〈来栖の独白〉
2010年12月7日の二つの報道記事。対照的であり、人間の「傾き」のようなものを感じた。
そして私らしい感想になってしまうが、私の立ち位置がこの世では極めて小さな、点のような所であることも痛感させられた。
イエスは、わたしの国はこの世のものではない、と言われる。優秀ではない、無価値なものに寄り添い、涙を注いだ。それがイエスであった。
国際学力テストの報道に、私は同じ日、同じ国で、「存在の価値がないよ」と言い渡された、まだ22歳の若い青年を思わないではいられない。
イエスは、言う。
*マタイによる福音書18,11~
〔人の子は、滅びる者を救うためにきたのである。〕
あなたがたはどう思うか。ある人に百匹の羊があり、その中の一匹が迷い出たとすれば、九十九匹を山に残しておいて、その迷い出ている羊を捜しに出かけないであろうか。
もしそれを見つけたなら、よく聞きなさい、迷わないでいる九十九匹のためよりも、むしろその一匹のために喜ぶであろう。
そのように、これらの小さい者のひとりが滅びることは、天にいますあなたがたの父のみこころではない。
他の多くの福音書、聖書のみ言葉とともに、私は上の「マタイによる福音書18,11~」に幾度耳を傾けたことだろう。幾度、涙しただろう。これは、私の譲ることのできぬ価値観であった。その価値観に、イエスは、命をかけた。
*イザヤ書55章8~11節
8 わたしの思いは、あなたたちの思いと異なり、わたしの道はあなたたちの道と異なると、主は言われる。
9 天が地よりも高いように、わが道は、あなたがたの道よりも高く、わが思いは、あなたがたの思いよりも高い。
10 天から雨が降り、雪が落ちてまた帰らず、地を潤して物を生えさせ、芽を出させて、種まく者に種を与え、食べる者にかてを与える。
11 このように、わが口から出る言葉も、むなしくわたしに帰らない。わたしの喜ぶところのことをなし、わたしが命じ送った事を果す。
*ヨハネによる福音書18章30~40節
30 彼らはピラトに答えて言った、「もしこの人が悪事をはたらかなかったなら、あなたに引き渡すようなことはしなかったでしょう」。
31 そこでピラトは彼らに言った、「あなたがたは彼を引き取って、自分たちの律法でさばくがよい」。ユダヤ人らは彼に言った、「わたしたちには、人を死刑にする権限がありません」。
32 これは、ご自身がどんな死にかたをしようとしているかを示すために言われたイエスの言葉が、成就するためである。
33 さて、ピラトはまた官邸にはいり、イエスを呼び出して言った、「あなたは、ユダヤ人の王であるか」。
34 イエスは答えられた、「あなたがそう言うのは、自分の考えからか。それともほかの人々が、わたしのことをあなたにそう言ったのか」。
35 ピラトは答えた、「わたしはユダヤ人なのか。あなたの同族や祭司長たちが、あなたをわたしに引き渡したのだ。あなたは、いったい、何をしたのか」。
36 イエスは答えられた、「わたしの国はこの世のものではない。もしわたしの国がこの世のものであれば、わたしに従っている者たちは、わたしをユダヤ人に渡さないように戦ったであろう。しかし事実、わたしの国はこの世のものではない」。
37 そこでピラトはイエスに言った、「それでは、あなたは王なのだな」。イエスは答えられた、「あなたの言うとおり、わたしは王である。わたしは真理についてあかしをするために生れ、また、そのためにこの世にきたのである。だれでも真理につく者は、わたしの声に耳を傾ける」
ところで、「家族3人殺害:死刑判決後の記者会見実現せず 宮崎地裁」の記事の中、気になった箇所がある。福岡地裁で裁判員を務めたことのある男性(48)の言葉である。「裁判員は国民の義務。こんな裁判でしたと記者に説明する判決後の会見も義務の中に含まれると思う」と語っている。
