多死社会ニッポン ・見守りなどの「生前サポート」 ・葬儀や死後事務、部屋の後片づけ、遺骨の移送や埋葬など「死後サポート」

2018-12-17 | Life 死と隣合わせ

2018/12/17
「死んだことを家族に知られたくない…」多死社会ニッポンの現実
「死後サポート」の現場から  
 井上 治代 認定NPO法人エンディングセンター理事長 東洋大学客員研究員・非常勤講師
■明治時代に制定の法律が大活躍
 明治に制定され、旧仮名づかい・カタカナ書きで今もそのまま生き残り、さらに近年、頻繁に使われ出した法律があるのをご存知だろうか。その名を「行旅病人及行旅死亡人取扱法」(明治32年 法律 第93号)という。
 この法律で「行旅病人」とは、旅行中に歩行不能になり療養の目途が立たない病人で「救護者なき者」、「行旅死亡人」は、旅行中に死亡し「引取者なき者」を指す(第1条)。
 では、このような人が増えたためこの法律が頻繁に使われているのかというと、そうではないのだ。
 この第1条の定義には第2項がある。「住所、居所若ハ氏名知レス且引取者ナキ死亡人ハ行旅死亡人ト看做ス」と続く。
 つまりこの法律は、旅行中に行き倒れになり引き取り手のいない病人や死亡人を対象とするが、旅行中でなくても住所、居所もしくは氏名がわからず、引取者がいない死亡人は「行旅死亡人」と同様にみなすというものだ。
 実は、この第2項に付け足された人たちが現在増えているのである。そして、これからますます増加の一途と推計されている。
 日本の家族の形態がいろいろある中で、2010年の国勢調査からトップになった家族類型は、それまでの「夫婦と子どもからなる世帯」を抑えて、なんと「単独(一人)世帯」であった。日本の歴史上モデルなき社会が到来しているといえるだろう。
 さらに国立社会保障・人口問題研究所が2018年1月に公表した世帯数の将来推計によれば、2040年には単身世帯が全世帯の39.3%に達する見込みだ。
 また65歳以上の一人暮らしが896万世帯に達し、一人暮らし世帯全体の半数近くになり、そのうち未婚者も多く含まれると予測している。
■死後サポートの現場から
 2010年ごろから「無縁社会」の問題が叫ばれ、その実態が新聞紙面を踊っている。しかし一方で、それを救うシステムが実践されてもいることは、さほど報道されていない。
 私が理事長を務める認定NPO法人エンディングセンターでは、自分の死後のことを担ってくれる喪主を確保できない人たちのために、2000年からエンディングサポートを実施している
 それには見守りなどの「生前サポート」もあるが、葬儀や死後事務(年金・ガス・水道・電気の停止等)、部屋の後片づけ、遺骨の移送や埋葬などを、生前契約によって委任しておく「死後サポート」(死後事務委任契約)が中心となっている。
ある夏の暑い日、死後サポート契約者の小島文子さん(仮名・82歳)から電話が入った。「身体の調子が良くないので、友人と一緒に病院へ行ってきます」。
 検査結果は、緊急を要する状態でもなかったので、自宅へ戻ったという。その翌朝だった。友人が電話をかけても出ないので、行ってみると既に亡くなっていた。
 すぐに警察による検死と遺体の身元確認のための遺族探しが始まった。遺体は検死の結果、事件性はないとわかったが、身元確認が難航した。
 小島さんは「私が死んでも、きょうだいには知らせたくない。財産も残したくないんです」と語っていた。
 単身で暮らしていると、面倒をかけられたくないという親族から、冷たい態度をとられることも少なくない。その親族に死後のことを託すのは地獄だ。エンデンィグセンターから警察へ本籍を伝えたが、警察は本人確認をしてくれる親族を見つけ出せなかった。
 身元確認は、本人を良く知っている友人でもエンディングセンターでもダメで、親族なのである。身元が判明できなければ、遺体は「行旅病人及行旅死亡人取扱法」に基づいて、遺体があった市区町村の責任の下、火葬し、遺骨を保管することになっている。
 結局、DNA鑑定まではいかず、歯科医院の診察券が見つけ出され「歯型の照合」を行って本人確認ができ、ご遺体は無事エンディングセンターが引き取ることができた。その後、同センターでは契約時に系図のほかに、かかりつけの歯科医院を記入してもらっている。
