一枚の年賀状から漂うその人の面影や思い出、笑顔・・・ 2023.01.28.

2023-01-28 | 文化 思索 社会

風 来 語(かぜ きたりて かたる)
 発言 ~ みんなの声 
 中日新聞 2023.01.28. Sat.

 年賀状の周辺

 デジタル化のせいか、年賀状をとりやめますとのお知らせがめっきり増えたことに反発?して、こんな年賀状を出した。
 「世の中の味が薄っぺらになったことは寂しい限りです。人と人とのコミュニケーションは用件を伝えることと、人の思いや気持ちを伝えることの二種類あります。電話や電子メールは用件を伝えるには便利ですが、思いや気持ちを伝えるには手紙に勝るものはりません。一枚の年賀状から漂うその人の面影や思い出、笑顔・・・。その世界に浸ることから私の正月は始まります。今年もよろしく」
 年に一回、年賀状だけのつきあいなんてムダな虚礼だという意見もあるが、仕事の上だけのつきあいよりはよほど上等だと思う。音と映像に溺れる時代、年に一度はひとり静かに親しい人を思い浮かべて筆をとる。人生の奥行きを味わう時である。
 時代遅れの守旧派かという若干の危惧はあったが、十五日の本紙読書欄を読んで「わが意を得たり」の心地となった。十二月のベストセラー十位までに、年賀状関連の本が六冊も占めていたのだ。一位は「世界一かんたん定番年賀状」、二位は「はやわざ年賀状」、あと四位、五位、八位、十位と年賀状本が続く。
 本の中にあるCDーROMを読み取れば好みのイラストや写真が印字できる仕組みで、数万部の単位で売れているという。こうした本で年賀状の温もりを求めている多くの若者たちに拍手を送りたくなる。
 胸いっぱいの思いを、考え抜いた簡潔な言葉で伝える手紙。有名なのは徳川家康の家臣・本多作左衛門重次が、旅先から妻女にに出した短い手紙だ。
 「一筆啓上、火の用心、おせん泣かすな、馬肥やせ」
 二十字たらず、用件のみの文章なのに、その裏側には留守宅の守りを任せる妻への深い信頼感、子どもを健やかに育ててほしい父の情、愛馬を思いやる武士の心が滲み出て秀逸である。
 世界一短い手紙は、ユゴーが「レ・ミゼラブル」を出版したとき、出版元に「?」と送り出版元から「!」の返事が届いた例といわれる。その心は「売れてますか」「驚くほど売れてます」。あうんの呼吸だ。
 新聞ばなれがいわれる昨今、私も新聞販売店に「?」と送り「!」の返事をもらいたい。

 主筆 小出宣昭

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)


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