「屯は元亨利貞。往く攸(ところ)有るに用ふる勿れ。侯(きみ)を建つるに利し。」
序卦伝の始めに、「天地有りて然る後に万物生ず。天地の間に盈つるは、唯だ万物なり。故に之を受くるに屯を以てす。屯は物の始めて生ずるなり。」とあった。屯は難きなり。すべて物の始めて生ずるとき、事の始めて起こるとき、創業の際には、必ず屯難がある。
「水雷屯」の象は上の水は陥る、困難、悩みの種であり、下の雷は行動、創造である。つまり、行動しようとする者が、行く手に困難が待ち受けており、進むに進めない状態を表している。
又、屯という字は、草木の芽生えを表しており、地中にある芽が地上に出ようとするが、中々出られないという形である。行き悩んでいる姿である。ここから、全ての事業、大は大なりに、小は小なりに、事を始めるものには、屯難があるのである。屯難なくして物事の創業はないのである。
又、この屯難は産みの苦しみとも言える。赤ちゃんが産まれる時の母親の苦しみでもある。芸術家が新しい作品を生み出す困難でもあろう。大きな屯難、小さな屯難が何処にでもある。早い話が、私が作っている「さわやか易・講座」も正に屯難の最中にあると言える。
「屯は元亨利貞。」は乾為天と同じであるから説明は省略する。「往く攸(ところ)有るに用ふる勿れ。」は乾為天の初九、「潜龍、用ふる勿れ」にも共通しているが、屯難の時はむやみに焦って進まず、じっと進むべき機会を待つべきである。
「侯(きみ)を建つるに利し。」ただ、じっと何もしないで待つのではなく、諸侯に抜擢する人材を選ぶなり、その計画を立てるべきである。直ぐには行動出来なくとも、着々と準備を整えて置くべきである。
孔子の解説には、「雲雷は屯なり。君子以て経綸(けいりん)す。」とある。屯の時代は世の中が乱れ、安心出来ない時代ではあるが、国を立て直すには好機到来、君子は天下のことを経綸し、天下を治め、屯難の行き悩みを救済する時であると述べている。
「水雷屯」は「坎為水」、「沢水困」、「水山蹇」と並んで4大難卦と言われる。しかし、この卦辞は「屯は元亨利貞。」で始まるので、困難ではあるが、希望を伴う困難である。
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