日本が撃ち落とさなかったミサイルによって人的被害が出たら、米国世論は納得しないだろう/集団的自衛権

2013-04-13 | 国際/中国/アジア

TBS 報道特集【脱北者の新証言▽マダニ感染症SFTSとは?】
 テレビ番組2013.04.13
 (北朝鮮関係のみ抜粋=来栖)
 北朝鮮に関するニュースです。
 北朝鮮のミサイル発射をめぐり緊張が続く中、アメリカと韓国の両政府は共同声明を発表し、北朝鮮が非核化という正しい選択をすれば、包括的な支援措置や対話に臨む姿勢を明らかにした。
 今日未明に発表した声明で米韓両政府は、北朝鮮が正しい選択をすれば2005年9月の6カ国協議の共同声明に伴う公約を履行する準備ができていると表明した。
 2005年の共同声明には、米朝の国交正常化への努力などが盛り込まれていて北朝鮮が非核化に向かえば、包括的な支援措置や対話に臨む姿勢を明らかにしたもの。
 これに対し、朝鮮中央通信は今日付でアメリカの核戦争の挑発によって朝鮮半島の情勢は最悪の局面に置かれたと非難する論評を発表し、アメリカへの対決姿勢を強調している。
 今日は北朝鮮のキム・ジョンウン第一書記が国家の最高ポストである国防委員会第一委員長に就任して1年の節目に当たり、国際社会は警戒を続けている。
 こうした中、アメリカのケリー国務長官は北京に到着し、北朝鮮情勢をめぐって中国の指導部と会談している。
 北京から中継。
 ケリー国務長官は到着後、まず、中国の王毅外務大臣と会談し、その後は習近平国家主席とも会談を行っているようです。
 この間、アメリカ側からは盛んに中国の役割が重要だという発言がなされてきたが、中国側はこうした発言に対して不快に思っているよう。
 中国外務省は、連日関係各国の責任という言葉を使ってアメリカ側を牽制しているほか、中国側の担当者の1人はJNNの取材に対し、そもそもは、これまでのアメリカの政策に問題があるのであって、今になって中国の名前を出してくれるなとも話している。
 一方、中国国内では、最近、一部で北朝鮮切り捨て論が出ているが、中国共産党系の新聞は昨日とおとといの社説でこれらを幼稚で極端な意見と断じている。
 中国では、在日・在韓米軍と最前線で対峙する北朝鮮の軍事的緩衝地帯としての価値はなお高いとされる一方、核兵器を持った北朝鮮が自分たちの国益に反すると考えているのも事実。
 中国としては、北朝鮮が核を持たず、半島情勢については現状維持が望ましいと考えているのだが、これはアメリカにも当てはまると言える。
 問題は、そこに自分たちの利益をどう絡めていくかであって、今回のケリー国務長官の訪中によって両国は、互いの妥協点を探りたい考え。
ミサイル発射をめぐり、国際社会を揺さぶり続ける北朝鮮。
 外向けに繰り返される挑発的な言葉の一方で国内では通常の生活に戻るよう指示が出たとも言われます。
 そんな中、実際に開発に関わった元研究者が北朝鮮のミサイル計画の実態について語りました。
 昨日、アメリカのケリー国務長官は、韓国・ソウルを訪れた。
 連日挑発を続ける北朝鮮に対し、関係国の連携強化を図ろうというのだ。
 今なお緊迫する朝鮮半島情勢。
 現地の様子はどうなっているのかおととい、日下部キャスターは北朝鮮側の村が見える韓国のパジュ市に入った。
 川を挟んであちら側が北朝鮮になりますけれども、今日は非常によく向こう側が見えます。
 伝えられる緊張感とは裏腹に、小学校の校庭で遊ぶ子どもたちの姿や、田んぼで農作業をする村人の姿など、非常にのんびりとした光景が飛び込んできます。
 展望台を訪れていた日本人観光客に話を聞いた。
 どうですか、今いろいろミサイルだとか北朝鮮。
 心配していましたけれども、渡航は自由だということで来たんですよ。
 そうしたら、思ったとおり安全でした。
 さらに、日下部キャスターは非武装地帯に沿って西へ。
 かつての朝鮮戦争の激戦地、チョルウォングンに入った。
