『年報・死刑廃止2010』 /大阪母子殺害事件/堀籠幸男裁判官/後藤貞人弁護士

2010-11-13 | 死刑/重刑/生命犯

「大阪母子殺害事件」差し戻し審初公判 大阪地裁 水島和男裁判長2011-10-20  

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〈来栖の独白 2010/11/13〉
 この季節、今年もまた、注文していた本がセブンイレブンに届いた。『年報・死刑廃止2010』。
 特集は「日本のイノセンス・プロジェクトをめざして」---冤罪と死刑をめぐる最近の最高裁の動きをどう見るか---。この対談のなかで、私は初めて「大阪母子殺害事件」を知った。事件そのものを知らず、裁判経過も、問題点も、何一つ知らなかった。
 菅家さんの事件等により、また裁判員裁判の導入ということもあって、今まで事実認定の点で抑制的と言われていた最高裁が変わってきているのではないか、と後藤貞人弁護士ら対談者は話す。

    
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<大阪母子殺害>被告側「無罪判決に向け全力」
 「『疑わしきは被告の利益に』という刑事裁判の原則にかなった判決。差し戻し審では無罪判決に向け全力で頑張りたい」。大阪市の母子殺害事件で殺人罪などに問われた刑務官、森健充(たけみつ)被告(52)の死刑判決を破棄した27日の最高裁判決について、弁護側は高く評価した。今後、大阪地裁で審理がやり直されるが、判決は改めて直接証拠がない事件捜査の難しさを示した。
 午後3時、最高裁第3小法廷。藤田宙靖(ときやす)裁判長の退官により、堀籠幸男裁判官が判決主文を代読すると、後藤貞人弁護士はじっと前を見つめ、弁護活動の実務を担った陳愛弁護士は、うっすらと涙を浮かべた。
 1、2審とも有罪とされた森被告だが、陳弁護士らの接見に、いつも「裁判所は分かってくれる」と語り、無罪判決しか頭にない様子だったという。後藤弁護士は法廷を出ると事務所に電話し、森被告に判決を伝える電報を打つよう指示した。
 その後、後藤弁護士は「最高裁はこれまで事実誤認の主張に扉を閉ざしてきたが、最近は痴漢冤罪(えんざい)や再審など変化が見られる。裁判員制度開始の影響が大きい」と興奮を隠せない様子で語った。大阪府警の捜査については「あまりに早い段階で容疑者を絞り、必要な捜査を怠った。無理な取り調べもあった」と批判。「検証のため取り調べの可視化が必要」と語気を強めた。【伊藤直孝】
◇事件の経緯◇
 02年4月14日夜、大阪市平野区のマンション一室から出火し、焼け跡から主婦の森まゆみさん(当時28歳)と長男瞳真(とうま)ちゃん(同1歳)の他殺体が見つかった。まゆみさんは森被告の妻の連れ子と結婚して暮らしており、検察側は、まゆみさんに恋愛感情を募らせた森被告が思いを拒まれるなどしたため憤って絞殺し、瞳真ちゃんを浴槽につけて水死させたうえ、室内に放火したとして、殺人、現住建造物等放火罪で起訴した。1審・大阪地裁は05年8月、状況証拠から有罪認定して無期懲役を言い渡し、2審・大阪高裁(06年12月)も有罪として「被告は反省しておらず、更生の可能性はない」と死刑を言い渡した。
◇解説…状況証拠評価、裁判官も割れる
 死刑判決を破棄した最高裁判決だが、裁判官5人の見解は割れた。小法廷の考え方となる多数意見は3人にとどまり、那須弘平裁判官は「有罪の余地あり」と意見を述べ、堀籠幸男裁判官は「被告の関与は十分立証されている」と反対意見で1、2審の有罪認定を支持した。裁判員制度導入で市民が死刑判決に関与するかもしれない中、状況証拠のみで有罪・無罪を判断する困難さが改めて浮き彫りになった。
 判決は「直接証拠がある事件でも、状況証拠のみの事件でも有罪認定の基準は変わらない」とした07年の最高裁判例を引用し、状況証拠のみの事件では「被告が犯人でなければ合理的に説明できない事実関係が必要」と基準を示した。そのうえで現場に残された吸い殻を立証の柱とした検察側の主張について、捜査の不十分さを指摘し「有罪認定のレベルに達していない」と批判した。裁判員制度を念頭に慎重な捜査、審理を促したと言える。
 しかし堀籠裁判官は、国民の健全な良識を刑事裁判に反映させることが裁判員制度の目的として「今回の基準は不明確。裁判官の認定手法を裁判員に求めることは避けるべきだ」と指摘した。一方、藤田宙靖裁判長は「手放しで『国民の健全な良識』を求めることが制度の趣旨と言えるかは疑問。基準を明示することは法律家の責務」と反論。基準に対する見解も分かれた。
 和歌山毒物カレー事件(98年)や仙台・筋弛緩(しかん)剤混入点滴事件(00年)でも状況証拠による立証が争われたが、被告の有罪が確定した。今後、直接証拠がないとされる埼玉・千葉と鳥取の連続不審死事件などが裁判員裁判で審理される。裁判員が判断に迷う場面が予想され、捜査当局は従来以上に十分な証拠集めと説得力のある立証活動が求められ、裁判官も評議の工夫を迫られている。【伊藤一郎】(毎日新聞 2010年4月27日 22時1分)
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大阪の母子殺害事件、死刑判決を覆したミラクル弁護士とは
 やまと新聞社10-05-03 17:30 配信

