「ぼっち」 孤独感におびえ 長野4人殺害立てこもり事件「動機」

2023-06-10 | 身体・生命犯 社会
長野4人殺害「動機」の「ぼっち」 若い世代は達観も
 特報 2023年6月10日 中日新聞朝刊
 四人が殺害された長野県中野市の立てこもり事件。逮捕された農業青木政憲容疑者(31)は、「女性に『ぼっち』とばかにされた」などと動機を供述しているという。「ぼっち」とは独りぼっちの略語で、ここ十年ほどで若い世代に定着した言葉だ。これだけの事件を起こすほど、ぼっちに込められたマイナスのイメージは強いのか。社会は孤立した人とどう接すればよいのか。 (木原育子、岸本拓也)
 長野県の立てこもり事件を巡っては、青木容疑者が長く孤立していたことが同県警の捜査で浮き彫りとなってきた。
 捜査関係者によると、約十年前、関東地方の私立大学生だった青木容疑者は両親に「大学で『ぼっち』とばかにされている」と打ち明け、大学を中退した。地元に戻り、地元の例祭の役員などを転々とし、地域でも孤立しがちだった。
 昨年8月から両親が経営するジェラート店で働き始めたときにある「事件」が起きた。店を手伝っていた学生らが雑談で「東京では、ぼっちだね」と話すのを聞いた青木容疑者が「俺がぼっちとばかにした」と激高したという。「ぼっち」という言葉が、孤立して苦しんだ過去を思い起こさせたとみられる。
 それにしても「ぼっち」がここまでスティグマ(負の烙印)と化したのはなぜなのか。

 # いいねの価値観
 千葉大の明石要一名誉教授(教育社会学)は「自分の領域を大切にして、他人と一定の距離を保つ一方で、独りぼっちと周りから評価されることを嫌う学生が増えた」と指摘したうえで、理由をこう推察する。「SNSで友人数やいいねの可視化され、多い方が評価される価値観も同調圧力的に影響しているのではないか」。一方で「最近は、学生が一人でぽつんと昼食を食べているのをよく目にするようになった。たくましくなったのかな」とも。
 ただ、孤独感が時に重大犯罪につながることもある。2021年に京王線車内の乗客をナイフで襲撃した服部恭太被告は「死刑になりたかった。仕事で失敗し、友人関係もうまくいかなかった」と供述した。08年、東京・秋葉原で7人を殺害、10人を負傷させた加藤智大死刑囚も仕事や友人を失い、孤独を深めたことが動機につながったとみられている。
 和歌山県で今年4月に起きた岸田文雄首相への爆発物襲撃事件で逮捕された木村隆二容疑者や、昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件で逮捕・起訴された山上徹也被告も、社会での孤立を背景にローンオフェンダー(単独の攻撃者)となった可能性が指摘されている。
 法務省の研究機関が無差別殺傷事件を起こした52人を調べた13年の報告書では、大半が「自身の境遇や現状への不満」を動機に挙げた。親密な友人がいたのは3人のみで、交友関係の乏しさも特徴的な傾向の一つと指摘した。
 内閣官房が3月に公表した「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」では、孤独感が「しばしばある・常にある」「時々ある」と
回答した人を年代別に見ると、最も高かったのは20代(計27・0%)だった。
 国も高齢者を含めた孤独対策に乗り出した。5月31日に、社会で孤独を抱える人や孤立する人を支援するための「孤独・孤立対策推進法」が成立。孤独・孤立問題を「社会全体の課題」と明記し、自治体と連携して支援の強化を図る。
 社会は若者の孤独とどう向き合うべきなのか。近年は、キャンプや食事、趣味などを一人で取り組む「ソロ活」を肯定的にとらえる風潮ももあるが、それは望んで独りを選んでいるのであって、望まずに「ぼっち」となるのとは異なる。

 # 多様な生き方を
 精神科医の和田秀樹氏は「友人が多いのが偉い、仲間外れが怖いから同調する、というような変な文化をやめる必要がある」と説く。「人間関係はリアルで付き合わないとダメだと言う人もいるが、大学でオンライン授業を受けられるようになって、楽になった学生もいる。ゲームや仮想空間の方が適応できる人がいることも認めないといけない。多様な考えや生き方を受け入れる社会を目指すことが求められる」

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し


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