訃報:江副浩正さん76歳=リクルート創業、贈賄で有罪
毎日新聞 2013年02月09日 09時02分(最終更新 02月09日 12時22分)
リクルート(現リクルートホールディングス)を創業し新しい情報ビジネスを開拓した一方、関連会社の未公開株を政官財界に譲渡した戦後最大級の汚職事件、リクルート事件で有罪判決を受けた同社元会長の江副浩正(えぞえ・ひろまさ)さんが8日、肺炎のため東京都内の病院で亡くなった。76歳だった。
大阪府出身。東大在学中に学生新聞の広告事業を始め、卒業後の1960年、リクルートの前身となる「大学新聞広告社」を創業、社長に就任した。無料の就職情報誌「企業への招待」を創刊。84年には社名を「リクルート」に改称し、「とらばーゆ」「フロムエー」など就職情報誌を次々と発刊、ヒットさせた。また、住宅からアルバイト、中古車、旅行などにも情報誌のジャンルを広げ、一大情報企業を築いたほか、不動産や金融にも事業を拡大。「情報化時代の寵児(ちょうじ)」と呼ばれた。
88年に会長に就任したが、同年6月、値上がりが確実視されるグループ不動産会社「リクルートコスモス」の未公開株を川崎市助役に譲渡していたことが発覚。故竹下登元首相周辺など政官財に幅広く未公開株が渡ったことが分かり、ロッキード事件と並ぶ戦後最大級の疑獄事件、リクルート事件に発展した。
東京地検特捜部が政界▽労働省▽文部省▽NTT−−の4ルートで捜査に着手、江副元会長を含む贈賄側4人と、収賄側8人の計12人が起訴され、全員の有罪が確定した。江副元会長は89年2月に贈賄罪で逮捕・起訴。江副元会長は起訴内容を全面否認し、公判は322回に及んだが、初公判から13年余りを経た03年3月、東京地裁で懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を受けた。検察側、弁護側とも控訴せず、判決が確定した。
江副さんは92年、自ら保有するリクルート株をダイエーに売却。晩年は財団法人「江副育英会」理事長として、オペラ歌手育成など文化活動に取り組んだ。
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◇ 検察を支配する「悪魔」田原総一朗+田中森一(元特捜検事・弁護士)講談社 2007年12月5日第1刷発行[1]
p88~ 検事は良心を捨てぬと出世せず---田中
検事なら誰だって田原さんが指摘したことは、わかっている。その通りですよ。田原さんがお書きになったロッキード事件やリクルート事件の不自然さは、担当検事だって捜査の段階から認識している。
ところが引くに引けない。引いたら検察庁を辞めなければいけなくなるから。だから、たとえ明白なでっち上げだと思われる“事実”についてマスコミが検察に質しても、それは違うと言う。検事ひとりひとりは事実とは異なるかもしれないと思っていても、検察という組織の一員としては、そう言わざるを得ないんですよね。上になればなるほど、本当のことは言えない。そういう意味では、法務省大臣官房長まで務めた堀田さんの発言は非常に重い。
特捜に来るまでは、検察の正義と検察官の正義の間にある矛盾に遭遇することは、ほとんどありません。地検の場合、扱うのは警察がつくっている事件だからです。警察の事件は、国の威信をかけてやる事件なんてまずない。いわゆる国策捜査は、みんな東京の特捜か大阪の特捜の担当です。
特捜に入って初めて検察の正義と検察官の正義は違うとひしひしと感じる。僕も東京地検特捜部に配属されて、特捜の怖さをつくづく知りました。
検察の正義はつくられた正義で、本当の正義ではない。リクルート事件然り、他の事件然り。検察は大義名分を立て、組織として押し通すだけです。
それは、ややもすれば、検察官の正義と相入れません。現場の検事は、最初は良心があるので事実を曲げてまで検察の筋書きに忠実であろうとする自分に良心の呵責を覚える。
しかし、波風を立てて検察の批判をする検事はほとんどいない。というのも、特捜に配属される検事はエリート。将来を嘱望されている。しかも、特捜にいるのは、2年、3年という短期間。その間辛抱すれば、次のポストに移って偉くなれる。
そこの切り替えですよ。良心を捨てて、我慢して出世するか。人としての正義に従い、人生を棒に振るか。たいていの検事は前者を選ぶ。2年、3年のことだから我慢できないことはないので。ただそれができないと僕のように嫌気がさして、辞めていくはめになるのです。
p93~ 検察に拷問された江副浩正---田原
