【精神科女医のつぶやき】片田珠美 小保方氏はニュートンか? STAP細胞と錬金術
産経ニュース 2014.5.17 07:00[精神科女医のつぶやき 87 ]
STAP細胞の小保方晴子氏は「空想虚言症」ではないか、と私が某週刊誌で発言したところ、ある漫画家の方からネット上で反発を受けた。ちなみに、この方はその週刊誌で、「絶対的に『オボちゃん』を擁護する有名オジサマ方の言い分」を熱く語っておられた。
「空想虚言症」は病気というよりは、むしろ癖というか性格傾向であって、自分を実際以上に大きく見せかけて注目や称賛を浴びたい、つまり自己顕示欲の強いタイプに多い。最初に割烹着で登場したときも、涙の記者会見のときも、小保方氏の自己演出力には舌を巻いたが、これは強い自己顕示欲ゆえだろう。
小保方氏が「空想虚言症」である可能性を私が指摘したのは、「STAP細胞はあります」「200回以上作製に成功している」などと主張しながら、明白な新証拠の提出がなく、再現性も確認されていないからである。
「空想虚言症」の方は思いこみが強く、空想と現実の区別がつかなくなっており、自分の願望を投影した空想を細部にまでわたって、いかにも本当らしく物語る。京都大学の山中伸弥教授のノーベル賞受賞が決まった直後に「iPS細胞の臨床応用に成功した」と発表した森口尚史氏のときもそうだったが、本人が信じこんでいるだけにやましさがなく、聞き手のほうもだまされやすい。
世間では、科学者は合理的な精神の持ち主の代表のように思われているが、必ずしもそういうわけではない。天才的な科学者が今になってみれば迷信ともいえるようなことに熱中していた事例は、歴史上にはいくらでもある。
たとえば、万有引力の法則で知られるニュートンは最初の近代科学者と思われがちだが、実は錬金術と神学の研究に没頭していた。錬金術と神学に関する膨大な著作は、量では物理学や数学の研究を凌駕しており、経済学者のケインズはニュートンを「最後の魔術師」とまで評している。
「細かなコツをクリアできれば(STAP細胞は)必ず再現できる」などという小保方氏の発言を聞くと、錬金術かと思ってしまう。STAP細胞の存在を信じるか、信じないかという議論も、神学上の論争を連想させる。
STAP細胞の研究を積み重ねていくうちに、万有引力に匹敵するような素晴らしい発見ができればいいな、とは私も思う。だけど現時点ではあくまでも願望であって、現実とは別物ですよね。
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世間を騒がせたニュースや、日常のふとした出来事にも表れる人の心の動きを、精神科医の片田珠美さんが鋭く分析します。片田さんは昭和36(1961)年、広島県生まれ。大阪大医学部卒、京都大大学院人間・環境学研究科博士課程修了。著書に『無差別殺人の精神分析』(新潮選書)、『一億総うつ社会』(ちくま新書)、『なぜ、「怒る」のをやめられないのか』(光文社新書)、『正義という名の凶器』(ベスト新書)など。
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◇ 小保方晴子氏 記者会見 「STAP細胞は200回以上作製に成功している」 2014-04-09 | 社会
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