歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

“ピーター=フランクルになりそびれた男”の母国での評判(1)

2009-12-29 03:31:36 | トルコ関係
更新を再開すると書いてはみたものの、今月に入ってからは何だかんだで忙しく…気づいてみたら、丸々一ヶ月も間が空いていました。何てことだ。まあ、世間一般に“師走はせわしい”ものだということで勘弁してください。

今年のネタは、なるべく今年中に使いたかったんですけどね。あと3日しかないけども。

それはともかく、今更ながらこの↓人の話です。

---------------------------------------------------------------------------

2009年11月14日  朝日新聞

宇宙飛行士候補名乗る東大助教、トルコ政府が根拠否定
http://www.asahi.com/national/update/1114/TKY200911130453.html

「トルコ人初の宇宙飛行士候補」を名乗って講演や執筆活動をしている東京大大学院工学系研究科のアニリール・セルカン助教(36)が、飛行士候補の根拠 として示していた公文書についてトルコ政府は13日、政府発行の文書ではなく内容も事実に合わないとの見解を示した。朝日新聞の問い合わせに文書で回答した。

アニリール助教は東大博士課程を修了、日本の宇宙航空研究開発機構研究員を経て、05年に東大助手(現助教)に就いた。01年に米航空宇宙局(NASA)で宇宙飛行士の訓練を修了したなどと称して各地で講演、科学技術振興機構が運営する日本科学未来館の映像監修もした。

しかし、宇宙飛行士候補である証明として東大に提出したトルコ運輸省の文書について、トルコ大使館は「運輸省が発行したものでない。署名も本物でない」と否定した。

助教をNASAの研究事業に招いたとされた米大学教授やNASAも、同様に提出された手紙や訓練証明書について「自分の署名ではない」「文書の書式が違う」と発行を否定している。

助教をめぐっては、03年度の業績として宇宙機構に申告した論文一覧11本のうち4本の存在が確認できず、宇宙機構が該当部分を報告書から削除した。東京大も経歴や業績の調査を進めている。

アニリール助教は朝日新聞の10月末の取材に対して「トルコ空軍とNASAの合意に基づいて宇宙飛行士の訓練を受けた。軍事的なことなのでこれ以上は話せないと話していた。

--------------------------------------------------------------------


この“偽”宇宙飛行士候補氏の名“セルカン”はトルコではよくある名前なのですが、姓の方の“アニリール”は全然トルコっぽくないですね。というか、何だか欧米的な響きがします。“アリー=マクール”みたいなw。

トルコ語だとこの人の姓は“Anılır”と綴ります。ここで使われている“i”の上点だけ取り除いた形の“ı”の字が表す音は、トルコ語の入門書だとよく“イの口の形でウと発音すべし”と説明されている母音で、元々日本語に無い音なのですが、とりあえずカナ文字では“ウ”に翻字されるのが普通ですね。

だから、“Anılır”をカタカナで書くと“アヌルル”短く“アヌルル”です。“アヌルール”ではなく。そんな風に語尾を伸ばすのは、あたかも“田代”を“タシーロ”と読むに等しいw。

で、“アニリール”というのは、恐らく海外向けに“Anılır”の中で使われている件のトルコの固有文字“ı”を普通の“i”に置き換えて“Anilir”とし、それをさらに英語とか独語風に強弱アクセントをつけて読んだものなのでしょう。

でも、我々日本人が、トルコ人の名前をわざわざ西欧諸語風に読む必要などまったくないわけで、本ブログでは他から引用する場合を除いて全て“アヌルル”で通すことにします

まあ、そういう細かい話はさておき、このセルカンという人物は自らが宇宙飛行士候補であることを証明するために、米国のある宇宙飛行士の顔の部分を超絶的なwコラージュ技術を駆使することによって自分の顔を挿げ替え、その写真を自著やブログなど色んな所で公開していたことも今では判明しています。

これ↓がその写真なのですが.......


この写真を最初に見た時、何とも言えない既視感を覚えたのでした。どこかで同じような写真を見た気がするのです。それも、そう遠くない昔に。

さて、どこだったか?.....暫く記憶の糸を辿っている内に、不意にある画像が脳内に浮かびあがりました。

具体的にはこれ↓ですw。


そうです。 3ヶ月くらい前のエントリーで紹介した、“宇宙人”もしくは“ウクライナの鳩山幸”の異名を持つ現キエフ市長、チェルノヴェーツキーの奇人振りを揶揄するために作られたという、あのコラージュ写真ですよ。

セルカン氏のコラージュ写真の元ネタは、どうやらこれ↓のようですが、

■NASA - Astronaut Selection
http://nasajobs.nasa.gov/astronauts/

チェルノヴェーツキーの宇宙服写真もネタ元は同じ….じゃないな。背中のタンクの形なんて明らかに違う。でも、宇宙服の形はセルカン氏のネタ元と同じく、1992年以前のものであるようです。

それはともかく、この二つの“宇宙飛行士コラージュ”写真を見比べた場合、チェルノヴェーツキーに対して、セルカン氏の顔の向きは明らかに不自然ですw。

さらに、セルカン氏の写真は画像の加工が顔の部分のみに止まっているのに対し、チェルノヴェーツキーの写真を作った職人は顔の挿げ替えだけでなく、腕の部分にちゃんと青+黄色のウクライナ国旗と、ウクライナの国章“
3本の歯”のワッペンをつけるなど、芸が細かい。セルカン氏の写真がインチキだと看破された理由の一つが“トルコの宇宙飛行士候補であるにも拘わらず、宇宙服にトルコ国旗がついていないのはおかしい”云々という点にあったことを思えば、この差は極めて重要かと思われます。

つまり、“トルコの詐欺師”のコラ写真は全体的な完成度において “ウクライナの宇宙人”のそれにも及ばないわけですよ。

まあ、チェルノヴェーツキー本人はこんなの作らないだろうけどw。

そして、こういう
適当に作られた風刺写真以下のクオリティの、ダメダメな偽造写真に騙されていたのが、我らが日本社会という……



→(2)に続く