているのか、前々から計画されているバイカル湖以東の地域(=東シベリアや極東)における政府主導の大経済開発計画といった“アメ”を強調しては、極東人の歓心を買おうと努めているようですね。

でも、今のような世界的な大不況の下では、そうした計画がいつ実行されるかなんて怪しいものですから、結局は絵に描いた“アメ”なわけですよ。こんなんじゃ彼らの怒りは鎮められないでしょう。何せ、イデオロギーとか理念ではなく“生活”の問題ですから。愛国心で腹は膨れないし、ただでさえ、中央との格差に対する不満は大きいのです。今はまだ地道にデモをやったりしてますが、状況が一向に改善されないと、その内腹に据えかねて「もう分離独立だ!モスクワの指図なんか受けずに暮らすんだ!」みたいなことを言い出す極東人も出てくるのではないか。もちろん、それは極端な話ですが、より広範な自治権を求める声が出てきてもおかしくはありません。

そもそも、今の極東でも沿海州やアムール州といった地域は、日本で言えば幕末頃に帝政ロシアが清朝からもぎ取った土地です。ロシア人の入植が本格的に進むのはそれよりさらに後、明治中期以降の話ですから、時期的にちょうど日本人にとっての北海道のようなもなのだと考えていい。それによって、人口の少ない先住民が同化もしくは排除されていった所もよく似ています。いわば、住民のほとんどが外来者で、(先住民のそれを含まなければ)百数十年ほどの歴史しか無い社会ですよ。

もし日本が同じような状況に置かれたとして、四国とか九州は何があろうが中央についていきそうな雰囲気ですが、それが北海道だと分離独立も“多少は”無いでもないような感じがしませんか?あくまでイメージですが。ちなみに、これは某王国のことを念頭に置いているわけではありません。w

そんなことを考えながら「Mail.ru」の掲示板を眺めていたら、こんな↓スレを見つけました。
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<教えて!ナロード>

「クレムリンから独立した新“極東共和国”は神話か?それとも具体的な展望か?」
原文:Новая ДВР(Дальневосточная республика) независмая от Кремля это миф или перспектива?
 http://otvet.mail.ru/question/20425156/

※「極東共和国(Дальневосточная республика、略称:ДВРデー・ヴェー・エル)」というのは、1920年から22年にかけて現在の極東地域に存在した独立国家のことです。

詳しくは
堀江則雄著「極東共和国の夢」、上田秀明著「極東共和国の興亡」といった書籍か、あるいは、これら↓のサイトを参照していただきたいのですが、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%B5%E6%9D%B1%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD
http://www.a-saida.jp/russ/vetvi/dvr_istor.htm

まあ、独立国とはいっても、その内実はロシア革命とその後の内戦を経て成立したばかりのソヴィエト・ロシア、より正確にはモスクワのボリシェヴィキ政権が、シベリア出兵のどさくさに紛れて沿海州などに居座っていた日本軍との衝突を避けるために立ち上げた「緩衝国家」でした。

当時のソヴィエト・ロシアは欧州方面ではポーランドなど外国の干渉軍+白軍と未だ戦争中であり、日本と事を起こして東西から挟撃されるのを非常に恐れていたのです。 その領域には、極東地方の他に、その西方にある現在のザバイカリエ地方やブリャーチヤ共和国の辺りまでも含まれていました。

当初の首都はヴェルフネ・ウヂンスク(現ブリャーチヤ共和国の首都“ウラン=ウデ”。世界一巨大なレーニンの頭部象があることで有名)。後に中国との国境に近いチタ(現ザバイカリエ地方の中心都市)へと遷都されますが、政治の中心は「極東」よりもむしろ東シベリアの方にあったことになります。


↓“極東共和国”の領域図。オレンジ色の区域が共和国の領土で、その中にある左側の赤い点が最初の首都「ヴェルフネ・ウヂンスク(現ウラン=ウデ)」。右側の赤い点が後期の首都「チタ」。緑の部分は1922年までの日本軍の占領区域。

Wikipedia(日本語版)より

日本は日本で、ロシアの革命が自国や満洲に飛び火するのではないかと警戒していましたから、それを刺激しないためにも、「極東共和国」ではソヴィエト・ロシアのようなボリシェヴィキの一党独裁体制ではなく、議会の存在と複数政党制を認める“ブルジョワ民主主義”w的な政体が採用されたのでした。でも、首班のクラスノシチョーコフをはじめ、政治の主導権を握っていたのはボリシェヴィキであり、彼らはソヴィエト・ロシアの中枢にあったレーニンの指示で動いていましたから、この国が“クレムリンから独立”していたなんていうのは、ちょっと買いかぶり過ぎでしょう。

これ↓が当時の極東共和国の国旗です。何だか投げやりなデザインですね。w赤地なのは、当時のソヴィエト・ロシアや後のソ連と同じ。左上の青地に描かれた「Д・В・Р」の文字はそれぞれロシア語での「極」、「東」、「共和国」の頭文字。

Wikipedia(日本語版)より

1922年、日本軍が沿海州から撤退するとともに極東共和国はその役割を終え、ソヴィエト・ロシアに吸収されます。この後の極東は「沿海州」や「アムール州」などとロシアの中の普通の州に分けられ、特別な自治単位が設けられることはありませんでした。