容疑が固まり、身柄を拘束すると、検察の取り調べが始まる。これがひどい。江副の場合を見ても普通の社会で生きてきた人には、とても耐えきれるものではない。拷問だといってもいい非人道的な取り調べですよね。
江副弁護側の訴えでは、江副に対して、検事は逮捕前から威圧的で陰湿だったと言っている。江副に関する週刊誌の報道を持ち出し、「女性連れで旅行したことがあるだろう。証拠写真もある」とか、「ずいぶん女性がいるらしいじゃないか」「あちこちのマンションに女性を住まわせている」「酒池肉林の世界にいたらしいじゃないか」などと、事件に関わりない江副のプライバシー、それも根拠のない女性問題を執拗に問い質し、江副の人格を否定しようとする。この事実は、担当検事が認めています。
精神的な屈辱と同時に、肉体的にも苦痛を与える。江副が意のままにならないと、担当検事は机を蹴り上げたり、叩いたり、大声でどなりつけたり、耳元で罵声を浴びせたり、土下座を強要したりした。
江副自身が、肉体的に最も厳しかったと述懐しているのは、壁に向かって立たされるという懲罰だったそうです。
至近距離で壁に向かって立たされ、近づけ、近づけと命令される。鼻と口が壁にくっつく寸前まで近づけさせられて、「目を開けろ」。目を開けたまま、その状態で、1日中立たされる。しかも耳元へ口をつけられ、鼓膜が破れるかと思うほどの大声でバカ野郎と怒鳴られる。それが肉体的に本当に苦痛だったと。
このような、実質的に拷問と呼べる違法な取り調べが、宗像主任検事の指示で行われたとされています。
もっとも、僕が宗像に極めて近い検事に確かめたところ、「そんな暴力的取り調べなどあるわけない。噂がひとり歩きしているだけ。とくに宗像さんは紳士なので、そんなみっともないことなどするわけはない」と一笑に付していましたけれど。
裁判所でも、弁護側が訴える暴力的取り調べが行われたとは認めていない。被告が肉体的、精神的苦痛を検察から受けることはない、というのが前提なのですね。
いっぽう弁護人は、「調書なんかいかようにもつくれる。身柄を拘束して長時間責め立てられ、脅される。肉体的、精神的に追い込まれれば、検事の巧みな誘導についつい乗ってしまう」と反論している。歴戦のプロである検事と、罵詈雑言、人権蹂躙とはほど遠いエリートの世界で生きてきた経営者では勝負にならないと。
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関連;【往復書簡】「リクルート事件の有罪は無念」と江副氏、宗像氏は「ギリギリの攻防」
産経ニュース2010.2.18
約20年前、元官房長官ら政官財の大物が続々と起訴されたリクルート事件で、容疑者と主任検事として対峙した2人のキーマンが、いま改めて事件と向き合った。
元首相ら多くの政治家や官僚に値上がり確実な未公開株を譲渡していたことが発覚し、東京地検特捜部に贈賄容疑などで逮捕された元リクルート会長の江副浩正氏(73)。当時の特捜部副部長で事件の主任検事として捜査を指揮したほか、江副氏の取り調べも担当した宗像紀夫弁護士(68)。
江副氏は当時、宗像氏らの取り調べに対して“自白”して贈賄を認める供述をしたものの、公判では一転、無罪を主張。最終的には有罪判決が確定したが、一体、あの“自白”は何だったのか。事件の真相とは…。「冤罪(えんざい)」「取り調べの可視化」「政治とカネ」など注目されている問題の核心が語られた。
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【江副氏から】
私は今も有罪判決を無念に思っています。東京地検特捜部に逮捕された後、贈賄を認める供述調書に署名をしましたが、それは本意ではありませんでした。
宗像さんら取り調べ検事たちに「この調書に署名しなければ君を長期勾留(こうりゅう)する」「部下を逮捕する」と言われ、別の検事からは「壁に向かって立て」「土下座しろ」などと言われました。「苦しみから逃れたい」という私の弱さから、身に覚えもない調書に署名してしまったのです。
逮捕から113日の長期にわたって勾留されましたが、現代の「拷問」といえるような取り調べや、早期保釈を条件に自白を迫る“司法取引”のようなことが、密室の取調室で行われている。それは問題ではないでしょうか。
これは私の推測ですが、検察官は容疑者を起訴し有罪にすれば、昇進につながります。だから冤罪が起きるのだと思います。宗像さんは有能な検察官で、人柄も誠実でよい人でした。検察上層部の方針と、私の抵抗の間で苦悩していた姿が、今も思い浮かびます。
