千葉景子法務大臣は検察を適切に指導せよ/特捜検察と小沢一郎

2010-01-18 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
【佐藤優の眼光紙背】千葉景子法務大臣は検察を適切に指導せよ
佐藤優の眼光紙背:第66回 2010年01月12日11時00分
 民主党の小沢一郎幹事長と「鬼の特捜」(東京地方検察庁特別捜査部)の戦争が山場を迎えている。1月18日に国会が始まる。そうなると国会議員は、当該国会議員が所属する院の同意なくして逮捕できなくなる。現在、小沢氏の秘書をつとめた石川知裕衆議院議員(民主党、北海道11区)の取り扱いが最大の焦点になっている。特捜としては、石川氏を突破口にして、小沢幹事長につながる事件を念力でも眼力でも摘発したいと考えている。そこで、石川氏に関するさまざまなリークがなされ、国民の怒りをかき立て、捜査がやりやすい環境を一部の検察官僚がつくりだそうとしているのだと筆者は見ている。現在、民主党が過半数をはるかに超える議席を擁する衆議院の状況を考えると、石川氏の逮捕許諾を衆議院が認める可能性はない。従って、18日までに石川氏の身柄が拘束されるか否かが最大の焦点になる。現時点で、石川氏は在宅起訴されるという報道が新聞紙上で踊っているが、筆者は国会が始まるまでならば、何があってもおかしくないと見ている。
 本件は、基本的に「国家を支配するのは誰か」という問題をめぐり官僚と民主党の間で展開されている権力闘争だ。国民とは関係のない「彼らの喧嘩」である(本件に関する筆者の見方については2009年11月24日佐藤優の眼光紙背第63回「特捜検察と小沢一郎」に記したので参照願いたい)。この戦いに検察が勝利すると、国家を支配するのは、自民党政権時代と同じく官僚であるということが確認される。当然、世の中は暗くなる。
 ここで、小沢幹事長が勝利するとどうなるか? 小沢チルドレンをはじめとして、民主党の衆議院議員には、要領だけよく、権力欲が強い偏差値秀才がたくさんいる。こういった連中が「俺たちが国家の支配者だ」と威張り散らす。それに検察が擦り寄る。検察は組織だ。仮に今回、特捜が小沢幹事長に敗れても、この事案に関与した検察官をパージし、新体制の特捜をつくる。その特捜が、小沢民主党の意向を忖度しながら、あらたな権力基盤をつくろうとする。この場合も世の中は暗くなる。
 もっとも小沢氏や、同氏と同じ政治理念をもつ政治家を選挙で落選させることはできる。しかし、検察官を含め官僚は十全な身分保障をされているので、国民の意思でこれらの官僚を排除することはできない。それだから、検察・小沢戦争では、小沢氏が勝利した方が、「より小さな悪」なのだと思う。小沢氏が勝利した場合、国民による民主党に対する監視を強め、民主党と検察が癒着することを防ぐ必要がある。
 そこで重要になるのがマスメディアの機能だ。石川氏に関する疑惑情報が新聞、雑誌にあふれている。逮捕されたわけでもないのに、石川氏は犯罪者扱いされ、政治家としての権威も人間としての信用も失墜している。メディアスクラムが組まれてバッシングを受ける辛さは、それを受けた者にしかわからない。それだから、筆者は石川氏と緊密に連絡をとるようにしている。メディアによるバッシングで、石川氏が死に追い込まれることがないようにというのが、筆者の率直な思いである。
 ところで、昨年12月8日の閣議で、興味深い答弁書が了承された。鈴木宗男衆議院議員(外務委員長)が石川知裕衆議院議員(民主党)に関する捜査情報を検察がリーク(漏洩)しているのでないかと質したのに対し、この答弁書において鳩山由紀夫首相の名で、「検察当局においては、従来から、捜査上の秘密の保持について格別の配慮を払ってきたものであり、捜査情報や捜査方針を外部に漏らすことはないものと承知している」という回答がなされた。
 閣議了解を得た答弁書の内容はきわめて思い。正義の味方である検察が、嘘をつくことはないという前提で考えると、連日、新聞をにぎわしている石川氏や小沢幹事長に関する疑惑はどのような情報源に基づくのだろうか。新聞を見ると情報源は「関係者」となっている。検察がリークしていないならば、もう一方の関係者は石川氏しかいない。そこで筆者は石川氏に電話をして「あなたかあなたの弁護士がリークをしているのか」と尋ねてみた。「そんなこと絶対にありません。それにしても僕が検事に供述した内容がそのまま引用されている記事もあるんです不思議で仕方ありません」というのが石川氏の答えだった。
 マスメディアは、リークを批判することはできない。なぜなら、リークよって、国家機関の内部情報をとることが、記者の職業的良心にかなっているからだ。問題は、リークが当局の思惑に基づいてなされ、「国民の知る権利」に奉仕していないことだ。鈴木宗男氏に関しても、北方領土からみで総合商社から賄賂をとったというリークにもとづく報道がなされ、「北方領土を食い物にする腐敗政治家を叩き潰せ」という世論が起きた。しかし、鈴木氏は、北方領土やロシアとからむ事案は摘発されなかった。国民は不正確な情報で苛立ちを強め、北方領土交渉は停滞した。リークによる過熱報道で国益(国民益と国家益の双方)が失われた。