この質問者(極東人だと思われ)にとっては、恐らく実際の“極東共和国”がいかなるものであったかということよりも、短い期間ながらも極東人が自前の国家を持ったことがあるということの方が重要なのでしょう。そうした歴史を踏まえて、極東がロシアから分離して新たなる「極東共和国」を打ち立てられるか否かを問うているものと思われます。


<ナロードの答え>

回答ナロード1号
チャンコロにとっては良い展望になるだろうな。

※漢人に対する蔑称「キタヨーザ(китаёза)」が使われている。ちなみに、日本人に対するそれは「イポーシカ(Япошка)」。


回答ナロード2号
......誇張するなよ

※直訳すれば、「蝿から象を作ることなかれ」


回答ナロード3号
これは現実だよ。ただ残念なのは、現時点ではそれは不可能だということだ。


回答ナロード4号
あり得るな。もう一つ、「シベリア共和国というのもあるぞ。

※内戦時に西シベリアのオムスクに政権を置いた白軍側のコルチャーク政権のことか?


回答ナロード5号
より正確には、“伝説”だな。


回答ナロード6号
期待するな!そんな国は絶対に出現しえない!


回答ナロード7号
楽しくてファンタジーな十代向けのお話だな。


回答ナロード8号
これは、神話でも具体的な展望でもない! “寝言”だ!


回答ナロード9号
何でそんなことを考えるんだ?


回答ナロード10号
今の政権なら......これは具体的な展望となるだろう!!

※極東人か?

回答ナロード11号
まさか、極東ってもう独立してるのか?うちは隣の地域なんだけど、俺が知ってる限り、あそこの財源の大体80%以上は独自にまかなってるはずだぞ。どこにも送られてない。一体何か依存しているところがあるのか?

※事実か否かは不明。

ウラジヴォストークからモスクワまで飛行機でいくらかかるか、知ってるか?列車では?ヴォロネジ(ウクライナの都市。極東よりははるかに近い)じゃないんだぞ。彼らは欧州部分のロシア人と同じように暮らしている。ただ、遠くに住んでいて、(時差が7時間くらいあるので)朝は早く目覚めるんだ。


回答ナロード12号
初めて聞いたよ。それって、中華人民共和国の新しい自治単位の名前かな?

※ ソ連の場合と違って、中国には「民族共和国」はない。なお、ソ連の「民族共和国」は中国の「民族自治区」とは違って、形式的ながらもソ連からの脱退の権利が認められていた。


回答ナロード13号
これは、極東地方にとっては素晴らしい展望だ!もし独自の財政を確立すれば、生活レベルは向上するだろう。基本的な問題を解決するために、どうして何万ルーブリもかけてモスクワまで飛ばないといけないんだ?石油もある。ガスもある。産業も発達させるのです!

独自の軍隊、独自の警察、独自の徴税・金融システムを築き上げねばならない。その金融システムの中においては、独自通貨の発行、独自の銀行制度の創設も行われる。そして、中央銀行は12%なんて滅茶苦茶な公定歩合は設定しない。

憲法においては、大統領の任期は4年にしましょう。(最近改正された現行のロシア憲法のように)6年ではなくてね!あと、独自のTV局とラジオ局も立ち上げましょう!

※原文では相手に呼びかける形をとっており、この人自身は極東の人間ではないらしい。どちらかと言えば現政権への批判に重きが置かれているところを見ると、共産党員かもしれません。なお、かつての「極東共和国」はモスクワの指導下にあったとはいえ、これらの条件を全て備えていました。


<ナロード・ベストアンサー>

もし、全てのナショナリストと海外からの知恵者がうまく協力し、またそういう状況をお上が見過ごせば、それは完全に現実となるだろう。極東だけでなく、マリ=エル共和国についてもそういう話を聞いたことがある。

※マリ=エル共和国についてはこちら↓を参照していただきたいんですが、
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AB%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD
http://www.murase.nuie.nagoya-u.ac.jp/~hishi/yoshkarola/

ロシア連邦の西部、ウラル山脈のそばにある、ロシア連邦に属する人口70万くらいの小さな共和国です。ここの名称民族で人口の4割を占めるマリ(チェレミス)人はフィン・ウゴル系の民族で、文化・言語的にフィン人とは縁戚関係にあることから、フィンランドの方とは何らかの交流はあるんでしょうが....ここの「独立運動」なんて聞いたことがないですね。多分、この人はその近くでより独立志向の強い「
タタールスタン共和国」と混同してるんじゃないかと思います。

なお、連邦内の少数民族の共和国の間で民族主義的な風潮や独立運動が盛り上がっていたのは中央政府の権力が弱体化していたイェリツィン時代の話で、プーチン時代になってからはガンガン中央集権化が進められ、自治権は縮小していきました。今では普通の州や地区と、そんなに変わりはありません。


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この中に極東人のコメントがあるかどうかはよく分からないのですが、一般ロシア人にとっての極東のイメージは大体こんな感じかと思います。歴史的なロシアとは違うけれども、その不可分の一部、みたいな。感覚としては、やはり日本人にとっての北海道に近いのでしょう。だから、「極東の独立」なんて話は我々にとっての「北海道独立」と同じくらい、非現実的に響くのでしょうね。

→(2)に続く。