書店の減少 歯止めかからず「過去最悪」に 「書店ゼロ」の市町村は26%も 2023.04.24

2023-05-09 | 社会

書店の減少に歯止めかからず「過去最悪」に 「ゼロ」自治体は26%も、住民はどう思う? 街づくり活用例も
2023年4月24日 12時00分 東京新聞
 書店の減少に歯止めがかからない。出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によれば、昨年9月時点で、全国の「書店ゼロ」の市町村は26.2%に悪化。背景には、人口減や書籍の電子化にとどまらない複合的な要因がある。書店が消滅した街にはどんな悪影響があり、住民は何を思うのか。現状を打破できるのか。「書店ゼロ」の街を歩き、実情に詳しい識者に尋ねた。(西田直晃)

◆つくばみらい市で10人に聞いてみたところ
 都心の秋葉原駅からつくばエクスプレス(TX)で40分ほど。茨城県つくばみらい市中心部のみらい平駅周辺には、駐車場付きの一戸建て住宅やマンションが立ち並んでいた。TX開業とともに開発が始まった新興ベッドタウンだ。
 同市は2006年、県南部の伊奈町と谷和原やわら村が合併して発足。当初は人口約4万人だったが、都心へのアクセスの良さから移住者が増え、15年には5万人を突破した。しかし、書店は市内唯一のチェーン店が経営不振で撤退し、09年からゼロに。郊外に唯一残る古書店は買い取り専門で、販売はネット限定だ。
 不便と感じないのか。「こちら特報部」は20日、10人の市民に駅前や郊外で尋ねた。
 8人は「そうでもない」などとあっけらかんとした表情。30代の男性会社員は「都内に通勤しているので、買いたいときはその時に買える。隣の守谷市に書店があり、この辺りの人はそこに行く」。ウオーキング中の70代女性は「家から歩いて5分の図書館に行く。書店は『あれば便利』くらい」。待ち合わせ中の30代女性は「もっと田舎に住んでいたので気にならない」と語った。
 ただ、少数ながらこんな意見も。8年前に千葉県松戸市から移住した小出和夫さん(90)は「運転免許を返納した身からすれば、どこに行くにもタクシーだし、街中に書店がないのはとても不便だ。家内とゆっくり過ごすため、温泉付きのマンションを選んだのは私だけど」と苦笑い。主婦中川江里子さん(36)は「書籍だけの買い物はせず、近隣市のショッピングモールで立ち寄る程度」と話しつつ、「小学生の子がいる母親は気になるでしょうね。うちの子はまだ小さいけど」と付け加えた。
 市内には市立図書館が3カ所ある。本館を訪ねると、平日午後とはいえ利用者はまばら。川田賢司館長は「他市に比べて利用者が多いとか、蔵書が充実しているということは特にない」と説明する。書籍に充てる市民1人当たりの予算額は全国平均と同程度という。

◆「5万人規模の人口では経営成り立たない」
 一方、書店を求める声は、市ホームページの「市長への手紙」にあった。市内の若者が18年に「どうか本屋を」と求めた投稿で、「採算が合わない」との市の返事も掲載されている。
 市企画政策課によると、市民からの書店誘致の要望は直近3年間で計4件。データは残っていないが、それ以前にも多数の要望があったことが分かっている。これらを踏まえ、複数の事業者と協議したが、建物や土地、人材の提供、もしくは相当額の補填ほてんを求められたため、出店に至っていないという。担当者はこう嘆く。
 「ごく最近も大手書店に意見を伺ったが、5万人規模の人口であれば、商圏分析からは経営が成り立たないと伝えられた。出店を進めると、市から事業者に相当なインセンティブが必要になってしまう」
 全国的にも、1999年に2万2000余あった書店は、2020年には約1万1000と20年間で半減。その流れは加速している。
 前出のJPIC調査の対象は、大手取次業者を利用しない「独立系書店」やブックカフェ、古書店、教材専門店を除いた、いわゆる「街の本屋さん」。全国1741市区町村の26.2%の456市町村でゼロだった。東京23区は全てにあったが、長野、奈良、沖縄の3県ではゼロの自治体が半数を超えた。
 松木修一専務理事は「これまでと調査対象がやや異なるが、間違いなく過去最悪の数字と言える。昨秋から現在にかけて、状況はさらに悪化しているはずだ」と話す。
 「書店ゼロ」脱却を模索するつくばみらい市に限らず、人口の比較的少ない小規模市町村の事情はどこも似ている。従来、書店は売り上げの8割を出版社や取次会社に払い、粗利益は2割程度とされていた。だが、クレジットカードや電子決済の利用者が増え、店側が支払う手数料もあるため、粗利が1割程度に落ち込むケースが増えた。松木氏によると、電子書籍登場やネット書店隆盛のほか、家賃や光熱費の高騰も打撃を与えている。

