
日本経済新聞デジタルメディアの総合経済データバンク「NEEDS」の日本経済モデルに、11月17日に内閣府が公表した2008年7-9月期の国内総生産(GDP)速報を織り込んで試算したところ、08年度の実質GDPは0.3%減で7年ぶりのマイナス成長に落ち込む予測になった。09年度も0.2%の低成長にとどまる。9月中旬の米証券大手リーマン・ブラザーズの破たんを機に、世界経済の悪化傾向が急速に進んでおり、当面の日本経済は低空飛行が続く見込みだ。内閣府が7月に2%から下方修正した08年度の実質経済成長率見通し1.3%も達成が極めて困難な状況になっている。
7-9月期の実質GDPは前期比0.1%減(年率換算で0.4%減)で4-6月期に続きマイナス成長となった。2四半期連続で実質GDPが減少するのは前回の景気後退期で3期続けてマイナスとなった01年10-12月期以来。前期よりマイナス幅が縮小しているとは言え、海外経済の減速で国内の企業部門が低迷、その影響が家計にも及び個人消費も弱含むなど景気後退色が強くにじむ内容となった。
企業部門の悪化が進む
GDP速報で目を引くのは設備投資の大幅な落ち込みだ。7-9月期は前期比で実質1.7%減となり成長率を0.3ポイント下押しした。3四半期連続で前期水準を下回ったばかりでなく、マイナス幅は期を追うごとに拡大。企業部門の悪化が徐々に進んでいることを示している。7-9月期の鉱工業生産指数は前期比1.3%減だった。自動車や電気機器関連品目などでは足元で減産の動きが広がっている。鉱工業生産の先行きを示す製造工業生産予測調査は10、11月とも前月比2%を超える低下を示しており、生産はこれから一段と減少する見通しだ。
日銀の企業短期経済観測調査(短観、9月調査)の生産・営業用設備判断では製造業全規模合計で小幅な設備過剰になっている。製造工業の稼働率指数を見ると08年1-3月期以降は前期比で低下しているため12月の短観では設備の過剰感が強まりそうだ。企業は足元での生産の減少に加え、先行きの不透明感から設備投資を一段と手控える公算が大きい。設備投資の先行指標とされる機械受注(船舶・電力を除く民需)は、7-9月期に前期比10.4%減と過去最大の落ち込みを記録している。設備投資はしばらく前期比マイナスが続き、08、09年度はそれぞれ実質で2.8%、0.7%の減少と現行基準のGDP統計では初めて3年連続のマイナスとなる見通し。
世界経済減速で輸出は大幅鈍化
企業部門の悪化の背景にあるのは世界経済の減速だ。米国や欧州などでも景気が低迷し、輸出の減少が日本企業の生産を下向かせている。米国では7-9月期の実質GDP(速報値)が年率換算で前期比0.3%減少した。金融危機の発端となった住宅投資が11四半期連続で減少したほか、個人消費が3.1%減とおよそ17年ぶりのマイナスに転落し、成長率を2.3ポイント程度下押しした。設備投資や輸入も減るなど、米国の内需が弱いことを裏付ける内容だ。欧州では7-9月期に英国が16年ぶりに前期比でのマイナス成長となったほか、ユーロ圏15カ国も2四半期続けて前期水準割れとなっている。アジアでもシンガポールが2期連続のマイナス成長で景気後退期入りし、他の国・地域でも成長率の低下傾向が鮮明になっている。
海外経済の減速は日本の輸出産業に打撃となっている。北米や欧州で自動車需要が急速に冷え込んだことなどで、トヨタの08年4-9月期決算で営業利益は7割以上減少した。自動車を含む輸送用機器の輸出数量指数を季節調整すると、3月以降7カ月連続で前月比で減少している。輸出数量全体では直近の9月はプラスになったものの、四半期では7-9月期まで2期連続のマイナスだ。GDP速報の実質輸出は0.7%のプラスだったが、4-6月期に2.6%減と7年ぶりの大幅マイナスとなった反動増を含む割には伸びが低く、輸出の実勢は減少傾向と考えるのが妥当だ。先行きの輸出は弱含む公算が大きい。08年度は1.7%と07年度の9.5%から伸びが大幅に鈍化する。09年度はさらに低い0.2%の伸びを見込んでいる。
業績悪化で所得・雇用も厳しさ増す
東京商工リサーチが公表する企業倒産件数は08年7-9月期におよそ5年ぶりに4000件台に乗せるなど増加傾向だ。また、日本経済新聞社のまとめによると上場企業の4-9月期の連結経常利益は前年同期に比べて2割程度減少した。企業業績が低迷していることは雇用環境の悪化に直結している。有効求人数は07年2月以降ずっと前年水準割れが続いているが、特に07年12月以降は前年比での減少率が2ケタで推移、足元では20%近くにまで達している。この結果有効求人倍率は10カ月連続で1倍を下回り、9月には0.84倍と4年ぶりの水準まで低下した。
雇用の悪化に加えて所得の低迷という形でも企業部門の悪影響が家計に及んでいる。残業時間の減少で全産業(事業所規模5人以上)の所定外給与は9月に前年同月比3.1%減少した。基本給部分を含む現金給与総額も08年1月から伸び率がほぼ一貫して低下しており、9月には0.2%増まで鈍化している。GDPベースの名目雇用者報酬は7-9月期に前期比マイナス0.1%と2四半期連続で減少。物価上昇分を差し引いた実質ではマイナス0.2%で家計の購買力は弱まっている。日本経済新聞の調査では今冬のボーナスは6年ぶりに減少に転じる見込みだ。今後さらに企業の業績は悪化すると見られ、雇用・所得環境の厳しさが増していく公算が大きい。
定額給付も個人消費は上向かず
雇用・所得の悪化で個人消費も弱い動きになっている。GDP速報では7-9月期の実質個人消費は前期比プラス0.3%にとどまった。裏打ちとなる所得が伸びないことに加え、内閣府が公表する消費者態度指数が足元で過去最低を更新するなど消費者マインドは冷え切った状態だ。このため先行きも当面は消費支出の伸びが期待できず、景気のけん引役が不在になる。
こうした状況に対し、政府は追加経済対策として家計への2兆円規模の定額給付を実施する方針を決めている。予測では09年1-3月期から4-6月期にかけて定額給付分が家計の可処分所得を増加させるとしてその効果を織り込んだ。それでも同期間の実質個人消費を大きく上向かせるほどの力はない。08年度では0.2%と、消費税率上げの影響で消費が冷え込みマイナスとなった97年度の以来の低い伸びにとどまる見通し。
本格回復は10年度にずれ込み
7-9月期のGDP速報では、外需が成長率を0.2ポイント下押しした。内需の寄与度はプラスではあったが、押し上げ幅は0.1ポイントと盛り上がりを欠いている。今後の焦点は米国経済の持ち直しの時期がいつになるかだ。予測では米国の実質成長率は09年1-3月期までマイナス成長が続くが、09年度後半から回復基調に向かう姿を想定している。
日本経済は09年4-6月期まではゼロ近傍の成長率で横ばいとなるが、その後は米国の持ち直しとともに徐々に成長率が高まる。ただ、09年度は海外経済が立ち直る途上で輸出は0.2%増と勢いはない。企業収益もようやくマイナスを脱する状況で回復力は弱く、実質成長率は0.2%とかろうじてプラス成長に復帰するにとどまる。潜在成長率並みの成長力に本格的に復帰するのは10年度にずれ込む。 日経新聞[11月17日]