■遺体の引き取りを拒否する親族も多い
 関西圏のある医療機関のソーシャルワーカーからエンディングセンターに電話がかかった。緊急入院した患者の皆川和子(仮名・81歳)さんが、エンディングセンターの人に来て欲しいといっていると。
 私ともう一人のスタッフが飛んでいくと、皆川さんは集中治療室に入っており、いつ容体が悪化するかわからない状態であると聞かされた。そこでまず保証人が必要だというのだ。
 私は「保証人というのは、本人が治療費を払えなかったときの金銭的な保障なのか、それとも亡くなった時のご遺体の引き取りですか」と聞くと、「後者だ」と言われた。
 すぐに私は保証人になった。そして本人の希望もあって、死後サポートの委任契約を進めることになった。
 実は皆川さんは、数年前に「死後サポートの委任契約」を進めていた人である。しかし途中で「甥が面倒を見てくれそうだから」ということで契約を白紙に戻した。うれしかったのだろうか皆川さんは、甥を相続人にした遺言書を書いた。
 ところが翌年の正月、甥がやって来て「おばさんの面倒はみられない」と告げた。そのような事情を、すぐにエンディングセンターに言うに言えずにいた矢先に、緊急入院となって、また委任契約をすることになったというわけである。
このように身元がわかっていても、遺体の引き取りを拒否する親族も多いのが事実だ。
 「夫婦それぞれ4人の親のことだけも大変なのに、叔母のことまで手が回らない」
 「長いこと会ってもいないので親戚という意識はない。遺体を引き取ることなどできっこない」
  「遠縁にあたる人で、会ったこともない」「家を勝手に出ていって苦労させられた。顔も見たくない」……
 先に「身元がわからない」遺体は「行旅病人及行旅死亡人取扱法」に拠って措置されるという話をしたが、「身元はわかっている」のに死後の遺体の引き取り手がいないケースは、「墓地、埋葬等に関する法律」第9条(死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない)が適用される。
 しかし、これにも第2項がある。
 「(前文略)その費用に関しては、行旅病人及び行旅死亡人取扱法の規定を準用する」という文言で、ここにまた「行旅病人及行旅死亡人取扱法」が登場し、責任を負う者は自治体なのである。
 この法律の大活躍によって、今自治体では、身元がわからない遺骨を安置するスペースが増え続け、葬祭費がかさみ続けている。
■法整備と社会システムの構築           
 これまで福祉も法律も死者を対象とせず、わずかにあるのは「⽣活保護法」の第18条・葬祭扶助と、「墓地、埋葬法に関する法律」第9条、「⾏旅病⼈及⾏旅死亡⼈取扱法」による措置である。
 ところが現在増えているのは、葬儀代金等もあり、⾝元もはっきりしているが、死後のことを託す者がいないケースであって、先の法律の範疇を超えた、既存の法律が想定していない事態が進んでいるのである。
 いままさに多死社会、単身社会に適合した根本的な法整備が必要な時期に来ている。明治時代に制定された法律の、それも主たる対象ではないところで措置しているようなことでは、本格的にやってくる単身社会は乗り切れないだろう。
 あらゆる動物の中で⼈間だけが「死者を葬る」行為を行うという。だとすれば、「⼈間の尊厳」という概念が及ぶ範囲は「埋葬まで」であるといえよう。
 これまで家族がいたからこそできたことを、家族機能が弱まった現代社会では、家族に代わって行う死後サポートのような「葬送の社会化」が広まって行かなければならない。 つまり、⾏政の「措置」から、自身の自由意志による生前「契約」への移⾏が課題となっている。
 死後の措置で財政的な圧迫を受けている地方自治体や社会福祉協議会のごく一部で、生前契約が始まった。
 そんな中で2000年から死後サポートを手がけている認定NPO法人エンディングセンターでは、そのノウハウを社会に広め、葬送の社会化を進めているのである。

 ◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です  *強調(=太字)は来栖
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