冤罪をなくすためには取り調べを録画・録音する可視化が必要だと思います。しかも全面可視化でなければならない。一部だけ可視化すれば、検察側が都合のいいところだけ録画・録音し、逆に冤罪につながりかねないからです。
民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体をめぐる事件がメディアで注目を集めましたが、メディアとその読者の責任も重要です。「出るくいは打たれる…」と言いますが、リクルート事件の背景には、私がメディアに出過ぎていて、株でもうけるのは良くないという世間の風潮があったのではないかと思います。
裁判で、1審判決が出るまで13年。執行猶予付きの判決であり、控訴しても、無罪になるためにはさらに長い時間と費用がかかると考え、裁判をやめました。裁判の長期化を防ぐためにも裁判員裁判に期待したいと思います。ただ、死刑の判断をしなければいけないような公判に裁判員を参加させることには疑問を抱きます。むしろ窃盗や贈収賄事件など、ほかのさまざまな事件で裁判員裁判が行われるべきだと思います。
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【宗像氏から】
リクルート事件は、私の36年間の検察官生活の中で最も記憶に残る記念碑的な事件でした。
値上がり確実な未公開株の譲渡が単なる「経済行為」なのか「贈収賄」なのか、難しい法律問題がありましたし、江副さんをはじめ当時のリクルート関係者の抵抗も激しかった。真実の供述を求めて、取り調べでもギリギリの攻防が展開されました。だから江副さんからみて圧力を感じる調べもあったのかもしれません。真剣勝負でした。
あれから20年。起訴した人は全員有罪になり、誤りのない事件処理だったと自負しています。いちいち反論するつもりはありませんが、一つだけ言うとすれば、保釈について説明したのは「司法取引」ではなく、否認のままだと証拠の隠滅の恐れがあるから「保釈は難しいですよ」と説明したのかもしれませんね。一般的に、犯行を認めていれば証拠隠滅の恐れがなくなるので保釈が認められる可能性は高まるのです。
それから、検察官は昇進や出世のために人を起訴するわけではありません。検察官は、例外なしに強い正義感で日々の困難な事件に取り組んでいます。
江副さんは若くして独創的な事業を興して、リクルート社を築き上げ成功した人だけあって信念の人という印象でした。当時も今も悪い感情は全くありません。なかなか折れにくい「生木のような」意志の強い人、「手ごわい敵」という感じでした。
江副さんの言う通り、取り調べの全面可視化は避けられない流れだと思います。最近、冤罪があちこちで起きていますからね。取り調べは難しくなりますが、これは乗り越えなければならない試練だと思います。正式な司法取引制度の導入など、何か対抗手段を考えてもいいかもしれません。
リクルート事件は、江副さんが「出るくい」だから打ったわけではありません。確かに当時、メディアに注目されていましたが、関係なく、あくまで川崎市助役の疑惑報道をきっかけに捜査した結果です。事件のスケールは違いますが、民主党の小沢一郎幹事長の政治団体をめぐる事件でも報道が過熱しました。ただ、あれは騒ぎ過ぎですね。
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リクルート事件 昭和63年、リクルート側から当時の川崎市助役へ未公開株の譲渡が発覚。それがきっかけに元首相らに渡っていた未公開株や資金が明らかになり、同社会長だった江副浩正氏らが逮捕された。江副氏の供述などから、藤波孝生元官房長官ら10人を超える政治家や財界の大物らが収賄、政治資金規正法違反罪などで起訴、略式起訴された。江副氏は平成15年に懲役3年執行猶予5年の有罪判決が確定。「リクルート事件・江副浩正の真実」と「取調べの『全面可視化』をめざして」を出版、事件捜査を厳しく批判している。
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関連;特集「死刑100年と裁判員制度」『年報・死刑廃止2009』インパクト出版会2009年10月25日第1刷発行
拡大する検察権力
岩井 安田さん、今の件についてはどうですか。
安田 お聞きして、なるほどなとすごく納得していたんですけど、戦後の歴史を見ると、ロッキード事件、そしてこれに続く金丸事件で、政府あるいは国会が検察に全く刃向かうことができなくなってしまった。その結果、日本の国家権力で一番強いのが検察になってしまったと思います。そして、その内実は、徹底した保守主義なんですね。