 最高裁が4月27日、事実誤認があるとして1審の無期懲役と2審の死刑判決を破棄し、大阪地裁に審理を差し戻した大阪市平野区の母子殺害放火事件。被告の主任弁護人を務める後藤貞人弁護士(63)、大阪弁護士会=は「大阪の刑事弁護の第一人者」といわれる。タレント・羽賀研二や検察批判を展開する三井環・元大阪高検公安部長らの弁護も担当。そのミラクルな実力ぶりは-。
 後藤氏は1969年、大阪大法学部を卒業。75年に司法修習(27期)を終え、弁護士登録した。約3600人が登録する大阪弁護士会の中でも、「刑事弁護を専門とする数少ない弁護士」(司法関係者)だ。
 これまでに、銃刀法違反罪に問われた指定暴力団山口組の元若頭補佐、滝沢孝被告の裁判=1、2審無罪=や、牛肉偽装事件で詐欺などの罪に問われている浅田満被告の控訴審、収賄などの罪に問われた三井氏の裁判など著名事件の弁護を数多く担当。法廷取材が長いベテラン記者は「無罪を主張する被疑者や被告にとって駆け込み寺のような存在」と話す。
 大阪の刑事弁護士の1人も「まさにプロ中のプロ。われわれの間では『後藤でダメならあきらめろ』と言われるほど。人権派といわれるが、頭でっかちではなく、事実を重んじるタイプ」と絶賛する。
 後藤氏は裁判員裁判が始まる前から、法廷で書面を見ずに弁論を展開する“離れ業”が注目されていた。業界誌のインタビューには《われわれは技術者です。その技術を駆使して被疑者・被告人に与えられた権利と利益を守るために全力を尽くす》と答えている。
 一方で、被害者の苦しみを理解するため、死者が出た事件の法廷では赤いネクタイはせず、絶対に笑わないとも。前出のベテラン記者は「マシンのような弁護士だと思っていたから、本人からネクタイの話を聞いたときは意外だった」と振り返る。
 後藤氏は現在、詐欺と恐喝未遂の罪に問われ、1審で無罪となった羽賀被告の控訴審の主任弁護人を担当。昨年11月の第1回公判では改めて無罪を主張した。
 「法廷は検察官の主張が合理的な疑いを超えて証明されたかどうかを判断する場所」と言い切る後藤氏。対する検察関係者は「(1審無罪の決め手となった)元歯科医の証言の信用性を否定できれば、逆転有罪も難しくない」と自信をみせる。
 26日の次回公判では、元歯科医=偽証罪で公判中=の知人らへの証人尋問が予定されており、大阪高裁を舞台に後藤氏と検察が再び対決する。


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