 軍事境界線に近づいているわけですけれども、この道の両側にある構造物、これは有事の際に壊して戦車なんか通れないようにするためのものですね、これ。
 軍事境界線にほど近い、この地域地元住民は北朝鮮の挑発をどう思っているのか。
 そして向かったのは、チョルウォングンの今も南北がにらみ合う場所。
 遠くには北朝鮮の軍事施設が見える。
 ここはひとたび何かが起きれば非常に緊迫度が増すことが感じられる場所なんですけれども実際来てみると、こちらが拍子抜けするほど静かな雰囲気です。
 こちらの白い建物、赤い字で住民待避所と書いてあります。
 何か起きた際、地元の人たちはここに逃げ込むわけですね。
 非武装地帯近くに設けられた住民用の避難所をのぞくと、そこには布団や飲料水があるわけでもなく、緊迫感は感じられない。
 また北朝鮮がいろいろ挑発的なことを言ってるけど心配じゃないですか?北朝鮮内部では、今、何が起きているのだろうか。
 ピョンヤンから北京に到着した人に雰囲気を聞いてみた。
 素っ気ない態度。
 ジャーナリストの平井久志氏はこう分析する。
 まだキム・ジョンウン政権というのは成立して1年少ししかたってませんから。
 この裏には、破たん状態で再建のメドさえ立たない経済が大きく影響していると平井氏は見る。
 自分が1年以上たって最高指導者であることで何か自分の権威を誇示したい。
 北朝鮮内部からは、悲鳴も聞こえてきている。
 こう話すのは、アジアプレスの石丸次郎氏。
 北朝鮮人ジャーナリストからの情報をもとにつくる専門誌、「リムジンガン」の編集長。
 今週水曜日、北朝鮮国内の協力者と電話で話したと言う。
 先月、北朝鮮では、車がカモフラージュされるなど、戦争に備えた体制がしかれていたところが、今月に入ってからはトウモロコシの栽培時期に入るため、兵士が農作業の準備を始めたと言う。
 この女性によると現在、北朝鮮国内では、戦争のための訓練などは行われておらず、住民に対する講演会では、通常の生活に戻るように指示が出ていると言う内部であることないこと、デマが結構飛び交ってるんですね例えば、戦争なんかできないのわかっていながら、政府が宣伝してるだけだとか。
 逆に核攻撃を受けるかもしれないと。
 石丸氏は、核やミサイルなどの強硬路線を推し進める軍部と、経済再建を優先させたい党との対立の中でキム・ジョンウン氏は、軍の強硬路線を選んでいたと見る。
 しかし一方で、強硬路線はいずれ終息するとの見方を示す。
 油が足りないから、戦車も飛行機も満足に動かせないと。
 核とミサイルで周辺諸国を威嚇する北朝鮮。
 「報道特集」は、ミサイル研究の現場を知る人物に接触することができた。
 かつて、北朝鮮人民武力省の科学部門で研究者として働いていた脱北者。
 1998年にテポドンが発射された当時から、ミサイル運搬などは秘密裏に行われていたと言う。
 鳩小屋という暗号名の木箱に積まれて運ばれたテポドンこれ以降、北朝鮮は、幾たびもミサイル発射実験を繰り返し、性能を向上させてきた。
 そして、北朝鮮は去年4月、人工衛星を打ち上げるとして、発射施設を公開した。
 これは事実上の長距離弾道ミサイル発射だったが…発射1〜2分後に上空150kmの地点で爆発し、失敗に終わった。
 この元研究者は既に韓国で暮らしていたが、北朝鮮内部からの情報により、失敗が自爆装置によるものだったことを知ったと言う。
 北朝鮮はミサイルの残骸が韓国に回収され自国の技術が明らかになることを恐れて、あらかじめ自爆装置をつけていたが、発射後、不具合から熱が発生したため爆発してしまったと言う。
 これに対し、去年12月のミサイル発射は、キム・ジョンウン体制発足1年というタイミングで行われ失敗できない事情があったため、自爆装置はつけられなかった。
 発射は成功したが、残骸は韓国軍に回収された。
 元研究者は、北朝鮮がアメリカ本土に届く射程1万キロものミサイル技術を既に確保したと見ている。
