聞き出すべき重要なこと まだ眠っていた 元オウム杉本受刑者が手紙
2018年8月28日 中日新聞 朝刊
オウム真理教の麻原彰晃元代表=本名・松本智津夫=ら死刑囚十三人の刑が執行されたのを受け、教団元幹部の杉本繁郎(しげお)受刑者(59)が本紙に手紙で心境を寄せた。二十三日には山形刑務所で取材に応じ、「これで良かったのかという思いが強く残ります。聞き出しておくべき重要なことが彼らの中にまだまだ眠っていたと思われます。彼らが語ったことを今後、どう生かして どう伝えていくかを考えるべきです」と訴えた。 (瀬口晴義)
杉本受刑者は出家番号4番の古参幹部。麻原元死刑囚の運転手を長く務めた。地下鉄サリン事件では実行犯の送迎役を務め、無期懲役の刑が確定している。
手紙では、教団で親しかった井上嘉浩元死刑囚、一審は同じ法廷で審理を受けた地下鉄サリン実行犯の豊田亨、広瀬健一元死刑囚らの名を挙げ、「あらためて彼らがもうこの世の人でないということに思い至ります。まだ完全に現実を受け入れることができないのかもしれません」と述懐。その一方で「私自身、やっと教祖の呪縛から解放されたような思いが心に生じたことも確かです」と複雑な心境を明かした。
麻原元死刑囚の遺骨の扱いや教団に残る信者への思いなどもつづっている。
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オウム真理教元幹部の杉本繁郎(しげお)受刑者(59)は本紙に寄せた手紙で、麻原彰晃元死刑囚=本名・松本智津夫=らの刑執行に対する複雑な思いなどをつづった。手紙の内容は以下の通り。
死刑執行はいずれもNHKの昼のテレビで知りました。刑務所では昼の休み時間にニュースを見ることができます。衝撃でしたが冷静に受け止めることができました。三月に東京拘置所から移送された時の方がむしろ衝撃が大きかった。三月中の執行もあり得ると考え、精神状態がかなり悪化してしまい、少しずつ安定を取り戻し心の準備をしていました。
教団で親しかった井上嘉浩氏、一審は同じ法廷で裁判を受けた豊田亨氏、広瀬健一氏らのことを思うと胸が苦しくなります。ふと彼らのことを考えた時、あらためて彼らがもうこの世の人でないという事実に思い至ります。まだ完全に現実を受け入れることができないのかもしれません。
執行により一つの大きな区切りを迎えました。私自身、やっと教祖の呪縛から解放されたような思いが心に生じたことも確かです。
本当にこれで良かったのか、という思いが今も強くあります。豊田氏にしろ、広瀬氏にしろ他の人たちにしろ、聞き出しておくべき重要なことがまだまだ眠っていたと思われるからです。彼らが語ったことを今後、どう生かし、どう伝えていくかを考えるべきです。
いろいろな意見があると思いますが、多くは元教祖が何も語らなかったということでしょう。沈黙により事件の全容が必ずしも明らかにならなかったと考える人もいれば、弟子の証言により事件の全容はほぼ明らかになったと考える人もいるようです。私自身は後者の意見に近いです。
元教祖が全てを語ってくれればそれに越したことはなかったし、真実を聞きたかったという思いも確かにあります。ですが、教団での発言も、仏教、ヨガから転用した教義以外は、全てうそ、でたらめの類(たぐい)だったわけですから、事実をありのままに語るということはまずあり得ず、うそ偽りを並べ立てた時の信者への影響を考えると、沈黙した方が良かったかなという気がします。
一方、沈黙を選んだことで神秘性が保たれたと考えることもできます。その結果、元教祖は今後、「殉教者」としてあがめ奉られるのでしょう。沈黙に逃げ込んだ理由がそこにあるとすれば、死してその目的を達成したと思います。
元教祖は何も語らなかったわけではなく、「自分は何も知らなかった」「弟子が勝手にやった」と法廷で語っているのです。地下鉄サリン事件後には「サリンをまいたのは米軍だ」とビデオで語っていました。現教団信者は法廷で語ったこととビデオの内容を根拠として、冤罪(えんざい)を主張する可能性があります。
元教祖の遺骨の扱いについて、海に散骨するのは良い選択肢の一つだと思いますが、散骨した場所が分かれば、信者はその方向に向かって立位礼拝の修行をするでしょう。完全に影響をなくしてしまうのは困難と思います。
オウムの教義は、仏教、ヨガからの転用であり、絶対的真理などではありません。信頼できる人が書いた本を読んだり、お寺のお坊さんに聞いたりして思索を重ね、自分の頭で考えてほしい。無条件に受け入れたら、私たちのような過ちを繰り返してしまう。再び事件を起こさなくても、精神を崩壊させてしまうのです。
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です
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