◆自民議連が政策提言へ「書店消えれば子どもの健全な育成損う」
 こうした中、自民党議員による「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)が政策提言に動いている。昨年12月、岸田文雄首相に改善策の「中間取りまとめ」を手渡し、5月中にも提言書として集約するという。ネット書店と比較した場合、来訪者が現物を直接確認し、試し読みができる点を強調し、街の書店を残すべきだと訴える。
 ネット書店による無料配送の規制、図書館の同一本複数購入の解消などを要望。個人書店を守るため、1980年代から値引きやネット書店の送料無料を規制してきたフランスなどの事例も参考にしている。
 小寺裕雄事務局次長は「書店は単純な販売の場ではなく、未知の書籍や情報との出合いの場。たまたま見つけた本が、進路や人生に影響した体験を誰もがしているはず。街の書店が消えれば、子どもたちの健全な育成を損ない、将来に与える悪影響は大きい」と力説する。
 「これだという正解は難しいが、図書館の複数購入は、本を買って読む人が減るため、出版社や作家にとって一大事だ。図書館の蔵書の充実を嫌がる関係者もいる」

◆青森県八戸市は市営書店を開設
 画像:青森県八戸市にオープンした市営書店「八戸ブックセンター」=2016年(略=来栖) 
 収益が見込めなくても、書店を街づくりの核として活用する自治体もある。「本のまち」を掲げる青森県八戸市は、2016年に市営書店「八戸ブックセンター」を開設。民間書店がそれほど取り扱わない専門書などを販売する。乳幼児と保護者への絵本のプレゼント、地元の有識者を招いたトークイベントなどを実施し、コロナ禍前の1日の来館者数は、当初見込んだ300人を大きく上回っていた。
 市町村直営は書店再生の鍵になるのか。筑波大の谷口守教授(都市計画)は「八戸市のケースは画期的だが、全国的には一般的でなく、『なぜ、そんなことに税金を使うのか』といった声が出るかもしれない」と前置きし、「書店は街中を回遊する拠点。中心部に書店があれば、他の店や施設にも足を運ぶ機会が増える。消滅は街そのもののにぎわいを奪うことにつながり、住民のネットでの消費生活を拡大させてしまう」と指摘し、こう続ける。
 「ただ、現状で人口が30万人を割った市町村は商店街が成立しない。経営が成り立たないのは書店だけに限らず、さまざまな小売店に共通している。出版業界としては、大手取次が全体を掌握する流通構造が時代に合わないのも確か。複合的で根深く、すぐに解決策が出る問題ではない」

◆デスクメモ
 ネットで本を取り寄せていると、「フィルターバブル」になっていないか気になる。自分の好む情報に囲まれ、周りが見えなくなる状態だ。書店では、目的以外の本もたくさん目に入る。流行を感じるし、他の人たちの考えも意識する。そういう文化の重要性がもっと議論されていい。 (本)

 ◎上記事は[東京新聞]からの転載・引用です


〈来栖の独白 2023.05.09 Tue.〉
 「紙」(新聞・書籍)のない生活なんて、考えられない。
 先日、三省堂へ行ったときに感じたことは、客足の多いことと、雑誌・書籍を漁っている人たちに若い人が多い、ということだ。インターネットでは、読めるものに限度があるということではないか。


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