裁判員は国民の義務ではない。断じて義務ではない。この男性には、しっかり解ってほしい。義務ではないものを徴兵制のように義務と思い込ませ、「死刑」に取り込んでゆく。危うい国であり、アバウトな国民性である。
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国際学力テスト:日本、読解力改善 上海が全分野でトップ
経済協力開発機構(OECD)は7日、65カ国・地域で約47万人の15歳男女(日本では高校1年)が参加した国際学力テスト「学習到達度調査」(PISA)の09年実施結果を発表した。読解力、数学的リテラシー(活用力)、科学的リテラシー(同)の3分野の調査で、日本は読解力では前回(06年、57カ国・地域参加)の15位から8位と順位を上げた。数学は10位から9位、科学は6位から5位とわずかに上昇。一方で初参加の上海が3分野すべてで1位となったほか韓国、香港、シンガポールも全分野で上位を占め、アジア勢の台頭が目立つ結果になった。
調査には、上海のほかシンガポール、ドバイなど8カ国・地域が新たに参加。日本では無作為に抽出された約6000人が、3分野のテストと学習環境などのアンケートに回答した。中国、インドは「言語が多様なことなどから全国一斉テストの実施は難しい」とOECDの参加要請を断った。上海、香港などは自主参加だった。上海がトップを独占したことについて、OECDは「中国で最も教育改革が進んでおり、同国全体の平均を表しているわけではない」とコメントした。【篠原成行】
毎日新聞2010年12月7日 19時15分(記事より抜粋)
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家族3人殺害:死刑判決後の記者会見実現せず 宮崎地裁
宮崎市で家族3人を殺害したとして、殺人罪などに問われた無職、奥本章寛(あきひろ)被告(22)に対する裁判員裁判で、宮崎地裁は7日、求刑通り死刑を言い渡した。「小さな子どもまで殺害した。被害者の感情も重視した」。判決後、裁判員を務めた宮崎市内の会社員が個別取材に応じ、苦しい胸の内を明かした。
家族間のトラブルは、裁判員にも個人的な体験を重ね合わせやすいテーマ。「(過去の判例ではなく)個々の事件で決めなくてはいけないと裁判長に促された」という。「評議では手が震えた。決まった後も涙を流した」と振り返った。
「(被告は)感情が表に出ない。涙は流すが、反省が深くないように感じた」とも。死刑を選択した後は、それまで活発な議論を交わしていた裁判員全員が沈黙したという。「悩んでいることを他人に言えず、負担だった」と打ち明けた。更に「人の生死を決める刑だから、国が責任を持つべきではないか。(市民には)すごい負担になると思う」と訴えた。
判決後の記者会見が実現しなかったことについて、裁判員経験者のネットワーク設立で呼びかけ人を務めた牧野茂弁護士(第二東京弁護士会)は「裁判員は被害者のことも被告のことも毎日考えて悩む。評議の内容は守秘義務で言えないから、死刑判決の会見に出席すれば、そのまま『判決を下した人』とみられてしまい抵抗感が強い」と指摘する。一方で「会見は裁判員制度で社会に開かれている唯一の窓口。貴重な機会が損なわれない方策が必要だ」と強調した。
裁判員経験者からは、負担の重さに理解を示す意見の一方「残念」との声も聞かれた。
長崎地裁であった殺人未遂事件の裁判員裁判で補充裁判員を務めた長崎県大村市の自営業の40代男性は、宮崎の裁判について「結論が重い。どれだけ話し合っても、最善を尽くしたと確信を持てなかったのでは」と心の負担を思いやった。
福岡地裁で12月上旬にあった殺人事件の裁判員を務めた福岡県小郡市の自営業男性(48)は「裁判員は国民の義務。こんな裁判でしたと記者に説明する判決後の会見も義務の中に含まれると思う」と語り、会見がなかったことを「残念」と語った。【岸達也、釣田祐喜】
毎日新聞 2010年12月7日 21時31分