 その一方で、北朝鮮の新型ミサイル、ムスダンや日本を射程に収める中距離弾道ミサイル、ノドン。
 短距離のスカッドミサイルと同じく移動可能な車から発射するとされている。
 しかし、元研究者は実際にこんなノドンを見たと言う。
 山にある基地から発射されるミサイル。
 脅威は、現実に存在するのだ。
 一方…北朝鮮の度重なる挑発に対し、冷静な態度を貫いているように見えるアメリカ。
 しかし実は先月、北朝鮮に対しこれまでで最大級とも言える威嚇を行っている。
 B−2ステルス爆撃機
 核爆弾を搭載できる上に、レーダーでとらえにくい、この最強の爆撃機をアメリカは韓国との軍事演習に投入した。
 軍事・外交の専門家、マイケル・オハンロン氏は、オバマ政権がここまで明確に目に見える形で北朝鮮を威嚇したのは初めてだと話す。
 B2爆撃機の投入は北朝鮮に強いメッセージを送るためでしょう。
 核兵器で脅してくるなら、我々も同じことをするぞと逆に北朝鮮に核の脅しをかけたのです。
 実はアメリカ軍は朝鮮半島有事に備え北朝鮮をせん滅させる軍事作戦をアメリカと韓国は、朝鮮半島の有事を想定した軍事作戦のシナリオを幾つも描き訓練を繰り返している。
 作戦計画、5027
 北朝鮮が韓国、特に首都ソウルを攻撃してきた場合、米韓は即座に空爆で敵をたたいてから、地上でも侵攻するというもの。
 90年代、北朝鮮が秘密裏にプルトニウムの抽出を行っていたことがきっかけで起きたいわゆる第1次核危機。
 当時、韓国で駐在武官を務めていた元陸上自衛隊の広瀬氏は、米韓の緊張を目の当たりにしたと言う。
 それは毎年やっていました。
 今でもいろいろ想定を変えてやってると思いますが。
 やっていると思いますよ。
 作戦計画5027には、有事の際にアメリカ軍が67万の部隊を投入することや、沖縄のアメリカ軍基地が使われることも明記されている。
 ですから、これは韓国にしか使わない兵力だとか、これは韓国には行かない飛行機だとか船というのはないんですよ。
 ほかにも、北朝鮮の体制が崩壊し大量の難民が発生することなどを想定した作戦計画、5029
 さらにはB−2爆撃機などを使って北朝鮮の核施設を限定的に空爆する作戦計画、5026が存在する。
 今月に入って、アメリカのCNNが行った世論調査によると、北朝鮮はアメリカにとって直接的な脅威であるとした人は過去最高の41%。
 韓国が攻撃された場合、アメリカの軍事行動を支持するという人は実に61%に上っている。
 北朝鮮は今回、アメリカ本土やグアム、ハワイをミサイルの標的として名指ししたミサイルが本当にアメリカを狙うことになれば、日本のイージス艦がそれを撃ち落とせるのかという問題が出てくる。日本が撃ち落とさなかったミサイルによって人的被害が出たら、アメリカの世論は納得しないだろうとオハンロン氏は話す。
 ミサイル発射騒動は、日米同盟のあり方にも、大きな問いを投げかけている。
 最後のマイケル・オハンロンさんですけれども、この人は、比較的穏健なシンクタンクであるブルッキングスの専門家なんですが、その彼でさえ集団的自衛権のことを聞いたらああいう強い、イリキュラスという、非常に強いことを言ったので正直驚いたんですけれども、あれがある意味ではアメリカ側の代表的な見解だということも、また事実なんですね。
 しかし、その一方で日本というのはやっぱり独立国だし、憲法もきちんとしたものを持っていてその憲法が集団的自衛権の行使については、非常に禁じているということがあるわけですから、今回の北朝鮮の挑発とか暴走があるからといってそれをなし崩しにしていいはずはもちろんないわけで、アメリカとの同盟関係を重視するあまりに国の法の礎である、ものを議論なしに有名無実化するような方向が仮に出てくるとすればこれは極めて危険なことだと私は思いますけどね。
 日下部さんは今日まで韓国に行っていたわけですけれども、軍事境界線付近の雰囲気はどうでしたか?