 リークによる国民益と国家益に毀損に対抗する術はあるのだろうか? もちろんある。検察は、記者が独自取材で検察に都合が悪いニュースを報じると、その記者が所属するメディアを「出入り禁止」にして、情報を与えない。この「出入り禁止」に法的根拠はない。「出入り禁止」に怯えるから、司法記者の報道が検察寄りになってしまう。
 この状況は、千葉景子法務大臣が腹を括ればすぐに改善できる。法務大臣として、検察に対して、「出入り禁止」措置をやめ、特定の報道機関を排除してはならないと適切に指導すればよいだけのことだ。そうすれば、千葉法相に対するマスメディアの評価も飛躍的に向上する。(2010年1月10日脱稿)
プロフィール
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・元外交官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「はじめての宗教論 右巻~見えない世界の逆襲 (生活人新書) (生活人新書 308)」、「日本国家の真髄」など。
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【佐藤優の眼光紙背】特捜検察と小沢一郎
佐藤優の眼光紙背:第63回 2009年11月24日11時00分
 特捜検察と小沢一郎民主党幹事長の間で、面白いゲームが展開されている。テーマは、「誰が日本国家を支配するか」ということだ。
 特捜検察は、資格試験(国家公務員試験、司法試験)などの資格試験に合格した官僚が国家を支配すべきと考えている。明治憲法下の「天皇の官吏」という発想の延長線上の権力観を検察官僚は(恐らく無自覚的に)もっている。
 これに対して、小沢氏は、国民の選挙によって選ばれた政治家が国家を支配すべきと考えている。その意味で、小沢氏は、現行憲法の民主主義をより徹底することを考えている。民主主義は最終的に数の多い者の意思が採択される。そうなると8月30日の衆議院議員選挙(総選挙)で圧勝した民主党に権力の実体があるいうことになる。
 特捜検察は「きれいな社会」をつくることが自らの使命と考えている。特捜検察から見るならば、元公設第一秘書が政治資金規正法違反容疑で逮捕、起訴されている小沢氏に権力が集中することが、職業的良心として許せない。国家の主人は官僚だと考える検察官僚にとって、民主主義的手続きによって選ばれた政治家であっても、官僚が定めたゲームのルールに反する者はすべて権力の簒奪者である。簒奪者から、権力を取り返すことは正義の闘いだ。こういう発想は昔からある。1936年に二・二六事件を起こした陸軍青年将校たちも、財閥、政党政治家たちが簒奪している権力を取り戻そうと、真面目に考え、命がけで行動した。筆者は、特捜検察を21世紀の青年将校と見ている。検察官僚は、主観的には実に真面目に日本の将来を考えている(そこに少しだけ、出世への野心が含まれている)。
 筆者の見立てでは、現在、検察は2つの突破口を考えている。一つは鳩山由紀夫総理の「故人献金」問題だ。もう一つは、小沢氏に関する事件だ。小沢氏に関する事件は、是非とも「サンズイ」(贈収賄などの汚職事件)を考えているのだと思う。
 ここに大きな川がある。疑惑情報を流すことで、世論を刺激し、川の水量が上がってくる。いずれ、両岸のどちらかの堤が決壊する。堤が決壊した側の村は洪水で全滅する。現在、「鳩山堤」と「小沢堤」がある。「故人献金」問題で、「鳩山堤」が決壊するかと思ったが、思ったよりも頑強で壊れない。そこで、今度は「小沢堤」の決壊を狙う。そこで、石川知裕衆議院議員(民主党、北海道11区)絡みの疑惑報道が最近たくさん出ているのだと思う。石川氏は、小沢氏の秘書をつとめていた。8月の総選挙では、自民党の中川昭一元財務省(故人)を破って当選した民主党の星である。この人物を叩き潰すことができれば、民主党に与える打撃も大きい。
 司法記者は、「検察が『石川は階段だ』と言っています」と筆者に伝えてくる。要するに石川氏という階段を通じて、小沢幹事長にからむ事件をつくっていくという思惑なのだろう。これは筆者にとってとても懐かしいメロディだ。もう7年半前のことだが、2002年6月に鈴木宗男衆議院議員が逮捕される過程において、「外務省のラスプーチン」こと筆者が「階段」として位置づけられていたからだ。
 マルクスは、「歴史は繰り返される。一度目は悲劇として。二度目は喜劇として」(『ルイ・ボナパルトの18日』)と述べている。当面は、石川知裕氏を巡る状況が、今後も政局の流れを決めるポイントになると思う。(2009年11月23日脱稿)

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