【小沢一郎インタビュー】野田政権の出方次第で「ありとあらゆる選択肢がある」

2012-01-04 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

野田政権の出方次第で「ありとあらゆる選択肢がある」【小沢一郎インタビュー】
日刊ゲンダイ2011年12月29日 掲載
 2011年の政治は腹が立つことばかりだった。大震災・原発に対する不可解対応。菅政権は倒れたが、次の野田政権は増税路線一直線。国民にしてみれば、「フザケンナ!」だが、こうした政治状況に、もっとも怒っているのはこの人ではないか。ふがいない民主党政権に対し、小沢元代表はどう動くのか。

大震災は国を変えるチャンスだった<民主党は次の選挙で全滅だ>
 民主党は09年総選挙のマニフェストで「地域主権の確立」を掲げました。僕は、東日本大震災は災いを転じてそれを実現する最大の機会だったと思います。
  地方に金を渡して、好きなように道路や橋、堤防を造ってくれ、と言えばいい。あれだけの惨状を目にすれば、中央の官僚だって反対できない。中央の官僚がいちいち査定し、補助金を出すのではなく、地方が考えて自分たちの予算を自由に使う。そうすれば、地域主権が実現して、それが地方経済の活性化をもたらす。地方が自分で考えて、予算を作れば、事業のスピードが違うし、本当に必要な予算で、地元の企業に発注する。国、地方を通じて行政の無駄がなくなり、効率的になります。ユーロ危機で日本の輸出がメタメタになる中、内需拡大策にもなる。
  それなのに、民主党政権はそうしなかった。政治家が「とりあえず、被害のひどい福島、宮城、岩手の3県だけでもやろう」と決断すれば、地域主権確立の突破口になったのに本当に残念です。
  依然として、中央省庁が被災状況を査定して霞が関に持ち帰り、紋切り型の事業にばかり予算を付けている。それに、中央が補助金を渡すシステムだと、地方の大きな事業は中央の大手企業が取ってしまうんです。被災地の仮設住宅にしても大手プレハブメーカーが受注して、東京から人を送って造った。これでは地方経済に役立たない。
  復興庁も「絶対反対」とは言いませんが、新しい役所をつくって、役人のポストを増やしてどうするのか。各省庁の機能を効果的に使えばいいんです。屋上屋を架せば、官僚支配の肥大化になる。そんな法律を通すのに膨大な時間をかけて、発足は春ですよ。それよりも早く地方が自由に使える金を配った方がよっぽどよかった。
  結局、民主党政権は中央省庁の権限を奪えず、従来の国の統治機構を変えられないままでいる。官僚の抵抗はありますが、政治の側に覚悟がないからです。明治以来の中央集権の官僚機構を根底から変える。そうした強い理念がないのだと思います。その点、大阪の橋下徹市長とは考えが一致している。旧体制、すなわち既存の官僚機構、国の統治機構をぶっ壊す。それをやり遂げなければ、真に国民のための政治はできない。彼はそう考えていると思います。それなら僕も賛成です。我々民主党が主張していたことなのに、お株を奪われた格好です。
  裁判でずっと座っているのはきついですよ。しかし、僕が検察・法務官僚に屈してしまうと、日本の民主主義は崩壊してしまう。
  この問題は僕個人の問題ではなく、政権交代を目前にした野党第1党の党首に対して、何の証拠もないのに、検察が強制捜査を行ったということなんです。それが許されるなら、日本は法治国家でも民主主義国家でもない。
  これまでの田代検事、前田元検事らの証言などで、国民の皆さんも「やっぱり国家権力の乱用だった。最初から小沢を起訴して裁判にかけようと意図して捜査した」ということが分かってきたと思います。犯罪をなくすのが警察、検察の仕事なのに、犯罪人をつくろうとしたのか、それがあなたたちの仕事なのか、と言いたい。
  公判が進んでいる以上、「日本は民主主義国家なんだ」という結論をきちんと出さなければいけない。僕自身がみんなにそれを示さなければならない。そういう覚悟で闘っています。
  野田政権のTPP交渉も疑問です。国内と国外で言うことが違う。向こうではアメリカにいいことを言って、日本に帰ってくると言い訳をする。こういう二枚舌の手法、姿勢が一番いけない。国内だけでなく海外からも信頼されなくなる。「何だ、アイツ。自分で言ったくせに、発表を訂正しろとか、ふざけるな」となっちゃう。
  野田首相が本当にTPP参加が正しいと思っているのであれば、「政治生命をかけてもやる」と言えばいいんです。そうやって、政治家が覚悟を決めなければ、外交になりません。
  僕は1980年代にタフな日米交渉を経験した。通信や建設の市場開放に関する協議です。当時は1週間か10日間、朝から晩までギャンギャンやりあった。でも、最後はお互い「いい仕事をしたね」と握手して別れた。
  政治家が筋道の通った話をすれば、相手も分かってくれるものです。その前提として、政治理念やビジョンが必要なことは当然です。それがないと、官僚の言いなりになる。官僚の代弁者みたいになってしまう。彼らは事なかれ主義だから、それだと真の交渉はできないんです。官僚に対しても同様です。自分の理念を語り、筋道の通った政治方針をきちんと示す。そのうえで、「責任はオレが取る」と言えばいい。
  なぜ、それができないのか。よい言い方をすると、やり方を知らないのです。知恵と胆力ですね。今の民主党議員はその辺の基礎的訓練ができていない。ディベートの技術は勉強したのかもしれないが、制度論とか、政治の哲学、理念、それに基づく国家統治などを本気で議論してきたとは思えない。だから、どうしたらいいのかがわからない。官僚の言う通りにしか動けない
  官僚の言いなりで、国家の統治機構の改革に手をつけなければ、いつまでたっても、マニフェストで国民に約束した「国民の生活が第一。」の政策を実行する財源なんか出てきません。自民党政権時代と同じことをやっていたら、金なんか余るわけがない。財源がないから増税だ、ということになってしまう。でも、先の総選挙から4年間、制度改革には手をつけずに、ただただ消費税増税なんて、国民は絶対に許さない。だから、僕は反対しているんです。
 <安定政権を作るためには何でもやる>
  こんなやり方では民主党は次の総選挙で全滅すると思います。しかし、起死回生の方法はある。2年前の夏の原点に返って、一つでも二つでもマニフェストを本気になって実行するしかない。国民は今も自民党がいいとは思っていません。「民主党が今度は本気になったな」と思ってもらえればまた勝てる。僕はまだ、野田政権が原点に戻ることを期待しています。
  例えば、先ほど話した地域主権を、せめて暫定的にでも震災地域でやる。「子ども手当」もやるべきです。これは子どもは社会みんなで育てるという理念の話であって、財源や名称の問題ではない。
  では、野田政権が原点に戻る決断をしなかった場合はどうするか。その時は、ありとあらゆる選択肢を考えます。どんな選択をしてでも、政治を落ち着かせなければならない。その一点につきる。
  金正日亡き後の朝鮮半島の緊張、ユーロ崩壊の危機、加えて、2012年は各国の指導者が代わり、カオスの年になる。どんなことをしても、差し迫った危機に対応できる能力と安定感を備えた政権をつくらなければいけません。 *強調(太字・着色)は来栖
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