 境界線付近もソウルも、市民の生活はいつもどおりでしたね。
 一番わかりやすいのは、軍事的な緊張が高まるとすぐ中心になる、パンムンジョムツアーね、これがいつもどおり行っているんですね。あと韓国ではパク・クネ大統領が今週、北朝鮮との対話路線を明確にしたんですね。
 これは一種の方針転換とも言えるんですけれども、北朝鮮にとっては今月15日がキム・イルソン主席の誕生日なんですね。
 それ以降に何らかの動きがあるんじゃないかという見方が出てましたね。
 挑発とか暴走に対してどう対応するかですけれども、売り言葉に買い言葉というのは、僕は最悪だと思うんですね。
 そのときに今ヒートアップしているのは情報筋であったり一部のメディアであったり、あるいは日本の一部の政治家であったりというような、非常にそれは反省を持って見なきゃいけないと思うんですが、対話と圧力ということで言うと、アメリカ側は韓国もそうですけれども、対話というオプションを残してますよね。
 ケリー国務長官が明日来日しますけれども、日本側がそのときどういうメッセージを出すかというのをきちんと見守っていきたいと思いますけどね。*強調(太字・着色)は来栖
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日米同盟「強化」へ 日米関係の立て直し 集団的自衛権の行使容認を主張 安倍総裁 2012-12-23 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
 日米同盟「深化」から「強化」へ 安倍総裁が指示
 産経新聞2012.12.23 01:05
 自民党の安倍晋三総裁が新内閣の日米同盟政策のキーワードについて、民主党政権が掲げた「同盟深化」を取りやめ、「同盟強化」を掲げる方針を決めたことが22日、分かった。一定の分野を掘り下げる意味合いの強い「深化」に比べて、「強化」は協力範囲の拡大を含むためで、民主党政権時代に傷ついた日米関係の立て直しを図りたいとする安倍氏の意欲が反映されている。
 政府関係者は「『深化』と比べて『強化』には新しいことにも取り組む含意がある。新政権のキーワードとしてふわさしい」と語る。実際、安倍氏は衆院選後、外務省幹部らに対し、ただちに同盟強化策に取りかかるよう指示した。18日のオバマ米大統領との電話会談でも「日米同盟の強化を行いながら、中国との関係を考えていく必要がある」と強調した。
 日米同盟のキーワードをめぐっては、「民主党が政権を握ってからそれまでの『深化・拡大』から『拡大』が削除された」(政府関係者)。日米安保条約について「外交の要」としながらも、「東アジア共同体」などを訴えた鳩山由紀夫元首相の意向を踏まえたものだ。
 鳩山氏が米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で退陣した後に誕生した菅政権からは「深化・拡大などの表現が復活した」(同関係者)。野田佳彦首相も就任当初は「強化」を使っていたものの、途中からは自ら使用するのはやめた。
 民主党との違いを強調したい安倍氏は「深化」ではなく「強化」に一本化することにしたという。
 同盟強化のため、安倍氏は集団的自衛権の行使容認を主張してきた。衆院選で勝利した16日夜のテレビ番組でも「権利はあるが行使はできない」とする政府の憲法解釈について「変更すべきだ」と述べた。
 安倍氏は前回の首相時代、集団的自衛権の行使容認を検討する有識者懇談会を設置。懇談会は平成20年6月、ミサイル迎撃などを可能にするよう提案する報告書をとりまとめた。(杉本康士)
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『憲法が日本を亡ぼす』古森義久著 海竜社 2012年11月15日 第1刷発行
 はじめに 国家が国民を守れない半国家
p1~
○世界でも異端な日本憲法
 「日本は国際社会のモンスターというわけですか。危険なイヌはいつまでも鎖につないでおけ、というのに等しいですね」
