暴走が止まらない習近平三期目政権 石平×楊海英×矢板明夫

2023-08-29 | 文化 思索
反共鼎談

暴走が止まらない習近平三期目政権 石平×楊海英×矢板明夫
2023/7/8 11:00

月刊「正論」8月号より)

 昨年十月の中国共産党大会が終わっておよそ七カ月がたちました。その共産党大会の直後には学生たちが白紙を掲げて共産党への不満を表明する「白紙革命」が起き、年が明けて今年二月に今度は老人たちが医療保険制度の改悪に反対していわゆる「白髪革命」を起こしています。一方でこの間、米中関係では中国の「スパイ気球」事件もあって対立が深まって、また先進七カ国(G7)広島サミットでも西側諸国は厳しい姿勢を示しました。この七カ月の経緯をみてみると中国はまさに破滅に向かって内憂外患の最中にあるのではないでしょうか。

 石さんの意見に基本的に賛成で、中国は今、内憂が増えているので外患を強調しているわけです。その外患には国際情勢と、辺境の民族問題との二つがあります。南モンゴル、東トルキスタン(ウイグル)、チベットのいずれの地域でも、もともと深刻な民族問題などありませんでした。漢民族と比べてはるかに弱小な民族の側から、あえて問題を起こそうという気はなかったのです。それを習近平さんがわざわざ「テロリストがいるから」などと言ってモンゴル語教育を廃止しようとしたり、チベット仏教の寺院を破壊したりしているのです。矢板さんの表現を借りるなら、習さんはいろんなところへ行って自分で火をつけて、ノロシを上げてから弾圧しているわけです。「辺境が不安定で、あの野蛮な連中が騒いでいる」と言えば漢民族のナショナリズムが高まって「あいつら何だ、文明人にならない奴らは片付けちゃえ」となる。私からすれば民族問題は、中国政府の側から起こしてきたとしか見えません。

国際問題も同じで、わざわざ中国が挑発しているのです。直近で一つの例を挙げますと、例えば六月七日に習近平さんが内モンゴル自治区を視察に行って、「国境警備を強化しろ」「有害な情報の流入を防げ」と指示を出している。これは暗にモンゴル国と内モンゴル自治区との交流を遮断しようとしているわけです。

しかしモンゴル国から情報が入ってきたところで、中国のような巨大な国が転覆させられるはずもない。でもわざわざ内モンゴルへ行ってそんな指示をしているのは、やはり辺境地域は不安定だと国内的にアピールしたいのと、もう一つは外患で、ウクライナと戦争をしているロシアの弱体化が目に見えているからです。もはやこの戦争でのロシアの勝利はあり得ず、中国は弱ったロシアをいかに自分のジュニアパートナー(=子分)にするかを考え始めていると思います。具体的には元々、中国の領土の一部だったと主張しているロシアの極東地域を取り戻したい。そのためには内憂と外患とが必要で、中国が抱えるさまざまな問題から国民の目をそらすためにモンゴルとロシアを悪用しようとしているのだと、私はみています。

共産党への退陣要求が初登場

矢板 私は長年、中国報道に関わってきて二つの対立、二つの矛盾に着目してきました。一つは共産党内の派閥の対立で、もう一つは党と政府の対立なんですね。要するに政府が国の実務を担っているところに、共産党がいろいろ口を出してくるのです。そしていい結果が出れば手柄はすべて党が持っていき、失敗すれば党が責任をすべて政府に押しつける、という矛盾が中国にはずっと存在していました。

ただ、最近の中国政治からは、この二つの対立が全部消えてしまったのです。共産党内の派閥がなくなった。しかし人間社会には派閥がつきもので、見えなくなった派閥が水面下になってしまい誰が敵で誰が味方なのか、にわかには分からなくなってしまいました。これはかえって危険なことで、共産党内では皆が疑心暗鬼になり、不安定な状態になっています。

そして党と政府の対立もなくなってしまった。そもそも、政府がなくなってしまったのです。形の上では政府はあるのですが、党がすべてを仕切ってしまう。しかし党に能力がないので、国内政治で何をやってもうまくいきません。例えば経済や少子高齢化、環境などあらゆる問題について、全く解決する能力がないのです。

さらに共産党が前面に出てきたことによって、人民と党との対立が非常に先鋭化しています。以前は政府がクッションになっており、人民の不満は政府のせいにできました。政府に悪い役人がいれば党がやっつけてくれる、という形で人民には希望が残されていたのです。しかし今は政府が形骸化して無能な党が前面に出てきたので、人民には絶望感が広がっています。だから白紙革命とか白髪革命といった形で、党に対する不満を人民があらわにする事態になっているのです。

昨年末の白紙革命では「習近平は辞めろ」とか「共産党は退陣せよ」など、このようなスローガンが人民から出てきたというのは中国共産党政権が成立して以来、初めてのことです。こうして、党内における対立が水面下に隠れ、党と人民との対立が表面化してきたというのが最近の中国で特記すべき出来事だといえます。

そして中国では、共産党が前面に出てきたことで外交もおかしくなっています。駐フランス大使や、駐日大使、駐韓大使も攻撃的な、非常識な発言を繰り返しています。このように共産党政権には内政においても外交においても問題を解決する能力は全くないので、私は中国の先行きを悲観的にみています。

(続きは、正論8月号でお読みください)

せき・へい 1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学部卒業。88年来日し、神戸大学大学院博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。2007年、日本国籍を取得した。著書多数。近著に『習近平帝国のおわりのはじまり』(ビジネス社)。

よう・かいえい 1964年、中国・内モンゴル自治区生まれ。北京第二外国語学院大学日本語学科卒業。2000年に日本に帰化し、06年から現職。19年、正論新風賞受賞。『墓標なき草原―内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』(岩波現代文庫)など著書多数。

やいた・あきお 1972年、中国・天津市生まれ。15歳の時、中国残留孤児二世として日本に引き揚げ。慶応大学文学部卒業。2002年に産経新聞社に入り、07年から約10年、産経新聞中国総局特派員を務めた。石平氏との共著に『中国はどこまで世界を壊すか』(徳間書店)。

 
 

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。