僕なんかは、検察官に将来なっていく人たちと司法研修所で一緒だったわけですけど、そういう人たちの多くは政治的なんですね。検察官という職業に対して、政治的な意味づけをしている。腐敗した政治や行きすぎた経済を正さなければならない。それができるのは自分たちだけだという感覚を持っている人がわりあい多くて、もっと言ってしまえば、実に小児的であったんです。
たとえば、ある特捜部長は、就任の際、検察は額に汗をかく人たちのために働かなければならないという趣旨の発言をするんですね。青年将校なのか、風紀委員なのか、実に幼いんです。こういう青年将校的な発想しか持ち合わせない寄せ集めが、今の検察の実態ではないかと思うんです。
しかもそれがすごく大きな権力を持っているものですから、これは警察と一体となって行っているのですが、対処療法的に次々と治安立法を作り上げていく、たとえばオウム以降、破防法がだめだったら即、団体規制法を作る。あるいはサリン防止法を作る。あるいはその後に少年法を変えていく、内閣に犯罪防止閣僚会議というようなものを作って、刑罰を1、5倍に重刑化して、刑法全体の底上げをやるわけですね。
彼らは、社会の実態をほとんど知らない、犯罪の原因も知らない、あるいは相対的な価値観や複眼的な視点もない、というのが正しいんでしょうけど、どんどん風紀委員的に対応するんですね。
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踏まれれば踏まれるほど強くなる 3代持たせないシステム
zakzak 2013.01.30.連載:ジェットコースター人生
■私に言わせれば、江副さんも役人の嫉妬で逮捕された
バブル経済崩壊後、わが麻布自動車グループの会社整理は、決着がつくまで20年近くかかった。その間、私は強制執行妨害や公正証書原本不実記載で2度も逮捕された。いわゆる“バブル紳士”といわれた中でも、目立つ人間が率先して捕まったような気もする。
2度目の逮捕の判決は懲役2年執行猶予5年。3年前に執行猶予期間が終わるまで、何もできなかった。ビジネスを始めようとしても、各金融機関とも「企業コンプライアンスに引っかかる」と取引もしてくれない。
リクルートの創業者で「リクルート事件」(1988年)で知られる江副浩正さんも、1度逮捕されるともう表舞台に出てこられない。私に言わせれば、江副さんは何も悪いことはしていない。お世話になった人に株券をプレゼントしただけ。もらえなかった役人が嫉妬したのだ。結局、判決もほとんど無罪に近い執行猶予つきだった。
このように、日本経済を元気にする人たちを寄ってたかって潰している。日本の国益からも大きなマイナスだ。なのに、今さら「強い日本を取り戻す」などといわれてもピンとこない。
あの日本航空や東京電力に何兆円もの税金を注ぎ込む一方、一般民衆は寝ないで懸命に働いても逮捕されたらすべてパー。
本当に悪いことをしたというのなら仕方ない。しかし、国の政策で強引に土地の価格を下げられ、担保が足りないと銀行に口座を取られ、仕方なく新会社を作ってその口座に持ちビルの家賃を入れてもらって社員に給料を払おうとしたら、公務執行妨害だという。それじゃ、何もやれない。
この20年、整理中の身だから、一時はだれとも連絡しなかった。会社の整理というのはみじめなものだ。前向きで発展的なことが何もない。朝、起きてもすることがない。こんなとき、どんな人間も弱気になってしまう。
ダイエーの中内功さんも同じ苦労をして亡くなった。中内さんは会社を大きくしたものの、2代は続かなかった。西武の堤さんも3代は続かなかった。この国は3代持たせないシステムになっている。
しかし、私は弱気にはならなかった。これは私がひ弱なエリートではなく、戦災孤児からスタートした雑草だからだ。雑草は踏まれれば踏まれるほど強くなる。
みんな、バブル経済崩壊でポシャってしまったが、私だけ生き残っている。2013年も雑草魂で生き抜いていくつもりです。(次回は「新党結成秘」)
*渡辺喜太郎(わたなべ・きたろう)
麻布自動車元会長。1934年、東京・深川生まれ。22歳で自動車販売会社を設立。不動産業にも進出し、港区に165カ所の土地や建物、ハワイに6つの高級ホテルなど所有し、資産55億ドルで「世界6位」の大富豪に。しかし、バブル崩壊で資産を処分、債務整理を終えた。現在は講演活動などを行っている。著書に『人の絆が逆境を乗り越える』(ファーストプレス)。
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