 アメリカ人の中堅学者ベン・セルフ氏のこんな発言に、思わず、うなずかされた。日本は世界でも他に例のない現憲法を保持しつづけねばならないという主張に対して、セルフ氏が反論したのだった。
p2~
 だがその改憲、護憲いずれの立場にも共通していたのは、日本の憲法が自国の防衛や安全保障をがんじがらめに縛りつけている点で、世界でも異端だという認識だった。
p3~
 事実、日本国憲法は「国権の発動としての戦争」はもちろんのこと、「戦力」も「交戦権」も、「集団的自衛権」もみずからに禁じている。憲法第9条を文字どおりに読めば、自国の防衛も、自国民の生命や財産の防衛も、同盟国アメリカとの共同の防衛も、国連平和維持のための防衛活動も、軍事力を使うことはなにもかもできないという解釈になる。日本には自衛のためでも、世界平和のためでも、「軍」はあってはならないのだ。
p70~
第3章 外敵には服従の「8月の平和論」
 1 日本の「平和主義」と世界の現実
○内向きで自虐の「8月の平和論」
 日本とアメリカはいうまでもなく同盟国同士である。だが、そもそも同盟国とはなんなのか。
 同名パートナーとは、まず第1に安全保障面でおたがいに助け合う共同防衛の誓約を交し合った相手である。なにか危険が起きれば、いっしょに守りましょう、という約束が土台となる。
p72~
 日本では毎年、8月になると、「平和」が熱っぽく語られる。その平和論は「戦争の絶対否定」という前提と一体になっている。
 8月の広島と長崎への原爆投下の犠牲者の追悼の日、さらには終戦記念日へと続く期間、平和の絶対視、そして戦争の絶対否定が強調されるわけだ。(略)
 日本の「8月の平和」は、いつも内向きの悔悟にまず彩られる。戦争の惨状への自責や自戒が主体となる。とにかく悪かったのは、わが日本だというのである。「日本人が間違いや罪を犯したからこそ、戦争という災禍をもたらした」という自責が顕著である。
 その自責は、ときには自虐にまで走っていく。(略)そして、いかなる武力の行使をも否定する。
p73~
 8月の平和の祈念は、戦争犠牲者の霊への祈りとも一体となっているのだ。戦争の悲惨と平和の恩恵をとにかく理屈抜きに訴えることは、それなりに意義はあるといえよう。
○「奴隷の平和」でもよいのか
 だが、この内省に徹する平和の考え方を日本の安全保障の観点からみると、重大な欠落が浮かび上がる。国際的にみても異端である。
 日本の「8月の平和論」は平和の内容を論じず、単に平和を戦争や軍事衝突のない状態としかみていないのだ。その点が重大な欠落であり、国際的にも、アメリカとくらべても、異端なのである。
 日本での大多数の平和への希求は、戦争のない状態を保つことへの絶対性を叫ぶだけに終わっている。守るべき平和の内容がまったく語られない点が特徴である。
 「平和というのは単に軍事衝突がないという状態ではありません。あらゆる個人の固有の権利と尊厳に基づく平和こそ正しい平和なのです」
 この言葉はアメリカのオバマ大統領の言明である。2009年12月10日、ノーベル平和賞の受賞の際の演説だった。
p74~
 平和が単に戦争のない状態を指すならば、「奴隷の平和」もある。国民が外国の支配者の隷属の下にある、あるいは自国でも絶対専制の独裁者の弾圧の下にある。でも、平和ではある。
 あるいは「自由なき平和」もあり得る。戦争はないが、国民は自由を与えられていない。国家としての自由もない。「腐敗の平和」ならば、統治の側が徹底して腐敗しているが、平和は保たれている。
 さらに「不平等の平和」「貧困の平和」といえば、一般国民が経済的にひどく搾取されて、貧しさをきわめるが、戦争だけはない、ということだろう。
 日本の「8月の平和論」では、こうした平和の質は一切問われない。とにかく戦争さえなければよい、という大前提なのだ。
 その背後には軍事力さえなくせば、戦争はなく、平和が守られるというような情緒的な志向がちらつく。
