「発禁作家」とは? 2022.5.25

2022-05-25 | 文化 思索 社会

中日新聞 夕刊 7面 
 2022.5.25 Wed.

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 「発禁作家」とは?

 笙野頼子の最新作品集が刊行された。『笙野頼子発禁小説集』というタイトルに驚かされる。版元は鳥影社。これも笙野とはこれまで縁のなかった出版社だ。読んでみて、ようやく事態の困難さを知った。
 このところ笙野は、法務省も推進に取り組んでいる「性自認(性同一性)」保護の趨勢に対して、断固反対の論陣を張ってきた。争点を端的にいうと、男に生まれたが女であることを「自認」した人物が、女子トイレや銭湯の女風呂に入ることを許すのか、という議論になる。「自認」によって性別が左右されるのであれば、本来の「女」の権利は消されてしまう、というのが笙野の論だ。しかし笙野の主張は短絡的には性的少数者ヘイトと同一視されてしまう。その結果、自分は長年付き合ってきた講談社から掲載も出版も止められ「発禁作家」になったというのである。
 性の多様性を認めるなら、主張の多様性もあってしかるべきだ。長編が没となり生活難から質屋に通った経験を描いた「質屋七回ワクチン二回」など最近の傑作だと思う。西村賢太亡きあと、こんな赤裸々な私小説を書けるのは笙野しかいない。難病と窮乏を抱えた野間賞受賞作家に出口はあるのだろうか。
  (高利貸)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し


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