 2010年の8月6日の広島での原爆被災の式典で、秋葉忠利市長(当時)が日本の安全保障の枢要な柱の「核のカサ」、つまり核抑止を一方的に放棄することを求めたのも、その範疇だといえる。
 自分たちが軍備を放棄すれば他の諸国も同様に応じ、戦争や侵略は起きない、という非武装の発想の発露だろう。
p75~
○オバマ大統領の求める「平和」との違い
 平和を守るための、絶対に確実な方法というのが1つある。それは、いかなる相手の武力の威嚇や行使にも一切、抵抗せず、相手の命令や要求に従うことである。
 そもそも戦争や軍事力の行使は、それ自体が目的ではない。あくまでも手段である。国家は戦争以外の何らかの目的があってこそ、戦争という手段に走るのだ。
 戦争によって自国の領土を守る。あるいは自国領を拡大する。経済利益を増す。政治的な要求を貫く。
 こうした多様な目標の達成のために、国家は多様な手段を試みる。そして平和的な方法ではどうにも不可能と判断されたときに、最後の手段として戦争、つまり軍事力の行使にいたるのである。それが戦争の構造だといえる。
 だから攻撃を受ける側が相手の要求にすべて素直に応じれば、戦争は絶対に起きない。要求を受け入れる側の国家や国民にとっては服従や被支配となるが、戦争だけは起きない、という意味での「平和」は守られる。
 日本の「8月の平和論」はこの範疇の非武装、無抵抗、服従の平和とみなさざるを得ない。なぜなら、オバマ大統領のように、あるいは他の諸国のように、平和に一定の条件をつけ、その条件が守られないときは、一時、平和を犠牲にして戦うこともある、という姿勢はまったくないからだ。
 オバマ大統領は前記のノーベル賞受賞演説で、戦争についても語った。「正義の戦争」という概念だった。
 「正義の戦争というのは存在します。国家間の紛争があらゆる手段での解決が試みられて成功しない場合、武力で解決するというケースは歴史的にも受け入れられてきました。武力の行使が単に必要というだけでなく、道義的にも正当化されるという実例は多々あります。第2次世界大戦でアメリカをはじめとする連合国側がナチスの第3帝国を(戦争で)打ち破ったのは、その(戦争の)正当性を立証する最も顕著な例でしょう」
 オバマ大統領はこうした趣旨を述べて、アメリカが続けるアフガニスタンでの戦争も、アメリカに対する9・11同時テロの実行犯グループへの対処として、必要な戦争なのだと強調するのだった。
 これが国際的な現実なのである。決してアメリカだけではない。どの国家も自国を守るため、あるいは自国の致命的な利益を守るためには、最悪の場合、武力という手段にも頼る、という基本姿勢を揺るがせにしていない。それが国家の国民に対する責務とさえみなされているのだ。
p77~
 だから「8月の平和論」も、この世界の現実を考えるべきだろう。その現実から頭をもたげてくる疑問の1つは、「では、もし日本が侵略を受けそうな場合、どうするのか」である。
 日本の領土の一部を求めて、特定の外国が武力の威嚇をかけてきた場合、「8月の平和論」に従えば、一切の武力での対応も、その意図の表明もしてはならないことになる。
 だが、現実には威嚇を実際の侵略へとつなげないためには、断固たる抑止が有効である。相手がもし反撃してくれば、こちらも反撃をして、手痛い損害を与える。その構えが相手に侵略を思い留まらせる。戦争を防ぐ。それが抑止の論理であり、現実なのである。
 この理論にも、現実にも、一切背を向けているのが、日本の「8月の平和論」のようにみえるのだ。そしてそのことがアメリカとの同盟関係の運営でも、折に触れて障害となるのである。
p78~
 2 日本のソフト・パワーの欠陥
○ハード・パワーは欠かせない
 「日本が対外政策として唱えるソフト・パワーというのは、オキシモーランです」
 ワシントンで、こんな指摘を聞き、ぎくりとした。
 英語のオキシモーラン(Oxymoron)という言葉は「矛盾語法」という意味である。たとえば、「晴天の雨の日」とか「悲嘆の楽天主義者」というような撞着の表現を指す。つじつまの合わない、相反する言葉づかいだと思えばよい。(略)
p79~
 日本のソフト・パワーとは、国際社会での安全保障や平和のためには、軍事や政治そのものというハードな方法ではなく、経済援助とか対話とか文化というソフトな方法でのぞむという概念である。その極端なところは、おそらく鳩山元首相の「友愛」だろう。とくに日本では「世界の平和を日本のソフト・パワーで守る」という趣旨のスローガンに人気がある。
 ところが、クリングナー氏はパワーというのはそもそもソフトではなく、堅固で強固な実際の力のことだと指摘するのだ。つまり、パワーはハードなのだという。そのパワーにソフトという形容をつけて並列におくことは語法として矛盾、つまりオキシモーランだというのである。
 クリングナー氏が語る。
 「日本の識者たちは、このソフト・パワーなるものによる目に見えない影響力によって、アジアでの尊敬を勝ち得ているとよく主張します。しかし、はたからみれば、安全保障や軍事の責任を逃れる口実として映ります。平和を守り、戦争やテロを防ぐには、安全保障の実効のある措置が不可欠です」
p80~
 確かにこの当時、激しく展開されていたアフガニスタンでのテロ勢力との戦いでも、まず必要とされるのは軍事面での封じ込め作業であり、抑止だった。日本はこのハードな領域には加わらず、経済援助とかタリバンから帰順した元戦士たちの社会復帰支援というソフトな活動だけに留まっていた。(略)
 クリングナー氏の主張は、つまりは、日本は危険なハード作業はせず、カネだけですむ安全でソフトな作業ばかりをしてきた、というわけだ。最小限の貢献に対し最大限の受益を得ているのが、日本だというのである。
 「安全保障の実現にはまずハード・パワーが必要であり、ソフト・パワーはそれを側面から補強はするでしょう。しかし、ハード・パワーを代替することは絶対にできません」
p81~
 となると、日本が他の諸国とともに安全保障の難題に直面し、自国はソフト・パワーとしてしか機能しないと宣言すれば、ハードな作業は他の国々に押しつけることを意味してしまう。クリングナー氏は、そうした日本の特異な態度を批判しているのだった。(略)
p82~
 しかし、日本が国際安全保障ではソフトな活動しかできない、あるいは、しようとしないという特殊体質の歴史をさかのぼっていくと、どうしても憲法にぶつかる。
 憲法9条が戦争を禁じ、戦力の保持を禁じ、日本領土以外での軍事力の行使はすべて禁止しているからだ。現行の解釈は各国と共同での国際平和維持活動の際に必要な集団的自衛権さえも禁じている。前項で述べた「8月の平和論」も、たぶんに憲法の影響が大きいといえよう。
 日本の憲法がアメリカ側によって起草された経緯を考えれば、戦後の日本が対外的にソフトな活動しか取れないのは、そもそもアメリカのせいなのだ、という反論もできるだろう。アメリカは日本の憲法を単に起草しただけではなく、戦後の長い年月、日本にとっての防衛面での自縄自縛の第9条を支持さえしてきた。日本の憲法改正には反対、というアメリカ側の識者も多かった。
 ところがその点でのアメリカ側の意向も、最近はすっかり変わってきたようなのだ。共和党のブッシュ政権時代には、政府高官までが、日米同盟をより効果的に機能させるには日本が集団的自衛権を行使できるようになるべきだ、と語っていた。
p83~
 オバマ政権の中盤から後半にかけての時期、アメリカ側では、日本が憲法を改正したほうが日米同盟のより効果的な機能には有利だとする意見が広がり、ほぼ超党派となってきたようなのだ。
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防衛省 インドの核保有容認 / 安倍晋三首相 集団的自衛権行使の研究を進める考え 2007-01-10 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
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